ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 14 "Bad morale dream"






Action16 −宇宙人−






 メジェールの医療技術はタラークに比べて、ダントツに優れている。特にメディカルマシーンの性能は、他者の追随を許さない。

死傷を除けば蘇生も可能、と半ば大袈裟ではあるが言われているほどで、治療以外にも人体の精密な検査まで可能とする。


優れた治療効果と素早い検査、この二つがマグノ海賊団の望みを叶えてくれた。


「検査に来たのにどうして怪我してるんだ、青髪?」

「そ、それはだな……」


「えと、えと……あ、そうだ!
う、宇宙人さんが寝ている間にリーダーが仕事に行こうとしたので、ディータがポカっとしたんです!」

「ジュ、ジュラも平手打ちしたわ! メイアったら、こうでもしないとすぐ仕事に戻ろうとするんだから」

「――私は医者ではあるが、彼女を止める為の緊急処置として殴らせて貰った」

「パ、パイも齧ってやったんだケロー!」

「鬼か、お前ら!? 休ませた俺が申し訳なく思うわ!」


 救命ポットをめぐって起きた、改良型無人兵器との戦闘。その戦いの最中、ドレッドチームリーダー格のメイアが深手を負った。

幸い命に関わる負傷ではなく、カイが眠っている間にメディカルマシーンによる治療は終えている。無論、精密検査も。

とはいえ傷跡を全て消すのは難しく、手当ての跡が残ってしまいカイに見咎められた。

仲間達の懸命なフォローは口下手なメイアとしてはありがたかったが、少々複雑な思いではあった。


「一日休暇を取って検査した結果も、結局は異常はなしか。時間の無駄だったな」

「無駄ではない。確かにペークシス・プラグマによる影響は見られなかったが、ここまでの旅に至る疲労や負傷に身体が蝕まれていた。
メジェールの医療技術を用いて、検査中も君達の身体の治療を行った。入院にまでならないと、治療の時間を長く割けなかったからな。

