ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <前編>






Action14 −方針−






マグノ海賊団全警備員が艦内全域を包囲するには、全長3kmは広過ぎた。

ペークシスの暴走で融合化したニル・ヴァーナは全フロアが改良化され、艦のシステムに適合した構造に自己改良された艦だ。

半年間が経過された今でも調査中及び清掃中の区画が存在し、全艦内の把握は時間を必要とする。

艦内150名率いるマグノ海賊団総員が対処すれば少しは早くなるが、今回の騒動は今だ戸惑いを隠せない人間も沢山ある。

加えて各部署を統率するチーフの半数近くが行方不明となっており、正常に機能していない。

マグノ海賊団の反逆者カイ・ピュアウインドを事実上追放して、取り戻せる筈の平穏が訪れる気配もない。

警備チーフ及び警備員達は原因を全て残る男達二人に突きつけて、銃器の携帯許可を強引に取り付けた。


船の秩序を乱す異物を完全に排除して、半年前の平穏を取り戻す――


大義名分を掲げて、彼女達は殺気立って艦内を全力で捜査していた。

その物々しさに、怯えるクルー達を差し置いてでも――















「――今の船の中の様子はそんなところかな。
ソラちゃんの情報を元に、アタシがさり気なく聞き回ったから間違いないと思う」

『イエス』


 パルフェ・バルブレアが統括する機関室――

ドゥエロやバートを始めとする反対派が、機関チーフに保護されて一日半が経過した。

機関室へ案内された顔ぶれにエンジニア達は驚きの一言だったが、パルフェの説明で簡単に納得してくれた。

システム管理及びペークシス制御にはデリケートな作業工程と理知的な判断、客観的な視点が必要とされる。

今回の騒動も事実を事実として受け止めた上で、半年間の彼らの所業を冷静に見れば彼ら個人だけに非は無いとすぐに分かる。


快く受け入れてくれた人達に感謝して、機関部が夜間作業で使用する仮眠室でひとまずの休眠――


幾度か警備員が強制捜査の名目でやって来たが、ペークシスの管理を理由に門前払い。

機械好きから生じたパルフェの機械講座の恐ろしさは、マグノ海賊団の名物となっている。


パルフェ・バルブレアに機械関連の質問は禁忌――


軽はずみに質問すれば、時間単位を軽く凌駕する講義が待っている。

何故捜査を拒否するのか――激昂した警備チーフを、専門用語のオンパレードで戦意喪失させた際はその場に居た全員が拍手した。

ペークシス・プラグマがデリケートなエネルギー結晶体である事は周知の事実。

特に今はペークシスは原因不明の出力低下を引き起こしており、システム稼働率ギリギリなのだ。

警備員が土足で踏み躙って完全に停止すれば、艦内の全施設が凍結する。

当然空調施設も停止して、酸欠で全員があの世行きだ。

現段階でも艦は停止、操舵手不在で運航も危うい。

多発する艦内のトラブルが激化させる真似は流石に出来ない。

強攻策に出れない道理を説いた上で理論攻めで戦意を奪い、機関室は平穏を保たれている。


今は、まだ。


ドゥエロは勿論、バートやパイウェイでさえ理解している。

長続きはしない――

警備員が他艦内全域を捜索して発見出来なければ、消去法で潜伏先は機関室であると断定される。

さすれば、理詰めで追い返すのは困難だ。

ペークシスの暴走は確かに心配だが、彼女達は男達の暴走も懸念しているのだから。

むしろ、警備員達は男達の危険のみ目をやっているようにすら見える。

目の前の懸念材料さえ取り除けば、かつての海賊時代を取り戻せると確信している節があるのだ。

最悪、裏切り者扱いされて強引に突破される危険もあった。


――そうなる前に、出来る事をしなければいけない。


機関部の女の子達が持って来てくれた食事を取りながら、今後の打開策を練る面々。

その間捜索の手助けをする顔をして、パルフェは緊迫する艦内を様子見。

監視カメラ及び盗聴を駆使して、システム面から情報収集を行ったソラがパルフェの補足を行う。

話を聞いて、バートはゲンナリした顔をする。


「どうして、僕達を射殺する動きにまで発展しているの・・・・・・?
出会い頭に問答無用で撃たれそうな気がするんですけど、僕達」

「そこまではしない――と言い切れない状況下かもね、今。
カフェテリアも覗いて来たんだけど、完全にガラガラ。
皆持参して職場に持ち込んだり、自室で食べてるみたいなんだ。

