ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 20 "My Home Is Your Home"






Action6 −工事−








 大掃除と聞いて大いに張り切っている部署が一つだけある、クリーニングクルーだ。メイア・ギズボーンからの号令に、彼女達は沸き立っていた。

仕事に貴賎なしの彼女達だが、クリーニングクルーだけは唯一と言っていいほど敬遠される部署。きつく、汚くて、危険な仕事――女性が嫌がる三要素の全てが秘められている。

パイロットも同等かそれ以上の仕事なのだが、ドレッドチームは海賊の本業であり華形である。表舞台で活躍する彼女達は、アイドルに等しい。


一方クリーニングクルーは裏方中の裏方、左遷部署とまで陰口を叩かれてしまっているのが現状だった。


「今こそ、イメージアップのチャンス」


 黒の三角巾に白のエプロンを標準装備した女の子、ルカ・エネルベーラ。クリーニングクルーのチーフを務めている、れっきとした若手キャリアの女性である。

彼女に、特別な過去はない。故郷を追われた難民だがたまたま住んでいた地域が廃棄となり、流れるままに追い出されてしまう。マグノ海賊団に入ったのも、生きる為。

志はなく、正義感もないが、日々堅実に生きているごく当たり前の少女。クリーニングも自分から志望し、毎日丁寧に掃除している内に出世した。

クリーニングを志望したのは、他に志望部署がなかった為。望む仕事がなく、望まれる技量もなく、誰にでもできる事を当たり前のようにやろうとした。それだけである。

掃除を苦だと思ったことはない。生きるためには、掃除もしなければならない。堅実な生き方、それゆえに彼女は評価されている。


「……何でアタシまで駆り出されているんだ、たく」


 そんなクリーニングクルーと比肩する嫌われ部署が、警備クルーであった。こちらもきつく、汚くて、危険な仕事であり、手柄を立てて当然とされる嫌な部署であった。

警備とは事故や破壊などに備えて、防護を行う仕事。つまり仲間を守って当然であり、仲間を守ることが義務。仲間を助けても、評価の対象にはならない。仕事の一部でしかないからだ。

