ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"






Action1 −葬式−







『ヴァンドレッド・メイアが母艦突入に成功した段階で、次のフェーズに移行する』


 地球母艦との決戦前の、作戦会議。ガス星雲という特殊な環境における作戦決行が行われることになり、作戦内容も主だった面々が勢揃いして作戦を煮詰めている。

会議の議長は指揮者であるブザムが務めているが、作戦提案者であるカイも全面に出て作戦内容を説明していた。概略を説明した上で、皆の意見を求めているのだ。

彼なりに自信を持ってはいるが、過信はしていない。一度母艦を破壊した事はあっても、脅威に晒された経験も数知れずである。慎重に身長を重ねた上で、熟議をする必要があった。


カイはこの時から、一つの懸念を持っていたのである。


『突入前と突入後で、いちいち段階を置く必要なんてあるのか? そのまま続行だろう、普通』

『いいところに気がついたな、バート。作戦上予め段階を置いておくには、大きな理由がある。理由というよりは、心配かな』

『心配……? 何だよ、それ』


『母艦に突入した後、通信が一切出来なくなる可能性がある』


 作戦会議室が、ざわめきに満たされる。当然だった。作戦提案者であるカイが最前線に立つ以上、後方で指揮するブザムやお頭と常に連携を取らなければならないのだ。

戦場はガス星雲内だが、決戦の舞台となるのは母艦。内部工作を行う上で、本作戦においては巨大な母艦に突入して敵の心臓を潰し、脳を破壊するのが本作戦。

連絡が取れなくなったら、内部工作中問題が起きても支援も救助も出来ない。また工作中に外部で問題が起きたら、作戦変更を余儀なくされる場合もある。


何より、連絡が取れなくなるというのは――パイロットにとって、最悪を意味する。


『な、何よ、それ!? まさか死ぬ気でやろうってんじゃないでしょうね、アンタ!』

『早合点するな、金髪。俺一人ならともかく、作戦中は青髪やピョロも載せているんだぞ。俺が死んだら、こいつらも心中じゃねえか』


『カイと心中ずるのは御免だな』

『ピョロだって、ピョロUを残して死ねないピョロ!』


 二人の辛辣ながらも明快な回答に、ジュラはホッとする。カイ一人ならともかく、確かにメイアやピョロと一緒なら無茶はしないだろう。

仲間を犠牲にすることを、何より嫌がる男なのだ。仲間を守るなら自分の命を懸けられる男が、仲間と一緒に死ぬはずがない。

ジュラもそうだが、他のパイロット達も同じ認識で安堵する。いくら何でも相棒を犠牲にしたりはしないだろうと、皆が思っている。


――蓋を明けてみれば、分からないものだが。


『きちんと説明しろ、カイ。皆が不安がっている』

『簡単な話だ。装甲に穴を開けて母艦内部に突入する形になるが、穴を開けるといっても一部分が限界だ。間違いなくほぼ、密閉空間に置かれるだろう。
母艦本体にも強力な再生機能があるみたいだしな、穴ももしかしたら塞がられるかもしれない。


となると、通信リンクが物理的に遮断される』


『――あ』


 母艦の装甲が頑丈なのはもう周知の事実、装甲が厚ければ通信リンクだって遮断される。ただでさえガス星雲内は磁場が強くて、通信がしづらい状況なのだ。

懸念事項としてあげてはいるが、ほぼ確定事項に違いない。ブザムに促されてカイが詳細を説明すると、ジュラ達も驚きを含めた表情で一斉に顔を上げる。


実に素直な感情を持つディータは、真っ先に不安の声を上げた。


『ど、どうするんですか!? もし宇宙人さんが悪い宇宙人さんにやられそうになっても、ディータが助けに行けません!』

『リーダーであるお前が真っ先に助けに来てどうするんだよ!?』


 素直過ぎるディータの言葉に、教官役のメイアが頭を抱えている。心配する気持ちは純真なのだが、仮にもリーダー候補が部下の前で狼狽えてはいけない。

とはいえ、深刻な問題でもある。サブリーダーであるジュラも心配げだった。


『というか、通信が切れた時点で死んでるのか、生きているのか、分からないじゃない!?』

『状況にもよるだろう、そんなもの!』


 生か死か、どちらかといえば死を心配するジュラに、カイも頭を抱えた。仲間として受け入れて貰えてはいるが、こういう点での信用はないらしい。

先の母艦戦では単騎で突撃した挙句、死にかけたのだ。同じ目に二度あわない保証はない。日頃無茶苦茶していただけに、不安の種は尽きなかった。

カイとて安心させてやりたかったが、安心できる材料が見当たらなかった。


『ともかく、通信が出来なくなる可能性がある。仮に突入した途端通信が途絶えても、狼狽えたりしないように言いたかったんだ。
いきなり機体反応とか消えたら、何かあったかと思うだろう』