気を抜けない過酷な任務である事は承知しているが、自分の身体を労わってほしい」

「それはこの仕事の鬼に言ってくれ」


 職務熱心を揶揄されたメイアだが、もう怒る気にもならなかった。本人は気付いていないが、安堵感の方が大きい。

悪い夢を見た悪影響もなく、今日一日ゆっくり休んで元気になったカイを見ていると、不思議なほど嬉しく感じられた。

メイアだけではない。ディータはニコニコ顔、ジュラもしょうがないという風だが口元は綻んでいる。


自分達の力で困難を乗り越えられて、カイの安全を守る事が出来た。その達成感こそが、休暇そのものよりも彼女達に元気を与えた。


「ただ人間である君達に問題はなかったが、ピョロは思考を司る回路に異常が見受けられた。パルフェに診て貰っている」

「ピョロに? でも考えてみれば、あいつ今の状態がそもそもおかしいんだよな。
ロボットの分際で人間様より生意気な口を利くし、人間顔負けの行動力を発揮するしな」

「……これは私の推測だが、ペークシス・プラグマとのリンクが原因ではないかと思っている。
かの結晶体にアクセスする事で、人間のような思考をトレースしている」

「ペークシス・プラグマに、何らかの意思があると?」

「分からない。ただ今回、君達が見た悪夢が警告であった可能性もある」


 メイアの疑問に、ドゥエロは自分の見解を話す。頭がいいもの同士、彼らの相互理解は的確で早い。

改良型ピロシキに搭載されていた新兵器、赤い光。ペークシス・プラグマの力を無力化するあの光は、明らかな脅威だ。

戦闘が終わった現在もブリッジでは解析が進められており、今後の成果が問われている。

直接被害を受けたディータやジュラは勿論の事、戦闘をハラハラしながら見ていたパイウェイも暗い顔。


そんな中で――夢も見ずに熟睡していた男が、溌剌と語る。


「なーに、悪夢なんて言っても所詮はただの夢だ」

「ほう……?」

「警告だか何だかしらねえが、俺が目を開けている限り、あいつらの思い通りには絶対にさせねえ。
母艦を何隻揃えようと全部ぶっ潰して、全員揃って故郷へ生きて帰る」


 ありきたりな言葉、根拠のない台詞。予想通りであっても、ドゥエロは面白がるように目を細める。

メイアも内心、笑いを堪えるのに必死だった。何しろ先の戦いで、自分自身がそう思っていたのだから。


眠ろうと、起きていようと、彼らの意思は一つ。結ばれた男女の手は、もう離れる事はない。


「言うわね、カイ。これからも期待しているわよ。ジュラの為に頑張りなさい」

「お前も戦えよ!」

「宇宙人さん、ディータも、ディータも一緒に戦うよ!」

「お前はたまには一人で戦えよ!?」


 左肩にしなだれかかるジュラ、右肩にしがみ付くディータを、カイは乱暴に振り払う。メイアは呆れ顔だった。

カイとは随分諍いも起こしてきたが、今では大切な仲間となっている。心に少々の葛藤はあるが、頼りにもなると思っている。

ただ関係は改善してくるにつれて、接し方に悩む事も多々あった。喧嘩などする気はないが、彼女達のように仲良くもなれない。


これから共に戦う以上関係は良好であって然るべきだが、今だメイアにとってカイはある意味で難敵だった。


「でも、あのおっきい船がいっぱい攻めて来るんでしょう。勝ち目とかあるの?
この前みたいに、星を爆発させる事なんて出来ないのに。あのお肌の綺麗な人達も、もういないし」

「これから故郷へ向かう途中で、アンパトスやメラナスのように話し合える人間のいる星に辿り着けるかもしれない。
地球は、この宇宙に生きる人達全員の敵だ。協力し合うことは可能だと思う」

「タラークとメジェールにも、刈り取りについて連絡しているんでしょう。こっちに協力してくれるかもしれないわ」

「……そう上手くいけばいいがな」


 カイやジュラの楽観的な考え方に、ドゥエロは釘をさす。空気を悪くするつもりではないが、楽観論は隙を生む。

人間同士だから分かり合えるというのは、単なる理想だ。人間同士だからこそ、争い合う事もあるのだから。

人類共通の敵である地球こそ、人類発祥の地――諍いの種は、人間がこの宇宙に植えてしまったのだ。


「話し合いを望むのであれば、まずは身近な所からあたればいいだろう」

「あ、そうか。あの救命ポット! 中には、誰かが眠っているんだよね!?」

「よかったじゃないか、赤髪。新しい宇宙人だぞ」

「そうだね、宇宙人さ――あれれ? どうしよう、その人も宇宙人さんなら、宇宙人さんの事宇宙人さんって呼んだら、二人に――」

「落ち着け、ディータ。思考が空転している」


 カイのからかい混じりの一言で、ディータが目をグルグルさせている。自分で言って、訳が分からなくなってしまったらしい。

先程メイア達により回収された、救命ポット。その中には、冷凍睡眠している人間がいる。


タラーク人でも、メジェール人でもない――他所の星から来た存在、まさに本物の『宇宙人』である。


「そういえば、救命ポットはどうしたんだ。回収したんだろう?
中に人が眠っていたのなら、ドゥエロが診てやるべきじゃないのか」

「無論だ。救命ポットはついては、今整備班が調査を行っている」

「調査? 何でそんな事をいちいちやるんだ」

「砂の惑星の事を忘れたのか、お前は。あの救命ポットそのものが罠である可能性もある。
そうでなくても、我々が回収する前に無人兵器が細工をしたかもしれない。
まずポットそのものが安全である事を確認しなければ、中にいる人間に被害が及んでしまう。

それに――」

「それに?」

「中にいる人間が、我々の味方である保証もない」

「……確かに」


 疑い出すとキリがないが、疑心暗鬼にさせたのは地球人――そして、自分達である。人間だからこそ、相手を疑ってしまう。

誰とも分かり合いたいという気持ちはあるが、大事な人達を守る為に敵か味方かを判断しようとする。

戦場においては正常な思考であるが、疑心や疑惑に重苦しさも感じていた。何はともあれ、平和がいい。


「いずれにしても、コンタクトを取る必要はある。お頭と副長の立会いの下、私が解凍及び蘇生処置を私が行う。
調査が終わり次第、クリスマスでパーティを行った例の会場で作業を開始する」

「会場……? たった一人起こすだけで、何であんな広い場所でやるんだ」


 別に閉じ篭ってやる事はないが、大々的にやるべき作業でもない。ドゥエロの説明に、カイは首を傾げる。

他の女性陣は既に話を聞いているのか納得顔、メイアだけは重い溜息を吐いている。


ドゥエロは、実に生真面目な顔でこう言い切った。



「マグノ海賊団ほぼ全員が、宇宙人を見たいと騒いでいる。皆の希望により、こうなった」

「危機感ゼロじゃねえか!!」



 ところがカイの予想を裏切って、この解凍作業が思いがけず大きなイベントとなる。

後々にまで続く、男と女のプライドをかけた戦い――新しい男女関係の、始まり。



既存の世界を変えるのは、やはり『宇宙人』であった。






























<to be continues・・・LastAction −ミスティ−>







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