VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action54 −化粧−




---------------------------------------------------------------------------------------------



「・・・だ、誰だお前・・・!?」














 不覚にも腰を抜かしてしまった。

豪快に仰け反って、床に転げてしまった自分が情けない。

医務室に入った後、何とか落ち着きを取り戻してようやく上げた一声がそれだった。

医務室には主たるドゥエロはいない。

そう思い込んで、何の警戒もなく入室したのがそもそもの間違いだった。

確かにドゥエロはいなかった。

いなかったが――――そこにはいた・・

医務室の中央にどこか堂々たる姿勢で立っている人物―――

いや、人と呼んでいいものかどうか判別出来ない。

姿形は人であり、医務室に相応しい看護服をその身に纏っている。

カイよりずっと小さな体格で、可愛らしいと言える年齢のように見える。

問題なのは――――





「し、失礼な奴ね!パイの顔を忘れたとは言わせないわよぅ!」





「・・・パイ?
・・・・・パイウェイ・・・・パイウェイ!?」

「そうよっ!何度も会ってるじゃない!!」


 頭から湯気が噴き出るほどに、医務室唯一の看護婦であるパイウェイが怒りを露にする。

カイはそんなパイウェイを驚愕の眼差しで、じっと見つめる。


「ほんっと!男なんてやっぱり最低ね!
人を見るなり悲鳴上げるし、パイの事誰?とか言っちゃうし・・・・」


 ぶつぶつと文句をこぼすパイウェイだが、カイの耳には全く入っていない。

ただじっと―――その顔を見つめ続けていた。

何の感情もなく、ただじっと―――





「・・・・ぷ・・・・・」





じっと―――





「・・・・くくくく・・・・・あはははははははははははははっ!」





 突如大笑いしたかと思うと、そのまま派手な音を立てて床に転がる。

心底愉快顔を真っ赤して、パイウェイを指差して大笑いする。


「お前、何だそのツラ!ははははははははっ!!」

「ちょ、ちょっと何笑ってるのよぅ!」


 笑われて、頬を赤らめて怒るパイウェイ。

しかし今のカイはそんな抗議の声も耳に入らず、ただひたすら大声を上げて笑っていた。

ポイントはパイウェイの顔―――

無論普段の彼女の顔つきは魅力があり、微笑みを浮かべると幼女の可愛らしさが増す。 

言動や性格が少し大人染みているが、それも周りの環境ゆえの適応性に過ぎない。

小柄な容姿でのナース姿は似合っており、他人をチェックする奇妙な癖がなければマスコットとして扱われていたかもしれない。

でもそれは、あくまで普段の場合。

今の彼女は違った―――


「こ、この大人の魅力が分からないなんて・・・やっぱりあんたっておかしいわ!」

「くくく・・・何が大人の魅力だよ。顔に変なの塗りたくりやがって・・・・・
ぷ、がはははははははっ、ひい・・・腹いてーー」

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 パイウェイはかねてより興味のある物があった。

子供と大人を区別する道具―――区別出来ると思っているアイテム。

それは化粧品だった。

年頃の女性が多いマグノ海賊団内で、パイウェイは群を抜いて幼い。

その為いくら頼んでも触らせてもくれず、彼女は内心一人で不満を抱えていた。

そんな彼女の前に現れたのが、此度の訪問者ラバットである。

多くの品を抱えて商売に来た彼だが、どこから手に入れたのか化粧品も持って来ていた。

本来手に入れられる物ではないが、幸いにも品物は全て無料。

休憩時間を利用してこっそり店を訪れたパイウェイは、化粧品を混雑にまぎれて持ち去った。

医務室にドゥエロはいない。

パイウェイはその時間の隙間を最大限に活用して、内心の興奮をそのままに自らの顔に化粧を施した。

大勢の綺麗な仲間達に追いつけるほど、綺麗な自分を夢見て―――

無邪気な悪戯と言えばその通りだ。

大人に憧れて、誰にも内緒で化粧品に手を伸ばす。

規則に厳しいブザムが耳にしても、微笑ましいと許しはしなくても黙認してくれるだろう。

そんな少女の幻想だが―――――幻想はあくまで幻想だった。

思い描く理想と成り立つ現実は合致するとは限らない。

そもそも誰にも内緒で化粧した為に、誰からもそのやり方を教わらなかった。

化粧は、ただ顔に塗れば良いというものではない。

化粧品は種類・数が非常に多く、その人その人によって種別も異なってくる。

うまく施せば立派な美しさを約束してくれるが、一つ間違えるととんでもない事になる。

パイウェイはその悪い典型だった。

持ってきた化粧品を片っ端から塗ったのか、化粧というより塗装に近い。

顔はびっくりするほど真っ白で、対照的に唇はルージュで真っ赤に染められている。

本人は魅力的だと思っているのだろうが、肝心の結果が結びついていない。

今のパイウェイの顔を、カイが笑うのも無理からぬ事だった。

ひとしきり笑って、カイは腹を痙攣させつつ立ち上がった。


「あー、笑った笑った。才能あるな、お前。
艦内をその顔で歩いたら大ウケだぞ」

「嫌味な奴ね・・・・・お前なんか嫌いケロ!」


 むーとした顔で、パイウェイは愛用のカエルで声真似をする。

ムキになればそれもそれで面白いのだが、パイウェイ自身が気付いていない。

ようやく笑いの衝動が収まった所で、カイはここへ来た目的を思い出す。


「・・・でも、やっぱいないよな・・・」


 一応見渡してみるが、医務室にはパイウェイ以外誰もいない。

予想通りではあるが、それでもがっかりはする。

やはりあの得体の知れない声は、幻聴に過ぎなかったのだろうか?

