ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 15 "Welcome new baby girl"






Action18 −転落−







 ニル・ヴァーナの復活とバート・ガルサスの参戦により、改良型の無人兵器との戦闘は一気に優位に傾いた。

両腕を刺し貫かれても踏ん張る操舵手が戦艦を支え、改良型プロシキの足を止める。となれば、速度で勝るドレッドに軍配が上がる。

全長三キロメートルの戦艦を吊り下げるデバイスも、相手が抵抗すれば自身を縛る鎖となる。引っ張り合いで勝つのは、力が強い方だ。

ジュラチームとメイアチームが、左右に展開する改良型ピロシキ二機に集中攻撃する。


「いい加減鬱陶しいのよ、アンタ達!」


 ジュラが率いるドレッドチームが、改良型ピロシキの射出口に向けてビームやミサイルの集中豪雨を浴びせる。

停電によりドレッドの装備は通常兵装のみだが、装甲のない部分を攻撃されては一溜まりもない。

ニル・ヴァーナとは違い、人の意思もない刈り取り兵器。耐え忍ぶ精神力もなく、攻撃を受けて砕け散った。

デバイスも粉々になり、ニル・ヴァーナのアームが解放されて自由を取り戻す。


「――終わりだ」


 その隙を狙って、メイアチームももう片方のピロシキの射出口に放火。抵抗する術もなく、無人兵器は爆砕する。

尖兵のキューブも全機破壊、デバイスも砕いて、刈り取り兵器は全滅。敵は全て掃討された。

停電にシステムダウン、カイ・ピュアウインドの不参戦と、不利な要素が多かったが何とか勝利する事が出来た。


全ての敵を倒した事を確認した後、全ドレッドチームに祝電が届けられる。



『おい、皆! エズラさんの赤ちゃんが生まれたそうだぞ、ヤッホー!!』



 ブリッジクルーの女性達より早く、操舵席からバートが喜びの声を上げる。チームメンバーは喜ぶよりも、呆れてしまう。

戦闘が終わった直後の呑気な喝采、そして何より――血に染まった両手を力強く掲げて、万歳三唱している。

痛くない筈がない。なのに自分の痛みよりも、メジェール人の子供が生まれた事を喜んでいる。

呆れたお人好し、育まれた勇気と強さ。この戦いにおける勝利の立役者は間違いなく、この男だった。


「分かったから、早く医務室へ行って治療を受けてこい。見ているだけで痛くなる」

『治療……? と、いったたたたたたっ! ち、血が出てる、痛いー!!』


 この戦い、バートがニル・ヴァーナを復活させなければ厳しい結果が待っていたかもしれない。

本当ならお礼を言いたかったのだが、この様子では不要だろう。メイアといえど、笑うしかなかった。

戦いも終わり、無事に赤ん坊も産まれて――ようやく、肩の荷が下りた。


『カイの奴、ちゃんと赤ちゃんを取り上げられたのね。ああいうのは苦手そうに見えたけど』

「悲鳴の一つは上げたかもしれないな。戦闘以外の事になると、存外あの男はだらしがない」


 詳細は不明だが、カイがエレベーターに閉じ込められてエズラの出産に立ち会った事は分かっている。

単機で地球母艦に挑む度胸のある男なのだが、人間関係といったソフトな面はまだまだ頼りがない。

エズラの出産も分からない事ばかりで右往左往したのだろうと、メイアとジュラは二人して苦笑しあう。


『産まれてくるのを待ち望んでいたわ。早く見に行きましょう、メイア』

「ああ、そうしよう。戦闘終了、ニル・ヴァーナへ帰還する!」

『ラジャー!』


 悪戦苦闘させられたというのに、チームメンバーの表情はどれも明るい。お祝い事というのは、苦労を忘れさせてくれる。

赤ん坊の誕生日となるこの日を守れた事を、彼女達は誇りに感じた。今日の経験はきっと、明日の強さとなるだろう。


マグノ海賊団ドレッドチーム、彼女達の戦う理由も少し変わりつつあった。















 エズラ・ヴィエーユの赤ん坊出産の報を聞いた時、誰よりも安堵したのは彼らだろう。

コンピュータールームで連絡を聞いて、マグノ海賊団副長ブザムとピョロは揃って安堵の息を吐いた。

自分達の失態を痛感しているだけに、無事に赤ん坊が生まれた事は望外の喜びだった。


「……よかった……本当に、よかったピョロ……」

「もう気に病むな。反省はしなければならないが、お前が落ち込んでいても皆の喜びに水を差すだけだ。
反省よりも、先ずは伝えなければならない言葉があるだろう?」

「そうピョロね、コホン――出産、おめでとうだピョロ!」

「……エズラ、おめでとう」


 エズラに直接通信はせず、この場で揃って二人は祝いの言葉を伝える。自分達が顔を見せては気まずくなるという配慮からだ。

システムダウンの原因はウルイス、その病魔を発症させてしまったのは彼女達。ならばこそ、責任は果たさなければならない。

『赤ん坊の泣き声』がエレベーターの非常回線より届いて――パスワードは、解除された。


「ピピピピピピ、パスワード解除。ウイルスの駆除に取り掛かるピョロ!」


 ミスティが持っていたカプセルが閲覧可能となったが、内容の確認よりウイルスの駆除を優先させた。

コンピュータールームよりピョロがニル・ヴァーナ全システムへアクセス、パスワード解除されたワクチンを投入する。

ブザムがコンソールにより素早い操作で、全部署及び施設類を再起動。破損したプログラムも再構築。全エリアを立て直す。

