ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action37 −皮膚−






  「メラナス?」

「そう。それが私達の故郷の名前」


 二つの船が融合したニル・ヴァーナには及ばないものの、艦内は広かった。

通路には各部屋が並んでおり、制服を着た人間が行き来している。

カイは医療室を出て、セランと並んで歩いている。

まだ安静が必要な身体だったが、精神的に少し気分転換がしたかった。

その間、驚くべき経緯を聞かされる――


「三日も寝てたのか、俺!?」

「正確には四日前かな…深夜にまで及ぶ激しい戦いがあったの。
何とか勝てたんだけど、いっぱい怪我人が出て…皆疲れてて…

その時よ、君達の船が来たのは」


 激戦の後に、レーダーに不審船の反応。

警戒態勢を取るのは当然の処置だったが、一部の人間が過剰な対応に出た。

発砲したのである。

生死を隔てた死闘後で精神を磨耗したパイロットの、恐怖。

万が一でも相手側が抗戦に出れば、戦闘にまで発展していたかもしれない。


「それで、あいつらに怪我は!?」

「きゃっ!? 皆無事ってさっき言ったじゃない!」

「あ、そうか、ごめん…」

「もう…女の子には優しくね」

「頬をつっつくな!?」


 話は続く。

恐怖に駆られて発砲したパイロットとは違い、ジュラ達は冷静だった。

冷静である必要を強いられた。

彼女達の手元には、傷だらけの少年――

一刻も早い治療が必要で、猶予もなかった。

広い宇宙――故郷への道はまだまだ果てしない。

これまでの半年間の旅で、人類が住まう星はアンパトスのみだった。

機会を逃せば、次に話の通じる相手と出会うかは分からない。

少なくとも――カイは手遅れになる。

前置きもなしに攻撃されたとはいえ、ニル・ヴァーナを出てすぐに出会えた事を幸運に思うべき。

短気な行動に出ず、ジュラ達は必死で救助の知らせを送った。


「それで、収容したの。信用出来る相手だって、艦長が判断して」

「そうか…あんたらのお頭が賢明な人でよかったよ」

「あはは、何よお頭って。変な言い方」


 救助船を収容し、カイは即座に担架で運ばれた。

ジュラ達は武装解除されて艦長の下へ。

身元確認と情報交換の後、部下の先走った行動を謝罪。

カイの治療とジュラ達の保護を約束してくれたという――


「で…見返りは何だ?」

「カイ君、人の親切は素直にうけようね」

「嘘くせー、こっちの身元を確証出来る決定的な材料がないだろ。
不審に思って当然なのを、わざわざ保護するか普通?」


 現状況を正確に把握していないが、行き来する人間を見る限り正規の人間である事は分かる。

そして、これほどの規模の戦艦。

メラナスの正規軍だとすれば、カイ達の様な身元不明の来訪者は歓迎されない。

そして何より――不審や疑惑、嫌悪や拒絶の世界をカイは過ごしてきた。

初対面から歓迎してくれたアンパトスには、裏があった。

人間不信になるほど弱くはないが、千差万別に人を信じられるほどカイは強くはなかった。

セランは少し真面目な顔をして、カイを見つめ返す。


「…貴方達も刈り取りの襲撃を受けているんでしょう?」

「っ――じゃ、じゃあ…!?」

「私達も、なの」


 ――例外はない。

息苦しい空気の中で、カイは思い知る。

あの敵には明確な標的などない。

主義や思想はまるでなく、無慈悲に無人兵器で奪い取る。

タラーク・メジェールと同じく――メラナスもまた、彼らの獲物なのだ。


「…疑って、悪かった」

「ううん、仕方ないよ」


 笑ってくれるセランに感謝しつつ、カイは安堵する。

人の顔色を伺う真似は嫌いだが、善意ある人間を疑うのは大嫌いである。

自分を初対面から気さくに接してくれる人は、少ない。

まして、それが女性なら尚更だ。

嫌というほど――疑われて、嫌われて、生きてきた。


「苦戦した相手ってのも、刈り取り――
いやむしろ、この艦が出撃しているのも国の防衛か」

「うん。艦には正規の軍人だけじゃなく、自ら志願した人が多いの。
私もその一人。
自分の国は、自分で守らないと」

「…そっか、そうだよな…」


 セランの気持ちは一途で、純粋だった。

自分の故郷を、心から愛している。

――自分は、どうだろう…?

