VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action4 −後退−







「マスターはもう少し、落ち着きを持つ事が必要ではないかと思われます」

「ぐ…」

「如何なる状況下においても、己を保つ。大切なことです」

「うぐ…」

「ディータ・リーベライについては、私などより遥かにマスターは御詳しいと思っておりました。
その認識は誤りでしたでしょうか?」

「うぐぐ…やけに絡むな、お前」

「申し訳ありません。マスターには過ぎた苦言でした」

「うぐぐぐ…だから悪かったって」

「ディータ・リーベライに言うべき言葉ではないかと、私は思います」

「うぐぐぐぐ…はぁ。

悪かったな、赤髪。先走っちまった」

「あ、あはは…ううん。
ディータもちゃんと宇宙人さんにお話ししてなかったから」


 一字一句丁寧に、それでいて厳しい口調で主を諌めるソラ。

食料庫の大荷物を抱えたまま、気まずそうに言う事を聞いて謝るカイ。

主従関係は変わらずとも、立場関係が上下している二人を見て、ディータは苦笑い気味だった。


――食料庫での口論。


 口論と言ってもカイが一方的にディータを責め立てただけなのだが、二人は気まずい雰囲気に陥った。

カイとディータ、それにソラ。

作業する三人に突如話しかけて来たパイウェイが、その発端である。

突然の来訪者に、ソラは正体を見定められないように仮初の映像を消去。

主以外との接触を絶つ少女には当然の行為だが、この行動が誤解を生む。

ディータとカイ、二人っきりで仲良くしていたと勘違いしたパイウェイは、ディータに詰問。

仲の良い友達を取られたくないという、子供心。

その真っ直ぐな好意から生まれた問い詰めを、あろう事かディータは冷たく拒絶。

パイウェイには関係ないと、ばっさりと切り捨ててしまった。

ショックを受けた幼い看護婦はそのまま走り去り、様子を見ていたカイはディータに詰め寄る。

六ヶ月――マグノ海賊団と共に歩んだ年月。

故郷の星タラークの宿敵、メジェールの女性達――マグノ海賊団。

祖先の星地球に建設されたミッションで出会った、風変わりな商人・ラバット。

死に絶えた大地が眠る砂の星に、蒼き水に覆われた美しい星アンパトスの人達。

沢山の文化と十人十色の考え方、別世界の在り方。

多くの人達と出会い、ぶつかり合って、少年は確かな価値観を手に入れていった。

同時に人間についても悩み、傷つき、考えさせられて、人の心を少しずつ学んでいく日々。

ゆえに――パイウェイの傷ついた心が理解でき、ディータの取った態度に怒りすら抱いた。

ここまで純粋に、他人を思って純粋な怒りを持ったのは初めてかもしれない。

自分には何の得もなく、係わり合いも無いのに自ら他者の問題に足を踏み入れる。

後に振り返れば否定するかもしれないが、今この時だけはカイはパイウェイの味方だった。

まだまだ発展途上ではあるが、少年は大人へと着実に歩んでいる。

――正確に言えば、歩んでいる途中。

精神面はまだまだ未熟、考えるより先に行動に出るのは相変わらずだった。

責め立てるカイに、ひたすら萎縮するディータ。

その様子を冷静に、私情を混じえず見ていたのはソラだった。

確かにパイウェイへのディータの態度は、問題はあった。

作業で忙しいにしても、年齢さのある相手に思慮の足りない言い方だったと思える。

しかし、ディータにも何か言い分があるように見えた。

容赦なく責めるカイに、泣きそうな顔で何か言いたそうにしている。

このまま放置すれば、間違いなくこの二人の間柄は悪くなる。

客観的に観察して結論付けたソラは、二人の間に割って入った。


『――話を聞いてあげて下さい、マスター』


 拳こそ出なかったが、感情を漲らせる主を諌めて、ディータに話を促した。

ディータはソラに何度も感謝して、理由を話す。

単純で――とても優しい理由を。


『パイウェイが今日、乗艦記念日なの』


 乗艦記念日、それは海賊として認められた記念すべき日。

出撃を許され、大事な家業への参加を許された証。

年齢こそ幼少だが、パイウェイは数少ない看護婦として今日この日付に乗船を認められたのだ。

パイウェイにとっては海賊の仲間入りをした日であり、ディータと共に宇宙へ出た思い出深い記念日なのだ。


『それでね、色々考えたんだけど…
パイウェイの大好きなハンバーグを作ってあげようと思うの。
ディータ特製、パイウェイ印のハンバーグ。
出来上がるまで黙っておこうと思って、その…』

