ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 15 "Welcome new baby girl"






Action5 −悪戯−






 カフェテリアへ向かう途中で、産気づいてしまったエズラ。カイとミスティも口喧嘩はやめて、ひとまず彼女をその場に座らせる。

カイは最前線で戦うパイロット、怪我人を応急処置した経験はある。医務室でも、ドゥエロの治療も何度か見ている。

だが、女性の出産となると何をしていいのかまるで分からない。となれば、同じ女性に聞いてみるしかない。


「おふくろさん、どうしてこんなに苦しんでいるんだ!?」

「何言ってるの、アンタ!? 子供が生まれそうだからに決まってるでしょう!」

「子どもが生まれそうなのは分かる。苦しんでいる理由が分からない」

「こんな時に当たり前の事をいちいち聞かないでよ! お腹の中から子供が生まれるのよ!?」


「どうやって?」

「どうやってって――お、女の子に聞かないでよ!」


「こんな時に、何を恥ずかしがってるんだよ! その原因が分かったら、俺達で出来る事だってあるかもしれないだろう!?」

「あたし達じゃ、どうしようもないわよ! 医務室へ連れて行って、お医者さんに診てもらいましょう」


 セクハラではなく、カイは自分に出来る事を必死に探しているのだと分かり、ミスティも責めるのはやめて真剣に答える。

至極当然の発想だった。医者でもない彼らに、出産なんて出来る筈がない。医療経験どころか、知識も何も無いのだ。

ミスティの提案に、カイは難しい顔をする。


「……此処から医務室まで遠い。俺達二人で担いで連れて行っても、間に合わないかもしれねえ」

「どうしてよ。此処から通路を真っ直ぐに渡って、エレベーターに乗ればすぐでしょう」

「この船のエレベーターに乗るには、セキュリティシステムの認証が必要なんだよ。
ゴチャゴチャ説明する時間がないから端的に言うと、『マグノ海賊団』じゃないとエレベーターが動かない」