むしろ信じる根拠が皆無である以上、疑ってかかるのは当然だったかもしれない。

余計な時間を割いてしまった事に、カイは嘆息するしかない。

そこへ―――


「いない?ドクターでも探してるの?」


 カイの呟きを聞きつけたのか、パイウェイは見上げてくる。

パイウェイは今回の騒動に関して何も知らない。

現状で何が起こっているのか、理解の一つもしていないだろう。

どうしたものかと考えて、説明するのも止めにする。

こいつ、話したら絶対関わってくる―――

好奇心旺盛な看護婦相手に、下手な労力を使いたくない。


「ドゥエロじゃねえよ。赤髪を探してんだ。
ちと・・・用事があってな」


 かといって、嘘をつくのも変なのでぼかして答える。

ここにいない以上、早く出て行って探しにいかないと行けない。

時間のロスはさらなる騒動を引き起こし、最悪ディータの安全を脅かす。


「・・・邪魔したな。俺は忙しいから行くわ」


 これで完全に消息は途絶えた。

やはり、艦内を宛てもなく彷徨うしかないのだろうか。

一つ一つ区域を網羅していくだけで大変な苦労だが、そうもいってられないだろう。

後期待出来るのは、仲間の発見の連絡だけだ。

手掛かりはないと知り、カイは踵を返す。















「なーんだ、ディータを探してたの。
残念だったわね、ディータならさっきあの男と一緒に―――」















 その言葉が最後まで届く前に、カイは一瞬で駆け寄る。


「知ってんのか、お前!?」


 ぐいっと小さな肩を掴んで、カイはパイウェイを引き寄せる。


「ちょ、ちょっと!いたたたたた・・・・痛いケロー」

「どこだ!?あいつ、どこで見掛けたんだ!?
ラバットと一緒だったのか!?」

「は、離してよ!もう!」

「あ、ごめんごめん・・・・」


 本気で痛がっているのが分かり、カイは慌てて離した。


 パイウェイは半泣きで痛そうに肩をさすって、涙目でカイを見上げる。


「信じられない奴だケロ!女の子はもっとデリケートに扱うべきケロ!」

「悪かった、悪かった。後でお詫びでも何でもするから・・・・
赤髪とラバットがどこに行ったのか、教えてくれないか」


 思わぬ所で見つけた手掛かり、ここで手放す訳にはいかない。

カイはすがりつく思いで、パイウェイに懇願する。

その余りの必死さにパイウェイは溜飲を下げ、悪戯な微笑みでカイに近付く。


「ふーん、気になるんだ・・・・ディータとあの男との関係」

「は?
ま、まあ・・・・気になると言えば気になるけどよ・・・」


 きょとんとした顔で答えるカイに、ふふりと笑うパイウェイ。

幼いながらに悪戯心溢れるその表情は、あからさまに好奇心に満ちていた。


「いつも嫌がってたくせに・・・・他人には取られたくないのねー。
ふふ・・・チェックチェック、と」

「いや、てーかお前の言ってる事意味不明だし。
それより居場所を早く!礼なら後でいくらでもするからよ!」


 焦燥に胸倉を掴んで強引に聞き出したい衝動に駆られるが、唾を飲んで抑える。

力ずくの行動に意味はない。

マグノ海賊団と過ごした二ヶ月で、それは思い知っている。

手を合わせて拝むように頼むと、しょうがないわねとパイウェイはもったいぶって答えた。


「ヴァンガードのある格納庫の方に行ってたわよ。二人っきりで,ね・・・・・・
ふふふ、怪しい感じがしない?」

「格納庫だな!でかした!」

「あ、ちょっと!まだ話は終わって―――」


 パイウェイは言葉を投げかけるが、もう聞いてはいない。

そのままダッシュして医務室を飛び出し、カイは通路を駆け抜けて消えていった―――

初めは呆然とした様子のパイウェイだった、ふと考える。





(・・・・怪しい、怪しいわ。ここまで必死になるなんて・・・・・・
!?まさか、あいつ―――)






 パイウェイの脳裏にある考えが閃く。

ディータを探しているカイ。

今日来訪して来た変な男と一緒に歩いているディータ。

これが意味するのは―――









 


 



「三角関係、誕生!?きゃーーーーー、刺激的だケローーーー」


















   彼女の考えはこうだった。
 




 ディータに毎日言い寄られていたカイも、実はまんざらでもなかった。

当然だ、ディータは可愛い。

自分の大切な親友なんだから、男でも好きになってしまうだろう。

でもカイはあの性格だから言い出せないでいたのだ、きっと。

そこへ現れたのが強力なライバル。

親密になっていく二人に、カイは嫉妬した。

それであんなに必死になって探してる・・・・・

と、なれば今から始まるのは当然――――















修・羅・場♪















「大変、大変!こんな面白いイベントを黙ってみている手はないケロ!
早速イベントクルーに連絡して、全艦放送決定!
みんなに連絡、連絡と・・・・・」





 こうして―――





 隠し通していた陰謀の数々が、一気に全域に広まる羽目になった。

確かに彼女の期待には応えられるだろう。

今から始まるのは文字通り――――ー

































 修羅場・・・なのだから。





































































<to be continues>

--------------------------------------------------------------------------------




小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     










[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]