ＶＡＮＤＲＥＡＤ連載「Eternal Advance」
Chapter 13 "Road where we live"
Action5 −混戦−
背部に装備された2門のクリスタルキャノンより、苛烈な砲撃が放たれた。
単純だが強烈、一直線に敵を滅ぼさんと圧倒的な速度を持って迫り来る。
無論、指を咥えて見つめているだけではない。直撃すれば、容赦なく死ぬ。問答無用で灰塵と化す。
まるで予め決められていたかのように、見事に左右に分かれて二機は回避行動を取った。
「そっちは任せた！ 思う存分、やっちまえ！！」
『キキィッ！！』
ＳＰ蛮型改め"ヴァンドレッド"、ウータン専用人型兵器。
人間の雄と動物の雌――生態こそ違えど、一組の男女がコンビを組んで敵の打倒を目指す。
後方には標準兵装のラバット艦が控えているが、彼はあくまで観戦。この戦いは彼にとっては余興に過ぎない。
勝敗が見えている勝負など、彼にとっては命を賭けるに値しない。
「ペークシス・プラグマ――起動！！」
地球が造り上げた贋作品、ヴァンドレッドシリーズ。勇猛果敢な三人の女性の名を関した、奇跡の機体。
キューブで製造された粗悪な偽物だが、機体性能は本物に等しい。
偽ヴァンドレッド・ディータが放った砲撃は本物同様の威力を発揮し、周囲に群がっていた無人兵器を平らげてしまった。
回避行動を取らなければ、瞬時に滅ぼされていたであろう。
敵味方問わず攻撃を仕掛ける相手に怒りを抱く事はない。所詮は戦闘プログラム、倫理観を問うだけ馬鹿馬鹿しい。
対話が必要な強敵は別にいる。本当の意味で戦わなければならない、好敵手が待っている。
カイは蒼と紅――搭載された二つのペークシス・プラグマを起動する。
「……来たな」
予想通りだった。偽ヴァンドレッド・ディータの砲撃はあくまでこちらの分断が目的。
回避行動を取ったカイ機を見透かしていたのか、脅威の速度で怪鳥が接近する。
ヴァンドレッド・メイア――機動力に特化した形態を持つ機体。
外部モニターで観測、ウータン機にはヴァンドレッドシリーズ最後の機体が襲い掛かっている。
防御力に特化した形態の蟹が赤い爪『ハンキング・アーム』で、可愛らしい動物を無残に引き裂かんとしていた。
コンビネーションはともかく、一体一体の機能は自分達のほうが上と分析しての戦術――
地球人が生み出した無人兵器は感情はなくても、学習能力は備わっている。周知の事実であった。
そして、その分析結果は正しい。
ウータン機もさる事ながら、天才エンジニアが改良した"ヴァンドレッド"も、真のヴァンドレッドには勝てない。
攻撃力、機動力、防御力にそれぞれ特化された機体に、どの性能でも負けている。
「だが、その性能は――俺達が一番、よく知ってるんだ！」
殿役を務めたカイ機は、たった一機で何対、何十対、何百対の敵を滅ぼしている。
刻まれた負傷は数知れず、心身共に限界を超えているのに、尚挫けない意思。抗い続ける、未熟な英雄。
先頭プログラムに恐れはない、けれど敵を学ぶ。分析してしまう、その脅威を。
一度は母艦を破壊しかけた敵を、プログラムは危険と判断する。
その結果が――白い翼による、完全なる破壊『ファイナル・ブレーク』。
嘴上の先端にエネルギーを集中させて超高速で敵機を貫く、機動力を最大限に生かした必殺技。
軌道上に居れば、貫かれる運命のみが待っている技。鈍重な蛮型に回避は不可能。
光の速さを追える人間など、存在しない。
「システム"ヴァンドレッド"、フルドライブ！！」
そして、この男に逃げる選択は存在しない。略奪は絶対許さない、その怒りが彼をこれまで生かし続けた。
回避の一切もなく、かかって来いと言わんばかりに両手を開く。
無防備な胸部を見せ付けて、敵の挑戦を受ける。周囲にまだ他の無人兵器がいるが、意に介さない。
彼は決して、敵を侮らない。偽物でしかないと、敵を見下したりはしない。
