VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action54 −幼女−







クリスマス開催まで後十分――

聖なる夜を目前にして、バート・ガルサスは人生の岐路に立っていた。

生まれ出でて十六年。

惑星タラークの需要産業の御曹司として裕福な家庭に生まれ、育った。

世の中金と口だと豪語する男が迎えた苦難。

今まで味わった事のない辛酸を、今宵彼は味わっていた。


「・・・どうしよう、僕・・・」


 暗い自室。

バレードが始まる目前で、艦内は照明が落とされている。

監房内も例外ではなく、真っ暗な部屋の中でバートは一人頭を抱えていた。

頼れる友人達は今、居ない。

パイロットの少年は自らの贈り物を求めて、部屋を飛び出していった。

医者を務める青年もまた、結果を出しに向かった。

彼らには今晩、約束された相手がいる。

――自分には、居ない。

孤独、それが特別な夜を前にした自分の現状だった。


「いいよな・・・あいつら・・・」


 タラークを旅立って数ヶ月。

メジェールの女達と――マグノ海賊団との奇妙な共同生活が続いている。

国家が恐れる女性達と同じ船の中で暮らす事に、最初は生きた心地はしなかった。

彼女達の所業は国が教えてくれている。

男の肝を食らう鬼。

人間の臓器を貪り食う生き物として、国家は敵意を燃やしている種族。

士官候補生として教育を受けたバートだが、軍人としての任を全うするつもりはなかった。

イカヅチに乗船した後も、要領良く戦闘を回避して平和に故郷へ戻るつもりだった。

覆された現実――脅かされた平和。

敵対する女達に捕らわれ、捕虜として扱われる事になった。

自らの存在価値を主張し、操舵手としての役柄を認められた後も必死だった。

何の因果かニル・ヴァーナとの交流に成功し、船のコントロールに成功。

故郷へ向けて、舵を取る毎日。

激しい戦闘中は船を蝕み、リンクするバートにも多大な被害を与えた。

生傷の絶えない毎日は神経を蝕む。

――救ってくれたのは、同じ土を踏む者達。

カイ・ピュアウインドとドゥエロ・マクファイル。

立場こそ違えど、バートにとって二人の存在はかけがえのないものになっていった。

最初こそ三等民のカイに高圧的な態度を取ったが、今では――より高い眼差しで、見つめている。

カイは女達と積極的に関係を持った。

摩擦やすれ違いは一度や二度ではない。

険悪な状態に陥り、命すら脅かされた事だってあった。

女は男に優しくない。

カイ本人も分かっている事なのに、彼は諦めなかった。

何度も喧嘩し、何度も仲直りする。

決して過ちは繰り返さず、長所も短所も分かり合って親睦を深める。

その飾らない生き方に、女達は偏見を改めていった。

ドゥエロもまた、同じ。

何度冷たく扱われようと、医者としての本分を全うした。

怪我をすれば診察し、病気にかかれば診断する。

男女問わない医療への平等な姿勢は、女達の頑なさをほぐしていった。

――自分は、どうだろう。

女は怖いかと聞かれれば、まだ躊躇ってしまう。

嫌いかと聞かれれば――首を左右に振るだろう。

カイと仲良くする女達。

ドゥエロと話し合う女達。

二人の接し方を見ていると、堪らないほどに羨ましく思える。

自分には決して向けない、微笑み。

信頼の証たる笑顔は、傍目から見ても綺麗だった。

そう――魅了された、女に。

故郷が鬼と断ずる生き物に。

自分の感性を疑った日々もあったが、いつしか素直になれた。

アンパトスでの一件が、特に大きい。

艦長代理を任されたあの日。

役割の大きさに怯える自分を、女達は厳しくも優しく叱咤してくれた。

彼女達が協力してくれなければ、重荷に潰されていただろう。

偏見が取り除かれ、自分に素直になれた日。

女達を好きだと思う自分が、其処に存在していた。

だが・・・


「・・・あいつらは、僕なんてどうでもいいんだろうな・・・」


 遅すぎた、そう思う。

女という存在の魅力に気づくのが、あまりにも遅すぎた。

思えば、カイは最初から知っていたのかもしれない。

ドゥエロも初対面から興味は抱いていた。

過ごした時間が確実な関係を二人に与え、自分には何も無いまま一人取り残された。

今晩――独り。

所在も無いまま、バートは自室で途方に暮れていた。


「参加出来ないよな、今更・・・」


 クリスマスパーティは目前。

会場へ行けば参加は出来るだろうが、一緒する友達も居ない。

今の今まではドゥエロに付き合っていたが、彼は大切な用事で出かけた。

今晩、貴重な時間を過ごす為に。

孤独を押し付けるつもりは無く、ドゥエロを送り出した後にバートはその場に留まった。

クリスマスプレゼント――


"お前らは、プレゼントする相手とかいないの?"


