VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <後編>






Action28 −敗退−






 "ヴァンドレッド"で同盟軍を逃がすカイ、ニル・ヴァーナを復活させたバート、傷付いた仲間を救うドゥエロ。

男達の自身を厭わない必死さが、煮詰まっていた戦況を一気に変えた。

この変化を見逃すブザムではない。マグノ海賊団副長として指示を出す。


「全艦、戦線より離脱する。セルティック、信号を」

「了解」


 予想済みだったのか、セルティックの操作は滑らかだった。即座にドレッドチームに徹底の指示を送る。

疲労の極みに達しているが、少女の顔に赤みが差している。小さく笑みすら浮かべて。

その最たる理由を知るブザムは些か苦笑気味だった。


「――向こうさんも同じ結論に達したようだね。前線で大暴れしている坊やの意図を察していたよ。
お堅い軍人は好きにはなれないけど、話が分かる人間は嫌いじゃない」


 両軍揉める事無く話がまとまり、マグノ海賊団の古き頭目は肩を叩いている。

急ごしらえの同盟軍でも、今は欠かせない戦力だ。崩壊は何としても避けなければならない。

最前線で戦うパイロット達――地球への怒りで団結しているが、感情だけでは関係は維持出来ない。

要らぬ飛び火が出ないように、舞台裏でマグノがあれこれ手を回していたのだ。

状況を的確に把握して、全軍撤退の段取りを整えていた御頭に、ブザムは驚き感嘆の念を覚える。


――自ら危険な役目を買って出たカイの意思は、見事に伝わった。


絶望的に追い詰められた状況、一瞬の判断の遅れが命取りになる。

カイ一人が殿を務めるだけでは足りない。敗走であっても、足並みを揃えなければならない。

次に繋げる為に――


「メラナスは自分達の星への避難を申し出てくれているが――難しいね……」

「敵の目的が刈り取りにある以上、惑星メラナスへの避難は得策ではありません。
敵母艦は健在、無人兵器も残存。立て直している間に攻められ、民間人に被害が出るでしょう」

 彼女達は海賊、いざとなれば人の命を犠牲にする事に躊躇いはない。見殺しにした命もあった。

犠牲を恐れていては海賊など到底出来ないが、肯定しているのではない。


彼女達は鬼ではない、人なのだ。タラークが唱える悪鬼羅刹とは違う。


同盟を結んだ相手が蹂躙されるのを黙って見過ごす真似はしたくない。

ブザムはあらゆる安全/危険性を視野に入れて、現在の戦況を分析する。

自分本位な妄想を排除し、不安から生み出される躊躇を切り捨て、生存率の高い策を練り上げる。


――後手に回ってばかりだった、一連の事件。


故郷までの旅、苦難の連続だったが無事半分の道程を迎えて隙があったのかもしれない。

ディータを負傷させたカイと女達の騒動は、静観している間に決定的な亀裂を生み出してしまった。

彼らは自分自身の不甲斐無さを責めているが、責任を問われるのは紛れもなく自分達幹部である。

責任を取るための立場であり、だからこそ全軍を指揮する権限を有しているのだ。


――カイ・ピュアウインドとドレッドチームの決闘、バート・ガルサスの死、ドゥエロ・マクファイルの事故。


子供の喧嘩に親は関与すべきではないが、何事にも限度はある。

自分達幹部が介入して両者を諌めていれば、今の敗走がなかったであろう。

若き世代を守り抜く為に、マグノ海賊団副長は思い切った手段に出る。


「セルティック、ニル・ヴァーナは現在二時の方向に存在するガス惑星に引き寄せられている――
この報告に間違いはないな?」

「はい。ペークシス・プラグマの再起動で、システムも復旧して正確なデータも取れています」

「分かった。ならば――敢えて逆らわずに、このままニル・ヴァーナをガス惑星内に突入させる」

「えっ!?」


 ブザムの冷厳な宣告に、メインブリッジクルー最後の一人が絶句する。

セルティックは元来気弱で人見知りする女の子、この土壇場で一人頑張っているが副長に逆らう気性はない。

彼女は自分の職務より提言する。


「そ、それは危険です! ガス惑星内は強力な磁場を発生させています!
復旧したばかりのニル・ヴァーナでは耐えられず、圧壊の危険も――」

「それほど高密度のガス惑星ならば、敵さんもビビって追いかけられないだろうね」

「――あっ!?」


 意地悪い笑顔で呟いたマグノに、セルティックは驚きのあまり両手で口を覆う。

ブザムも我が意を得たりと、己の上司の言葉に頷いた。

セルティックの観測データを中央モニターに映し、ブザムは詳細の説明に入る。


「母艦より放たれた無人兵器は数が多く、特化した機能を有していますが際立った防御力は持っていません。
ドレッドチームやメラナス軍の通常兵器で、何体も倒せています。
だからこそ不利な状況に立たされながらも、戦線は維持出来ていました。

