VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action12 −追求−







 ――重苦しい空気が漂っている。

時は午後。

場所は会議室にて、マグノ海賊団の幹部達が列席していた。

議題は一人の少年。

陳列する一同の前には、二枚の写真が並んでいる。

一枚は血染めで倒れ臥すディータの写真。

一枚は銀色のツインテールの髪の女の子の写真。

どちらも今日の午前中に起きた事件。

二枚をそれぞれ手に取りながら、最初に発言をしたのがこの人――

この艦の実質上の最高責任者であり、マグノ海賊団を統べる頭目のマグノ・ビバンだった。


「・・・そんなに騒ぎになっているのかい?」


 明確な誰かに問うた疑問でもないのだろうが、答える者はいた。

物資・兵装全般の管理をするレジの店長、ガスコーニュ・ラインガウだった。


「・・・放っておく訳にはいかないくらいですね・・・」


 ガスコーニュは重々しい顔で腕を組んでいる。

どの現場にも居合わせていないが、事態を深刻に受け止めているようだった。

マグノは複雑な顔を見せる中、マグノ海賊団副長のブザムが席から立ち上がる。


「・・・クルーに知れ渡った事は大きなミスです。
ですが、まだ取り返しのつく問題ではあると思われます」

「本当に、そうですかしら?」


 ブザムは厳しい眼差しを、発言者へと向ける。

タラークの軍人でさえ震え上がるブザムの眼光を、艶然とした微笑みで受け止める女性。

大輪の華の如き美しさを持つ、エステチーフのミレル・ブランデールである。


「ディータさんは重傷、あまつにさえ彼は密航者を匿っておりますわ。
罪は明白ではないでしょうか」

「カイを処分する事は、現時点の状況を顧みる限り得策ではない」

「では、罪を御隠しになるのですか?
立場ある副長が取るべき行動ではないと、わたくしは思いますけれど」


 クルーにすら恐れられる副長を前に、この発言。

しかしミレルの指摘は組織の理に適っており、規律に従っている。

ブザムも発言の正しさは理解しているのか、苦しい表情を浮かべた。

仲間の負傷に身元不明の無許可乗船者、少年の悲況――

事の重大さを、ミレルはむしろ楽しんでいるようだった。

慇懃な言葉遣いで、庇おうとするブザムを苦しめている。


「――嫌味なおばさん」

「・・・何か言いまして? ルカさん」


 小声も聞き漏らさずに、表情を変えないままミフレは横目で見る。

隣に座っている小柄な少女、クリーニングチーフのルカ・エネルベーラを。

ルカは持参したオレンジジュースをストローで飲みながら、


「嫌味なお姉さん」

「・・・出世するタイプですわね、貴方は」


 気がそがれたのか、ミフレは嘆息してブザムへの進言を慎んだ。

ルカはそのまま何も語らない。

少年の犯した罪を前にしても、彼女は興味のない素振りでいる。


「――もう少し、調べてみるべきです」


 会議の流れを察して、一人の女性が立ち上がる。

ドレッドチームのリーダー、メイア・ギズボーンである。


「カイが我々に害意を持っているとは考えられません。
此度の事件も、何か特別な事情があるのだと思われます。
私に、尋問の許可を頂きたい。
戦場を同じくする者として、彼に対しての責任の一端は私にもあります」

「今更何を聞くって言うんだい、馬鹿馬鹿しい」

「――ヘレン」


 刺々しい口調で反論するワイルドな風貌の女性。

艦内の警備を担当するヘレン・スーリエ。

ヘレンはメイアを睨み付けて、鋭い口調で責めにかかる。


「捕虜がウチのもんを傷つけた上に、密航者を匿ってたんだ。
とっとと放り出すなり、処分すればいい」

「・・・しかし」

「情でもわいたのかい? 
御堅いパイロット殿が随分な熱の入れようじゃないか」

「ヘレン!」
 


 バンッ 


 踵が会議テーブルに突き刺さる――

一同が息を飲む中、ヘレンはテーブルに足を投げ出したまま言い放つ。


「あいつはタラークのクソッたれな男なんだよ。
今までがおかしかったんだ。
最初から監房にぶち込んでおけば、こんな事にはならなかった!
違うかい!?」

「・・・カイが居なければ、我々が危なかった局面もあった・・・」

「あいつが居なければ、起きなかった事件もタップリあった。
確かに少しは貢献したかもしれないけど、あいつはウチらの疫病神なのさ。
あいつを嫌っている人間がどれだけいるか、あんたは知ってるのかい?
  
