ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 14 "Bad morale dream"






Action15 −烈火−






   赤い髪の少女は、夢を見るのをやめた。どれほど夢見たところで、叶わない現実があると分かったから。

宇宙人なんて存在しない。少なくとも自分が憧れていたものなんて、宇宙の何処を探しても見つかる事は無い。

自分を助けてもらいたいのなら、自分で誰かを助けなければならない。望んでいるだけでは、決して与えられない。


だから、いつも助けてくれたヒーローを――今度は自分が、助けたいと思った。


「絶対に、誰も死なせないんだから!」


 救命ポットをシールド内に保護したまま、突撃。重火力兵装を使用して、ディータ・リーベライは救援に駆けつける。

彼女は新人パイロットだが、短期間で数ある修羅場を潜り抜けている。ベテランには及ばずとも、実力は着実に備わりつつある。

だがそれでも、経験値が足りない。ドレッドチームのリーダー格ともなれば、部下の失点にすぐに気付く。


(……シールドを展開したままでは、火力が十分に発揮出来ない。ディータ、何故――くっ)


 青い髪の女性は、過去を振り返るのはやめた。どれほど昔を思っても、覆せない時間があるのだと分かったから。

母親はもうこの世にはいない。どれほど謝りたいと思っても、喪われた存在は決して取り返す事は出来ない。

強くなりたいと思った、悲しみも揺れない強さを願った。そんな自分が、誰かを悲しませてどうする。


だから、助けに来てくれた部下を――今度は自分が、助けようと思った。


「救命ポットを持って、ニル・ヴァーナへ帰艦しろと言っただろう!」

「でもでも、そんな事をしていたらリーダーが死んじゃいます!?」


 朦朧としている意識を唇を噛み締めて覚醒させて、強引に操縦ポットを握り締めてドレッドを立て直す。

敵から受けた攻撃による損傷は激しく、何よりシステム面にバグが生じている。それでも、メイア機は宇宙を駆ける。

何故と、メイアはディータを問い質しはしなかった。彼女の言う通り、救援に来てくれなければメイア機は撃墜されていたのだから。

新人でも気付けた戦況の危うさを、ベテランが気付かない筈は無い。


「メイア、ディータ!? もう、世話が焼けるわね!」


 金の髪の女性は、未来を見つめるのはやめた。どれほど自信を持っても、確定された幸福は無いのだと分かったから。

完璧な人間なんて存在しない。理想を現実にするのは、過酷なまでに努力が必要なのだと思い知らされた。

未来がほしいと思った。妄想ではなく、確かな実感として自分で掴み取りたかった。


だから、助け合おうとする仲間達を――今度は自分が、助けてあげたいと思った。


「ヴィータ、救命ポットをこちらに渡しなさい。ジュラがちゃんと、守ってあげるから!」

「でも、今度はジュラが狙われちゃうよ!?」

「……ジュラの事を気遣ってくれるのなら、ちゃっちゃと敵を倒しちゃいなさい!」


 装甲の防御力とシールドの効果範囲で、ジュラ機を越えるドレッドは存在しない。特化された守りの力で、二人を救出する。

長年ではないにしろ、同じ戦場を潜り抜けた者同士。流れるような連携で、攻守攻防が切り替わっていく。

ディータ機は火力全開で反撃、メイア機は速度最大で支援、ジュラ機は防御重視で護衛。

戦局が長期化していくにつれて、敵戦力が正確に分析されていく。


「敵主力、三機に接近! ポットを回収するつもりのようです!?」

「メイア機の速度が落ちています。あの紅い光の影響で、システムに多大な負荷がかかっています」


 ニル・ヴァーナのメインブリッジより伝えられる分析結果は、どれも芳しくは無い。状況は追い詰められていく一方だった。

ディータやジュラが救援に駆けつけて一時的に持ち直したが、一番の戦力であるメイアが負傷して苦戦を強いられている。

特に、あの紅い光――悪夢の再来が、主力パイロット達を苦しめ続けていた。


「……あれも、敵の新兵器だというのか」

「むぅ……」


 中央モニターを見つめるブザムやマグノの表情も、厳しい。状況を打開する一手が打てない。

正確に言えば、彼女達には切り札が存在する。そのカードを切れば、この戦況はまず間違いなく打開出来る。

正体不明の紅い光についても対抗手段は見つからないが、今すぐに攻略する必要は無い。それこそ敵のように、後から考え出してもいい。

事ここまでに至った以上、カイ・ピュアウインドを目覚めさせるべきだ。ただそれだけで、皆が救われる。


『駄目です、副長さん!』

「バート、お前の気持ちは分かるが――」

『副長さんは、分かっていません! カイを出したら、僕達の敗北なんです!』


 あろう事か、臆病者のバート・ガルサスが反対していたのだ。副長が指示を出そうとすると、通信回線で回り込んで反対してくる。

国家も恐れるマグノ海賊団のお頭、そして副長が何度言い聞かせても首を縦に振らない。

しかも他のメインブリッジクルーも同意見なのか、カイの出撃には反対の空気を出している。

緊急事態において、上司への反抗など決して許さない。規則に則って、更迭すべき事項だ。しかし、


『ジュラ、僕に救命ポットを渡してくれ。すぐ、ニル・ヴァーナに回収する。タイミング、教えてくれ!』

「分かった。こちらで合図を出したら、すぐに受け取って! アマロ、最新の観測データをお願い!」

「分析はもう終わってるよ。計測もこっちでやるね」

「ありがとう、セル。バート、回収したポットは第一じゃなくて、第二保管庫に回して。敵に見張られてる」

