VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action20 −発揮−






 地球母艦破壊作戦が開始され、ヴァンドレッド・ジュラがガス惑星をシールドで圧縮していく。

同時にディータとメイア、バーネットの三機で中心核の破壊を決行。大いなる星の外側と内側から、強烈な圧力が迫り来る。

ガス惑星内で篭城しているニル・ヴァーナは圧壊の危機を高めていく一方であった。


「惑星の密度は上昇、中心核の温度も高まっている――作戦の第一段階は、カイ達の命懸けの行為で成功しつつある。
問題は次のシークエンス、アタシ達の担当。ペークシス君、苦しいだろうけど一緒に頑張ろうね……」


 融合戦艦の動力源であるペークシス・プラグマが保管された、機関部。

仲間同士の壮絶な争いで今も血痕が濃厚に残されているが、誰一人気にかける者はいない。

機関部を職場とするクルー達が注目しているのは未知なる結晶体、ペークシスのみ。

ペークシス・プラグマはバートによるニル・ヴァーナ復活後、一時的に光を取り戻した。

男女関係の決裂と同時に出力は急速に衰え、カイが飛び出した後は停止寸前に陥った動力源。

何とか復旧はしたが、本来の調子を取り戻したとはお世辞にも言えない。

元々謎の多い鉱物で人による制御も完全には行えない代物、豊富な知識を持つパルフェでも手を焼いている。


「パルフェ、回路の組み換え作業は終わったよ!」


 カイの戦略を基本にブザムが構築した大戦略、作戦を支える柱は一本ではない。

作戦の流れを計算したセルティック達と同様に、マグノ海賊団の各部署で作戦に沿った独自の役割を担っている。

作戦の第二段階の要となるのは機関部、主任であるパルフェが指示する部署であった。


「パイパス経路の接続も完了! 何時でもいけまーす!」


 重力と電磁波の世界で傷ついた身体を休めている船は、絶えず圧し掛かる力に潰されかけていた。

崩壊の危機にある船を支えんとペークシス・プラグマが急激にエネルギーを高め、内圧は高まる一方。

このままでは外圧と内圧の押し合いに、ニル・ヴァーナそのものが圧力バランスの崩壊で砕け散ってしまう。


圧壊の回避と、恒星化の促進――それこそが地球母艦破壊作戦の、第二シークエンス。


「……後はバーストリミットの直前に、ペークシス君のエネルギーを反転させるだけ」


ペークシス・プラグマの急な停止と復活の理由が分からない。だが、最近の不調の原因はパルフェによって判明された。

この六ヶ月間の長旅と刈り取りとの戦闘の連続で、ペークシス・プラグマに不純物が溜まっていたのだ。

不純物といえどエネルギー物質、ペークシスは確かに無尽蔵のエネルギーを生み出すが、力は溜め込んだままでは重石となるだけ。

エネルギーの流れが妨げられてしまい、動力に不調が生じてしまったのだ。機械に精通するパルフェだからこそ、分析も早かった。


ニル・ヴァーナが圧壊の危機にあるのは、ガス惑星の重力にニル・ヴァーナの力が押されている為。


今の所は圧力バランスは拮抗しているが、このまま押し合いを続ければ船体そのものが耐えられなくなる。

ペークシス・プラグマさえ本来の調子を取り戻せば、惑星の重力といえど跳ね返す事は可能。

エネルギーを反転させて不純物を外へ吐き出し、ペークシスのエネルギー値を正常へ戻せばニル・ヴァーナは再び宇宙へと旅立てる。


「ギリギリまで計算し尽くしたけど、確証が持てない……もうちょっと、あと少しでも時間があれば!」


 ただし、作戦の第二段階は非常にデリケートな作業。一桁以下の計算ミスが命取りとなる。

危うい均衡で成り立つ圧力バランスを、人為的に傾けるのだ。計算を誤れば、天秤は一気に揺れてしまう。

パルフェは脳をフル回転させて、エネルギー値の計算を行った。経験と才能が生み出す超人的な計算力で、解答を導き出した。

パルフェ・バルブレアは機械の申し子とも言うべき人材で、この分野におけるエキスパートである。

その彼女が出した解答は、機械よりも正確とまで言わしめる完璧さを誇っている。

だが、彼女は機械ではない――時には悩む事も間違える事もある、人間なのだ。

今この時ばかりは、パルフェは自分に自信が持てなかった。そして――


「それに……ペークシス君がどれほど頑張ってくれても、船体が持つかどうか……」


 ――仲間の事も、完全には信じられなかった。

男と女の船が融合して生まれた戦艦、ニル・ヴァーナ。半年間の不敗神話は、男女同盟の決裂により破られてしまった。

ニル・ヴァーナは刈り取りの攻撃で真っ二つに引き裂かれ、船体各所に致命的なダメージを負った。

バートが舵を取って何とか復活はしたが、完全に修復された訳ではない。ガス惑星に篭城している間も、船体は悲鳴を上げ続けていた。


そこへペークシス・プラグマのエネルギーを一気に反転させるのだ、刹那の瞬間ニル・ヴァーナの船全体に比較にならない負荷がかかる。


