VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action6 −合流−






 敵の脅威は新型の遠距離兵器、戦力分析しながら戦術を構築する。

自分達の強みを最大限に生かし、敵の弱みを徹底的に突く。

それが海賊流――宇宙という広大で孤独な海で生き残る術だった。


「ジュラ、決して奴の間合いに入るな。こちらにも近付けるな!」

『任せて! 鈍臭いヴァンガードの相手は慣れているわ!』


 メイアにジュラ、そしてSP蛮型の偽物との死闘が続いている。戦局は彼女達にほぼ一方的だった。

陸戦用機体と宇宙戦艦、それぞれの持ち味が違う。此処は大気圏内ではなく、真空の大舞台である宇宙。戦う環境からして、有利だった。

熟練のパイロットともなれば、戦闘経験も豊富。共にペークシスに改良された機体となれば、スペック面でも引けを取らない。

メイアとジュラ、攻守一体のコンビネーション。リーダーとサブリーダー、信頼と実績で積み重ねたコンビに隙はない。


――時間制限がなければ。


『もう、堅いわね! しぶといところまでアイツに似なくてもいいのよ!』

「焦るな、ジュラ。確実に追い込むんだ」


 こうして戦っている間にも、ニル・ヴァーナはガス星雲の中へと進み続けている。

ガス性運は重力と電磁波に満ちた世界、ドレッドのシールドでも長くは耐え切れない。

融合戦艦が星雲の奥底へ逃げ込んでしまうと、辿り着く前にドレッドが圧壊する危険性があった。

高密度のガス星雲は光も差さない深海と同じ――人間が容易く潜れる領域ではないのだ。


『だけど、メイア! モタモタしていたら、ニル・ヴァーナに追い付けなくなるわよ!?』

「分かっている! だが、焦りは禁物だ。我々はこれ以上ミスは許されない」


 ジュラを精一杯宥めるメイアだが、彼女自身も精神が磨耗していた。

彼女達は此度の事件で心身共に限界近くまで傷付いている。ジュラは発狂寸前、メイアは自信喪失と責任感で自暴自棄になっていた。

男達の復活と活躍で何とか自身を取り戻した彼女達だが、身体も心も休息を貪欲に求めている。

今こうして戦えているのは、彼女達なりの意地と強い義務感――


『……そうね、もう誰も死なせたくないもの……皆を必ず安全な場所まで逃がしてみせるわ。
それに――アイツだけは絶対許せない! カイの姿と声を真似た、あの機体だけは!』

