VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action25 −音楽−




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 科学の臭いがしない国。

アンパトスの人口島を探検して、カイは一番にそう感じた。

故郷のタラークは軍事施設が建ち並んでおり、グラン・パを中心とする軍都は工場だらけだった。

塹壕のような地下に都市を建設し、男達は生活を送っている。

外的からの侵入に対する防衛用の砲座を備える軍事国家、そこはビル群や基地も多く、ネオンビジョンが彼方此方に設置されて輝いている。

昼夜姿を変えないその都市は乱立した施設に美しさを消し飛ばし、薄汚れた空気が漂っていた。

カイはあの酒場で数年来住んでいたが、居心地の良さを感じた事は無い。

故郷への愛着は無いといえば嘘になるが、人が住むには適さない荒れた都市だった。

このアンパトスと比較してますますそう思える。

石造りの家々や人々の生活空間は古びた環境を思わせるが、退廃した雰囲気は無い。

都市に住む人々に何の不自由も感じられず、喧騒に満ちていた。


「賑わってるな……祭りか何かやってるのかな?」

「さあな」

「何だよ、淡白な顔して。もっと盛り上がろうぜ」

「任務を放り出して、そんな気にはなれない」


 カイとメイア、二人はアンパトスの都市を歩いていた。

発着場からの人工島の風景を気に入ったカイに、ブザムが気を利かせてくれたのだ。

短時間だが自由を許されたカイは、メイアを誘って都市へと繰り出した。

カイの物見遊山にメイアは当然の如く断ったが、これも当然のようにカイは強引に引き連れて来ていた。


「お前ね……任務、任務ばっかりじゃねえか。
たまには肩の力を抜いてゆっくりするのも悪くねえぞ」

「緊張感を持てと言ってるんだ。
お前の気の抜けた態度を見ると、余計に落ち着いていられなくなる」


 鼻歌でも歌いそうなカイを間近で見つめて、メイアは言い放った。

お頭であるマグノを放り出して、遊び歩いている自分。

想像するだけで、頭痛と眩暈がしそうだった。

難しい顔付きで睨まれて、カイはまあまあと肩を叩いた。


「もう少し建設的に考えてみようぜ。
タラーク・メジェールから離れて何日になる?俺達」

「大よそ80日余りか……それがどうした」

「その間、俺達何やってた?毎日毎日、戦い・戦い・戦い……
命懸けで戦ってるのに、敵は少しも減らずに何回も押し寄せてくる。
頑張った割に報われない仕事なんだぜ?
俺はこんな大怪我までしちまったし」


 右目を覆う白い眼帯と腕を覆う包帯に触れるカイ。


「それなのにお前は休むな、と?
何時でも何処でも緊張感を持ち、神経を張り詰めて警戒しとけ、と?
そんな怪我に響きそうな真似をしろと言うんだな、お前は。
ふーん、へえー、ほー」

「そ、それはだな……」


 言葉が詰まる。

チームリーダーとして職務には厳しいメイアだが、部下からの信頼は厚い。

その最大の理由に彼女なりの思い遣りがあるからだ。

敵である男に対してはその気遣いは当て嵌まらないが、カイは違う。

本当に死に物狂いでこれまで戦ってくれたのは事実で、何度も助けられたのも本当だ 

今負っている怪我にしても、この星を守り抜く為に無理をした結果。

仲間の誰もが出来なかった事をカイはやり遂げた。

元気そうにしているが、半日前までは意識不明で横たわっていた身なのだ。

今もまだ安静にしていけなければいけないのに、無理をして出張っている。

ここで少しは息抜きしたいと望んで何が悪いのだろうか?


「こんな機会は滅多に無いんだぜ?
下手すれば、タラーク・メジェールに到着するまで何も無いかもしれない。
例え人の住む星があっても、刈り取りにやられた後かもしれないじゃねえか。
戦ってばっかりの旅が楽しいのか、お前は」

「む……」

「ばあさんとブザムがいいって言ってるんだ。
お前は二人の好意を無視するんだな?上司思いの足りない奴め」


 屁理屈だが、一理ある。

カイの言い様には相変わらず腹は立つが、言い返せる材料が無い。

……少し考えすぎていたかもしれない。

メイアは思い直す。

お頭と副長は確かに許可をし、ファニータと名乗ったこの星の長も容認してくれた。

カイだって別に話し合いそのものを投げ出している訳でもない。

些細な時間を大切に。

束の間の休息をこの星で過ごそうと思っているだけだ。

責任を放棄しているのではない。

そう考えると、胸の中のわだかまりは解けていく。

カイは今までだって本当に大切な事は決して間違えなかった。

二番や三番は失敗しても、一番は必ず成功させる。

そうして、この男はお頭や副長にさえ一目置かれている。


「分かった……付き合おう。
ただし、時間が来れば強制的に連れて行くぞ」

「よーし、よーし。お前も物分りが良くなってきたじゃないか」


 ……聞き捨てならなかった。


「物分かりが悪いのはお前だ」

「いーや、お前。
俺が何か意見言ったら、すぐ反対してたじゃねえか。
最近、余裕が出てきたんじゃないか」

「余裕・・・・・・?」


 怪訝な顔をするメイア。

毎日職務に忠実で、仕事への姿勢は少しも衰えていない。

特に最近は刈り取りの激しさに備えて、より一層戦いに備えて熱心にやっている。

余裕と言う言葉は、自分に当て嵌まらないと思う。


「少し前はこう・・・・・・眉間に皺寄せて、セメントで固めたような顔ばっかりだったぜ」

「・・・・・・そんな顔をしてたか?」

「してた、してた。
俺はタラークの男だから話すのを嫌がるのは無理もないけど、仲間だってお前には話し掛けづらかったんじゃねえか?
赤髪だってお前に声かけられる度にびびってたじゃねえか」


