VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action17 −篭絡−










 生まれ出でた疑念は故郷から始まった。

同種族・同性別のみを尊重し、軍事国家として突き進むタラーク。

男は勇ましく崇高な存在、女は唾棄するべき鬼。

敵対する女の星に興味を抱き、疑惑を胸に生んだ。

男は下劣極まりないゴミ、女は美しく気高い存在。

男とはそんなに偉いのか?

女とはそれほどまでに美しいのか?

両国家が尊重する男・女蔑視の思想は、大きな違和感を抱かせた。

そしてマグノ海賊団と刈り取り。

異性別の問題は人間性・倫理性にまで発展し、他者が他者を踏みつけるやり方に決定的な間違いを感じた。

その源を知り、そんな道徳観が蔓延する世界に冷たい眼差しを向け、個々の在り方を考える。

いずれと曖昧に時を重ねるのではなく、今と熟考を重ねる。



――熟睡したのは何時だったか。















「・・・・・・ん・・・・・・」


 頭に重い感触、頬にぞっとする冷たさを感じて瞼を開く。

ぼんやりとした眼差しで天井を見る。

白い光が室内全体を覆っており、ほのかな明るさに瞳を細める。

元気さに満ち溢れた顔立ちが印象的な少年。

カイは自分が寝入っていた事に、数秒後に気づいた。


「モゴ、モゴゴ・・・・・・モゴ?」


 ――何だ、この声?

カイは不気味な自分の発した音声に、眉を潜める。

まるで――


何か布のようなもので、きっちり猿轡でもされているような声ではないか――


「――! ――――っ!」  


 自分の想像にありえないとばかりに笑おうとするが、変わらずもごもご言うのみ。

そういえば、起きた時から妙に息苦しくて仕方ない。

静まり返る一瞬。

恐る恐る舌を伸ばしてみると、柔らかい布の感触にぶつかった。


「もご!? もごご、もごごご、もご・・・・・・!?」


 状況を理解したカイは身体を起こそうとして――強烈な圧迫感に倒れる。

両手が全く動かない。

起き上がろうと足を伸ばすと、両足首に強固な金属音が鳴った。

必死で視線を伸ばすと、二つの足首がしっかりと手錠で繋がれている。

驚愕に目を見開く。

必死で後ろ手に固定された手首を見ると――銀色に眩く光る手錠があった。

口に猿轡。

手足に手錠。

カイはようやく、自分の現状を認識した。


(――監禁されてる!?)


 両手両足を固定されて、床に無様に寝転がされている現実。

助けを呼ぼうにも声が出ない。

完全に目が覚めたカイは、動揺を露にする。


(おいおいおい!? 洒落にならんぞ、これ!
何時の間にやられたんだ!?)


 少なくとも、昨日までは何もなかった。

自室に設けられたシークレット・ルームで夜遅くまでクリスマスについて話し合い、解散した後すぐに寝た。

監視カメラ・盗聴器は撤去したので安心していいと言われ、疲れも手伝ってぐっすり。

その後――


(・・・・・・えーと、朝っぱらから目が覚めて・・・・・・喉渇いたんで水飲んで・・・・・・
親父とかあいつらの事とか考えて・・・・・・

・・・・・・。

き、記憶にねえぇぇぇぇ・・・・・)


 カフェテリアでのんびり朝の時間を過ごして、その後何をしたか覚えていない。

少なくとも、今のこの現状は自分でやったとは到底思えない。

両手両足に猿轡まで自分でやれば、ただの変態だ。

考えられる点は一つしかない。


(うっかりカフェテリアのテーブルで寝た俺を誰かが見つけてふん縛った、か。
しかし、一体どこの馬鹿が・・・・・・)


 容疑者は当たり前だが、船内に居る人間。

男二人に女百五十人。

その誰かが犯人なのは間違いないが、問題は誰が犯人であるかである。


(――冗談、じゃないよな。こんな事・・・・・・
でも、ここまで直接的な事されたのは初めてだな)


 容疑者は誰かもそうだが、実際の犯人像を絞るのは難しい。

熟睡するカイを無情に縛る人間。

悲しいが、心当たりは山ほどある。

男二人は容疑者から外すにしても、女百五十名は正直誰でもやりそうな気がする。

さすがにマグノやブザム、ガスコーニュ辺りの幹部はこんな事はしない。

何の益もないからだ。

ただ――私怨でやったのだと仮定すると、他のクルー達は怪しすぎる。

タラークの男であると日頃から見下ろされている上に、最近の風当たりは変に強くなってきている。

仲良く出来ている一部の女の子達は別にしても、カイを嫌っている女性は多い。

その中の誰かがカイをカフェテリアで見つけ、此処へ縛って運んだのだろう。


(単独犯か、複数犯か。くそ、厄介な・・・・・・複数? 
まさか――いや、ありえる!)


 クリスマス反対派。

正式名称、カイ主催クリスマス反対派。

メンバー構成も謎な組織だが、自室に監視カメラ・盗聴器を仕掛ける実行力がある。

カイに並々ならぬ感情を抱いていて不思議ではない。

そこまで考えて、カイは思い出す。


『――監視されてるよ、カイちゃん』


 ルカが警告していた。

カイは自分の迂闊さに舌打ちする。


(朝、俺が部屋を出たところを尾けられてたのか!)