「同感だ」


 ――そして、私怨だった。これまでマグノ海賊団を助け続けてくれた男の機体の、模倣。許せるものではない。

自分達の敵となったと知った時の強いショックと、身も震えるような怒りは今でも刻まれている。

地球側からの一方的な死の宣告――衝撃だったのは、敵が祖先だからではない。

確かに衝撃は大きかったが、故郷を捨てた彼女達にとって地球はそれほど尊敬に値すべき存在ではない。

第一世代には神に等しき存在でも、今を生きる若者に古き歴史の偉人は結局教科書の中の存在でしかないのだ。


歴史の偶像ではなく、今を生きる若者――自分達を助けてくれた味方だからこそ、彼女達は打ちのめされた。


結局のところ、甘えていたのかもしれない。結局は助けてくれると。

無償の行為などありはしないのに、彼の不器用な優しさと思い遣りに縋ってしまった。

決定的な決裂を迎えても、心の何処かで安易に考えていた。だからこそ、男達の死は彼女達にとって強烈な出来事だったのだ。

この戦場は等しく、人に死を与える。意味もない死、理不尽な死。誰もが皆、安全ではない。

この偽物はそういう意味では現実を教えてくれたと言えるが――それでも許せるものではない。

本物は生きて還って来た。たとえ味方ではなくても、共に戦ってくれている。

そんな彼に報いる為にも、この敵は自分達で倒さなければならない。


『!? メイア、危ない!!』

「なにっ!? こちらの軌道を読んで――ぐぅぅっ!」


 彼女の誤算は、敵に学習能力がある事。経験はなくても、記録という形で機体に蓄積されていたのだ。

二人のコンビネーションは確かに優れているが、優秀であるがゆえに形が崩れない。読めれば先を取れる。

カイは常に最前線で戦って来たが、彼女達との連携は殆どなかった。他でもない女性陣が反対していた為に。

男を取り入れない戦術は、新しい可能性を生まなかった。バリエーションはあっても、優秀な学習機能は解答を導いてしまう。

かつての戦いで既に何度も披露している技が、彼女を窮地に追い詰めた。


――被弾。


ジュラの叫びに何とか反応はしたが、回避しきれず着弾してしまう。

コックピットへの直撃は免れたが、白銀の機体から血のような煙が上がっている。


『ちょっと、メイア!? 嘘……しっかりしてよ、ねえ!?』

「っ……問題、ない……」


 必死で呼びかける画面上のジュラに、メイアは珍しく微笑して応える。その美しさと悲壮さに、ジュラは息を呑む。

無理をしているなどというレベルではない。顔に血飛沫が飛んでおり、パイロットスーツの肩口が割れて流血している。

それでも何でもないと笑うメイア。その微笑みには気遣いと、感謝があった。

ジュラが咄嗟に呼び掛けなければ、回り込まれて直撃していたかもしれない。その事実に、素直に礼を述べているのだ。


彼女が初めて見せてくれた気持ちが嬉しくて――哀しかった。


やはり、メイアはまだ強い責任を感じている。心を見せているのは、壁が既に崩れているからだ。

心の壁を修復する余裕もない。メイアは今も尚、自分を激しく責めていた。この現実に絶望していた。


先が見えない苦境に……悲鳴を上げていた。


『メイア、ジュラが隙を作るわ。感謝しなさいよ、折角の見せ場を譲ってあげるんだから!』

「何……? よせ、ジュラ!?」


 敵は――弓を構えていた。被弾して停止した敵を射殺すべく、狙いを定めていた。

新型遠距離兵器、"ホフヌング"。偽物が形作った兵器は本物には劣っても、ドレッドを破壊する威力は有している。

あの兵器の特性は理解している。充電時間が長ければ長いほど、範囲は広く威力が強まる。


ジュラ機はシールドを張って――真正面から突撃を仕掛けた。


本当に正面突破、敵の射程に自ら入り込む暴挙。ゆえに、敵もまた見過ごせない。

攻撃を誘い出す罠と分かっていても、弓構えを解けば隙を生んでしまう。威力を殺してしまう。

ホフヌングの弱点はそこにあった。操作性でカバー出来る問題でも、無人兵器にそこまでの応用性は望めない。

敵は狙いをジュラに変更して――閃光の矢を、解き放った。


「ジュラーーーー!!!」


 ジュラ機は防御力に優れた機体、ペークシスの改良で更に機体性能は上がっている。

だが、ホフヌングもまた絶大な力を誇る遠距離兵器。臨界突破した時の破壊力は巨大母艦を破壊し、空間を割った。

赤い光の奔流にジュラ機が飲み込まれた瞬間、メイアが矢も盾もなく飛び出した。

取り繕う余裕もない。感情の爆発が視界を白く焼き尽くし、煮え滾るような怒りが怒号となって吹き出た。


心の壁を瓦礫ごと蹴飛ばして、メイアはただ仲間の為に――トリガーを、引く。


感情は熱く燃え上がっているのに、思考は驚くほど冷めている。

凶暴な欲求に従ってトリガーを引く、ただ純粋に敵の破壊を求めて。

回避などさせない、回避などしない。問答無用に、敵を仕留めるだけ。これ以上ないほど鮮やかに、死を与えたい。


時間にしてみれば、一瞬だったのだろう。気がついた時には、全て終わっていた。


カイ機の贋作は、完全に消滅している。ホフヌングを発射した直後に、容赦ない豪雨を浴びたのだ。

兵器の暴力が偽物を粉々に粉砕した。その存在も、何もかもなかったように。

勝利の恍惚も、敗北の余韻も何もない。生き残った、ただそれだけの話。

生存したものが、次の戦いに巻き込まれる。この戦いは結局途中であり、終わりではない。

命はまだまだ無駄に、危険に晒される――何の意味もなく。


「……ふざけるな……」


 何なのだろう、これは? 悔し涙が滲んで消えてくれない。生々しい感触が、頬を伝う。

戦って、戦って、その先に何があるというのだ。傷付き、疲れ果てるだけの日々ではないか。

この旅は此処で終わりではない。まだ半分――そう、まだ故郷まで半年以上かかるのだ。

今日勝てたとしても、明日はまた戦わなければならない。戦いは終わらない、命の保証は一切ない。


そこまでして生きなければいけない必要はあるのだろうか、自分に?


ジュラは……海賊を止めてまで、自分の将来を見出そうとしていた。確かな明日ではなく、遠く苦しい未来を見据えていたのだ。

そんな彼女が、何故死んで――自分が生きなければならない!



『お前らは、俺の努力を何故こうも無駄にするんだ? 逃げろといっただろう!?』

『仕方ないでしょう! アンタの偽物が追って来たんだから!
あーあ、アンタって本物でも偽物でも、ジュラの邪魔ばっかりするのね』

『偽者の罪まで背負わされてたまるか! おい青髪、ぼんやりしてないでとっとと行くぞ』



「え……?」



 それが当然であるかのように、ジュラ機の前に人型兵器が立っている。

蒼と紅の光を纏った機体――まるでジュラ機を守るかのように、二つの光が幻想的に輝いている。

何が起きたのか、サッパリ分からない。正気に戻っても、今の現実が理解出来ない。


なのに――言葉が口から滑り出た。


「遅いぞ、何をモタモタしていた。こちらはお前の尻拭いで大変だった。世話を焼かせるな」

『ぐっ……人の顔を見るなり、ぽんぽん文句が飛び出やがる。お礼とか感謝とかないのか?』

「よくやってくれた、ジュラ。大丈夫なのか?」

『ええ。流石に死ぬかと思ったけど、こいつが庇ってくれたのよ。

――そうか、一応助けてくれたのよね? ありがと』

『今気付いたかのように言いやがった!?』


 はは……苦痛より先に、笑いが零れる。力が抜けた分疲労は増したが、まだ少し頑張れそうな気がした。

いつもそうだ。思い悩む自分を馬鹿にするように、この男は先に行動に出ている。

助けた結果を考えもせず、とにかく救おうとする。その先の事は、後で考える。

そのくせ、壮大な未来は描いている。そこへ向かうべく、毎日四苦八苦しながらも行動する事は決して止めない。


――悩んでいる自分が、馬鹿みたいに思えてきた。


この戦いに勝てるかどうかは、分からない。今勝てても、明日はまた次の戦いが訪れる。

毎日毎日が苦難の連続だろうが……この者達が一緒なら、それも悪くはないだろう。

聞いているだけで勝手に笑いが飛び出すような毎日ならば、守るべき価値はある。

ここへ来て、メイア・ギズボーンはようやく理解した。


自分には、この男――カイ・ピュアウインドが必要なのだと。


お互いの存在を確かめ合って、その価値を理解して初めて背中を預けられる。

未熟な子供達は手と手を取り合い、身勝手な大人達に戦いを挑む。





























<to be continued>







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