ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 16 "Sleeping Beauty"






Action8 −病人−







 痩せた少女だった。見た目可憐な少女であるだけに、薄倖さが際立って見えてしまう。病気が、少女の肢体を蝕んでしまっている。

肌は驚くほど白く、食欲不振で体重も減少している。何より全身から感じられる倦怠感が、少女の辛い現状を感じさせた。

微熱があるのか顔だけが少し赤く、少女は今医療施設のベットで寝かされている。


シャーリー、少女は元気のない声で、自分の名前を言う。名乗る事さえも、とても辛そうにして。


「こっちの黒髪の生意気顔が、カイ。金髮の駄目そうな感じが、バートよ」

『お前に生意気とか言われたくないわ!』

『駄目そうな感じとは、失敬だな!』

「安心してシャーリー、二人はパイの言う事は何でも聞くから怖くないよ」


 パイウェイが任務中のカイとバートに声をかけて、自分の新しい患者を二人に紹介。この調子で、病人である少女に語りかけている。

作戦行動中なので二人共遊んではいられないのだが、行動の自由は制限されていない。現状は、パルフェの指示待ちの状態だ。

この惑星では病に侵された患者が多く、パイウェイものんびり歓談出来る時間はない。それでも今は、この患者との会話を許されていた。


つい先程、シャーリーは医療施設から脱走を図った。


『僕はね、ニル・ヴァーナというおっきなお船を操縦する人なんだ。こっちのお兄さんは、ショボイ感じのメカで暴れてる』

『あからさまに比較をするな!』

「すごーい! どれくらい大きな船なの!?」


 パイウェイが少女を保護出来たのは、単なる偶然だった。患者を死なせて泣いているところを、見られたのである。

声をかけられて取り繕うとしたが、少女の方が顔を青ざめて座り込んでしまう。その時初めて、無断で出てきたのだと気付いたのだ。

意気消沈しているとはいえ、パイウェイはナース。救命処置を行い、ドゥエロの元へと少女を運んだ。

幸い大事には至らず、少女は助かった。無理に施設の外へと出て、体調を崩してしまったのだ。


「おにーちゃん達は、どこから来たの?」

『とても遠いところだよ。ここからだと、空を眺めても見えないかな』


 入院中に医者の許可無く外へ出るのは禁じられている。冗談ではなく、命の危険に晒されるからだ。

医療施設内は滅菌処理がされているが、充分ではない。施設の外など論外、地球人により空気まで汚染されている。

健常者でも外で走り回るのは危ないのに、病人が何の処理もなく出れば生死に関わる。実際、シャーリーは危なかった。


少女も、外へ出るのが危ないのは知っていた。知っていたからこそ――少女の心にある悲しみは、深い。


「そうなんだ……お家に帰れないのは、寂しいね」

『寂しい――寂しいか、う〜ん……』

「寂しくないの?」

『いや、シャーリーに言われるまでそういう感覚には気付かなかった。
たまに家の事を思い出す事はあるけどね……寂しくはないかな。回りには、うるさい奴が多いしな』


 そうなんだ、カイの言葉にシャーリーは寂しげに微笑んだ。繊細な心に触れた感覚に、カイは戸惑いを見せる。

何故少女が傷ついたのか、パイウェイには痛いほど分かった。患者を死なせて落ち込んだ心が、人の気持ちに敏感になっていた。


自分の心が沈んでいる時ほど、孤独である事に苦痛を感じる。病気よりも辛い症状、ただ純粋に苦しくて辛い。


赤の他人であっても、あの時シャーリーが声をかけてくれた事がパイウェイには救いとなった。

だからこそ、今度はシャーリーの力になりたいと思った。脱走したのもきっと、自分と同じ気持ちだったのだろうから。

辛い時ほど、誰かの存在がありがたいのだ。何の縁も、なかったとしても。


「お友達が多いんだね、おにーちゃん。いいな……」

『何を言ってるんだい、シャーリー』

「え……?」


『僕達だって、もう友達じゃないか。だよな、カイ!』


 シャーリーだけではない、カイやパイウェイまで唖然とした。どう言おうか悩んでいたのに、バートはあっさりと言い切ってしまった。

年齢差があるほど、友人関係を結ぶのは難しい。大人と子供である事を互いに意識してしまい、壁が生まれてしまう。

取り繕う必要なんて何もないのに、見栄や意地をはってしまう。大人は大人であろうとし、子供は大人に躊躇する。


パイウェイが望んでいた事は、カイも分かっていた。どのように話を持っていくか悩んでいた所へ、バートが躊躇なく言ってしまったのだ。


先を越された、という感覚はない。ただ単純に、カイはバートに白旗を上げた。

こいつには敵わない。怒りどころか、笑いが込み上げてくる。


『おいおいバート、図々しいぞ。シャーリーのような素敵な女の子には、まずお願いしないと駄目だろう。
シャーリー、俺達と友達になってくれないか?』

「……、"わたし"とお友達になってくれるの?」

『頼んでいるのはこっちだよ』


「……っ、うん……うん! 友達だよ!」


 "友達"を探しに外へ出た――そんな脱走理由で、患者を責められる医者がいるだろうか?

少女は死を覚悟して、外へ出た。その勇気が、少女の前に初めての友達を連れてくる結果となったのだ。

シャーリーが勇気を出さなければ、パイウェイも心を動かされたりはしなかっただろう。この出会いもまた、ありえなかった。


願いが叶うのを待っているだけでは、王子様は現れない。シンデレラは泣いて、この奇跡を喜んだ。















『……カイ、あの子生まれた時からずっと隔離病棟でいるんだってよ』

『……らしいな』

『僕なら絶対、耐えられない。シャーリーは本当に、強いよ』

『同感だ。同情でも何でもなく、俺はあの子を尊敬するよ』

『僕はあの子を、助けたい。あの子の為に、この惑星を救いたい』

『ああ』


『でも――この気持ちは、単なる独りよがりだ。こんな気持ちじゃ、皆は救えない。

カイ……僕は、ヒーロー失格だ!』


『……バート……』


 ――けれど、奇跡は人を選ばない。奇跡が訪れたからといって、皆が喜べる結果になるとは限らない。

バートは苦しんでいた。友達が出来たことを、呪った。大切な人が出来てしまったことを、悔やんだ。


カイは――何も言えなかった。ヒーローであることを望むが故に、何も言えなかった。





























<to be continued>







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