VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <後編>






Action16 −偽悪−








「・・・・・・本当か?」

『刈り取りの攻撃により、船体各所が損傷。監房が瓦礫に埋もれました。
ドゥエロ・マクファイルはパイウェイを庇って――死亡しました』


 命からがら脱出したメイア達より伝えられた、最悪の結末。

あまりにも突然で不運極まりない死に、ブリッジクルー一同は声も出ない。

国家を脅かしたマグノ海賊団の不敗神話は崩れ去り、船の安全の保証は消えた。

もはや・・・・・・誰が死んでもおかしくはない。

冷たい死の予感は、上っ面な理性など簡単に引き剥がした。


「イヤァァァァァァーーー! もう嫌よ、こんなの!!」

「ベ、ベル!? 落ち着い――きゃっ!」


 泣いて絶叫するベルヴェデール・ココを何とかアマローネが宥めようとするが、逆に突き飛ばされて尻餅をつく。

そんなアマローネを見向きもせず、ベルヴェデールは泣き叫びながらブリッジを出て行ってしまった。

完全な職務放棄だが、咎める者など誰もいない。


「・・・・・・お頭、申し訳ありません。あの娘を追います」

「急いで行ってやりな。こっちの事は気にしなくていいよ」


 気遣いある返答に一礼して、アマローネは逃走した同僚を追いかけていく。

バリア・船体状況監視にロングレンジレーダー担当、ニル・ヴァーナ内外の目を失っても今の所支障はない。

――既に修復不可能なほどに、システムがボロボロなのだから。


「セルティック、何とか向こう側と連絡は取れないか?」

「・・・・・・ラインはほぼ全滅です。
ガスコさんのデリ機を中継して、音声だけでも拾えるように働きかけていますが・・・・・・時間がかかります」


 ブリッジクルーでは最年少だが、情報技術力は他の誰よりも高いセルティック・ミドリ。

公式/非公式問わず。あらゆるラインから分断されたメジェール船への通信を行っているが、作業は難航していた。

愛用のクマの着ぐるみは脱いでいる、これから先は必要ない。

――この船にもう男は一人もいないのだから。

晒された可憐な素顔は汗だくで、目の前の作業に一生懸命。

カイには辛辣だが、本当は気の弱い性格――何かしていなければ、どうにかなってしまいそうだった。


今、このメインブリッジに残っているのは三名――艦長席のマグノに副長ブザム、そしてセルティック。


オペレータのエズラは仲間同士の喧嘩にカイの死、地球の猛攻に神経をやられて医療室で眠っている。

操舵手にブリッジクルーも大半がいなくなり、メインブリッジの機能は破綻していた。


「ドレッドチームの損害率は50%を超えている。このままでは――」


 前線で指揮を取るガスコーニュからの報告も芳しくない。

メラナスとの連合軍でも不利なのは明白だったが、戦況は急速に傾いていた。

今まで両軍を支えていた地球への憎悪も、ニル・ヴァーナ撃沈で焦燥も変わってしまっている。

焦りは不要に事を急いでしまい、余計な隙を生んでしまう。

無人兵器の疲れを知らぬ猛攻で一機また一機と落とされ、戦闘不能者が続出していた。

ドレッドやメラナス標準戦闘機に緊急脱出装置を備えているが、この機能を利用する者は通常少ない。

必要がない場合が多く、必要に迫られても最後まで戦う――自分より大切な、仲間の為に。

だが、今回――パイロットの誰もが無理はしても、無茶はしなかった。

パイロットの死亡者は一名、この数字をメラナス軍もドレッドチームも維持していた。


戦死者はカイ・ピュアウインド。仲間の為に命をかけた、誇り高き戦士――


男も女も関係ない。意思疎通も不要。

彼に守られたこの命、どうして無駄に出来ようか。仲間の為に死ぬ事さえ許されない。

その権利は彼だけのもの、彼だけに与えられた名誉ある死。

残された者達は命燃え尽きるまで、戦い続けなければならない。

撃墜されて惨めに逃げ、生き恥を晒して尚戦い続ける。

ドレッドチームリーダーのメイア・ギズボーンは同じ選択を――選ばなかった・・・・・・・・


『バート・ガルサス、ドゥエロ・マクファイル――カイ・ピュアウインド。彼ら三名の死は、私に責任があります。
どのような処分でも受け入れます。ですが、今一度出撃の許可を』

