ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <前編>






Action28 −発狂−






全てが謎に包まれた商人、ラバット。

植民船時代利用されて今は廃棄された古き施設で、少年は男と出逢った。

男は名前だけを名乗り、剽軽な態度の裏に己の素性を隠して少年やマグノ海賊団に巧みに近付いた。

マグノとブザムは男のキナ臭さを敏感に感じ取ったが、少年を――仲間を救われた恩があった。

国家を相手に略奪を行う家業だが、マグノ海賊団は義賊。

義理を欠かせば、彼女達の誇りは崩れ去る。

渋々ニル・ヴァーナへの乗船を許し、敢えて隙を見せた上で男の招待を探ろうとしたが――失敗に終わった。

旅に支障の出る被害こそ出なかったものの、事件が勃発。

少年は負傷、派手な騒動を起こして男は去っていった。

両者共に得るものはなかったが……あの時少年が男を庇わなければ、共に無傷では済まなかっただろう。



少年やマグノ海賊団が初めて出会った、"外"の人間。



蒔かれた種は希望か、絶望か――華が咲くまでは、まだ分からない。


そして、男はまたやって来る。


華は咲くと今も信じている者達に、枯れようとする今を教える為に。
















マグノ海賊団・メラナス同盟軍――

押し寄せる脅威を前に仮結成された新勢力に、一隻の船が舞い込んで来た。

とびっきりユニークな――最悪の、手土産を持って。

アマローネから連絡を受けたマグノ達は会談を一時中断して、来訪者の謁見を許可する。


「男女の死体……間違いないかい?」

『耄碌するのはまだ早かろうよ。
恐らく、あんたらが想像している通りの代物さ』


 メインブリッジの中央モニターに映し出された、一人の男。

鬼より恐れられる海賊の頭領相手に、相変わらずの人を食った態度――ラバット。

いつもなら皮肉の利いた冗談でも返すところだが、生憎そんな余裕は微塵もない。


二つの死体――想像通りの代物。


じんわりと汗を浮かべて、マグノは先程の会談内容を反芻しながら相手を一瞥する。

話を聞いた老齢な艦長は顔を強張らせ、厳しい表情で黙り込んでいた。


『御恥ずかしい話ですが、彼女はやや行動的過ぎる面がありまして――

我々としても、一刻も早く救援に駆けつけたいのです』


 メラナス軍を率いる艦長は確かにそう言っていた、間違いない。

自分達の為に死闘に身を投じた少年、死に逝く少年を思い遣り戦場に残った少女――

千を遥かに超える脅威の無人兵器の大群に、二人は命懸けで戦いを挑んだ。

あらゆる現実が、状況が――理性が無慈悲に告げている。

死神が耳元で囁いている。


男が持ってきた二人の死体は――


「――見せて貰おうじゃないか。その代わり、今のアタシは少し機嫌が悪い。
つまらないものなら、タダじゃおかないよ」

『やれやれ、おっかねえ婆さんだな……こっちは信用第一の商売だ。
ガラクタを見せびらかす真似はしねえさ』


 最後までニヒルな笑顔を嫌味に見せつけて、ラバットは一方的に通信を切った。

漆黒に染まった画面を見ながら、マグノは胸騒ぎを抑えられずにいた。

いっその事、男の悪い冗談や嘘偽りのガラクタならばどれほどマシか――

艦内を立て直し、ドレッドチームを再編成し、メラナス軍と合流後救援部隊を送ろうとしていた矢先に、この知らせ。


絶妙かつ――最悪のタイミングだった。


同盟相手は見知らぬ国家の軍隊だが、どうあれ心強い味方であった事に違いない。

カイやジュラ達が居なくなり、バートが死んで、マグノ海賊団は崩壊寸前だったのだ。

一時的でも強力な味方が出来て、殺伐としていた艦内の空気を腐食する最大のチャンスだった。

無事に帰還したジュラ達の存在も大きい――

誰もが絶望に喘ぎ、疑心暗鬼に陥っていた中で、ジュラ達の死に物狂いの姿勢で皆俯いていた顔を上げつつあった。


照らし出された一筋の光明――