――少年は穏やかな笑みと共に、言っていた。


"今日という日を大切にしたいじゃないか"


 大切な日に、大切な人と過ごす。

平凡だが、宝石のように輝いている。

人が求める幸福像の一つであるのは、間違いない。


「・・・僕は・・・」


 カイやドゥエロとは違う。

操舵手として余裕の無い日々を送り、女達に怯えて生きて来た。

目を背け続けた毎日。

逃げ続けた現実。

その間に――カイやドゥエロは、それぞれの現実を生きた。

辛い事も沢山あっただろうが、着実な毎日を積み重ねている。

そして今日もまた――彼らは戦いに出向いた。

今日という日を、後悔なく過ごすために。

結果は二の次、やり遂げる事だけを目標に――

タラークにいた頃は無駄な努力だと、笑っていただろう。

だが、今は――


――そんな彼らを、誇りに思える。


「・・・頑張って・・・みようかな・・・」


 立ち止まるだけの毎日。

羨望だけの苦い日々に、終止符を打つために。

他の誰でもない、自分だけの特別な時間を過ごす為に。

あの二人に胸を張って語るべく――ほんの少しの勇気を振り絞ろう。


「――よし!」


 暗がりの中から、最後の一人が立ち上がった。















"プレゼントって連想して、すぐに思い浮かぶ相手さ"


 実に不思議だと、自分でも思う。

優柔不断なのは、タラークにいた頃から自覚している。

階級に隠されていた弱さ。

裕福な家庭に守られていた心。

――そんな自分に、迷いの無い決断が出来るとは。

何か考えがあった訳でもない。

気が付けば・・・此処にいた。


「あれれ? 何しに来たのよ、あんた」

「や、やあ・・・」


 医療室。

患者の一人もいない寂しい部屋の中で、ぼんやりと少女が椅子に座っていた。

パイウェイ・ウンダーベルク。

先程まで医療室だけのクリスマスを共に過ごして来た相手。

バーネットやドゥエロ――主役が出て行って、取り残された女の子が居た。

力なく笑いかけて、バートは対面に立つ。


「ドクターなら出て行ったよ。なんか必死にさっきまで絵を描いてた。
プレゼントするって張り切ってたケロー」

「あ、はは・・・ドゥエロ君、絵をプレゼントするつもりなのか・・・」


 勢い込んで出て行ったかと思えば、そんな事をしていたらしい。

医療室で奮戦する彼を思うと、自然に笑ってしまう。

彼らしい、特別なプレゼントだった。

誰に渡すのか知らないが、ドゥエロ なりに特別な気持ちを抱いて製作したのだろう。

この世でただ一つの、贈り物とする為に。

――自分も負けられない。


「男がプレゼントなんて、ぞっとするよね。
気持ち悪くて、鳥肌がたつケロー」


 快活に少女が笑って、


「――でもドクター・・・すごく真剣だった。
喜んでくれるかなって、悩みながら描いてたの。

ちょっとだけ・・・羨ましいなって思った、かな」

「パイウェイ・・・」

「あ――あはは、自分で何言ってるか分からないケロ!
すぐに忘れなさいよね!」


 頬を紅潮させて、両手を振るパイウェイ。

自分の気持ちをつかの間でも素直に話したからだろう。

真っ赤になって照れていた。

その刹那の仕草に――


――胸を熱くさせられた。


「これ――その・・・君に・・・」

「ん・・・?」

「い、いや、その・・・何というか・・・

ぼ、僕からの――プレゼント!」


 耐え切れなくなったのか、バートは顔を赤くして持っていた物を渡す。

強く握り締めていたのか汗ばんでいるが、パイウェイにはしっかりと渡った。

呆然としたまま、パイウェイは視線を落とす。

小さな箱。

開ければ中身は――七色の光に満ちた――


「僕の会社が開発した――七色ペレット。
その、最高級品で・・・滅多に手に入らないんだ・・・

君に、受け取ってほしい」

「え――ええええええっ!? あんたが!?」

「う、うん――

その・・・君には、いつも・・・助けられてるから・・・

アンパトスでも・・・嬉しかったから・・・さ――はは」

「・・・そ、そんなの――覚えてたの・・・」


 パイウェイがまじまじと見つめる。

男からの贈り物。

出会う前なら、放り捨てて唾でも吐いてただろう。

宝石でも、玩具でもない。

男達が食べる食材。

女には何の価値も見出せない、つまらない物。

それでも・・・渡すバートの顔は真剣そのもので・・・


純粋にただ――自分の為だけに用意してくれた、贈り物。


ドゥエロのように、世界でただ一人受け取れるプレゼントを用意してくれた。

バートは自分を・・・選んだ・・・


「――ぅぇ・・・うぇぇ・・・」

「えええっ!? ど、どうして泣くの!?」

「うっさい、ばかぁ!!

男なんて――お前なんて、嫌いだケロー!!」


 感情がごちゃ混ぜになって。

小さな看護婦に抱き締められたペレットは、美しく輝いていて。

泣き続ける女の子を前に、バートは困り果てるしかなかった。





医療室の窓の外から、二人を照らす七色の光がそっと横切った。

















































<to be continued>







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