VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action21 −悲報−






 完治には程遠いが、応急手当を施されて医務室を出る。

握り締める十手の冷たさにゾッとしながら、腰に括り付けた。

馴染みの重さに安心感を抱きながらも、医務室で味わった喪失感は埋められない。

閉ざされた扉の向こうで、少女は一人何を思っているだろうか・・・?

それを知る権利は、今の自分には無い。

カイは首を振って未練を捨てて、通路で待たせていた少女の下へ駆け寄る。


"おそい、おそい! ずぅーと待ってたんだよ!"


 頬を膨らませる表情に、悲しみの色は薄らいでいる。

被害を多数出してしまったが、少女の機嫌はようやく直ったらしい。

艦内の揺れは尾を引いているが、人災に及ぶ力は既に無い。

カイは内心安堵しながら、少女の頭を映像越しに撫でる。


「怪我を手当てしてもらってたんだ。痛みも少しは取れたよ」

"ますたぁー、元気になったの? わーい!"


 泣いた鴉が、もう笑う。

可憐な少女の気まぐれな感情に、今日は本当に振り回されてばかりだ。

カイは苦笑して、もう一人の相棒に向き直る。


「艦内の状態はどうだ?」

「システムは今制御不能、セキュリティ・ネットワークもダウン。
船が大暴れしたせいで、設備の殆どは機能停止になっているピョロ。
ぜーんぶ、こいつのせいだピョロ」

"べーだ"


 険悪な顔で睨むピョロに、舌を出すユメ。

反省の色はまるでないが、この少女にそんな感情はない。

カイが船にいなければ、そもそもユメはこの船に来ていないのだから。


「マグノ海賊団には気の毒だが、俺達にはチャンスだな。
ペークシスが暴走しないだけでもよかったよ」


 船の激震に、ペークシスの暴走が加われば手がつけられなかった。

二つの船が融合した当時の混乱を思い出して、しみじみ語るカイ。

――怪訝な顔をするユメ。


"何言ってるの、ますたぁー。
このお船が揺れたのは、ペークシスのわた――"

「カ、カイ!? まずいピョロ!」

「な、何だよ・・・? この上、まだ何かあるのか?」


 何か言いかけたユメに、ピョロの悲壮な声が被さる。

今日の運勢は最悪。

昔も今も――そしてこれからの人生と比較しても、最低と断言出来る日になりそうだ。

嫌な予感に顔を引き攣らせながら、恐る恐るカイは聞き返した。


「保安クルーが大挙して、格納庫に向かってるピョロ!」

「格納庫・・・? 此処とは全く違う場所じゃないか。
発見されないだろ、幾らなんでも」

「お前はあほピョロかーーー!!