全身全霊を注いで、二人は全システム復旧へと漕ぎ着ける。各部署より、すぐに報告が届いた。


『全システム、回復しました!』

『ペークシスの方も、正常値に戻りました!』


 メインブリッジに機関部と、重要機関は完全に回復。他の部署も一部修復は必要だが、平常運転となった。

ペークシス・プラグマの出力も正常値となり、停電も解消。ニル・ヴァーナ全域にエネルギーが届く。

これでシールドも張れるようになり、刈り取りの襲撃があっても対応出来るようになるだろう。

完全な立て直しには数日かかるだろうが――それは己の失態の後始末だと、ブザムが当然のように受け入れた。


「私はカプセル内の音声データを確認する。お前は休んでかまわないぞ」

「えっ、でもピョロも一緒に――」

「今日はまだ休憩を取っていないだろう。お前には後でデータの解析作業を頼みたい。
この場は私に任せて、今の内に少し休んでおけ」 


 ピョロはナビゲーションロボット、機械であって人間ではない。ペークシスの暴走に巻き込まれ、自我が芽生えた存在。

けれどこの半年間人間と接して、彼も人間の心の機微を知りつつある。理解不能であるが故に、理解を求める。

ブザム・A・カレッサが何を言いたいのか、涙が出るほどに機械の心に浸透した。


「……ありがとう、副長さん。行ってくるピョロ!」


 メインコンピューターに繋いでいたケーブルを取って、ピョロは元気よく駆け出していく。

貴重な休憩時間、彼が何処へ向かうのか容易く分かる。送り出したブザムの表情が一瞬、優しさに染まった。


それも一時の事、座り直したその時には真剣な顔に戻った。


画面にはカプゼルの中身が、映しだされている。赤ん坊の泣き声をパスワードにした、データ。

ウイルスまで仕込んでいた周到さに、ブザムは厳しい目をする。


「赤ん坊の泣き声が、パスワード――今の地球には命を産み出す力もないと、いうことか?」















『ママ、ママ。ねえねえねえ! 赤ちゃん、もっとよく見せて!!』

「ほら見て、ユメちゃん……もうグッスリ眠ってるわ」

『顔くちゃくちゃにしてるー、あははー!』


「……何であの子、あんなに元気なの……?」

「……俺に聞くな……ハァ、戦うより疲れた……」


 ニル・ヴァーナの全システムが回復、エレベーター内の施設も完全復旧。通信画面も綺麗に映っている。

エズラの赤ん坊の声がパスワードとなり、宇宙戦艦は活動を再開。刈り取り兵器も討伐されたと、聞かされた。

全てが終わったその時、ミスティとカイは背中を合わせて座り込んだ。精も根も尽き果てたのだ。

逆にシステムが回復した途端ユメは元気満々になって、赤ん坊と遊んでいる。


「それにしても、女ってのは大変だな」

「出産の事?」

「男には耐え切れねえよ、尊敬するぜ」

「死にそうな顔をして赤ちゃんを取り上げてたもんね、あんた」

「うるせえよ」


 エレベーターの床は体液や血液が飛び散り、カイやミスティの服も汚れてしまっている。

不衛生な状態だが、赤ん坊の無垢で綺麗な顔を見ていると、不思議と和らいだ。

生まれたての赤ん坊、小さな存在。丸裸の生命は今、安らかに眠りについている。


「……なあ」

「何よ」

「お前って、男と女が一緒にいる星から来たんだよな?」

「何回、同じ事を質問するつもりなの。そうだと言ってるでしょう」


「だったら、俺に――俺達に、男と女の事を教えてくれないか?」


 カイは今日、改めて実感した。男の自分は、女の事を何も知らないのだと。

知らなくてもよかった、今までは。敵対していた関係、弱点を探る事はあっても敵そのものを深く知ろうとはしなかった。

相手も同じだろう。男をずっと嫌悪して、時には殺し合いにまで及んだ。

これからは、違う。知らないでは済まされない。知らないままでは、いけない。


「女を知りたいなんて、変た――ごめん、真面目な話なんだよね。どうして知りたいと思うの?」

「このまま故郷に帰っても、多分タラークもメジェールも俺達を否定すると思う。戦う事になるかもしれない。
その時俺達はタラークでもメジェールでもない、新しい価値観を持っていなければならない。

地球に歪められた教育ではなくて、本当の事を知りたい。どれほど上手い嘘でも、真実には勝てない」

「それであたし、なの……?」


「俺はタラークとメジェールを、倒す。真実を教えてくれ、メッセンジャー」


 ミスティは息を飲んだ。事もあろうに、この男は――自分の故郷を打倒すると、宣言したのだ。

信じられない思いだが、分かる気はした。自分自身も故郷から旅立ち、真実を伝えに来た。歪められた事実を、正すために。

この出会いに意味があるのなら――差し出された手を握ろうと、して。



身体が、沈んだ。



天が軋み、地が揺れて――世界が、転落する。

互いに差し出した手は離れて、両者は後方の壁に激突した。


「やべえ……落ちるぅぅぅぅぅーーーーー!!」


 老朽化していた留め金が戦闘による衝撃で外れ、エレベーターは支えを失って転落。

男と女、赤ん坊の悲鳴すら飲み込んで――奈落へと、落ちていった。






























<to be continued>







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