VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action51 −天啓−
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一刻の猶予も無い。
簡単な作戦会議を終えて、カイはメイアとパルフェに別れを告げて走り出す。
事態の成り行きがまだ少し理解しきれてないが、ラバットを見つけるのが先だった。
「他の女達に見つかれば厄介だからな・・・」
さっきから走ってばかりで、噴き出る汗は止まらない。
身体中が熱を持っており、肺が休息を訴えている。
今日一日、本当に慌しさの連続のように思える。
漂流してミッションに辿り着いたかと思えば、すぐに敵襲。
セキュリティメカを倒せば、ウータンからの奇襲。
倒したら倒したで、今度は内へ入艦して誘拐騒ぎ―――
いい加減にしてくれと、心の底から言いたかった。
「くそー、無事でいろよ本当に・・・・!」
メイアにはああ言ったが、あくまで可能性にすぎない。
ラバットがディータに手出しするとは考えにくいが、そもそもラバットの正体を掴んでいない。
何があるか分からない以上、一刻も早く賭け付けなければいけなかった。
がむしゃらに走る事、十分―――
カイは自分の愚かさに気付いた。
「・・・・どこにいるんだ、あいつ・・・?」
潜伏場所が分からない―――
拉致されて連れ出されてから、考えられる範囲でも数十分は経過している。
船内に居るのは間違いないが、船内の何処かが判明出来ない。
考えられる脱出ルートは押さえているが、肝心のラバットが網にかかるかどうかは別だ。
俺が考えられる予防策を、ラバットが看破しないとは考えられない。
(くそ、厄介な・・・・)
改めて面倒な男が敵に回ったと思わされる。
英雄になる為に旅に出て、一番手強い相手かもしれない。
あの刈り取りよりも―――
休む間も無く走りながら、カイはそう思わざるをえない。
例えば刈り取り連中が襲い掛かっても、困るのはその戦力差だ。
一体一体が脅威なのではなく、数の暴力が手強いだけ。
新勢力が次々と押し寄せても来るが、能力さえ判明すれば裏が取れる。
しかし今回の相手は人間で、しかも頭が良くて機転も利く。
殺す事は出来ず、かといって取り押さえる策が思い付かない。
こっちが何か考えれば、向こうだって考える。
行動に移せば、向こうも対処を変えて行動にかかる。
行動力や頭の良さはおろか、こうした修羅場での経験値は雲泥の差だろう。
正面対決は避けられないと覚悟を決めているが―――
「んな事より、場所だ場所!」
ニル・ヴァーナ船内は広い。
全長三キロは伊達ではなく、施設や部屋数は数え切れない。
通路は縦横無尽に走っており、判明していない区域も存在する。
そもそも二つの母艦クラスが融合して出来た戦艦である。
150名以上を収容して尚有り余る広さを保有する船内を、まさか全て見て回る訳にもいかない。
今日はうんざりする程、カイはその広大さを身体で味わっている。
内部構造を知らない者にとっては、この船はまさに巨大迷路である。
そこまで考えて、カイはふと思い立つ。
「―――って事は、あいつだって把握出来てないんだ。
あてもなく逃げ回れば不利になるのはあいつじゃねえか」
ラバットは今日初めてニル・ヴァーナに乗り込んで来た。
半日で全区域を網羅出来たら人間じゃない。
案内図に沿って進んでも分岐点が激しくて、どこがどこかも分からなくなってしまう。
船内が無人であるならともかく、この船にはクルーも大勢居る。
逃げた先で見つかれば、騒ぎになって余計に動きが取れなくなる。
「・・・・変だな・・・・
何で逃げたんだ、あの野郎・・・・」
パルフェに欠陥パーツを渡した事実がバレて逃げた―――
一理はある。
偽パーツを売りつけた事がバレれば、立場は悪くなり船に居辛くなる。
目的を果たすのも困難になるだろう。
それは分かる。
しかしだ。そう、しかし―――
逃げてどうなる?