お陰で、こうやって自然に食事をもってこれたんだけど」


 不安顔のバートを怯えさせるつもりはないが、現実は現実。

パルフェの困った様子の笑顔に若干励まされながら、バートはパンを咥えたまま肩を落とす。

食欲が無いのか、簡易栄養食を取るメイアは落ち着いた眼差しを向ける。


「お前達はともかく、カイは明確に我々と対立する意思を見せた。
奴の主張はどうあれ、ドレッドチームと徹底抗戦までしている。

皆の立場から見れば、主張をハッキリさせないお前達に危険要素を感じるのも無理はない」


 カイが殺す気は無かったにしても、他の者から見れば問答無用でドレッドに攻撃していたようにしか見えていない。

どれほど奇麗事を叫んでも、倒す為に剣を振るった事実は変わらないのだ。

死者数0は奇跡の神業だが――逆にその奇跡を偶然と捉えられてしまう。

実際、偶発的な要素も強い。

バーネットは対戦後自殺を図ったのだ、敗北を起因として考えればカイを恨んで当然だ。


怨恨は肥大して、残る二人の男達へ向けられる――


警備員達の独走は必ずしも暴挙とも言い切れない。

こうして脱走まで企てたのだから、疑心暗鬼が深まるのはむしろ当然だ。

バートやドゥエロに悪意は無いと分かっていても、メイアは決して仲間意識だけで甘やかす事はしない。


「あ〜う〜、おねーちゃん、お顔こわいー」

「そ、そうか・・・・・・す、すまない・・・・・・怖がらせるつもりはないんだ」


 とはいえ、厳格なメイアもディータが傍にいれば形無しだった。

果てしなく弱り果てた表情を浮かべて、ディータの世話をするメイアが少し微笑ましい。

流石に口にするのは憚られるので、笑いを必死で堪えながらパイウェイが口を挟む。


「あたし達はドクターやバートが暴れたりしないって分かってるけど、他の皆はそう思わないもんね。
バートなんてこんなに弱虫なのに」

「ぼ、僕だってやる時はやるんだぞ!? ね、ドゥエロ君」

「ああ、彼はこう見えてなかなか頼りになる男だ」

「あ、あれ・・・・・・?」

「? 何か不満か」

「い、いやいやいや!? まさか肯定されるとは思わなかったからさ、あははは」


 他者には平然と社交辞令を並べるバートだが、実は褒められる事に慣れていない。

大好きな祖父は優しくも厳しい人で、子供であれ評価は常に正当だった。

士官学校の同僚達は論外、陰口を叩くか妬むかのどちらかだった。

自分の情けない面をこの半年間で嫌というほど自覚した身だ、困惑するのも無理はなかった。

照れ笑いを誤魔化すようにパンを頬張り、喉を詰まらせてはパイウェイに笑われていた。

和やかな様子を目に、表情一つ変えずにナビゲーターの少女が助言する。


『逃げ回るだけでは事態は好転しません。こちら側の意思を明確すべきです』

「我々の意思・・・・・・?」

『恭順、抗戦――和解。
話し合いは望めぬ状況下ですが、不明瞭な意思決定は敵味方問わず混迷を招きます』


 ドゥエロは考え込む。

自分達の脱獄が女性陣の怒りを買ったのは明白。

自分の責任で事態の悪化を引き起こした以上、自分で責任を取らなければいけない。

ソラの言い分は的確で、ドゥエロ自身もずっと考え続けて来た。

逃げ回っていても艦内に居る限り、逃げ場は限られている。

何時しか捕らえられ、今度こそ処刑されてしまう。

自分だけの命で済めばいいが、自分達に手を貸したパルフェ達にも被害は及ぶ可能性は高い。

裏切り者として断罪されれば、申し訳ない程度の話では済まない。

ドゥエロは視線を向ける――


パルフェ、パイウェイ、メイア、ディータ。


皆それぞれ立場があり、己が居場所をこの船の中に持っていた。

容疑が科せられている自分達を手助けすればどうなるか分かっていながら、彼女達は助けてくれたのだ。


断じて――断じて、罪人になどしてはならない。


仲間同士殺し合うなど、以ての外だった。

ただ逃げ回るだけでは、相手の疑心を深めるだけ。

徹底抗戦は論外。

となると――


「彼女の言う通り、我々の意思を統一しよう。
私の望みはカイを含めた男女の共存――
高望みを承知で言えば、これまで以上の対等な交流を望んでいる」


 口にして初めて、なるほど・・・・・・と思える単純な希望。

この男女共存生活を心から気に入っていた事に、改めて気付かされる。

切磋琢磨の関係だったが、本当に沢山の事を学べた半年間だった。

士官学校時代より遥かに充実した毎日であったと実感出来る。


「僕も! 女には馬鹿にされてばかりだったけど・・・・・・楽しかった。
お頭や副長に怒鳴られて怖かったけど、少しは成長出来た気がする。

で、出来れば、僕の事も好きになって欲しいかなって思ってさ・・・・・・ははは」


 笑い声で誤魔化しているが、バートの本心は正に其処だろう。

好きだから、好かれたい――

当たり前の感情だが、その当たり前でさえ本国では異端なのだ。

二人の話を聞いて、パイウェイは恐る恐る呟く。


「パイは男は、嫌いだけど・・・・・・ドクターやバートは別に――居てもいいと思う。


その、カイもそうだけど・・・・・・」


 彼女らしい、素直ではないが純真な気持ち。

故郷で教わった価値観を含めて、敵対する男達を目の当たりにした彼女の本音があった。

誰もが皆、博愛精神を抱けはしない。