「駄目だ。今のお前さんは行かせられないよ」


 メインブリッジのモニター越しに、メイアとマグノの鋭い視線がぶつかり合う。

申請を拒否されても、メイアの表情に動揺や屈辱の色はなかった。

若くしてリーダーに抜擢された才あるパイロットの美貌には、能面のような無表情が張り付いていた。

お頭の補佐を務めるブザムも厳しい顔を見せている。


「いつもつけている髪飾りはどうした?」


 中央モニターに映るメイアの髪に、愛用の髪飾りがついていない。

彼女の髪飾りは、決して伊達や酔狂でつけているのではない。

自分を美しく飾るのではなく――己が自身を罪で縛り付ける戒め、永遠に背負い続ける十字架。

それを外す事の意味を、ブザムは薄々察していた。


「――死ぬつもりだな、メイア」

『・・・・・・』

「バート達を死なせた事に責任を感じるのは分かる。私やお頭も同じだ。
たとえ男でも・・・・・・彼らは死なせていい人間ではなかった。
三人は我々を守って、そのかけがえのない命を散らしたのだからな。

今お前が命があるのは、彼らの尊い犠牲の上にあるのを忘れるな」


 メイア・ギズボーンという女性は過去の辛い経験から他者との関係を拒み、余計な感情を嫌う。

大切な人を作らず孤独を望むのは、一人で生きられる強さを求めているからだ。

そんな彼女が多くの部下を率いる立場に選ばれたのは、彼女の持つ才能もあるが本来の人柄にも関係している。

冷たく装ってもさり気ない優しさがあり、責任感より生まれる面倒見の良さがリーダーの資質となっていた。

辛い思い出により閉ざされた心も、カイと出逢って少しずつでも開かれつつあった。

マグノやブザムでさえも躊躇する領域に、少年が強引に入り込んでしまった。


男達との生活で生き返った感情が――今のメイアには感じられない。


『――だからです』

「なに・・・・・・?」

『彼らが生かしてくれたこの命、平和な日常で溶かすことなど許されない。
私は彼らが最後まで守りぬいた人達を助けたい』


 額面通りに受け取れば、他のパイロット達に通じる義務感に聞こえる。

ただメイアの不自然なまでに静かな表情や、何の感情も浮かんでいない瞳に不安を感じさせた。

メイアに似た人形と話しているような錯覚に陥り、ブザムは険しい顔をする。


「お前さんはルールを破ったんだ。出撃許可は出せないよ」

『・・・・・・今は規則に拘っている場合ではないと思いますが?』


 マグノの中で今、ハッキリと確信する。このまま出撃を許せば――メイアは二度と帰ってこない。

確かに今は規則どころか、男だの女だのに拘っている場合ではない。

後々に繋がる遺恨を恐れて、お頭直々の迂闊な干渉を避けた事が完全に裏目に出た。

たとえ贔屓だと今以上の反感を買っても、男女の立場のバランスを取るべきだったと後悔している。

だからこそ、これ以上の過ちは断じて犯してはならない。


「頭を冷やしな。お前さんが闇雲に飛び出しても、命を無駄にするだけさね。
それよりも今は分断されたあの子達の救助を急――こら、待ちな!!」


 説得の途中で通信映像を切られて、苦々しい気持ちに顔を顰める。

最初から出て行くつもりだったのだ、許しが出ようと出るまいと。


わざわざ許可を求めに来たのは――今の彼女に残された、最期の責任。


   やはりメイアは死ぬつもりなのだ。男達への贖罪に、残された命の全てを使って。

仲間を一人でも多く救うために、メイアは自分の明日を捨てた。


「BC、急いでメイアを止めるんだ! 死ぬ気だよ、あの娘は!」

「分かりました! メイアの行き先は分かっています。すぐに警備の者を向かわせます」


 その判断は至極当然で――何よりも愚かな指示だった。

希望のない世界では、正常な判断さえも毒となる・・・・・・













「すまないな、パルフェ。無理な注文ばかりさせてしまった」

「・・・・・・いいよ。これはあたしの望みでもあるから」


 ペークシス・プラグマの力で改良された機体が保管されている施設、主格納庫。