ディータを人質にして逃げれば、立場は悪くなるなんてものじゃない。
捕まれば監房行きか、身包み剥がされて放り出される。
マグノ海賊団が甘い連中ではない事は、マグノやブザムを見れば分かる筈だ。
船内は彼女達の領域―――
不利な条件で戦いを挑むような真似をあの男がするだろうか?
(・・・・そうだよな・・・・・)
パーツの件にしてもそう―――
別に白を切ればいいだけだ。
例えば間違えて持ってきてしまったとか、壊れているのに気付かなかったとか、言い様がある。
白々しくても、結局は証拠は無い。
疑いは深まるが、わざわざ人質を取るよりはずっと労力も負担も無い。
こんな行動を取ってしまえば、はっきり言ってリスクが増すだけだ。
人質を取れば有効的に物事が進むとでも思っているのだろうか?
確かに、頭領のマグノがディータを見捨てるとは思えない。
解放を要求する換わりに、ラバットの要求を飲むとも考えられる。
しかし―――どう転んでもラバットには不利益になる。
マグノ海賊団を敵に回すのはもう間違いない。
ディータが解放されれば、即座にその牙を向けるだろう。
まさか単体でマグノ海賊団に勝てるとは思ってはいまい。
ラバットも只者ではないが、マグノ達だってそうだ。
タラーク・メジェールすら手玉に取り、近隣を荒らしまわって多くの人を助けてきた義賊―――
その強い覚悟や志しが、今の自分を悩ませている。
一概にマグノ海賊団を悪を決め付けられず、敵対出来ない理由もそこにある。
(まじで分からんぞ・・・・
何だッてんだ、あいつは)
ようするに―――
そんな彼女達を敵に回してもかまわない。
大きなマイナスを補えるプラスが、ラバットの計算にある。
「ばあさん達を敵にしても得たいモノ―――
何だ、それ・・・・?」
考えられる最有力候補はペークシス・プラグマだ。
あの結晶体を目にした時、ラバットは豹変したという。
その様子を目にしていないカイにはよく分からないが、メイアが言うには驚くべき光景だったと言う。
あのペークシスにはラバットを驚愕させる何かがある―――
それを手に入れる為にディータを攫った?
なるほど、理屈は成り立つ。
ペークシスに関しては全然知らないにしても、その応用力は無限大だ。
自分だって兵器利用している上に、あのディスクで更なる進化の可能性を感じた。
船を融合させて、戦闘機を合体させる非科学的な能力―――
その価値は天文学的だろう。
何が何でも手に入れたくなり、何ふりかまわず行動に移した―――
(・・・・まあ、そう考えれば不思議じゃねえ。
不思議じゃねえが・・・・・)
妙な違和感をカイは感じた。
理由としては成立するのだが、ラバットという人間性をふまえると変な気がする。
ペークシスを手に入れたいのなら、別にその場から離れる事は無いのではないだろうか?
その場の人間全員を人質に取ればいい事だ。
一人に限定する必要も無い。
メイアはパイロットながらに鍛えているが、そんな様子を一切見せないように擬態している。
あの場にいた三人は見た目は全員無害―――
拳銃でも突きつけて脅し、ペークシスを運ばせるとか出来た筈だ。
第一、逃げるという時点で既におかしい。
時間が経てば経つ程、不利になるのはあっちだ。
時間稼ぎすればこっちだって有効な手立てを考えるし、騒ぎが大きくなってしまう。
ペークシスを手に入れて離脱するなら、水面下でやり取りした方が安全性は高い。
「うがああああああっ!!!!
分からん!全っっ然、分からん!!」
考えれば考えるほど、意味不明な行動だった。
ペークシスと一口に言っても、その大きさは人間一人が担げる代物じゃない。
持ち去られたら持ち去られたで、こっちは船が停止して身動きも取れなくなる。
ペークシスは船の動力源―――
失えば宇宙で漂流するしかなくなり、下手をすれば全員死んでしまう。
人質一人の命と、船内全員の命。
秤にかけられる問題ではないが、選ばなければいけないとしたら―――
やっぱり、この逃走劇は意味が無い。
「・・・・・頭痛くなってきた。考えていても仕方ないか・・・・
とりあえず奴が何処に行ったか、だ」
ペークシスが目的ならその場に残る。
離れたのにも理由があるのだとすると、ラバットが目指す先は何処だろう?