そのくせ失敗の一つも許されず、厳しい事で有名な部署。体力的にもきつくて、女性が率先して選ばない仕事なのである。


意外に思われるかもしれないが、クリーニングと警備はこうした接点を持っている。嫌われ者同士、苦労を共有し合える。


「ヘレンちゃんに手柄を与えるルカ、カッコイイ」

「自分で言うなっての。面倒だからだろ、どうせ」


 オレンジ色のショートカットの髪とワイルドな風貌が似合う年上の女性、ヘレン・スーリエ。明らかに渋々といった感じで、連れ出されていた。

休暇中だった警備チーフが今回クリーニングチーフの要請を請けて訪れた場所が此処、ニル・ヴァーナの元監房。カイ達の部屋であった。

各部署それぞれのメンバー全員を連れて、集合がかけられている。


「手柄ってのはあれだろう、さっきメイアが吠えてた例の」

「大掃除」


 コクリと、ルカがマイペースに頷く。彼女が常にこんな感じで淡々としているが、今回はやる気なのか清掃用具もフル装備している。

警備員が掃除を手伝うのは、さほど珍しくはない。荒事が起きた後の現場を片付けることも、彼女達の仕事だからだ。

荒っぽい仕事だが、荒らしたままではいけない。大雑把な性格のヘレンだが、こと仕事に関してはマメな面もある。

それもまた、チーフの適正だろう。彼女達はそれぞれ、求められて今の地位についている。


「何で手柄になるんだよ。メイアの旦那はむしろ怒ってたじゃねえか、さっさとやれってさ」


 基本的に各部署のチーフが、他の部署の仕事にまで口出しはしない。前部署に権限を持つのは最高幹部クラス、チーフレベルには持ち合わせていない。

メイアとて命令権はないのだが、他人には不干渉な彼女が全部署通達で怒り狂っていた。自分達の船がボロボロなのだと、荒んだ状況まで告げて。

いつも静かな人ほど、怒った時は怖い。逆らおうとする人間はおらず、皆飛び上がって必死で片付けを始めている。

そうした経緯もあって、ヘレンも駆り出される格好となっている。


「彼女が怒った原因は、此処」

「あん……?」

「カイ達の部屋が半年以上野放しのまま」

「ははーん、そりゃ怒るか」


 男であるカイ・ピュアウインドに、メイアが急接近している事はマグノ海賊団内でも有名だ。仲間であれど、他人に干渉しないメイアには異例の事態と言っていい。

仲睦まじき善き哉、と茶化せる程メイアは単純な生き方をしていない。彼女が他者を求めないのはれっきとした理由があり、感情を表に出さない起因も薄々察している。

彼女は、誰にも心を預けない。けれど今、背中を預けられる人間が出来ている。生き方は違えど在り方は孤高、二人は全く違っていてとても良く似ている。


それが有りの侭の男と女の関係なのだと、仲間達は注目しているのだ。


「なるほど、此処を真っ先に片付ければメイアも評価するってのか」

「ルカ達で片付ける」

「オッケー、やってやろうじゃねえか」


 メイアは自分に厳しい分、他人にも厳しい。そんな彼女より心から称賛を得られれば、大いなる誉れとなろう。他がだらしなくても、寛容に許してくれるかもしれない。

ならば渋々掃除をしている連中の仕事ぶりもある程度認められ、掃除からも開放されるかもしれない。そうなれば、皆から感謝感激されるだろう。

常日頃評価されない仕事をしていると、単純な褒め言葉でも嬉しくなるものだ。俄然、やる気が出てきた。


「といってもよ、此処ってもうほとんど片付いているんじゃねえか?」

「工事も整備も、大方片付いている。残りの掃除はルカ達が頑張る」

「だったら、アタシは何すればいいんだよ」


「あの水道管、おねがいね」

「げっ……!?」


 そもそもこの監房を大工事する羽目になったのは、無人兵器の侵入を許してしまったからだ。大型の無人兵器に、監房が崩されてしまった。

無人兵器は天井を破壊して、壁を壊し、監房内を荒らしてしまった。その際、洗面場やトイレ場を繋ぐ水道管まで壊れてしまったのである。

修繕作業そのものは終わっていて水そのものは流れるのだが、まだ手を入れなければならない。きちんとするのは力仕事、後回しにされた理由だった。

水道管は直した、詭弁に近い理由で放置された為にメイアの怒りに火を注いでしまった結果である。ヘレンは渋々、腕まくりする。


「分かったよ、真っ直ぐにすればいいんだろ」

「――えっ、違」

「こんなもの、アタシ一人で――お、りゃあああああああああああああああ!!!」


 ポンッ、迫力ある警備チーフの腕力に対して水道管はあっさりと屈服。見事な音を立てて、水道管ははずれてしまった。


そう、はずれたのである。


「螺子が硬くて閉まらないからお願いね、と言いたかった」

「早く言えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!!」



 ――破裂した。



 水道管は直したままで大元が超全開、加減調節をするその水道管を外したのである。結果は言わずとも、如実に目の前で繰り広げられていた。

豪快に、盛大に、これ以上ないほど、液体は大量に溢れでている。監房とは罪人を閉じ込める場所、当たり前だが逃げ場なんてありはしない。


みるみる内に液体が溢れでて、天井まで満たしていく。


「あれれ、湯気が出てる? まあ、どんまい」

「落ち着いている場合かぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 天井まで満たしている――湯気。水道管から溢れ出ているのは水ではなく、お湯であった。水道管からお湯、理解不能な光景にその場にいた全員が絶句する。


こうして各所を文字通り大いに沸かせた、事件が起きてしまった。

























<to be continued>







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