ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 16 "Sleeping Beauty"






Action9 −人形−







『亡骸を残せない者達の代わりに、彼らは一生を通じて"人形"を作る。
それだけが彼らがこの地に生きた証であり、魂が宿る場所だという。

苦痛のみを甘んじ、潰えて行った命の灯火は――何人にも、受け継がれることはない』















 救命チームが病に侵された惑星に上陸して、早10日余り。ドゥエロ・マクファイルは日々、医療日誌を記録している。

書かれている内容は星の現状と患者の病状、そして何より個人の悲痛な思いが綴られていた。


ドゥエロ・マクファイルという男は故郷タラークにおいて、挫折を経験した事は一度もない。


まだ十代とはいえ、自分の人生を十年以上歩んでいる。その道すがら、彼は躓いた事などありはしない。

格式の高い家柄で類まれな才能を持つ、男。文事と武事、学芸と武芸、その両道を極めていて、健やかに生まれ育った。

一人の人間である以上、限界はある。ただし彼の場合、その限界は他人よりも遥かに遠く、己でさえも見えていなかった。

さぞ幸せな人生であっただろう。何でも出来るというのは、自由そのもの。幸福も、己自身の力だけで掴み取れる。


けれど、他人の幸せまでは保証出来ない――人の命を救うというのは、天才であれど困難極まりなかった。


「……ニル・ヴァーナより運び出した物資も、そろそろ潰える。補給を申請すべきだが――難しいな」


 救命チームは基本、24時間対応。特に医者の数は現地の人間を入れても少なく、優れた医者となればドゥエロ一人しかいない。

己が優秀である事を当然のように受け入れながら、才能に胡坐をかかずに彼は己の才をフルに発揮している。

鍛えられた肉体と、鋼の精神。不眠不休で医療活動に取り組み、空き時間が出来れば今後の医療について検討する。

ようやくの休憩時間なのだが、彼は医療机に向かって今後の物資に頭を悩ませていた。


「限度を超えれば、今後の旅に支障が出てしまう。敵は健在、母艦との戦闘も考慮すればこれ以上は厳しい」


 天才は、可能性を無理に縮めたりはしない。己の限界に気付いたのならば、壁を超える手段を熟考する。

惑星に苦しむ人達と、大事な仲間達。ドゥエロにとっては等しく患者であり、どちらも見過ごせない。

限界を考えずに医療に物資を費やせば、救える数は更に多くなる。救う自信もあり、知識も備わっている。

その結果が未来に悪影響を及ぼすのであれば、費やす数も見極めなければならない。ドゥエロは、人助けでも冷静だった。


「今のままでは、もって3日。補給の申請をすれば、10日は救命活動を続けられる。

そして――それで、終わりだ。この惑星で、我々に出来る事はなくなる」


 冷静に、そして冷酷に、救命の可能性を切り捨てる。薬がなくても、などと自暴自棄な行動には絶対に出ない。

限界を知ったからこそ出来る、思考。地球母艦戦で危うく死にかけた経験が、この惑星における救命活動を支えている。

人を救うには、人を救いたいという熱い想いと、人は救えないという冷たい気持ちを持たなければならない。

相反する二つの想念が、理想と現実を綺麗に切り分ける。出来る事と出来無い事の、取捨選択が出来る。


考えに考えて――ドゥエロは、決断した。



「補給を、申請しよう」



 救命チームのリーダーは、自分で見切りをつけた。残り10日間全力で人を救い続け、タイムリミットとする。

彼は諦めたのではない。諦めない事を、やめたのだ。希望を先延ばしにするのは、絶望よりも残酷なことだから。


自分の助手であるパイウェイは、今も苦しんでいる。救命チームのスタッフも、日々精神を磨耗させている。


人の死を見続けた、結果。救えない自分に、嫌気が差している。このまま続ければ、間違いなく彼女達は壊れる。

薬がなくとも、人を救うのは出来なくもない。長期滞在すれば、救える人の数も増える。だから、何だというのだ?

救える人の数が増えても、救えない人の数まで増えてしまえば、救い手は苦しむだけだ。救えたことよりも、救えない事に嘆き悲しむ。


だからこそ短期間、全力で取り組む――自分と、自分以外の仲間達と共に。


自分一人で出来ることに限りがあるのならば、仲間にも手伝ってもらう。ごく当たり前だが、とても大切なこと。

タラークにいた頃と、今の明確な違い。安心して任せられる、仲間がいる。自分よりも大事な、友人がいる。

今苦しむ人達は、必ず自分が救う。そして、この先苦しむであろう人達は――カイ達に、助けてもらう。


「惑星のテラフォーミングか……惑星そのものを一人の患者として救うつもりか、彼女は。
ふふ、これほど大規模な手術は私も経験がないな。是非とも、立ち会いたいものだ」


 カイ・ピュアウインドとバート・ガルサス、彼らがパルフェの指揮の下で惑星のテラフォーミングに取り組んでいる。

地球により汚れてしまったこの星を、ペークシス・プラグマの力で浄化する。確かにその方法でしか、救う術はない。

劣悪な環境さえ正常化されれば、今後病人が出る事はないだろう。今苦しむ患者は、自分達が助けるのだから。


ドゥエロは、自分が記録した医療日誌を固く握り締める。


「これ以上、人形の数を増やしたりはしない。お前達がどれほど患者の数を増やそうとも、私達が全員救ってみせる。

報われない現実を今度はお前達が思い知るといい、地球人」


 患者の数は、まだまだ増える。心安らかな日々を患者に送ってもらうべく、心すら休めずドクターは診察台に立つ。

彼なりの、地球への挑戦。己の限界を超える為の、努力。天才は更なる高みに立つべく、今登り始めた。


隔離施設で今も眠る、一人の少女――彼女を救うのも、自分の仕事だ。















 誰を、救いたいと思ったのか。自分が救われたいだけなのではないか――不眠不休の日々の中で、バーネットはずっと悩み続けていた。

パイロットを辞めて、レジチームに入り、そして今は救命チームの一員。店長のガスコーニュに許可を貰い、惑星に降りた。

長きパイロットの日々で鍛えていた身体に何の問題もなく、救命チームへの志願も認められて、現地で救命活動を続けている。


「こんな私でも……あいつみたいに、誰かを救えるのかな?」


 親友のジュラが、海賊をやめると聞いた。本人の意志は固く、地球との戦いが終われば足を洗うらしい。

その話を聞いた時、不思議と動揺はなかった。一度大喧嘩して気持ちが冷めたのではない。むしろ、その逆だ。

友情が深まったからこそ、親友の自立が嬉しかった。同時に、羨ましいとも思った。


「……苦しんでいる人達を助けても喜びも何もない、か……あたしは、男どもの言うような鬼なのかな……」


 人を救える力があり、人を救う手伝いが出来て、人を実際に救っているのに、何も感じない。

カイのように人を救ってみても、カイのようには喜べなかった。救えた人の数の分、疲労が増しただけだった。

病に苦しむ人達を見ると、心は痛む。痛むだけで――何かをしようとは、考えられない。


「……何がしたいんだろう、あたし……」


 人を傷つけ続けた海賊の少女は、人を救う事に意味を見出せずにいた。そんな自分を、人ではないのだと思い始めた。

ならば人を救う人間とは、どんな人間なのだろう? 明確に分かる人間もまた、誰もいない。

救う人と、救われる人――救えずにいる人と、救うことに悩む人。

人を救うことの意味を、人は考え続ける。















「働き詰めだからかな……身体が妙に、ダルい……ゴホッ」





























<to be continued>







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