無論奴等も追撃してくるでしょうが――惑星上のガス星雲にさえ逃げ込めば、無人兵器は圧力で自滅します」


 彼女達は知らないが、カイの従者ソラも危険視していたガス惑星。

恒星になりかけている惑星――天体としての寿命を終えつつある星は、膨大な質量による重力のバランスが崩れている。

磁場が荒れ狂う惑星内は天然の要塞とも言えるが、同時に崩落の危険も秘めているのだ。

長期間の篭城戦は不向きであり、同時に一時撤退するには向いているとも言える。

少なくともメラナス星に逃げるよりは、人的被害は出ないだろう。


「……賭けではあるね。セルティックの言うように、アタシらも耐えられないかもしれない」

「このままではジリ貧です。思い切った手段に出なければ、男達が生み出してくれたチャンスを無駄にしてしまう――
自分達だけが安全ではいられない。

今こそ、我々は決断しなければなりません。その時が来ていると、私は考えます」


 事態を静観し、躊躇していたツケが回って来ている――ブザムは静かに決断を促した。

艦の命運を左右する戦略、信頼と手腕が今こそ試されている。

男と女がどれほど頑張ろうと、男女の上に立つ者が右往左往していては迷走する一方だ。

ブザムは賭けに出た。この戦略に自らの運命を賭けている。

それほどの覚悟で挑む副長を――マグノ海賊団御頭は誰よりも信頼していた。

悩む猶予すら感じさせず、マグノは全艦に向けて号令をかけた。


「これより本艦はガス惑星内に退避して、態勢を立て直す!
ドレッドチームはニルヴァーナの援護、本艦が惑星内に退避後随時帰艦せよ!」

『ラジャー!!』


 マグノ海賊団御頭マグノ・ビバンの指揮の下、クルー達が行動に移す。

危険性を孕んでいるが、暗雲が開けそうな流れが不安を取り除いてくれた。

時代の逆境を生き抜いた彼女達には、恐怖に負けない底力がある。我が子達のしぶとさを、マグノは心から愛していた。

法衣を身に纏った老女は気を引き締め、艦長席で杖を強く握り締める。

今こそ先達者として彼女達を助け、未来へ導かなければならない――


『大丈夫っすよ、お頭! 僕のニル・ヴァーナは重力なんかに潰されないですから!』


 中央モニターに突如割り込んできた明るい笑顔、丸裸の操舵手。

胸に痛々しい弾痕が目立ち、彼がどれほど無理しているのか勘繰らずとも伺えた。

思えば男女の諍いが起きてからというもの、こうしてブリッジで彼と話す事はなかった。

久しぶりのひょうきんさに心が軽くなるのを感じ、マグノは――敢えてしかめ面を浮かべる。


「大遅刻しておいて何を言ってるんだい。
お前さんが来ないから、宇宙のど真ん中で立ちぼうけ食らっちまったよ」

『ええっ!? か、勘弁してくださいよぉ……僕だって大変だったんですよ!
牢屋に放り込まれるわ、撃たれるわで、もう散々だったんっすから!?