油断や傲慢は命の危機と共に、消え去った。血と汗に濡れた生命が告げる、全力で戦えと。
偽ヴァンドレッド・メイアの嘴上の鋭い先端が――"ヴァンドレッド"の胸部に突き刺さった。
「う、おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーー！！！！！！」
閃光と閃光がぶつかり合う。ファイナル・ブレークの槍の如き光と、螺旋を描く蒼と赤の光が絡み合う。
突き刺さった槍は決して抜けず、螺旋に囚われた機体は後退は不可能。
両者共に――押し切れば勝ち、だった。
「この俺が、生きている限り」
"ヴァンドレッド"として蘇った機体でも、基本的な性能は同じ。機体との密接なリンクは生きている。
半年前まで素人以下の酒屋の息子でしかなかった、少年。パイロットしての経験はたった半年。
そんな人間が人型兵器の操縦を行えるのは――機体との心身一体。
自分の身体のように機体を動かす事が出来る機能、感覚さえ掴めれば手足のように扱える。
そして機体が負傷すれば――自分の身体もまた傷付く。
「マグノ海賊団を――俺の大事な仲間達を、お前らの思い通りには」
コックピットの中心で、血塗れた少年が吼える。心臓に、紅の花を咲かせて。
ナイフで胸を突き立てられて、少年は前へ進む。知った事かといわんばかりに。
心臓を突き破るその前に、相手に牙を突き立てればいい！
「絶対、させねえ！！！」
少年の振り上げた拳が、怪鳥の嘴を貫いた。エネルギーを集中させていた先端が暴発する。
エネルギーが一気に逆流して、白い翼が紅蓮に燃え上がった。一歩も退かない少年に、機体が回避を選んでしまう。
それは防衛プログラムの判断か、初めて抱いた恐怖による本能か――
翼を無くした鳥を、蒼と紅の螺旋が捕獲する。籠にぶつかった得物は墜落、無残に爆破した。
主を傷つけられた怒りを象徴する紅の光は残虐に焼き尽くし、傷付いた主への労わりを象徴する蒼き光は機体の修復を行う。
「ゲホ、ゲホ……ウータンは、どうなった？」
「終わったぜ、こっちも。
――これ以上ねえくらいに大赤字だけどな、トホホ……」
『キキ、ウッキッキ！』
惨状を目の当たりにして、カイは納得したかのように笑う。
戦場のど真ん中ではしゃぐウータン機の真ん前で、偽ヴァンドレッド・ジュラが火を吹いていた。
ハンキング・アームはおろか、大型小型のレンズ型ビットが完膚なきまでに破壊されている。
両機の機体性能と、パイロットの性格を考えれば戦況を分析するのは簡単だった。
回避先を待ち伏せていた蟹に、ウータンは野性の本能で意識するより早く砲撃を放ったのだろう。
敵は防御力に特化した形態、当然防御する。シールドの強さは融合戦艦ニル・ヴァーナすら超える。
どんな攻撃が来ようと、味方を守る堅牢さを持っている。
強力なバリアと蟹に近い姿は、まさに外敵から身を守る硬い殻をイメージさせる。
人間ならば、理性的な判断で無駄に弾薬を使用する愚を避ける――だが、動物は本能の生き物。
ウータンは容赦なく攻撃を続けた。何度も、何度も、何度も！
むしろ堅牢な城が相手で喜んだのかもしれない。落城こそが、戦闘本能を満たせる最高の光景なのだから。
普通の機体なら弾薬を使いきっても落とせなかったのだろうが、ウータン機は特別製。保有数は群を抜いている。
撃って、撃って、撃ちまくって――ついには破壊されてしまったのだ。
本物ならいざ知らず、敵は偽物。機能上耐えうる状態だったとしても、機体を構成するキューブが持たない。
これはもう偽者がどうとか言うよりも、相手が悪かったというしかない。
ある意味でカイやマグノ海賊団では出来ない戦法であり、無鉄砲な少年も苦笑いを浮かべるしかない。
「快勝だったんだからいいじゃねえか。な、ウータン」
『ムフムフッ』
『地獄の沙汰も金次第という言葉を知らねえのか、たく……貸付はここまでだ。