伸ばされた蜘蛛の糸が切れてしまったら、今度こそ地獄の底まで転がり落ちる。

今やマグノ海賊団の中心軸となっているジュラ達が、この事実を知ればどうなるか――考えたくもなかった。


『マグノ殿、宜しければ私も同席させて頂きたい。
彼の者の言い分が確かであれば、私には見届ける義務がある』

「今更拒否するつもりはないさね。あの子の事は、アタシにも責任がある。
――B.C、頼んだよ」

「はい。警備クルーも手配します」


 傍らで控えていたブザムも心得ていた様子で、着艦許可と警備体制の準備に入る。

会談も一時中断、メラナス艦長もニル・ヴァーナへ向かう為に通信回線を切った。

即座に現場へ指示を出し始めたブザムを余所に、マグノは考え込む。


――何故だ。


何故これほどまでに――自分の可愛い子供達が苦しまなければならない?

自分達が間違えていたと言うのならば、彼女達を率いて海賊の旗を揚げた自分に責任がある。

彼女達の罪が贖えるのであれば、喜んで地獄にも堕ちよう。

マグノは震えるほど強く、杖を握り締める。





少年が伴った苦痛を、少しでも我が身へ刻まんとするかのように。
















 ニル・ヴァーナへ接舷したラバット船は広大な発着場に停止した。

巧みな操作で船体を揺るがす事無く着艦した船の元へ、隔壁を開いてマグノ達が歩み寄る。

険しい表情のお頭の背後に副長が続き、次々とクルー達が流れ込んで来る。

突如来訪したメラナス艦隊に、以前船を騒がせた憎き男の船――

興味本位で覗くような状況ではないが、事態の変化に不安の一つも浮かんでしまう。

クルー達の周囲には警備員が控えているが、皆どこか精細さを失っている。

チームリーダに発砲し、彼女を庇ったバートを射殺した警備チーフの罪が圧し掛かっているのだ。

同じ仲間のクルー達が警備スタッフに、疑惑と恐怖の目を向けているのが何よりの証だった。

警備員を除いてブザムはクルー達の同行を許可しなかったのだが、彼女達は皆納得せずに無理に参列している。

疑惑の目を向けられているのは、警備員だけではないという事だ。


これほどの事態に陥るまで、何一つ手立てを講じなかった御頭と副長――


カイの追放とバートの死で、特に賛成派だった者達は強い憤りを覚えている。

マグノ達もまた悩み苦しんでいたのだが、苦しい状況下で心境を図るのはとても難しい。

もはや男や女に関係なく、疑惑の芽は植えられている。

参列者の殆どは賛成派が多数なのだろう、ジュラ達を含めて見知った顔が並んでいる。


彼女達の表情には不安と――期待。


同席を許されていない皆に、男が来訪した目的は何も知らされていない。

ただメラナス側からの急な来訪と、今回の騒動に直接関係のない第三者の存在が彼女達の心に微かな希望の火を灯した。


男――ラバットはマグノ海賊団にとって敵だが、少年は違う。


共に争いこそしたが、カイは男に自分の今の心の内を吐き出し、男は少年の器を見定めた。

敵味方と言う簡単な言葉では割り切れない関係が、御互いに繋がっていた。

カイは今絶体絶命の危機、何としても助けに向かわなければいけない。

ジュラ達も懸命に努力しているが――組織である限り、身軽に動けない。

加えてマグノ海賊団は修復不能寸前にまで至るダメージを受けており、立ち直るのにかなりの時間がかかる。

クルー達は失意と疑惑で重い腰をなかなか上げず、成果はまるで出ないまま時間ばかりが過ぎている。

焦燥に身を焦がしそうになった矢先に、少年にとって知人である男の来訪――期待しない方がおかしい。

動けない自分達に変わって助けてくれたのでは、と考えてしまう。


――ジュラ達だけではない。


今この場に居ないクルー達でさえ、心の何処かではこう思っている。

今まで何度も危機を乗り越えて来たあの少年ならば――この状況を覆せる。

哀しみと苦しみに押し潰されそうな自分達に威勢の良い発破をかけて、再び導いてくれるのではないか?