 ルカが、艦内の変化とカイへの敵視の強さを訴えていた。

タラーク・メジェールという相反する故郷を持つ限り、男と女である限り敵対は避けられないのだと。

行動は全て見張られているから、あの抜け目のないチーフは特別の部屋を用意した。

なのに、その本人がのんきにブラブラしていたのだ。

身悶えしそうな羞恥を、カイは火が吹き出そうな感情と共に味わった。


(チクショオオオオオオ、やられた!! 
こんな所に――って、ここ何処だ?)


 とにかく、現状を再確認しなければいけない。

身動き取れないこのザマではどうしようもないが、うてる手立ては多い方がいい。

転がされている状態だと見辛いが、カイは左右上下に視界を広げる。

金属質な壁が目新しい広い空間。

規律正しく並んでいる硬質の棚。

びっしりと棚の上に置かれている数々の野菜・肉・果物類。

区分されている沢山の箱には調味料のマーク。

薄い空気に満ちている白い霧。

壁に設置されている温度計。


――温度計?


何気なく見過ごしそうになって、カイはその温度計を見やる。

特に何の特徴もない、ごく普通の温度計。

表示されている温度は――


(−17.7℃・・・・・・−17.7!?)


   両手両足が固定されている為とはいえ、身体が妙に動かない。

立つのは無理にせよ、起き上がるくらい平気なはずなのに。

だが――この温度ならばその理由は理解できる。

今すぐ閉じ込められたのではない。

今までずっと、寝ていたのだ。

身体の機能が――麻痺しかかっている。

カイの全身を戦慄が走る。

今自分が何処に監禁されているのか、ようやく悟ったのだ。


(冷凍庫かよ!?)


 敵にしてみれば、うってつけだ。

テーブルで一人熟睡しているカイを運ぶのに、わざわざ艦内を運んでいれば怪しまれる。

全員が全員、カイの敵ではないのだ。

賛成派の誰かに見つかれば、即救助されてしまう。

その点カフェテリアの冷凍庫ならすぐ運べる上に、気軽に人が立ち寄る場所ではない。

そうなると、犯人が誰かは推理できる。

朝一番にカフェテリアを訪れ、冷凍庫に入室出来る者達――


(キッチンの連中が反対派か――!)


 チーフはカイの味方だが、部下達は違う。

この前セレナに話は聞いていたが、これほどの敵対行為に出るとは計算違いだった。

だが、彼女達だけではない。

普段同僚に美味しい料理を作ろうと健気に頑張るクル−達に、こんな実力行使に出れるとは思えない。

手引きしたのは彼女達だろうが、実行に移したのは別の連中。

その正体は――手錠を見れば分かる。

手錠なんて物騒な装備をしている部署は、たった一つである。


(警備のチーフ―――ヘレンも敵に回ったのか!?)


 キッチンに警備。

少なくとも二班は反対派に回った事になる。

思っていたよりも厄介な敵の出現に、カイは身を震わせる。

――別の意味でも。


(うう・・・・・・寒い、寒過ぎる・・・・・・)


 体感温度を自覚した途端、身体が急激に冷えてくる。

何しろ部屋で薄着に着替えて、半袖の黒シャツ一枚で出歩いていたのだ。

歯の根が合わず、ガチガチする。

不幸中の幸いなのは、起きるのが早かった事だろう。

床に服や皮膚が貼りつかなかった。

しかしこのまま捨てられれば、命だって危うい。

女達は男の命なんて虫けら程にしか見ていない。

メジェールの常識が、マグノ海賊団の常識が、心身を凍えさせる。


(ま、まさか、このまま放置するんじゃ・・・・・・おいおいおい!?)


 クリスマスを主催する――そんな理由で殺されるのだ。

馬鹿馬鹿しいどころの話ではない。


『――カイ=ピュアウインド殿』

(!? あそこか――!)


 冷凍庫の片隅に設置されているスピーカーとカメラ。

しっかりとカイだけにレンズを向けているところを見ると、恐らく新しく設置したのだろう。

カイを監視する、その為だけに。


『御気分は如何ですか? 己の立場を認識されていると見えますが』

(・・・・・・変声機? く、考えてやがる!)


 スピーカーから流れる音声は無機質そのもの。

言葉遣いも妙に丁寧で、個性をしっかりと消している。

正体を探るのは不可能だった。


『貴方に危害を加える気はありません。
此方からのささやかな願いを叶えて下されば、貴方を自由にするとお約束します』

(・・・・・・け、しっかり冷凍庫に放り込んでおいて、何言ってやがる)


 とはいえ、カイに反撃の手段はない。

黙ってカメラに視線を向けると、その様子を見たのかスピーカーより新しいメッセージが発信される。


『我々が貴方に、以下の要望を申し出ます。


1、クリスマスへの不参加
2、マグノ海賊団への不干渉

3――セルティック・ミドリに土下座して謝る』


(・・・・・・は?)


 思わず、目をぱちくりするカイ。

要求は続く。


『4、ディータ・リーベライを貴方のパートナーとする
5、ピョロを貴方の主人とする
6、バート・ガルサスを褒め称え、未来永劫尊敬の対象とする』

(・・・・・・・・・)

『7、アマローネ・スランシーバと、聖夜を共にする
8、メイア・ギズボーンに今度迷惑をかけない
9、警備の見回りを毎日手伝う
10、キッチンの掃除を毎日行う
11、エステの利用を今後一切しない』


 全身が震える。

――勿論、別の意味で。


『我々の要求を叶えてくださるのであれば、一つ頷いて下さい』


(お・ま・え・ら・が・・・・・・反対派かああああああああああああああああああああああああああ!!!!)


 全力で首を横に振った。





















































<to be continued>







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