ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 15 "Welcome new baby girl"






Action16 −目醒−







 エレベーター内でカイ達が奮戦している頃、戦艦の外ではメイア達が刈り取り兵器を相手に苦戦していた。

改良型キューブはメイアがほぼ撃破、残るはニル・ヴァーナにデバイスを打ち込んでいる改良型ピロシキ2機。

サブリーダーのジュラがチームを指揮して集中攻撃を加えているが、なかなか陥落しない。

キューブと違い、ピロシキは装甲が厚い。通常兵装では簡単には打ち砕けなかった。


「どうしよう……このままでは、船ごと連れ去られる!?」


 ベルヴェデール=ココが悲痛な声を上げる。非常時に艦長も副長も不在で、メインブリッジには指揮する人間がいない。

オペレーターであるエズラはエレベーター内に閉じ込められており、ブリッジクルー三人で切り盛りしている状態だ。

ウイルスによるシステムダウン、停電に加えて指揮官が不在。泣きそうになるほど、事態は逼迫していた。


彼女たちが苦しんでいるのを、傍で見ているしか出来ないバートも辛い。


「僕が操舵席に入れば抵抗の一つも出来るのに……せめてソラちゃんが居てくれれば!」

「あの子だって今ペークシスの復旧で大変――きゃっ!?」


 シールドも張れない状態なので、ドレッドチームと刈り取り兵器との戦闘の余波をまともに受けてしまう。

停止する船は改良型ピロシキ型によって釣り上げられ、戦艦一隻丸ごと連れ去られようとしていた。

ニル・ヴァーナとヴァンドレッドが、稼動停止。切り札を奪われたマグノ海賊団は、苦難に喘ぐ一方だ。

副長やお頭も手一杯なのが、クルー達も理解している。彼らが今苦しいのは、自分達が何も出来ない事だ。


「何とかして操舵席に入る方法はないかな? 僕に出来る事なら何でもする!」

「気持ちは分かるけど、ウイルスを除去しない限りどうしようもないわよ」


 比較的操舵席に近い側のアマローネが、複雑そうな表情を浮かべる。バートの頑張りが見ていて辛いのだ。

緊急事態の際悲鳴を上げてばかりだった、操舵手。少しでも厄介な状況に陥れば、愚痴ばかり零す。

見ていて苛々させられるだけの、疎ましい存在。苦難を乗り越え、分かり合えるようになると、今度は彼の頼もしさが辛くなる。

以前のように文句の一つでも言ってくれれば八つ当たりも出来るが、苦しさを全面に出されると自分も辛くなる。


「せめてペークシス・プラグマが一瞬でも通常状態に戻れば、操舵席に戻れると思うけど……難しいわね」

「えっ、それってどういう事!?」

「一瞬でも復活すれば船と接続出来るでしょう、あんた。その後出力が低下しても、アンタ次第で接続は維持出来る」

「ペークシスのバックアップがないから不安定になるけど、その辺は私達でバックアップするわ」


 ニル・ヴァーナの操舵は蛮型やドレッドのような手動ではなく、戦艦への物理的接続により行える。

リンクされると操舵手の意思で戦艦が自由自在となるが、接続している為に戦艦のダメージが自身にも降りかかる欠点もある。

一度操舵席に入り接続を行えば、ON/OFFは操舵手の意思一つだ。ペークシスの・プラグマはあくまでエネルギーにすぎない。

システムダウンすると通常接続も切断されてしまうが、ブリッジクルーの操作があれば接続率の低下で済む。

ベルヴェデールとアマローネの申し出は、バートの表情を明るくした。


「それじゃあ、ペークシス・プラグマを一瞬でも回復させれば僕は乗れるんだね!?」


「どうやって?」


「えっ、だからペークシスを――」

「だから、どうやって?」


 辛辣なセルティックの指摘に、バートはその場に座り込んでいじける。アマローネとベルヴェデールが、セルティックの頭を叩いた。

基本的にカイ以外の男には普通に話はするのだが、緊急事態でセルティック本人も苛立っていたようだ。

思春期真っ盛りの少女、大人のようにどっしりと構えるのは難しい。


バートは頭を抱えていたが、やがてすくっと立ち上がる。操舵席に繋がる、クリスタルを見下ろして。


「……以前ペークシス・プラグマが、僕の呼びかけに応えてくれた事がある」

「真っ二つにまでされたニル・ヴァーナを、元通りにしてくれた時の事を言ってる?」

「うん。状況はあの時と殆ど同じだ――もう一度、僕から呼びかけてみる」


 メインブリッジクルーからすれば、正気を疑うバートの発言。エネルギー結晶体を、まるで人間のように扱っている。

アマローネが笑わなかったのは、実際に起きた奇跡を目の当たりにしたから。半壊した戦艦を復活させたのは、彼なのだ。

奇跡は一度見せられている。たった一度、それゆえに当然疑念も付き纏う。


「呼びかけると言っても、どうやって?」

「ペークシス・プラグマに直接呼びかけるんだ。機関部に通信、繋がるよね?」

「繋げられない事もないけど……本気でやるの?」

「自分の出来る事を、したいんだ。ドゥエロ君もカイも、エズラさんの赤ちゃんを助ける為に頑張ってる。
僕だけ此処で安穏としているなんて、耐えられないよ!」


 不意に理解する。バート・ガルサスは成長したのではない、成長したいのだ。成長した友を見て、歯痒く感じている。

アマローネ達からすれば、バートは立派に成長している。その変化を、彼は物足りなく思っているようだ。


それは彼自身の視野が広く、視点が高くなってきているという事。ブリッジクルーに相応しい技量が見につき始めている。


