VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action1 −入院−







滞在期間、一ヶ月。

入院、一ヶ月。





――カイはドゥエロ=マクファイルと言う数少ない友を心から呪った。





「……嫌がらせか、この野郎」

「自分の身体に嫌がらせをする君を思い遣っての事だ」



清潔なシーツに包まれたベットに横たわり、カイは悪態をつく。


アンパトスでの事件から半月。


ここ最近の激戦に身体がボロボロになったカイを、ドゥエロは強制入院させた。

カイは応急処置でいいと抗弁するが、ドゥエロは取り合わない。

頭脳も腕力も優れているドゥエロに、如何なる手段を用いても歯が立たない。

カイは渋々安静にしていた。


「くっそー、他の連中はアンパトスで自由を満喫してるってのに。
第一、休暇申請をばあさんに申し出たのは俺だぞ。
その俺がどうしてこんな不自由な思いをしなければいけないんだよ」

「申し出た君を労わっているんだ。この機会に身体を癒す事だ。
これも立派 な休暇だ」

「……ちっ」


 ぐうの音も出ない正論である。

休暇を申し出たカイが恐らくこの船で一番疲れている。

ドゥエロの言う通り、何か機会を設けなければカイがゆっくり出来る一時はないだろう。

少しもじっと出来ない本人の気質もさることながら、刈り取りが襲撃してきた際カイは貴重な戦力となる。

最前線で戦うパイロットとして、カイは常に危険と緊張の真っ只中に晒される。

こういう余暇は一番に利用しなければいけない人物である。

旅が始まって、三ヶ月。

マグノ海賊団とニル・ヴァーナを何度となく救ってきた男に、初めての長期休暇だった。


「ま、相棒もいい加減ガタガタだったし、良い機会だとは思うけどさ。
暇だよ、ひーまー!」


 一ヶ月、アンパトスに滞在する事が正式に決定された。

女性陣は喜びで溢れかえり、大半のクルー達がアンパトスで休暇を楽しんでいる。

穏やかな気候、平和な人々、美しい空に広々とした水の景色。

バカンスには最適で、水着を用意して砂浜で楽しんでいる。


――とカイは話でしか聞けず、遊びにも当然いけない。


悶々とした気分を胸に抱き、身体を安らげるしかなかった。


「ねえねえ。だったら、この僕が大活躍した戦いの物語を君に――!」

「何回聞いたんだよ、その自慢話!」


 隣のベットに占領する操舵手に、カイは睨みを入れる。

ユリ型に体当たりした衝撃で、全身を痛めたバートも一ヶ月の入院。

あえなくベットを並べる事となったのだが、本当に怪我人か疑わしくなるくらいバートは絶好調だった。

日夜ユリ型との激戦模様を聞かされ、もうカイはすっかり覚えてしまった。

一字一句間違えない自信がある。


「――我慢してやれ。初勝利の戦績は誰でも嬉しいものだ」

「確かに気持ちは分かるけどよ……」


 特に三等民で毎日を卑下されて生きてきたカイだからこそ、気持ちはより理解できる。

初めて手にした栄光は誰でも誇りたくなる。


「ふふん。僕もやれば出来る男だって事さ」

「やらないと出来ないだろう、お前」


 うんざりした様子のカイだが、賞賛はしている。

シールドを全面に張って、ニル・ヴァーナで突撃する。

奇想天外の発想で強引かつ無茶だが、強大な敵を倒した。

シールドの強化に懸命だったのは、船内の女達を守る為。

何より――あの極限の状況で決死の決断を下せた精神力は驚きだった。

出逢った当時のバートでは想像も出来ない。

ドゥエロもカイと同じ気持ちなのか、バートの話に文句を言わず付き合っていた。


「はーあ、たく……で。


――いい加減、お前はいつまで居る気だ」 


「ふえ?」

「お前の事だよ、赤髪!」


 隣のベットではなく、本当にカイの隣でバートと同じく輝かしい戦績を残した女の子が寄り添っていた。

それが当たり前のように認識しているドゥエロやバートは、特に口出しもしない。


「とっとと出てけ! 狭いだろうが! 」

「でも、ディータ怪我人さんだから」

「何の理由にもなってねえ!?」


 愛くるしい顔、その頬にガーゼが張られているのがご愛嬌。

丸くなって白い布団に寝かされている身体にも、包帯は巻かれている。

本人の希望で、完治するまで入院となったディータであった。


「自分のベットで寝ろと、俺は言ってるんだよ」

「でもでも、最近宇宙人さんとゆっくりお話してないなって」

「横に寝る理由になるか、んなもん!
俺の傍に居たいなら医務室の椅子でも借りてきて、傍で座ればいいだろう」


 ここで話す事なんて無い、とバッサリ切り捨てないところに関係の進展が見られる。

何だかんだ言っても、カイもカイなりにディータの好意が満更でもなかった。


「でもでもでも、暖かいし……宇宙人さんの傍だし……」


 声に力がなくなっていく。

反対する理由はあれど、自分の我が侭でしかないのをディータは知っている。

でも、傍には居たい。

温もりを感じたい。

本能と意思がせめぎ合い、ディータは小さく布団に顔を隠す。


「……」


 ちょこんと半分だけ布団から顔を出すディータに、微笑ましさを感じないといえば嘘になる。

瞳が迷子の子供のように不安で揺れている。

ここでさっさと放り出せば、もう近付いてこないだろうが――