あんただって、その中の一人だっただろ!」

「・・・それは」

居なくなればいい・・・・・・・・――そう考えた事だってあったはずだよ!」

「――っ!?」


 考えたことは――あった・・・

カイと出会って、旅を始めた当初はぶつかり合ってばかりだった。

疎ましく思った事は数え切れないほどある。

戦闘中独断行動を取るカイに、どれほど叱責を浴びせたか――

チーム編成の際に、カイを人数に入れなかったくらいだ。

でも――


「・・・私は。私はカイを・・・」

「――何でトチ狂ってしまったのか、知らないけどさ――



あいつは、あんたの事なんか信頼してない。



味方だなんて思ってないよ」

「――どういう意味だ」


 一瞬身体が震えたのを、メイアは自覚していない。

ヘレンが何を言わんとしているのか、理知的な彼女が思いつかない筈がない。

――今のメイアは、自ら答えを知りながら必死で耳を瞑っているだけ。

ヘレンはテーブルの上の一枚の写真を、ヒラヒラ振った。


「このガキが誰なのかは、アタシも知らない。
――あんただって知らなかったんだろう?

あいつは、あんたにも隠してたんだから・・・・・・・・

「・・・!」


 そう――


――カイは、何も話してくれなかった。


写真の女の子を、自分は知らない。

カイが言わなかったのだから。

隠していたのだから――

信頼されていない・・・何よりの証拠ではないか。

立ち尽くすメイアを鼻で笑って、周りに居る全員にも突きつける。


「誰にも話さずに隠している。

――こんな男を、庇うのかい? 助ける価値はあるのかい?

アタシはご免だ。むしろ、もううんざりだ。
殺すのに気が引けるってんなら、出て行かせればいい」

「口を慎め、ヘレン。決めるのはお頭だ」

「へいへい、申し訳御座いませんでした」


 ブザムの叱責は遅すぎた。

ヘレンはふてぶてしい態度で、椅子に座り直す。

彼女がこの場に盛った毒は、染み渡るように周りに広がっていく。

それを肌で感じたのか、意を決したように末席の物腰の柔らかな女性がおずおずと口を開く。

清楚な美人、キッチンチーフのセレナ・ノンルコールである。


「お頭、副長・・・お願いします。
せめて、カイさんの御話を聞いてあげてください。
きっと――きっと何か事情があるはずなんです」

「あ、あたしからもお願いします!

あいつ男だけど・・・すっごく、良い奴なんです!

お願いします、お頭」


 便乗して頭を下げるのは、ミカ・オーセンティック。

イベントチーフであり、カイとは友だった。

クリスマスという華やかな戦場を駆け抜けた、戦友――

必死の懇願を目にして、マグノは深い皺を優しく滲ませる。

仲間・・を親身に思う彼女達――

このような状況下でなければ、微笑んでいたかもしれない。

しかしながら、今は決断しなければいけない。

クルーの負傷と、密航者の存在。

カイででなければ、有無を言わさずに処罰していただろう。

ディータの怪我は何か事情があるにせよ、密航者は言い逃れようのない罪だ。

カイが隠していたのは、まぎれもない事実なのだから。

ヘレンの意見は感情的だが、事実もきちんと指摘している。

メイアやブザム、他の者が庇い立て出来なかったのも頷ける。

しかし、それでも――


カイが裏切ったとは、とても思えない。


あの少年が自分達を偽り、悪意ある企みを抱いているとは考えられないのだ。

とはいえ、それは根拠のない確信。

クルー全員を納得させるには、まるで力のない意見だ。

マグノは苦悩する。

事は今までの衝突とは比べ物にならない。

決断しなければ、クルーが決起してカイを追い出しにかかるだろう。

これまでとは違い、充分過ぎる理由がある。

個人の感情で、組織は動かせない。

このままでは――


『お頭、大変ですぅー!?』

「エズラ? どうしたんだい、血相を変えて」


 ――不吉な予感が、マグノに電流のように走った。

緊急回線を通じて、エズラが必死の顔で訴える。


『カイちゃんが・・・カイちゃんが――』





 涙ながらに。





『撃たれたんです!!』




 ――鳴り響く。 男と女。 不幸しか生み出さない、戦いのゴングが。














































<to be continued>







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