女尊男卑するメジェールに反感はあるが、タラークの理念とは関係がない。

たった数年間路地裏の酒場で過ごしただけの、故郷。

広い宇宙へ出て、あの国が狭く感じられるようになった。

愛着はあるが、生まれ故郷という実感はまるでない。

ヒーロー気取りで助けようとしていた、傲慢な気持ちは消えていた。

戦う事そのものに、迷いはない。

略奪を、心から否定すると誓った。

マグノ海賊団とも、戦った。

許さない、納得しない、認めない――

正体不明の連中だが、刈り取りのやり方には吐き気すら覚える。


「ほんっと、節操のない連中だな…彼方此方に、手出しやがって。
どんだけ奪えば気がすむんだ」

「――私が生まれる前から、刈り取りはもう始まっていたの。
その頃を知っているのは艦長だけだけど…
執拗で、狡猾で…私達はずっと、脅かされ続けた」

「生まれる前!? 
あいつらって、そんなに前からこんな事してたのか!?」


 初めて知った、事実。

アンパトスでのファニータの話で古くからと聞いてはいたが、実感が沸いてくる気がした。

セランは生まれた時から――その恐怖に震え続けたのだ。

まさに、やりたい放題。

脅威を感じると共に、眩暈に似た激しい怒りがこみ上げる。


「一体、奴らは何が目的なんだ!?
片っ端から襲って奪っているようにしか思えねえ。
血液だの、脊髄だの、意味不明なもん欲しがりやがっ――」


 ――何故、忘れていたのか…?


砂の惑星で手に入れた、敵からのメッセージ。


"今期収穫項目:赤血球・白血球・リンパ球他 状態良好"


ファニータから伝えられた、敵への捧げ物。


"ムーニャは、スパイラルコードを必要としています"


血液に、脊髄。


――まさか。


カイは息を呑む。


「…あんたらが狙われているのって、何なんだ?」


 緊迫するカイの表情を、セランは正面からジッと見る。

何も言わない彼女に――


――カイは答えを見た気がした。


本当は、最初から分かっていたのかもしれない。

変だと思わなかっただけで、既に変だ。

彼女を見れば、一目瞭然。

行き来する人達を見れば、明らか。


透き通るほどに――肌が美しい。


洗浄や化粧とは、次元が違う。

生まれ持った原石とでも言うべきか、透明感のある美しさを誇っている。

セランは肯定する。


「私達は――皮膚を、狙われているの」


 血液、脊髄に続いて皮膚。

最早偶然でも何でもない。

彼らの目的は――


――人間の臓器。


滅んだ砂の惑星や、国民全員が贄を望んだアンパトス。

数十年以上の月日を隔てて、なお執拗に狙われるメラナス。

惑星単位で、臓器が刈り取られている。


――異常だ。


金銀や物資、土地や国家そのものを狙うならまだ分かる。

人が欲するモノ――自らが持っている欲望の延長だ。

だが…人間の臓器など、誰が欲しがると言うのか?

鬼。

悪魔。

魔物。

――人の理解を超えた、禍々しき存在。

歪んだ、思想。

狂気に呪われた敵が、恐るべき凶器を用いて、狂喜に満ちた愉悦を抱いて奪う。

それが、俺達の敵――


(――勝てるのか、俺は…)


 決して、奪わない。

そして――奪われない。

理想を貫けるか?


俺は最後まで――守り通せるのだろうか?


カイは前を見る。





軽いステップを踏んで歩くセランが――



――霞んで、消えたように見えた。





首を振る。

嫌な予感は――カイを確実に蝕み始めた。


































<to be continued>







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