考えたくないが、潜伏するのだけが目的だとすると探しようが無い。
向こうはその辺の部屋に隠れればすむ話だが、こっちは一から十まで探しまくらないといけなくなる。
こんな広い船内を隅々まで探さないといけないのだと思うと、心の底からうんざりした。
「せめてあの馬鹿から何かリアクションあればな・・・・・」
ディータは恐らく抵抗しなかった―――
そう考えれば、メイアやパルフェが気付かなかったのも分かる。
黙って連れ去られたか、あるいは向こうの意思に従ったか。
その辺は何とも言えないが、誘拐されたと言うよりは一緒に行動していると言った方がいい。
無論、証拠は無い。
メイアやパルフェがぼんやりしていた、もしくは他に意識を取られたから気付かなかったとも考えられる。
誘拐と決めて作戦を練って動いているのは、あくまで最悪を考えての事だ。
だがもしディータに考えがあって共にしているなら、何か手掛かりを残していないだろうか?
「せめて場所を特定できればな・・・・・」
ぼやいていても仕方が無い。
カイは走る足を緩めず、とにかく片っ端から探す事にした。
じっとしているよりはいい、ただそう思っての行動にすぎない。
早期発見の可能性は薄いが、ぐずぐずしてもいられない。
真っ直ぐに通路を駆け抜けて、カイは急に足を止める。
「・・・・おいおい、勘弁してくれ」
分岐点―――
あても無く彷徨うカイを嘲笑うかの如く、通路が左右に分かれている。
どちらの道をラバットが通ったのか?
そもそもこの通路をラバットが辿ったのかも分からない。
そう考えれば別にどっちを選んでも同じだが、もし片方の通路をラバットが選んだのだとしたら―――
確率は二分の一だが、正解があるか不明な選択肢。
現状を顧みれば、運命の嫌がらせとしか思えなかった。
「けっ、宇宙一の英雄たる俺を甘くみるなよこん畜生め!
俺のナイスな勘を持ってすればこんなもん―――」
実に適当な理由で右を選択するカイ。
考えつづけるのもいい加減嫌になって来ている。
手かがりも何もない以上、独断で動くより他に―――
『・・・・コッチ・・・・』
「へっ――?」
右の通路をカイはまっしぐらに進もうとして、振り返る。
「ん?え?」
誰も居ない―――
首を傾げてまた踵を返すと―――
『・・・・コッチ・・・・・』
「だ、誰だ!?」
気のせいではない。
確かに後ろから声が聞こえてくる――――
慌ててもう一度振り返るが、やはり誰も居ない。
「・・・・・・」
元来た通路、反対側、今歩いていた通路、壁の隅、床―――
四方八方見渡して人影を確認するが、誰一人姿は見えない。
「お、おいおい・・・・・」
幻聴――?錯乱――?
似合いもせず考え続けた頭がついにクラッシュでもして、他人には聞こえない声が聞こえたのか。
さすがに、カイもびびった。
「そ、そうだよな・・・・・
漂流するやら戦いやら走り回るやらで、もう疲れ果てて・・・・」
無理やり自分を納得させようとするカイだったが―――
『・・・アナタノチカラ・・・蒼きカチナ・・・・呼んでる・・・』
「・・・・・」
理解不能だった―――
瞬きする事、数秒。
首を捻る事、数十秒。
カイはふうっと息を吐いて、反対側の通路を走り出した。
奇妙過ぎて、逆に冷静になったというのもある。
でもそれ以上に・・・・・
その声に―――嘘はなかった。
カイは真っ直ぐ走り続け、やがて一つの部屋の前に辿り着く。
正体不明の声の言う事が本当なら、ここに二人はいる筈。
なのだが―――
「・・・・はあ?」
何でここ、とカイは素っ頓狂な声を上げる。
その部屋にははっきりとプレートで明記されていた。
「医務室」と―――
<to be continues>
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