VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action3 −頼人−




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見慣れた通路でも、久しぶりに見ると新鮮に感じられる。

部屋に閉じこもって数日余り―――

トレードマークの黒シャツとジャケットを羽織って、カイは久方ぶりに表に顔を出す。

顔を洗って着替えれば、それだけで濁っていた心も透き通っていく。

カイは身体を捻って関節を鳴らし、身体の状態を確かめる。

シャツの下には包帯が巻かれている。

肩の負傷はメジェールの医療技術とドゥエロの手腕で治療が済んでおり、痛みも無い。

医療施設をカイが使用するのは本来禁じられているが、それは今はあくまで建前。

ドゥエロはおろか、パイウェイも拒否したりせず治療してくれた。

お陰で日常生活にも不自由はしなくなり、包帯は念の為でしかない。


「風呂入って、飯だな。
ご飯は前焚いたのを食べて、おかずは残り物もらって・・・・」


 慎ましい生活だった。

マグノ海賊団が保有する一切の食料に手が出せないカイは、自給自足で頑張るしかない。

人間が生きていく上で最低限必要なのは衣・食・住。

衣服は手持ちの服と旧イカヅチに残されていた士官候補生の衣料品。

住居は監房を間借りしている身。

食料はミッションで手に入れた物資関係を保管している。

この物資関係で、実はドゥエロ達が裏で手を回してくれていたのをカイは後に知った。





『使えそうな物資は沢山あったよ。食べられる物はちゃんと冷凍庫に入れてる』

『ミッションとこの旧艦区のデータを利用して、検査済みだ。
部品関係はパルフェに回しているので、君が後で確かめてくれ』





 と、バートとドゥエロの弁。
彼らはこうも語る。





『本やデータベース資料も残されていた。
その中には男女関係が記載されているものまであった。
軍事機密までは無いが、地球の文化や伝統も幾つか知り得た。
貴重な情報源だ』

『えへへ、お頭や女共には内緒にしてあるから安心しなって。
僕とドゥエロでレポートにでもしておいてやるから、後で見てみな』 


 


 正直、驚いた。

まさかここまで物資に時間を割いて、その価値を引き出してくれていたとは―――

裏方である自分の役割をきちんと知っていなければ出来ないだろう。

バートもしっかり補佐してくれたのは嬉しかった。

それに、裏で頑張ってくれたのはこの二人だけではない―――





『ごめん、発信機まで見破られたわ。
盗聴器も仕掛けたんだけど望み薄かも・・・・』

『もう・・・腹が立つ男だわ。
こうなったら船を爆発させればよかったんじゃないの、バーネット』





 カイを気遣い、二人――ジュラバーネットもいつもより優しい。





『その代わり、皆にはちゃんと説明しておいたから。
・・・・分かってくれない人もいたけど、あんたの事心配してた娘も沢山いたわ』

『チームの皆、見舞いに行ってやれってしつこいのよ。
だからジュラは来てやったんだからね!
そ、その辺勘違いしないでよ!』





 華を咲かせるのは役者達。

でも舞台を成り立たせていたのは裏方なのだ。

ガスコーニュの言葉が身に染みた・・・・


「お節介だよな、あいつらは。
・・・・俺はそんな事も知らなかった」


 嘘だ―――

見ようとしなかったら、ちゃんと見えなかった。

本当はとうの昔に分かっていた事だった。

海賊にも優しい人は沢山いる。

自分を――――想ってくれる人がいるのだと。

カイは通信機を取り出して、メールフォルダを展開する。

最新着信の日付けは今日、起床時間の僅か後。

この一通のメールがカイを表に出してくれた・・・・



『起きてる、カイちゃん?見せたいものがあるの。
よかったら、ブリッジに来てくれると嬉しいな』 


 差出人はエズラだった。











 




 ここ数日で、ニル・ヴァーナ艦内は平穏を取り戻していた。

刈り取りによる襲撃もなく、ミッションやラバット訪問事件での尾もひいていない。

それぞれが通常業務に戻り、変わりない日々を迎えている。

―――かのように見えた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 ニル・ヴァーナ首脳部・メインブリッジ。

全員きちんとシートに座って、自らの職務に励んでいる。

目の前のコンソールに向かって、コツコツと仕事をこなす。

元々マグノが乗船するクルーは皆おしなべて優秀で、仕事によるミスも少ない。

安心して船を任せられる面々ばかりで、その分ではマグノも信頼を寄せている。

今日も懸命に仕事を行うクルー達。

――――ただ、それだけだった。


(・・・・ふう・・・・)


 艦長席に座るマグノ。

通常業務に関わる事のないマグノは、クルー達の仕事振りを目にして人知れず嘆息した。


(・・・暗いね、皆・・・)