お前に付き合っていると、こっちが破産しちまう。これ以上関わるのは御免だ、退散させてもらうぜ。
敵さんが無茶苦茶やらかしたせいで、兵器共も大半消滅しちまったからな』
こちらの大暴れに巻き込まれたのもあって、無人兵器の大群は半数以上が消滅していた。
カイ達の執念が功を奏したのもあるが、何より敵味方問わず破壊した敵のやり方にも問題はあった。
屈辱の敗戦ではあったが、敵にも大きな痛手は与えられたのだ。決して、この戦いは無駄ではなかった。
マグノ海賊団やメラナス軍は無事に逃走、死者は何とか出さずに済んだ。今のところは。
そして、何よりカイ本人が死なずに済んだのは――この男のおかげだった。
「――ラバット、ウータン。助けてくれたのには感謝している。本当にありがとう」
『へっ……礼には、あのやり手の姉さんに言いな。ありゃあ、いい女だぜ。
此処が戦場でなければ口説いてたんだが――』
『キッ〜〜〜〜！！ ウキキキーーー！！』
『おおっと、悪い悪い。冗談だ、冗談。やれやれ、女の嫉妬ってのは厄介だ。
お前さんも気をつけるんだな。まだ経験はねえんだろう？ これからが大変だぜ』
「……女の怖さはよく知ってるよ」
ラバットなりの憎らしい励ましに、カイは苦労の混じった嘆息を吐く。
まだまだ女を理解していないと、ラバットは少年を見て笑う。
憎しみ合っている状態だけではない。女とは、仲の良い関係でも厄介なのだ。
人間関係の難しさは、そこにある。絆の深さが、必ずしも円満を生み出すとは限らない。
カイはこれまで女と何度も諍いを起こしたが、それはお互いに嫌っていた為だ。相手に嫌われているから、喧嘩していた。
少年はこの先、思い知るだろう。相手を思うが故に、すれ違う事もあることを。
この先の旅路で生まれる、新しい感情――恋や愛という気持ちを。その心地良くも、ドロドロした想いを。
「また、会えるかな……？」
『フン、俺はもう会いたくねえがな――大損こいた分、てめえにはきっちり取り立てなければならねえ。
今度会う時は、ちゃんと支払って貰うぜ。
てめえの命一つじゃ払いきれねえんだ、しっかり生きて身銭を稼げよ』
損得の混じった激励に、カイは力強く頷いた。この男はこうでなければならない。
聖人君主でも何でもなく、非道な地球にすら媚を売って財を成す商人。その辣腕ぶりに、常人は嫌悪すら覚える。
一般人には理解出来ない生き方でも――カイは自由奔放なこの男が、やはり羨ましかった。
色々悩んで立ち止まったり、迷いを抱えたりする自分はまだまだ弱い。そう思う。
彼のような生き方をするつもりはない。その生き様を見習って、自分の糧としていくだけだ。
「ウータンも元気でな、また一緒に戦おう。約束だ！」
『キキー！』
通信モニターの向こうで笑顔で手を振る彼女が、愛らしかった。
ラバットが彼女を相棒にしている理由が分かった気がする。
種族を超えて――「いい女」とは存在するらしい。そんな女に愛されるのも、また男の勲章なのだろう。
別れの挨拶は必要ない。また会える――いや、会うのだと胸の中で決意して、カイは最後に一言だけ伝える。
「後はよろしくな」
『あん……？ げっ、てめえ！？」
"ヴァンドレッド"はそのまま急速離脱、殿は十分務めた。
通信回線越しに何やら抗議が飛び交っているが、気にしない。
カイは久しぶりに、純粋な気持ちで笑い声を上げる。
以前ニル・ヴァーナで撃たれた借りは、これでチャラだな――
胸の中で呟いて、ガス惑星に突入するニル・ヴァーナを目指す。
戦場跡に――ウータン機とラバット艦、偽物のヴァンドレッド・ディータを残して。
お互いに生きてまた会うのだと、約束のない確信だけを胸に。
＜to be continued＞
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.