「……はぁ。好きにしろ」

「・・・・・・ぁっ……! 
ありがとう、宇宙人さーん!」

「抱きつくな! あくまで今日だけだからな!」


 この能天気馬鹿は……、カイは内心で嘆息する。

ディータを突き放したい理由は別に彼女が嫌いだからではない。

むしろ、最近は可愛がってもいる。

問題なのはディータが無防備すぎるのと、自分自身の自制だった。



『ますたぁー』



 ――束の間の邂逅。

血で濡れた世界と、淫靡に濡れた肢体。

芳醇に乱れ合った接吻。

濃厚なる交わりは言葉を遥かに凌駕し、密接に二人を溶かした。

ねっとりと舌が絡み合い、幼くも艶やかな少女の身体を貪った。

あの時――何かが心と身体に灯った。

暴力的なる衝動、狂おしいまでの独占欲。

途中で我に返ったが、一度点火された情熱はもう消える気配も無い。

この気持ちが自身を苛むモノであるならば耐えられる。

気合と根性、意地と見栄で消し去る事だって出来る。

だが――ソレは禁断の甘い果実。

空っぽの心に染み渡る快楽を与えてくれる。

一切の副作用のない麻薬。

自我を圧倒的に蹂躙する凶暴なる力だった。

今はまだ灯火のまま。

胸の奥でひっそり光っているだけに過ぎない。

でも、その火は決して消えない。

消えないのだ。


「えへへ、宇宙人さーん」

「――っ・・・・・・」


 馬鹿、触るな!

喉元までこみ上げる罵倒を必死で堪える。

この無垢な美少女は、ただ純粋に甘えているだけ。

悪気がある訳ではない。

だけど――

熱っぽい少女の魅惑 の肌。

背中から伝わる柔らかい双丘。

優しい抱擁と女の子の甘い香り。

再点火されて、圧倒的な焔で少女を焼き尽くそうとする。

穢れを知らない女を抱きしめ、柔らかな肌を思うがまま――


「痛い、痛い、痛い!!」

「今度近づいたら引き千切ってやるからな」


 ――力強くつねって、ディータを引き剥がす。

涙目で真っ赤になった頬を擦り、抗議の視線を送ってくるが知った事ではなかった。

不貞腐れたように横を向き、目を合わせないようにしてこっそり安堵の息をカイは吐く。

・・・・・・本当に、どうかしている。

もっともそれは、


「――こいつもそうだけどよ」

「何よ、唐突にジュラをじっと見て。
ディータと好きなだけいちゃついてたらいいじゃない」


 だったら、何でそんな剥れた顔をしてるんだよ。

心の底でこっそりカイはつっこむが、口にはしない。

反対側の隣りで安静にしているもう一人のパイロット。

ディータ より火傷が酷かったそうで、一ヵ月の入院と完治までの待機命令が出ている。

戦いの後同じ医務室で寝かされている彼女を見て、一番に驚いたのがやはり短い髪だった。


『――チリチリになったから切ったのよ』


 本人はそう言っている。

ユリ型内部での戦闘の余波で髪が燃えてしまい、酷い状態になったのでやむなく切った。

あくまで、事故で仕方なく・・・・・・・切った――と。

何となく怪しいので、ディータに聞いてみる。


『ジュラの言う事はほ、本当だよ! ディータ、嘘ついてないよ!』


 ――嘘をついていると確信した。

どういう心境の変化があったのか聞きたいのに、本人は話そうとしない。

本当に何でもないのか、それとも照れ臭いのか。

ただ一言だけ、真剣にこう言ってくれた。


『ありがとう――それと、ごめんなさい』


 それだけで、充分かもしれない。

カイは納得し直して、心の中で同じく謝罪する。


――バーネットの事は、ジュラにも話していない。


察しているかもしれないが、向こうも聞こうとはしない。

何があったのか――

入院してから、バーネットは一度たりとも見舞いに来なかった。

カイならともかく、ジュラにも会おうともしない。

そしてジュラも――バーネットに会おうとはしていない。

親友だった二人 。

いや、むしろ親友だからこそ、二人は今会えないのかも知れない。

カイは天井を見つめながら、一言だけ呟いた。


「・・・・・・難しいな、男と女ってのは」

「・・・・・・そうね」


 まだまだ、答えは出せそうにも無い。

カイとジュラは一瞥し合って、ひっそりと苦笑を交し合った。

男と女の旅はまだ続く。

どうすればよかったのか、どうしなければいけないのか?

考えるのを止める事無く、これからも立ち向かっていかなければいけない。



「――そんな女性との関係にお困りの貴方の為に、参上!」



「うおっ!?」


 ベットの下・・・・・から突然湧き出る声に、カイは飛び上がる。

慌てて覗くと――


「いつからそこにいた!?」


 一人の女の子が、ピースサインで座っていた。


「朝から」


 ・・・・・・今、思いっきり夕方である。

カイは肺を全力で振り絞って、盛大なため息を吐く。


「・・・・・・イベントチーフのあんたが、此処で何やってるんだ?」

「ふっふっふ、悩める英雄にぴったりのイベント案を用意してきたのよ」


 そう言って、にこにこ笑顔でチーフはカイに一枚のパンフレットを差し出した。























































<to be continues>







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