「ディータちゃん、聞こえる!? 今からデータを送るから、それを使って――」


 彼らの働きぶり、死に物狂いの援護射撃を目の当たりにして、ブザムは彼らへの叱責を飲み込んだ。

充分どころの話ではない。自らの職務を全うしつつ、仲間へのフォローにも回っている。空いた席を、埋めるように。

おかしな話だが、一人仲間がいない事で彼らは一致団結していた。カイへの気遣いが、逆に彼を気遣わせまいとしている。


人間のそんな努力を――機械達は、嘲笑う。


「ちょっと、メイア! あんた、大丈夫!?」

「……これも、紅い光の影響か……っ」


 白亜の翼が紅に錆付いて、赤黒く染まっていく。宇宙を優雅に駆け巡る翼が腐蝕して、ドレッドが停止する。

負傷したメイアも血と共に、体力が奪われているのを自覚している。一刻も早く、敵を倒さなければならない。

懸命に操縦ポットを動かすが、ドレッドは全く命令を受け付けない。悪夢が脳裏にちらついて、メイアの表情が歪んだ。

敵主力である改良型ピロシキが、大きく口を開いた。


「リーダー、逃げて!」


 敵の狙いは明らかだった。憎たらしいほどに、戦況分析が出来ている。

このドレッドチームの戦力の要は他でもない、メイア・ギズボーン。彼女を倒せば、戦力差は圧倒的に開く。

サブリーダーであるジュラは、救命ポットを抱えて動けない。ディータ機は、停止するメイア機に阻まれて正面から攻撃出来ない。

メイアが動かなければ、戦局もまた動かない。八方ふさがりになりつつあった。


『ちくしょう、メイアがやられる! 合図はまだか!?』

「もうちょっとだけ待って! 今手出ししたら、肝心のメイアまで巻き込まれる。
それにペークシス・アームを通じて紅い光に侵蝕されたら、ペークシス・プラグマまでやられて一巻の終わりよ!」


 いきり立つバートに猛反論するアマローネの声は、悲鳴に近い。メインブリッジが一番、状況を把握出来ている。

改良型ピロシキに飲み込まれたら、ドレッドが押し潰される。かといって外部から攻撃したら、メイア機も巻き込まれる。

ペークシス・アームは強大な力だが、影響力もまた大きい。今だ未知なる力なだけに、バートも躊躇してしまう。

人は決して、万能ではない。それゆえに悩み苦しみ、立ち止まってしまう。


(……夢……過去……未来……運命……)


 開き切った改良型ピロシキが、メイア機に迫り来る。停止したシステムは微動だにせず、メイア機はただ運命を待ち受けていた。

圧倒的な、死、変えられなかった、現実。ディータやジュラの救援があっても、結局死に囚われてしまう。

自分の運命なのかもしれない。父に失望し、母に絶望した自分は、どれほど足掻いても救われる事などない。

心のどこかでずっと、そう思っていた。


「この命は、お前達などには渡せない!」


 暴虐なる紅い光に照らされても、メイアの青い瞳は翳らない。ますます強く輝いて、輝かしき意思の光を放つ。

操縦ポットを握り締める。無駄な努力かどうかは、やってみなければわからない。懸命にならずして、どうして奇跡を起こせようか。

メイアは傷付いた身体を起こし、真っ直ぐに見上げる。


「今在るこの命は、皆に助けられた命。自分一人のものじゃない!」


 絶望的な状況であっても、ディータの心は屈さない。か弱い腕で押しのけて、自ら這い上がろうとする。

ディータはレーダーで狙いをつけて、引き金に手をかける。敵も味方も打ち抜いてしまう距離、それでも信じている。

ディータは真っ直ぐに前を見据え、トリガーを引き絞る。


「どんなに怖い未来が待っていても、自分の力で変えてみせるわ!」


 強大な敵が迫っても、ジュラは絶対に逃げない。仲間を力強く抱き締めて、自ら盾にならんとする。

オーダーヒート寸前であっても、シールドは解除しない。攻撃が集中しようと、破壊されまいと頑なに抵抗する。

ジュラは身体を張って、救命ポットを守り抜く。


「独り善がりな悪夢なんかに、僕達は――」


 そして、


「今よ!」



『絶対に、負けない!!!!』



 決着は、ついた。















「……あれ?」

「ようやく目が覚めたか」


 目が覚めたその時メディカルマシーンの固い感触ではなく、柔らかなベットの上だと気付いて少年は目をぱちくりする。

ぼんやりとした声だがそれでも耳に届いたのか、白衣を着た長身の男性が覗き込む。

カイ・ピュアウインド、彼は目を擦ってベットから起き上がった。


「そうか、確か精密検査で麻酔したんだっけ。どれくらい寝てた?」

「優に六時間は過ぎている。通常の職務時間は先ほど終了した。目覚めはどうだ、カイ」

「ビックリするくらい、気持ちいい。よっぽど疲れてたんだな、俺」


 大きく伸びをする。普段の職務にあまり熱心ではない彼は睡眠時間に不足はしていないが、精神的な疲労はやはりあったらしい。

夢すら見なかったのか、スッキリした顔でカイは寝癖のついた髪を撫でる。心身ともに、回復したようだ。

通常業務終了ということは、一日が終わった事を意味する。彼は、尋ねた。


「俺が寝ている間、何も問題は無かったか?」


 その問いに、患者のカルテを確認していたドゥエロが顔を上げてカイの方へ振り向く。

彼は、微笑んでいた。



  「ああ、何も問題は無かった。今日は、平和な一日だった」

「そうか、なら良かった」



 心から安心して息を吐き、たった一日の平和な休暇が何事も無く終わった。






























<to be continued>







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