先頭を切って圧倒的な暴力に切り込み、全てを切り裂いて前へ進めてくれるのではないかと甘い夢を持ってしまう。



――追い出したのは自分達なのに。
――少年の大切な友達を殺したのに。


もう――希望なんて、何処にもないのに。



広大な発着場に女性陣の熱気が高まっていく内に、代表者達が一歩前に出る。

マグノ海賊団お頭マグノに、先程到着したメナラス軍艦長――

皆が固唾を呑んで見守る中、停止したラバット船の後部が開かれていく。

焦らす様にゆっくりと上下に分かれ、甲高い車輪の音が船を揺らしながら降りて来る。



「!? ――セラン!!」



 降船した男が押して来た――医療ポットに眠る、一人の女の子。

艦長が慌てて駆け寄り……絶句した。


「何と……何ということだ……!」


 苦しい戦況のメラナス軍を明るく励ましていた少女、セラン。

皆の人気者だった彼女の魅力的な顔に――死相が濃厚に浮かんでいた。

皮膚は蒼白、目元に霞んだ黒灰色が滲み出ており、身体が赤黒い血で染まっている。

微かに呼吸をしているが、どこか安らかで……今にも途切れそうだった。


素人目にも分かるほどの、死傷。


今も尚生きているのが奇跡であり、次の瞬間消えてしまいそうな程にか細い。

痛々しい少女の無残な有様に、艦長は顔を覆って嘆いていた。

そんな艦長を見つめていたラバットは、強い眼差しを向けるマグノに皮肉げな笑みを浮かべる。


「おいおい……不満が顔中に出ているぜ。死んでいた方が良かったのかい?」

「冗談は嫌いだと、ハッキリ言ったはずだよ」

「冗談じゃねえさ。
――まだ・・生きている、それだけだ」


 容赦ない事実をぶつけられて、マグノも押し黙るしか出来ない。

少なくとも放置すれば、すぐにでも死んでいた筈だ。

此処まで辿り着くまで命が持ったのも、ラバットが蘇生処置を施したからに他ならない。

最新技術が搭載された医療ポットの機能が、彼女をこの世に留めているだけだった。


そう――かろうじて。


痛々しい深手を負った少女に動揺する一同。

困惑と悲痛の声が漏れ出す最中、悲愴な表情を浮かべてジュラがラバットに詰め寄った。

両手で胸倉を掴んで、必死で叫ぶ。


「ちょっとアンタ! カイは――カイは無事なんでしょうね!?」


 喧騒が――止む。


口にしたくても出来なかった皆の不安が、悲鳴のように木霊する。

泣きそうな顔で睨み付けるジュラに、ラバットは笑みを引っ込めた。

その表情にあるのは……重々しくも、真摯な感情。


多くの人の死を見つめ続けてきた、男の顔だった。


ラバットはマグノを一瞥――苦々しい顔で、マグノは小さく頷いた。

やり切れない溜息を吐いて、ラバットは黙って顎をしゃくった。

収容している――その意志を感じ取ったジュラは、駆け出す。

勿論、そのまま黙って結果を待つ者は居ない。

皆息せき切って走り出し、収容されている船の中へと走る。





『……男は一度言った事は守る――』





 謝りたかった。





『その約束を覆せば――俺は本当に何も選べなくなってしまう』





 仲直りしたかった。





『俺は決して――』





 もう一度やり直したかった。





『裏切らない』





 一緒に戦いたかった――










そして。










悲しみの、向こう側へ――










「……カ……イ……?」





 ――大破した、コックピット。





原型を留めておらず、内部から破裂したように捲れ上がっている。

大半が焼け付いており、残骸だけが浮き彫りにされていた。



ドス黒く染まった、パイロットシート。
 


血に汚れたシートの片隅に――金属片。

最後に握り締めたのか、皮膚が付着している。

少年が大切に持っていた、十手。





痕跡だけを残して――パイロットは宇宙の塵となっていた。




「あ……あは……あはは……もう、終わりよ……フフ……ハハハハ……」





 虚ろな目でコックピットを見つめたまま、ジュラは座り込んで笑う。



涙と涎を垂れ流して、ただ――笑い続けた……










































<to be continued>







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