「アンタが居るじゃない。アンタの認証で――」


「俺はセキュリティ0、マグノ海賊団のメンバーに登録されていない。この船の施設は使えないんだ」


「えええっ!? ど、どうしてそんな事になってるの!? 何アンタ、実は苛められてるの!? ポッチ?」

「意味は分からないけど馬鹿にされている事くらいは分かるぞ、この野郎!」


 カイとマグノ海賊団は殺し合いにまで発展したが、新しい同盟を結んで手を組んでいる。お互いに、背中を預けて戦っている。

セキュリティシステムへの新登録も望めば可能なのだが、カイが我が物顔で艦内を歩き回っているので自然に忘れ去られていたのだ。

地球母艦戦でカイ達が住んでいた監房も破壊されてしまい、男三人は女性の生活区域で寝泊まりしている。

カイが艦内を行動する時、いつも傍に誰かが居たのでどうとでもなった。それほど、カイとマグノ海賊団は親密になっている。

男と女がお互いの私生活まで一緒にする関係となったが為の、一種の弊害だった。


「……ふーん……」

「何だよ、仕方が無いだろう。色々あったんだから」

「別に馬鹿にしてないわよ。アンタは私と一緒だったんだな、と思って――」

「お前と一緒にするな!」

「船の中を自由に動けないのなら、お客さんみたいなものでしょう?」

「ぐぬぬ……」


 ミスティは、カイの事を全然知らない。悪い人間ではなさそうだが気が合わない男、その程度の認識しかなかった。

別に仲良くなりたい訳ではないが、本人なりに複雑な事情があるのだと分かり、ほんの少しだけ身構えるのはやめにした。

自分と同じような立場の人間がこの船に居るのだと分かって、気が楽になった。それが、気に入らない男であっても。


「青髪に貰った通信機はあるから、ドゥエロに連絡は取れる。ひとまず、今の状況を知らせる。
お前はおふくろさんを見てやってくれ。気遣うくらいでいいから」

「分かった」


 エズラの言うように、基本的に二人とも良い子である。出産前の女性を前に、見苦しく喧嘩したりはしない。

まだ数時間しか経ってないが、エズラと一緒に船の中見て回れて楽しかったのだ。思い出は、出来る限り良い方がいい。


それがめでたい出産の日となれば、最高だ――少年と少女は、懸命になった。



『カイか、どうした』

「ドゥエロ、おふくろさんの子供が産まれそうなんだ。どうすればいい!?」


 出会って半年――長いとも短いとも言えない期間でも、二人は既に親友とも言える関係となっている。

カイの端的な連絡で全てを把握したドゥエロは、通信機を通じて医務室より状況確認する。


『陣痛が始まったのか』

「すげえ痛そうなんだ。すぐにそっちに連れて行きたいが、エレベーターが使えない」

『カイとミスティ以外に、人はいないのか』

「探してみたけど、誰もいない。通信機で誰かに連絡を取っても、誰が今何処に居るのか分からない」

『ならば、機関部に連絡を取ってあの子に来てもらうといい。機関部のメンバーとして、先日登録されたと聞いている』

「そうか、ソラならばすぐに連絡が取れる!」


 エズラの認証でも可能なのだが、苦しんでいる当人に認証手続きさせる余裕はない。妊婦さんに、無理はさせたくなかった。

その点ソラは、カイの為に尽くす事を至上の喜びとしている。機関部の任があっても、主優先で飛んで来るだろう。

ドゥエロもカイもソラについてはまだよく分かっていないが、少女が味方である事だけは確かな事実だった。

人間ではないという事が、今回の件についてはいい方向に働いている。セキュリティなんて、彼女には無意味だった。


『カイ、状況を細かく説明してくれないか。痛みとは、どんな感じだ?』

「……一応聞いておくが、その本は何だ」

『出産については、この本に全て記されている。安心して任せてくれ』

「俺は、お前に頼りたいんだけど!?」


 赤ん坊のイラストが表紙の本誇らしげに見せられて、カイは顔を引き攣らせる。

ドゥエロを心から信頼しているからこそ、彼以外の何かに頼りにするのは不安だった。今回の場合、二つの命がかかっている。

とはいえ、此処で言い争っても仕方がない。カイはミスティを呼んだ。


「出産の事は正直良く分からないから、おふくろさんの今の状況をお前から伝えてくれないか?
俺は人を呼んで、おふくろさんを医務室へ連れて行く準備をする」

「分かった。ドクター、あたしから説明するわ」

『よろしく頼む』


 ミスティは今のところ、自分を介抱してくれたドゥエロを信頼している。この二人なら、言い争う事もない。

通信機をミスティに渡して、カイは大きく息を吸う。普通ありえないのだが――あの子の場合、ないとは言い切れない。

通信機はたった一つ、ミスティに預けてしまっている。となれば、こうするより他はない。

半信半疑だったが、カイは大声を出してこの場で呼んでみる。


「ソラ、すぐに来てくれ!!」



『お呼びですか、マスター』



「うおっ!? 本当に、俺の声が聞こえたのか!?」

『貴方がお呼びであれば、何処からでも参ります』


 何も無い空間から幻影が浮かび上がり、美しき少女が参上する。機関部の制服を来た女の子、カイの従者であるソラ。

神出鬼没な登場だったが、本当に何処にいてもカイの声は聞こえるらしい。大真面目に忠節を語る少女に、カイは絶句する。

以前過去へ吹き飛ばされた時、カイが死んだと誤認して以来――常に力となれるように、人間とも積極的に関わっている。

機関部の新しいメンバーとなったのも、突き詰めて言えばカイの力となるためだった。


『承知致しました。エレベーターを使用出来るようにすればよろしいのですね』

「おふくろさんは、俺とあいつで運ぶ。ソラは医務室までの最短距離をナビゲートしてくれ」

『でしたら、マスター。私よりも適任の人材がおります』


 ソラは珍しく意味ありげにそう言って、その者を呼んだ――





『ユメに任せて、ますたぁー! ユメはね、この船の「なびげーたー」なんだよ!』


「……緊急事態なんだぞ、ソラ」

『この子の初仕事です。お願いします、マスター』


 この船一番の悪戯っ子のやる気ぶりに、カイは不安を感じてならなかった。













































<to be continued>







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