 職務中の私語は勿論規則上禁止されている。

規律に厳しいブザムがいる限り、羽目を外す真似は出来ない。

そう言う意味ではいつもと同じく静かな職場なのだが、空気の違いを敏感に嗅ぎ取っていた。

覇気が無い―――

操舵席にいるバートは元来口うるさい性格なのだが、不平不満すら口にしない。

空き時間を見つけては喋るアマローネ・ベルヴェデールは互いに見向きもしていない。

セルティックはクマの縫い包みを着ているのは相変わらずだが、不機嫌な雰囲気に満ちている。

そんな皆の様子を、ハラハラと見守るしかないエズラ。

仕事上真面目にしているがゆえに、ブザムも文句は言えない。

重苦しい空気が蔓延し、マグノは肩を叩くしかない。


(まだ落ち込んでいるのかね、あの坊やは・・・・)

原因は分かっているのだが、かといってどうしようもない。

失意に陥っているのがカイなら、立ち上がるのもカイの役目だ。

自分で何とかしない限り、カイはいつまでも成長しない。

カイはもう切っ掛けを掴んでいる。

川辺での姿を見続けて、カイはもう大丈夫だと思えた。

あれはやはり空元気に過ぎなかったのか―――





「んー?何だ、この湿っぽさ。
あぐあぐ・・・・人様が遊びに・・・もぐもぐ・・・来てやったのによ」





「カイ!?」

「カイ!?」

「・・・ぁ・・・・」

「カイちゃんっ!?」


 三人+動物一名が即座に振り返る。

ブリッジの出入り口より、口一杯に頬張りながらカイがずんずん入ってくる。

自分が立ち上がっているのにも気付かず、ベルヴェデールは声を張り上げる。


「し、湿っぽいのはあんたでしょ!もう・・・・・
大体何よ!そのオニギリの山は」


 片手に持っている大きな白い皿。

山のように積まれているホカホカオニギリを片手に、カイはにこやかに言った。


「カフェに寄った時もらったんだ。
腹減ったんで何かないか聞いたら、御飯が余ってるって言ってたからよ」


 そう言いながら、拳大のオニギリを一口で食べるのはある意味精悍だった。

美味しそうに食べるカイの表情に苦悶の色はなく、顔色も健康そのものだった。

ベルヴェデールはがっくり肩を落として、自席にもたれかかった。


「はあ・・・・馬鹿馬鹿しい。
元気いっぱいじゃない、あんた」

「ばーか」


 どこか清々しい顔つきで、カイは言った。


「元気のないヒーローなんてかっこ悪いじゃねえか」


 その一言で・・・・マグノは安堵した。

変わった――――そして、変わっていない。

表面の穏やかさと内面の激しさを持ち、尚且つその身に何も気負っていない。

夢への激しい願望と現実への切り詰められた切実さが消え去り、その言葉はただユメに捧げている。

子供の無邪気さを残し、カイは大人の思慮を手に入れている。

他人を―――女を拒絶していた空気が性質を変え、逆に惹き寄せられるかの如く温かい。

それでいて―――カイはカイのままでいる。

たった数日で・・・・あの戦いで、カイは―――

マグノは何も言わず、カイをそのまま見つめている。


「・・・悪かったな、色々心配かけて。もう大丈夫だから」


 安心させるようにそう言って、カイはそのまま床に座る。

皿を床に置いて、艦長席のすぐ下で背をもたれさせてぐっと身体を伸ばした。

その様子を見て、アマローネはクスっと笑う。


「怪我はもう大丈夫なの?」

「数日安静にしてたから問題なし。
ドゥエロに出撃の許可ももらえたから、連中の襲撃があっても出れる」

「ふーん、なら問題ないわね。でも完治するまでは用心しなさいよ。
カイは戦う度に怪我するから」

「おう、任せろ」


 話しながら、カイは本当につくづく自分が嫌になった。

ちゃんと話せるじゃないか。

色眼鏡無しできちんと向き合えば、アマローネはこんなに魅力的だ。

言葉の一つ一つに、自分の身を案じる心の欠片がある。

結局―――偏見があったのは自分だったのだ。


「・・・・ん?」


 視線を感じて振り返る――― 

自分の席から一歩も動かず、セルティックがカイを見つめていた。

いつものように、カイにかける言葉はない。


「・・・・へ・・?えーと・・・


メールは返事くらいするものです。
だから貴方が嫌いなんです。


って、ごめんごめん。気付くの遅かったんだって。
え・・・?


メールは毎日閲覧が当然です。
少しも直りませんね、その非常識なところは――


  き、厳しいなクマちゃんは」


 伝わる気持ちは確実にある――― 

ブリッジに笑顔が戻る。

水に流されるように洗われていくのを察し、ブザムは静かに微笑んだ。

今ばかりは注意は無粋だろう――


「そういやおふくろさん。俺に見せたいものがあるって」


 メールの話で思い出し、カイは顔をくるりと向ける。

にこにこと様子を見守っていたエズラはうーんと考えこみ、ブザムを見つめる。

視線で問われたブザムは小さく頷いて、肯定の意を示す。

承諾を得られ、エズラは鼻歌まじりにコンソールを操作する。

同時に中央モニターが点滅し、眩い光を放って画面を映し出す。


「おおおおっ!!・・・・・こりゃあすげぇ・・・」

 カイはモニターに―――その光景に目を奪われた。

































































<to be continues>

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