ただ単純に男がブリッジにいるのに慣れたというだけではない。彼はこの職場の仲間になりつつあった。

セルティックはバートをじっと見つめ――コンソールを素早く操作する。中央モニターに、ペークシスの保管庫が映しだされた。


出力が低下している、エネルギー結晶体。消滅しかけている、幻想の少女。


「繋がったよ。やれるだけ、やってみればいい」

「!? あ、ありがとう、クマちゃん!」

「……アンタまでそう呼ぶか」


 後でカイを殴ると息巻くセルティックに礼を言い、バートは中央モニターの真下に駆け出す。

映像に映し出されている少女が、モニターの方へ向く。表情も何も無い顔に、生気がまるで感じられない。

バートは大きく息を吸う。語りかけるべき言葉は、一つのみ。美辞美麗は必要ない。



「もう一度、僕と一緒に戦ってくれ――ペークシス・プラグマ!!」



 静まり返る一同、沈黙する結晶体。

そして、微笑みかける少女。



『……やはり貴方はマスターの御友人に相応しい存在です、バート・ガルサス』



 少女の姿がペークシス・プラグマの中に消えていく。バートが目を剥いたその時、後方で光が放たれた。

慌てて背後を振り返ると、操舵席から眩い光が噴水のように噴き出している。目が洗われる、美しい光景だった。

土壇場になれば、男よりも女の方が強い。ブリッジクルー三人が、一斉に叫んだ。


「早く飛び込んで!!」

「ラ、ラジャー!?」


 少女達に背中を押されて、成長途中の操舵手が光の中に飛び込んだ。途端に、光は消失。嘘のように消えてしまう。

一瞬だけ起きた、奇跡。瞬き一つで消える、幻。けれど、少女達は確かに見届けた。

三人見つめ合って、力強く頷き合う。操舵手が活動し始めたのなら、全力でフォローするのがブリッジクルーの仕事だ。


少年と少女達が、高らかに吼える。



「ニル・ヴァーナ、発進!」















「非常回線とか使えないの!? 一番肝心な時なのに!」

「権限がないと無理だ。くそっ、頭がもう出て来ているのに!」


 出産が、近い。お頭の指示によりエズラはいきんでいて、彼女の赤ん坊が胎内から生まれようとしていた。

今が一番大切な時期であり、もっとも母体に負担がかかる重大な一時。ここで問題が起きれば、母体も赤ん坊も危ない。


医者の助言が必要なこの時に――カイが持っていた通信機が、使用不能になってしまった。


「権限があれば使えるんだよね? エズラさんに認証してもらいましょう」

「手続きが出来る状況じゃないだろう、これは。赤ちゃんに何かあったらどうするんだ!?」


 エレベーターには非常回線はある。ただ使用するのには、マグノ海賊団クルーとしての認証が必要だった。

この場で正式なクルーの一員なのは、エズラ一人。その彼女も出産に集中していて、とても他の事に気が回せない。

頼み込めれば、何とかしてくれるだろう。明らかに、無理をして。子供達に、気を使って。


連絡は必要だ、多少無理をしてでも――そう割り切るには、カイやミスティはあまりにも優しすぎた。


出産が初めてなのも、彼らに災いしている。限度が分からないので、思い切れない。

多少の無理強いは何とかなるのか、その匙加減が分からない。自分ならともかく、仲間の命がかかっているのだ。


「……そうだ、あの子は!?」

「あの子――あっ!」

「ユメとかいう女の子。あの子もこの船の一員でしょう!」


 正確に言えばマグノ海賊団ではないのだが、ソラと同じくユメも一応乗員として認められている。

ソラは機関部クルー、ユメは船の案内係としてそれぞれの役職についている。権限もそれなりに与えられていた。

彼女がいれば、エレベーターの非常回線が使える。いれば、の話だが。


「疑っている訳じゃないから、正直に聞かせて。あの子、本当に何処に行ったの?」

「分からない……本当に、分からないんだ」


 知らぬ存ぜぬ、見て見ぬ振りをし続けてきた結果。正体が分からないままにしてきたから、いざという時呼ぶ事も出来ない。

疑いの視線ではなく懇願する眼差しをミスティより向けられて、カイは疑われるよりもずっと辛く感じた。

ユメがシステムダウンの原因ではないのは、もう分かっている。でも、消えた理由が分からないままだった。

俯くしかないカイに、ミスティは心底苛々させられた。何かといえば困った顔をするばかりだ。

情けないとは思わない、こんな非常時だ。万能にこなせと要求する方がどうかしている。


そうは思う――思うのだが、納得できない事だってある。


ミスティは奮然と立ち上がり、エレベーターの非常回線ボタンを連続で押しまくる。

当然認証コードを問われるのだが、無視。その代わり、非常回線口に向かって叫んだ。


「さっさと出てきなさいよ、アンタ! 偉そうな事を言って、何もしないつもり!?」

「お前、そんな所に向かって叫んでも――」


「アンタがさっき言ってた言葉、そっくりそのままお返ししてやるわ。

エズラさんと赤ちゃんを死なせたら――アンタを、殺してやるっ!!」





『――どいつもこいつも、うるさい! 言われなくても、助けるもん!!』





 救いを黙って待つような人間は、この船には一人もいない。此処は海賊の溜まり場、荒くれ者達が乗る船。

奇跡が起きないのなら、無理矢理にでも起こす――その逞しさで船を漕ぎ、荒海に乗り出す。






























<to be continued>







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