お前の大事な蛮型が保管されてるピョロよ、あそこは!」

「ぬああああああっ、そうだったぁーーー!?」


 カイの愛機、SP蛮型。

数々の苦難を乗り越えてきた大切な機体のある場所に、警備員が急行している。

目的は火を見るより明らかだ。


「くそ、先回りされたか!?
脱走した俺の居場所を先に探すと思ってたんだが・・・」

「先導してるのは、ミレルとヘレンだピョロ」

「あ、あの女どもぉぉぉ!?」


 エステチーフのミレル・ブランデールに、警備チーフのヘレン・スーリエ。

クリスマスでは反対派の代表とも言える二人。

直接的な対立はしていないが、彼女達の陰謀に散々苦しめられた。

カイは当時反対派のメンバーに詳しくはなかったが、彼女達が自分に良い感情を抱いていないのは知っている。

打算に満ちた関係、虚偽に溢れた繋がり。

見習いとして配属された当時は話す事も出来たが、紆余曲折を得て対立関係に至っている。

カイ本人を追わず、蛮型を先に取り押さえたのは、彼の行動を先読みしたゆえに。

船の混乱に乗じて脱出する目論見を読んで、急行したのだ。

相手がミレルとヘレンなら、その行動の早さも納得出来る。

ミレルの頭の切れは幹部クラス以上。

屈強なクルーを多数有するヘレンなら、警備員を総動員させるのは朝飯前だ。

カイに今、味方はいない。

抹殺するなら、まさにこの状況下が最適だ。

マグノやブザムでも止められない――いや、最悪抹殺命令が下っているかもしれない。

今から急いで向かっても間に合わないだろう。

例え辿り着いたとしても、ニル・ヴァーナの保安を職務とする警備員相手に勝ち目はない。


「おのれー、折角整備も終わったのに・・・」


 アンパトスで遂に大破したSP蛮型。

初心者マークのパイロットを支えてくれた機体は、激戦の損傷で行動不能になった。

一般のエンジニアなら匙を投げるダメージだが、そこは天才エンジニア。

アイ・ファイサリア・メジェールが大規模な改良を実施し、一ヶ月以上整備されていた。

復旧の目処がついたのは、つい数日前。

試運転を望まれていた矢先に、この事態である。

あの機体が無ければ、この船から脱出も出来ない。


「どうするピョロ。これじゃ逃げられないピョロ」

「うぐ・・・」

"はい、はーい! 良い考えがありまーす!"

「・・・一応言っておくが、殺すのは駄目だぞ」

"えー"

「えー、じゃない! 却下だ、却下!」


 マグノ海賊団以上に略奪に抵抗の無いユメに、カイは顔をしかめる。

確かに対決はもう避けられないが、彼女達と戦うのは抵抗があった。

自分の巻いた火種であり、彼女達に怨恨は無い。

嫌われているから、嫌う。

憎まれているから、憎む。

奪われる前に、奪う。

――そんな不毛な争いに、何の価値があるというのか。

刈り取りや男女の差別を通じてこの半年、いい加減嫌気がさしていた。


「・・・しょうがねえ、蛮型は一旦預けておこう」

「い、いいピョロか!? 
バラバラにされるかもしれないピョロよ!?」

「あの機体はヴァンドレッドの要。破壊したら、合体が出来なくなる。
これから先の旅に、あの機体は不可欠だ。
それぐらい、あいつらだって分かるだろ」

「怪しいピョロよ・・・」


 カイの言い分はもっともだが、ピョロは疑問だった。

半年間男と女を見てきたが、人間は理性のみで生きてはいない。

時に理不尽とも取れる行動を起こす。

先行きを考えれば如何に愚かしい行動でも、平気で出来るのが人間なのだ。

SP蛮型が必要だというなら、そのパイロットも必要なはず。

なのに、彼女達は今カイを殺そうとしている。

仲間を傷付けられた怒りに、信頼を裏切られた憎しみに。

目先に狂って、憎き男の機体も破壊するのではないだろうか?

そうしないなどとは、決していえない。

ピョロの心配に、カイがもう一つの安全要素を提示する。


「それに、アイが面倒見ている機体だからな。
あいつが手出しさせないよ」

「・・・うーん、ならいいんだけれど・・・」


 カイの指摘は、理性が働いている。

今の彼女達にはたして、そんな冷静さがあるだろうか?



機体を――カイを庇う者を許すだろうか?



カイは小さな身体を震わせる。

彼は今日初めて――人間の怖さを味わっているかもしれない。

昨日まで仲良くしていた者を、彼女達は殺そうとしている。

たった一日で白から黒へ――愛から憎しみに転換するのだ、人間は。

コンピュータよりも、冷え切った計算で。


「機体の心配は後だ。
先回りされている以上、一刻も早く脱出しないとやべえ。
ユメ。クマちゃん――セルティックの居場所を探してくれ」

"まかせて、ますたぁー!"


 鼻歌を歌って、楽しげに小さな指先を宙に舞わせる。

指揮者のような繊細な仕草と、静かな表情。

洗練された美しき指使いは数秒で終わり、にっこり笑ってユメは告げる。


"分かったよ、ますたぁー!"

「おお、早いな。それで?」

"うん、セルティックって娘は――"

「おう」















"死んじゃったよ"















「――え?」





 簡単に。

まるで今日の御飯の献立でも知らせるかのように、あっさり口にするユメ。


「いや、あの・・・お前、何言って――」

"セルティック・ミドリって娘でしょ?

死んじゃったよ、さっき"















 ――死んじゃったよ・・・














































<to be continued>







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