くっそ、これというのもカイの奴が騒ぎを起こすから――』

『俺だって必死だったっつーの!』


 新しいモニターが展開されて、勝気な表情の少年が映し出された。

顔は汗ビッショリ、額から血が流れ、頬にも深く傷が刻まれている。

首から下はブリッジ側から見えないが、決して無傷ではないだろう。


けれど――カイ・ピュアウインドはどこまでも、人を安心させる力強い顔をしていた。


『聞いたぜ、婆さん。ガス惑星に飛び込むとは、思い切った手に出たな。
撤退するにしても何処に逃げるのが一番か考えあぐねていたから、驚いたよこっちは』

「貴方が考え無しなだけです。少しは頭を使ったらどうですか?」

『うわっ、クマちゃんが喋ってる!? つーか、そのクマまだ被ってるのか!』


 その発言にはむしろ、マグノやブザムが驚かされた。

何時の間にかと言うべきなのか、セルティックは愛用のクマの着ぐるみを身に着けている。

――正確にはクマの頭だけを被っており、下は制服という不気味な格好だった。

カイの苦情に、セルティックはプイと顔を背ける。これ以上話したくないとの、明確な意思表示だった。


『あはは、嫌われてやんの。君は女心というものを分かってないからね〜』

『お前は分かってんのかよ! 嫌われているのはお前も一緒だろ!?』

「これからも宜しくお願いします、バートさん」

『う、うん! 一緒に頑張ろうね!!
――ほら見ろ、僕は同じブリッジクルーとして認められているよ。カイは無視されているけどね、あはははは』

『嘘だーー!?』


 得意満面のバートに、絶叫して仰け反るカイ。

映像を通じて騒ぎ合う面々の間に、新しい乱入者がモニターに展開される。

にぎやかな二人とはうって変わって、冷静沈着が表情に出ていた。


『状況報告のつもりだったのだが――意外な顔ぶれだな。
怪我の具合を心配していたのだが、どうやら聞くまでもないらしい』

『ドゥエロ君、君こそ怪我しているじゃないか! 大丈夫なのか!?』

『そうそう、バート。俺らの住んでた部屋、崩れたそうだぜ。
聞いた話だと、その時ドゥエロがパイウェイ庇って負傷したらしい』


 白衣こそ着替えているが、まだ表情が思わしくないドゥエロ。

ニル・ヴァーナ唯一の医者は今この瞬間も懸命に治療を続けており、皆を生かす努力を行っている。

傷付いた顔に生気が戻っており、気概に満ちていた。

カイもバートもそれは同じで、彼らは話している間も決して手を休めたりはしない。


戦い続ける――それが彼らの、決意なのだ。


『ドゥエロの怪我も心配だけど、俺らは帰る場所も考えないといけないぞ』

『本当に!? 僕のお気に入りの枕は無事なのか!』

『――すまない、バート。私は、彼を助けられなかった……残念だ……』

『うわああああああ、アレがないと眠れないのにーーー!!』

『寝る部屋もねえんだよ、ボケ!! ニル・ヴァーナは復活したけど、中身までは完璧に戻ってないだろうな……
この際艦内も直してくれよ、お前の力で』

『僕だってこれ以上はとても無理だ!? ドゥエロ君に頼んでくれよ、やってくれるかもしれないぞ』

『私の仕事は命を助ける事だ。艦を守るのは君の職務。後は、頼む』

『操舵手も関係ないだろう、これは!? カイ、お前が――あっ、この野郎。通信切りやがった!?』

「任せて下さい。今あの男の通信回線にアクセスして、強制的に呼び戻しますから」


 男達の賑やかな声が、今まで静まり返っていたブリッジを喧騒で埋める。

無事に再開できた事の喜び、お互いにまた話せる事の感謝で彼らは笑い合っていた。

自分達の望む未来に向けてのエール――ではない。


彼らは人間、神ではない。メジェールが忌み嫌う化け物でもない。


自分の思い通りに行かない事は分かっている。だからこそ未来ではなく、今を語る。

この場で無事を喜べる確かな気持ちを持って、今日という日を守る為に戦う。

単純明快な男達の気性、ゆえに異性であっても彼らの思いが理解出来た。


「三人ともいい加減にしないか! 戦闘の最中だぞ、持ち場に戻れ!!」

「「「持ち場にいます」」」

「……。お頭、何を笑っているのですか!?」

「くっくっく、気にしないでおくれ。
さあ――全力全開でおさらばするよ。気合入れな!!」


『ラジャー!!』


 ――初めての大敗、この戦いは男も女も大きく傷つけた。

それぞれに過ちを犯し、やってはいけない事をしてしまい、深い後悔に襲われている。

壊すのは簡単だが、直すのはとても大変。逃げ出す事さえ出来ない。

彼らは間違いを認識して、自分達なりに今行動に出ている。


それでこそ人間――何度もやり直す事が出来る資格を持つ、生物。


神でも化け物でもない、人間だからこそ許される行為。

彼らは人間である事を自覚した。人間として戦うことを決意した。





神を気取る地球を相手に――人間達が今、反逆する。





























<LastAction<前編> −タラーク−に続く>







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