 そんなに恐れられていただろうか、メイアは悩む。

ディータが新入りとしてチーム入りしたのは二ヶ月半前、カイと出会った時期に重なる・・・・・・





『訓練とはいえ油断はするな!これは遊びではない!』

『ご、ごめんなさいぃ〜・・・・・』





『何をしている、ディータ!チームから離れるなとあれほどいったはずだ!』

『ご、ごめんなさい〜〜〜〜
まだドレッドの操縦に慣れてなくて、その・・・』





 ―――注意ばかりしている自分と恐縮するディータ。

仕事の話ばかりで、プライベートには一切関わらなかった。

関わろうともしなかった―――

ディータは実戦経験に乏しく、ドレッドの腕もまだまだ未熟だ。

厳しく指導しなければいけなかったのは確かだ。

でも―――新入りだからこそ、戦いによる恐怖や悩みも沢山あった筈。

自分の部下のそうした心の悩みに、何一つ真摯に向き合おうともしなかった・・・・・・


「そう真面目に考えるなって。昔のお前はそうだったってだけ」

「今も昔も、私は何も・・・・・・」

「こうして、俺に付き合ってくれてるじゃないか」

「・・・・・・」


 共に居る―――なるほど、ほんの少し前にはありえない事態だ。

カイと出会う前の自分なら、何が何でも拒否していただろう。

嫌だとは思わなくなっているこの現実が、何より自分の心境が変化している証拠だった。

そしてそれは―――


(・・・・・・この星ではそれが当たり前なのだな)


 何気なく目を向けると、一組の男女が仲睦まじく歩いている。

年頃は自分達と同じくらいだろうか?

二人は顔を寄せ合って、何かを話しては互いに微笑みを向けている。

タラーク・メジェールの人間が見れば卒倒しそうな光景だった。

男と女が仲良くしているなんて・・・・・・


(・・・・・・あ・・・・・・)


 どちらともなく、二人は手を取り合う。

男の手と女の手。

強すぎず、さりとてしっかりと手を握って歩く二人。

柔らかく手を繋いで歩く二人はとても厳粛で―――至福の時間の中にいるように見えた。


(・・・・・・)


 頬が熱い。

異常な光景を目にしている筈なのに、困惑に似た憧憬を感じずにはいられない。

メイアはじっと、二人を見つめ続けて――――


「何ぼけっとしてるんだよ」

「ちょっ―――あ」
 




 雪のように白い少女の指に――――少年の手が触れる。





「町中でお祭り騒ぎみたいだから、色々見て回ってみようぜ。
店も沢山あるから買い物出来るかもしれないし」

「カ、カイ、お前・・・・・・て、手を―――」


 離せと言う前に、カイはしっかりと握り締めた。

気遣いも何もない表情に、思惑や悪戯心を感じさせない。

雰囲気に触発された訳でもない、ごく自然な態度。

心が真っ白に染まっていく――――


「時間も少ないから、手っ取り早く回らないとな。
気合い入れて行こうぜ」


 少女は少し冷静さを取り戻していたが、握られた手は温かさを伝えてくる。

痛いほど強く、温かさは熱さに変わる。


「・・・・・・うん」


 熱に浮かされたように、少女の白い頬に頬に赤みが差していた。

困惑は熱を帯びて、平静さを残らず奪い取っていく。

大人しくなったメイアをそのままに、カイは機嫌良く鼻歌を歌う。


「――――」


 喧騒が絶えない中、カイの明るい歌はメイアに耳に届いた。





(――――え)





 フレーズが頭によぎる。










「――――――」

『I see trees of green, red roses too』



「――――――」

『I see them broom for me and you』



「――――――」

『And I think to myself』





 そして最後の一小節。















『―――――』

『what a wonderful world』















「・・・どうして」

「青髪?」


 突然足を止めたメイアに、カイは驚いた顔で振り返った。

心なしか、彼女の肩が小刻みに震えているように見える。

何かあったのかと尋ねようとして、カイは不意に胸倉を捕まれた。


「何故、お前がこの歌を知っている!」

「苦しい、苦しいって!!こ、この歌ってこれは・・・・・・」


 今までの雰囲気が嘘であったかのように、冷たい空気が二人の間を包む。

メイアの瞳に浮かぶのは激しい不信。





まるで――――出会った頃のような敵を見る目。





何故、突然・・・・・・?

カイは訳が分からなかった。


「お、お前、この歌を知ってるのか?」

「・・・・・・」


 弾かれたように、メイアは背を向かって走っていく。


「俺は――――お、おい!」


 ―――今後はうまくやっていけそうだと思っていた。

笑顔こそ無いが、メイアは少しの優しさを向けてくれていた。

今日この瞬間も町を回って、一緒に楽しもうと考えていた。

もっと仲良くなれるかもと、期待だってしていた。

なのに・・・・・・それが、それが―――――





「・・・・・・あいつ、今・・・・・・泣いてた・・・・・・?」





 何が悪かったのか、分からない。

ただ、言える事がある。

この二ヶ月半の積み重ねは、あっという間に壊れた。

メイアが好意を向けることはもうないだろう。

ジュラと同じく――――





・・・・・・オレ達の関係は・・・・・・振り出しに戻った・・・・・・





 分かり合える事の無かったあの頃のように。





 





 




 振り払われた手の平が・・・・・・痛かった。



 





 














































































<to be continues>

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