これまで数々の危難から船を守った頼もしき兵器達が、出番を待ち望んでいる。

自分の主が訪れるのを、今か今かと待ちぼうけている。

戦えるパイロットはもういないのに、ただじっと・・・・・・待ち続ける。

メイアとパルフェ、二人しかいない格納庫内は静謐に満ちていた。


少女達の静かで――暗い心を照らし出すものは、何もない。


「メイア、本当にこれでよかったの?」

「ああ。せめて礼は言いたかったが・・・・・・お頭に背いた私はもう、マグノ海賊団ではない。
父さんや母さん――カイ達を犠牲にしたこの命を使い、一人のパイロットとして最期の任務を全うする」

パルフェ、お前の罪は私が持っていく。だから――」

「――分かってる。メイアの罰は、あたしが贖う。貴方を最期まで見届けるわ」


 罪と罰、二人の誓いは結ばれた。

メイアは断罪の刃で敵を一機でも多く殺し、パルフェは贖罪の盾で守り続ける。

愛する友人達に助けられた命が朽ち果てるまで。

両者の間に、温かな感情はない。

友情と呼ばれたかつての想いはドゥエロと共に瓦礫に埋まり、同じ無念と向き合うだけ。


髪飾りに眼鏡――二人を示す生の証は、捨てられていた。



「残念だけど、アンタを行かせる訳にはいかないね」

「――ヘレンか」



 冷たい空気の主格納庫に、凍てついた殺意が突き刺さる。

出入り口より現れたワイルドな風貌の女性が、問答無用で銃を突きつける。

ヘレン・スーリエ、警備主任を務める実力の持ち主で――バート・ガルサスを射殺した、張本人。

皮肉にも同じ面々、同じ悲劇の舞台が繰り返される。


仲間から銃を向けられても、今の二人に微塵の変化はない。


「非常事態で、一時的な更迭から解放されたようだな。それで、人を殺した罪は消えないというのに」

「黙れ! お前達は男に加担した裏切り者だ!
敵を・・・・・・敵を殺して、何が悪い!!」


 己が正義を声高々に訴えても、ヘレン自身の悲壮な表情は晴れない。

苦しみ抜いた果ての自己主張というのであれば、彼女はもうメイア達とは別の道を歩んでいるのだろう。

分かり合えないと理解しても、メイアに落胆はない。


「バートが、敵か・・・・・・あの男は勇敢だった。強く優しく、温かい人間だった。
自分の正しさを訴えるだけの我々よりも、よほど生きる価値があったのかもしれないな・・・・・・
そうだ、ヘレン。お前は悪くない。

バートを死なせたのは――私だ」

「待て、何処へいく!? 勝手な真似は許さんぞ!」


 儚げに笑って背を向けるメイアに、ヘレンは慌てて銃を向ける。

その無防備な背中に引き金を引く蛮勇は、躊躇いに勝った。

一度仲間に向けて引いた引き金は、途方もなく軽く・・・・・・罪深かった。


引き金が――引かれる。


「・・・・・・う・・・・・・パル、フェ、おまえ――」

「――ごめん」


 パルフェ・バルブレア、彼女の指に嵌められたリングガン。

メイアより渡された彼女の意思が、一条の光線を無慈悲に放たれた。

因果応報――罪は、罰となる。

バートを殺した銃を床に落とし、ヘレン・スーリエは倒れた。


これを敵討ちと言うのならば――何と哀しく、救いがないのか。


「メイアは許しても、あたしは許せないの。貴方を・・・・・・自分を」


 冷たく倒れ伏すヘレンに別れを告げて、パルフェはゆっくりと振り向いた。

彼女の視線の先に――メイアが搭乗する機体がある。

今回の出撃に向けて、パルフェはメイアから受けた特別注文に応えた。

ドレッドの武装を管理するガスコーニュが悪戯で載せただけの、危険オーダー品――



『カミカゼセット』



 片道分の燃料と反陽子爆弾のみで設定された、捨て身の特攻用。

二度と帰らぬ、戦士の旅路。


メイアを含めた仲間達を守る為に、カイが希望の名と共に歩んだ花道を――メイアは追った。





























<to be continued>







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