『わざと、冷たい言い方をしたって訳か』

『う、うん…』


 カイは――浅慮な自分に呆れた。

あれほど女心の複雑さを見て来たのに、見た目の態度や表面上のやり取りで決め付けてしまったのだ。

冷静になって振り返ってみれば、明らかに違和感があった。

大人気ないと言うより、無理にでも遠ざけようとしている態度。

ディータという少女に大よそ似つかわしくない、冷淡な言い方だった。

理由を聞けば至極納得出来る。

大切な人だからこそ言えない事は、沢山ある。

内緒にして後で驚かせようとする心情は、カイには痛いほど理解出来た。

何かと面白がって普段している行為なのだから。

納得したと同時に、浮き出る圧倒的な罪悪感。

パイウェイだけを思って、一方的にディータを悪者にしてしまった。


――そして、今に至る。


今回はカイも非を認めていて、ソラの説教を黙って聞いていた。

内心――少し嬉しく思いながら。

他の人間が相手なら、ソラは口出しすらしないだろう。

ソラは常日頃無感情で、如何なる時も冷静冷徹に物事を見ている娘だが、人間には一方的な絶望を抱いている。

マグノ海賊との接触を一切絶っているのも、海賊であり人間である彼女達を拒否しているからだ。

そんな女の子がディータには味方し、敬愛する主に対して忌憚の無い意見を述べている。

長々と説教するのは、それだけディータが誤解で責められた事を憤っている証拠だ。

今のソラには何の自覚も無いだろうが、ディータはソラにとって顔見知り以上になっている。

いずれは友達と呼べる仲にまでなるだろうか?

互いを認め合って、いつかは本当に――


――そうなって欲しいと、思う。


そして自分も、いつかは皆と分かり合える様になりたい。

冷戦状態は続き、まだ自分を忌み嫌う人間は大勢いる。

でも、クリスマスは成功した。

男と女の最初のパーティは、参加は出来なかったが無事に終える事が出来た。

自分とマグノ海賊団は仲を深めていると信じたい。

このディータとソラのように、言葉や態度に出なくても理解し合える関係を――

少しずつでも、着実に。

――そしてカイは、反省する。

今日のような事がある限り、まだまだその道は険しいだろう。


「…悪かったな。ムキになりすぎた」

「う――ううん! ディータだってちょっと言い過ぎたかなって思うし!」

「…はは…」


 ――こういう奴だ。

他人には驚くほど純粋で優しく、無垢に接する。

反面自分には厳しく、常に反省点を求める。

時には過ぎた遠慮だが、円滑な人間関係を大切にしている。

現実に夢見がちな点はあるが、人間的には素直で良い娘なのだ。

捻くれている自分とは、違っていると本気で思える。

ついつい――こんな事を言ってしまうから。


「まあ、確かにちょっと言いすぎだろうとは思うけど」

「嫌われたかもしれませんね、ディータ・リーベライ」

「うー、ソラちゃんまで…」


 笑い声が通路に木霊する。

険悪になりかけた関係が、何とか修復された。

カイもそうだが、ソラまで表情が少し綻んでいる。

表面に薄っすら見える程度の変化だが、ディータを見るソラの目は想いに透き通っている。

仲直り出来て、一番安心したのはディータだろう。

常日頃カイを慕い、一時期は毎日部屋まで押しかけたほどだ。

旅の間に紆余曲折あり、ディータも少しは一人で頑張れるようになったが、カイへの思いはむしろ強まっている。

信頼を超えた、情熱に満ちた気持ち。

ディータにとってカイは自分の世界を劇的に変える英雄であり、白馬の王子様だった。

そんな彼に怒られるのは、耐え難かったに違いない。

仲直り出来て、余程安心したのだろう。

ディータは――


「…お、おいおい…泣く事はないだろう、お前!?」

「えへへ…ぐず…つい、嬉しくて…」


 満面の笑顔だが、瞳に浮かぶ小さな水滴。

ぽろぽろと頬に流れる涙に、カイは動揺する。

何しろ、非は自分にあるのだ。

反省点が明確にある以上、責任は取らなければいけない。

カイは慌てて、ディータに近づこうとして――


――手にズッシリと圧し掛かる重圧に、負けた。


パイウェイへの御祝いをこめた料理の材料をふんだんに詰め込んだ、ボックスの数々。

腕力とギリギリ平衡を保っていたバランス。

支えとなる人間が理由はどうあれ、少しでも緩めてしまえばどうなるか――


「マスター!」

「やばっ!?」


 ソラの警告に気付くが、もう遅い。

ふらついた足腰は重さに負けて、身体を激しく傾ける。

慌てて立て直そうと足を踏ん張ったが、逆効果だった。

両手に抱えた数個の物体はバランスを崩して、一個一個が弧を描いて飛来する。





――涙を流す女の子の頭上へ。















 激しい物音と、女の子の悲鳴。





――恐ろしいほどの静寂に満たされる。


「……あ……赤…かみ…?」


 倒れ伏す女の子。

折り重なるボックス。


「あ……あ、あ……」


 少女の柔らかな髪を潰す――箱。


――潰れたトマトのように、真っ赤な液体が床に広がって…





「ディ…ディータァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」















































<to be continued>







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