この船の何処かに致命的な傷が残っていれば、そこから圧力バランスは崩壊する。痛みを感じる暇もなく、吹き飛ぶだろう。

ニル・ヴァーナの各部署に、パルフェは圧壊の危機を説明した。カイが立てた作戦は、マグノ海賊団全員に知れ渡っている。

作戦の成功には、各個人の努力が不可欠となる。何処か一つの部署が怠けていれば、ニル・ヴァーナ全体が砕ける。


たった一人でも、男が立てた作戦に反対していたら――全員が死んでしまう。


猶予が少なく、短時間で立てられた作戦。余裕なんてまるでない。

マグノ海賊団の全部署が協力してくれなければ、作戦は失敗となる。


(……モタモタしてたら、メイア達だって危ない。でも、本当にこれで――うん?)


 鬼気迫る形相で悩み喘ぐパルフェの頬に、ツンツンと突っつく指。

汗が滲んだ顔を上げると、緊迫した状況に似つかわしくない愛嬌ある顔があった。

着ぐるみで扮装している少女、ソラである。

動物の着ぐるみは、太い指を機関部の窓ガラスに向けている。


――ガラスの向こうに納められた結晶体、ペークシス・プラグマを。


「……ペークシス君を、信じろ?」

「――」


 コクン、と素直に着ぐるみは頷いた。単純なやり取りで、明確に意思は伝わってくる。

自分を信じなくてもいい。仲間が信じられなくてもかまわない。


ペークシス・プラグマを――この結晶体を、信じてほしい。幻想の少女は言葉なく、そう語った。


自分や仲間ではなく、ただの物質を信用する。機械に接して生きて来た自分には性に合っているかもしれない。

人間不信にはなっていない。人間という存在が、パルフェにはよく分からなくなったのだ。

故郷に教わった男像は、現実とは全然違っていた。故郷の仲間達は仲違いを起こし、致命的な過ちを犯した。

機械ならば絶対に間違えない事を、人間は愚かにも犯してしまう。自分を含め、パルフェはつくづく未熟である事を痛感した。

急に信じろと言われても無理だ。裏切られた信頼を取り戻すのは、並大抵ではない。

ならば一度たりとも裏切られた事のないモノを、信じてみるのも悪くはない。

その結果が死でも、自分で自信を持って選んだ事なら後悔はない。

パルフェは着ぐるみのフワフワな手を、ギュッと握る。


「ありがとう、ソラちゃん。アタシ、ペークシス君と――君を・・信じる」

『……』

「あはは、勿論カイ達もだよ。ドクターやバートもね」


 何だ、こう考えてみればまだ信じられるものは沢山あるじゃないか。パルフェは笑みを零す。

人間とは不思議だ……繋がる事で、可能性が広がる。一人では無理でも、仲間がいれば出来る。

自分だってその一人でしかない。自分に出来る事を、やるしかない。

そこから繋がっていく事を信じて、このシークエンスを完成させよう。


「さーて、皆……いくよー! エネルギー、リバース!!」


 号令と共に、機関部の全員が手にしたレバーを下げる。一連の操作が回路と直結し、用意された経路へと繋げられていく。

エネルギーの流れが即時に反転、循環の急転に不純物が押し流されていった。

障害物が無くなった事でペークシスのエネルギーがスムーズになり、結晶体が強く輝き出した。


「頑張って、ペークシス君――熱が冷めれば、後は回復していくだけだから!」


   点滅するペークシス・プラグマ。人為的な制御も加わって、圧力バランスが急激に傾きだした。

これまで押し気味だった重力が急にペークシスからの力に押し返されて、船体が激しく軋み出す。

前もって事態を予測していたパルフェは顔色こそ青褪めているが、冷静ではあった。


(ペークシス君……ニル・ヴァーナ……!)


 機械が必死に、自然と戦ってくれている。後は祈る事しか出来ない自分が、歯痒い。

賽は投げられた。人事を尽くして、天命を待つばかり。

悪い結果を不安に思うのならば、結果を良くするために今出来る事をする。パルフェは自分の全てを出し切ったと、胸をはれる。

だが、他の皆は――?



(ソラちゃん……皆……お願い!)















……。



……。



……。



……。



……。



……。



……。



……。



……。





『ペークシス・プラグマ、正常値に戻っていきます!!』












 パルフェ・バルブレアは……その時感じた思いを、一生忘れなかったという。

初めての心からの感激、一生に一度あるかないかの奇跡の生還。



『負けるとか、死ぬとか――みんな、変です。自分達で決めた・・・・・・・戦いでしょう!?』

「俺達が、俺達の手で、俺たちの為に創る未来だ。他人に任せてどうする!? 負けるな! 諦めるな!」



 少年と少女の言葉が今度こそ届いたのだと、分かって。

機械では絶対に感じられない、人間の熱い感情に素直になって……彼女は涙した。






























<to be continued>







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