男は信じられないが――半年間生死を共にしたドゥエロ達は信じられる。

男ではなく、ドゥエロ達個人を尊重した彼女の発言はとても人間らしく分かりやすい。

パルフェも同意見なのか、笑って頷く。

機械にも一つ一つ構造の違いがあり、同一の機種であれ差異は生じる。

その差異を個性として見る事で、愛着が生まれる。


「・・・・・・聊か不本意だが、私としてもお前達が船に残る事に異論は無い。

ドクターの医療技術、バートの操舵の腕、パイロットしてのカイの存在――

お前達三人が居なければ、我々は生き残れなかっただろう」


 純粋に、認められた。

認められるまで――半年間も費やしてしまった・・・・・・

今思い返せば、なんと愚かな時間の浪費だったか。

今の仲間達の主張がどれほど奇異に見えてならないか――

ドゥエロやバートはもとより、カイの残した実績は多大なものだ。

目の前に明確な功績があるのに、私情で目を瞑るなど愚かしいにも程がある。


カイは自分達を守る為に――この半年間、命を削って戦ってくれたのだ。


チームリーダーとして失格である。

深く――深く溜息を吐いて、メイアは言葉を続ける。


「意思を統一するなら、カイの意見も聞いた方がいい。
此処へ来たのも奴と連絡を取る為でもあった筈だ。

重ねて問うが――可能なのか?」

『マスターが建造された兵器には、ペークシスの結晶が組み込まれています。
システムを通じて、保管されている本体から中継を行う事は可能です。

ペークシス間の交信に物理的距離は関係ありません』


 ペークシス本体から、カイが持ち去った新型兵器ホフヌングに向けて交信が行える――

それぞれが通信機の役割を果たすと考えれば分かり易い。

分かり易いが――原理が不明なので、説明を聞いた皆が半信半疑だった。

パルフェが興味絶好調で質問攻めしたが、ソラは黙秘の一点張り。

仕方ないので、昨晩から交代でペークシス本体に向けて呼びかけを行っている。

成果は無し。

応答一つ返って来る気配も無い。


「カイと連絡が取れるのはいいけど・・・・・・返答が無いのが余計に不安になるというか・・・・・・
あいつ、本当に大丈夫なのかな」

『新型兵器が破損した可能性もあります。
ですが、今は信じて呼びかけるしかありません』

「へーい、仕方ない・・・・・・僕がもう一度呼びかけてみるか。
もしカイと連絡が取れたらどうする?

今の僕達の事、何て説明すればいいかな」

『言い辛いようでしたら、私の主観・・・・で説明を致しますが?』

「あ、そう。じゃあお願いしようかな。
どれどれ・・・・・・」


 親切な幻想の少女にお礼を言って、バートは保管室の中へ。

他の面々も一緒に連れ立って、彼らはこの大いなる旅の始まりに立った。


光を失った残骸。


眩い光を放っていた結晶体は、輝きを失って無機質な表層を晒している。

パルフェの話では出力も限界値ギリギリで、手の施しようが無いらしい。

幹部達を除いてこの事実は隠匿されているが、噂というものは無慈悲に広がる。

艦全体を襲った暴走には手を焼いたが、静か過ぎるのも困りものだった。


「ペークシスって今、実質上止まっているだよね。
本当に、届くのかな?」

「試してみる価値はある」


 不安がっても仕方ないと、ドゥエロは口添えする。

確かにもっともな意見であり、むしろ他に手立ては無い。

マグノ海賊団との激戦後、カイ機を回収した救助船は懸命の捜索にも関わらず行方不明。

ニル・ヴァーナが運航停止している以上、外海を探し回る事すら出来ない。

近隣に人の住む星でもあれば話は別だが、彼らは追い出されるようにして出て行ったのだ。

当ては無く、その上カイは重傷を負っている。

生きていると信じているが――簡単に不安は消えない。

バートは緊張に唾を飲んで、結晶体に向かって声を張り上げようとして――閃く。


「そうだ。一度ディータも呼びかけてみるのはどうかな?」

「ディータに・・・・・・?」


 一瞬訝しげな顔をするが、ディータを見つめ直してメイアは首肯する。

カイが離れてからというもの、一日に一度は会いたいと悲しそうに呟いているディータ。

幼児退行しても、彼女の記憶に少年の面影が残っているのだろう。

面倒を見ていて、メイアも不憫には思っていた。

バートの気遣いに内心感謝しながら、メイアはきょとんとするディータを優しく前に出す。


「ほら。ディータ、話しかけてみるんだ。
この大きな石の向こうから、おにーちゃんの声が聞こえてくるかもしれないぞ」


 気休めである事は百も承知だったが、メイアは優しくディータに望みを託す。

事情を知らないディータは指を咥えて見つめ返すだけだったが、カイと話せると聞いて喜びを露わにする。


『うん! 



……おにーちゃん』



 それは本当に――小さな声。

何の疑いも無く、無垢な想いに満たされた少女の祈り。

繊細で、親愛に溢れた呼びかけ。



女の子の純粋な気持ちに――



『――髪・・・・・・赤髪かっ、おい!?』



 ――奇跡は静かに奏でられる。












































<to be continued>







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