『事前に注意はしておくべきだろうが、ディータやジュラの言う通り生死も分からなくなるのは問題だな。
内部工作中に何か不測の事態が訪れた場合、通信も出来なくては我々としても対処のしようがない』


 悩みどころである。カイやメイア、ピョロを信じて何も言わず託すのがこの場合の筋だろう。信頼とはそういうもので、生死を疑ってばかりでは大事な作戦も頼めなくなる。 一方で、盲信する危険性も彼女達は理解している。仲間は信頼するべきなのだろうが、仲間であるからと過信していては足元をすくわれる。 単純に希望を抱き続けられるほど、マグノ海賊団は乙女チックではない。現実とは残酷なものであり、誰であろうと人生は安泰ではない。 彼女達は過去、故郷に捨てられた時点で人を信じ切るのはやめてしまっている。 カイは同じ経験はしていないが、彼女達の不安はよく分かっている。この半年間、絶望的な局面に何度も苦しめられてきた。何もしなければ、何も出来ないまま死んでしまうのだ。

単に信じるのではなく、信じ続けられる確かなものを用意しなければならない。形にならない願望よりも、明確な希望だ。


考えに考えた挙句、結局はシンプルな案しか出なかった。


『定期的に、何か合図を出すか』

『合図というと……?』

『通信が出来ない以上、具体的なサインを送るのは無理だ。それはもう諦めよう。母艦も迫っているし、段取りをする時間もない。
母艦突入までは、俺と青髪で先行する。内部突入に成功したら、金髪も支援に来てくれ。それで、合図を送れる』

『アタシが行ったところで、どうやって合図を送るのよ』

『ヴァンドレッド・ジュラは、オプションにピットが搭載されているだろう。
あのピットは遠隔操作が出来るから、一基母艦の外に出して合図を送るんだよ』


 通信リンクは物理的に遮断されてしまうが、ピットは単独で機能するオプションなので母艦内外に隔てられても操作は出来るのだ。

ピット単体に通信機能はないので会話することは不可能だが、点滅などの合図くらいは普通に行える。この反応を見せて、メインブリッジにシグナルを送れる。

ヴァンドレッド・メイアに搭載されたピットの優れた点は、操作性が高いという事。ガス星雲の磁場による影響も受けないので、便利に扱える。


この案には、メンバー全員が賛成の声を上げた。


『内部工作一本に何もかも託すというのも、不安ではあるからな。もしピョロが仕掛けるアレが通じない場合、ヴァンドレッドで内部から破壊するしかない。
そうなると加速に優れたヴァンドレッド・メイアより、影響範囲の大きいヴァンドレッド・メイアの方が幅広く破壊を行える』

『ふふん、やっぱりジュラがいないと駄目なのね!』

『あ、ずるい! だったら、ディータも参加したいです!』

『リーダー、叱っていいぞ』

『個人の我儘が許される立場か、ディータ』

『しくしく……』


 泣き真似をしているが、意外と本気で悲しんでいることに誰もが皆気付いている。リーダーという役目はそれほどまでに辛く、重いのだ。

ディータはむしろ、よくやっていると言える。我儘を口にすることはあるが、あくまでポーズにすぎない。職務については、驚くほど熱心だ。

リーダーの重責にとても耐えられないと同僚さえ疑問視していたのに、ディータは苦しみながらも懸命に職責を果たしている。まだ、見習いだというのに。


全員が、カイに視線を向ける――耐えられたのも、一瞬だった。カイは、深く溜め息を吐いた。


『分かった、分かった。じゃあ、俺達が危なくなったら助けに来てくれ』

『ほ、ほんとですか!?』


『不測の事態が起きるかもしれないからな。突入時に、問題が起きる可能性も十分ある。そもそも、あの分厚い装甲を破らんといけないからな。

俺や青髪に何か問題があったら、お前が俺達を助けに来い』


『はい、分かりました! 絶対の絶対に、行きますから!』

『あくまで問題が起きたら、だぞ。何事もなかったら、お前はそのまま作戦を継続しろ』


 ディータには甘いと、メイアが苦笑しているのを見てカイは再び嘆息する。甘やかしてはいけないと分かっているが、どうにもこの少女には弱い。

純真に好意を向けられたことなど、養父を除けば殆どなかった。誰かに好かれた経験がないのは悲しいが、そういう機会に巡り会えても困惑してしまうものらしい。


カイは困ったように頬を掻いて、照れ隠しで言った。



『一応、頼りにはしておいてやる。ちゃんと、助けに来てくれよ』

『了解です!!』















「……宇宙人さん、リーダー……ロボットさん!!」



 ディータは、自分を呪った。あんな事を言ったから、自分がワガママを言ったから、こんなことになってしまったのだ。



「ああ……あああああああああああ!!!!」



 ――粉々になったヴァンドレッド・メイアを目の当たりにして。



少女は、自分の心を引き裂いた。



























<to be continued>







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