VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 7 -Confidential relation-






Action12 −お節介−




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 話は三十分前にさかのぼる――



『ドレッド並びヴァンガード、各パイロットに連絡します。
ミーティングを行うので、至急シュミレーションルームへ集合してください。
繰り返します・・・・・』



 艦内放送は文字通り館内全域に流れる。

それは元男側の船であり、現在のタラークの男三人が日夜住んでいる旧艦区内においても例外ではない。

艦内の保守担当でもあるブリッジクルー・ベルヴェデールの声は旧艦区内に、そして忙しく立ち回っている主格納庫内にも届いた。


「シュミレーションルーム?何するつもりだ、一体」


 誰に聞く訳でもなく、カイは声の聞こえるスピーカーのほうを向いて呟いた。

シュミレーションルームとは、パイロット達が集い作戦会議を行う為の施設である。

最新鋭のコンピューターと拡大モニターが室内に設置されており、実際の戦闘環境を投影する事により、よりリアルな戦い方を模索できる。

作戦指揮によるフォーメーションの効果や戦闘時のパイロット達の個人データまで反映できる為に、育成室とも言われている。


「きっとフォーメーションとチーム編成の再確認を行うんじゃないかな。
メイア、そういうのに熱心だし」


 忙しく働いているクルー達に的確な指示を送りながら、パルフェはカイに口添えをする。

主格納庫内にも空調は完備されているが、クルー達の熱気にほだされてか格納庫内は蒸し暑い。

パルフェはツナギ姿に汗を流しているが、それでも懸命に働いているその姿は眩しさすら感じられた。

カイは皆の様子に目を細め、そしてパルフェに視線を向ける。


「いや、フォーメーションとかチームとかの話なら俺は関係ない筈だろう?」

「え、どうして?」


 不思議そうな顔をして聞き返すパルフェに、カイは苦笑いを浮かべて答えた。


「ドレッドのパイロットならともかく、俺は蕃型のパイロットだぞ。
言ってみれば、本来敵対するパイロットじゃねえか。
青髪もそれでこの前の戦いで俺をチームには入れないって、きっぱり言ってたんだぜ」


 カイの言っている事は事実だった。

前代未聞の敵艦隊勢力が押し寄せて来た時、マグノ海賊団全勢力で迎え撃つ際にメイアが皆に伝えたのである。

『カイをフォーメーションには組み入れない』、と。

この命令を受けた時反対したのはディータのみで、他のパイロット達は概ね命令を受け入れた。

別に反対する理由もなければ、カイを受け入れなければいけない理由もない。

ウニ型襲撃時や砂の惑星で仲間を助けられた事もありやや心に苦味はあれど、パイロット達はカイを仲間としては認めなかった。

その後戦いはメイア達のフォーメーションは破られ、メイアが重傷を負うという事態にまで発展してしまった――

そんな皆の危機を救ったのが他ならぬカイだった。

昨晩のメイアの話ではカイにパイロットの皆が感謝しているとはいっていたものの、戦闘時におけるチームの改正までは耳にしていない。

カイの話を聞いて、パルフェは口元を緩めて言葉を伝える。


「・・・きっとメイアもカイを認めたんじゃないかな?」

「ええっ!?あいつが!?」


 カイの事を一番嫌っていたのは、他ならぬメイアである。

ここ最近は波風すら立たない状態にあるのだが、まだ以前の戦闘から短期間しか過ぎていない。

男嫌いの最たるメイアが、そう簡単に自分を受け入れるだろうか?

カイの疑念に、パルフェが補足を入れて答える。


「カイを呼んでるのが何よりの証拠だよ。
だって、カイってシミュレーションルームなんて行った事がないんでしょう?」

「名前しか聞いた事がねえよ」


 シミュレーションルームは元海賊母船側にあり、カイが気軽に足を運べる場所にはなかった。

特に今日から導入されたセキュリティの存在により、一層壁は高くなっている。

あまり面白みのある部屋でもないというのが一番行ったの事のない理由なのだが、とにかくカイは一度たりとも呼ばれてはいなかった。

パルフェの指摘にカイは少しの間考え込み、頭を掻いた。


「まあ、行ってみるしかねえか。今更何言われても何も思わんしな。
やる事もないから、暇つぶしに行ってみる」


 素直な物言いではない様子に、パルフェは一人苦笑する。


「まだまだ色々あるかもしれないけど、頑張っておいでよ。
こっちの新兵器開発はあたしとガスコさんで完成までこぎつけるから」


 パルフェがちらりと視線を向けるその先に、クルー達が懸命に作業をしている新型があった。

まだまだ部品を組み入れている形ならずの姿だが、開発に取り組みクルー達の表情は真剣そのものだった。

カイの考案した新型兵器。

手伝いではあるが、それでもクルー達が向ける意気込みに新型への期待が寄せられているのが見受けられた。

カイは汗水流して頑張ってくれているクルー達に感謝しながら、パルフェに顔を寄せる。


「新兵器、いつ頃完成しそうだ?」

「う〜ん・・・設計図は完成、諸経費・人員・資源は万全だから、二週間から一ヶ月程だと思う。
『あれ』の成長も予想でしかないから」


 つまり、予想を外れれば更なる日数がかかるという事である。

カイは渋い顔をして、開発中の新兵器を見上げた。


  「『あれ』って実戦搭載するのに、そんなに時間がかかるのか?」

「そもそも『あれ』はまだメジェールでも研究途中だったもん。
この船に残されているタラークのシステムにもアクセスしてるけど、経過は殆ど似た様なもの。
カイの発案を聞いた時は、あたしもすごく驚いたんだからね」


 難色を示すパルフェだが、その表情には好奇心とやりがいが感じられる。

ことシステム的な知識では、この船でパルフェの上を行く者はそうはいない。

ましてや機械的な分野での探究心では、まぎれもなくパルフェがトップを争えるだろう。

今回の新型兵器計画の核を担っているのはカイの図案した設計図だが、兵器構成と開発分野ではパルフェがその任を居っている。

口では難しさを述べるパルフェも、この計画には絶対なる成功を目指して頑張っているのだ。

一切の妥協点のない奮戦ぶり。

だからこそ、カイはパルフェに相談をして安心して開発を任せていた。


「ま、贅沢言っても仕方がないか。
次の戦闘に出来るだけ間に合うようにする為に、敵さんが来ない事を祈るしかないな」

「この新兵器もまだまだ未分野の領域だからね。
あたしとしても、試運転はしておきたいかな。
でも・・・・」

「あん?どうした」


 急に黙り込むパルフェに、怪訝な顔をするカイ。

何か問題でもあるのかと内心カイは懸念を覚えるが、パルフェの複雑そうな表情にはもう少し別の意味があった。

パルフェはやや躊躇った素振りを見せ、やがてカイを見上げる。


「あんた、大丈夫なの?」

「へ?何だ、その意味深な質問は」


 パルフェの言いたい事が分からずに首を傾げるカイに、パルフェは言葉を重ねる。


「えと・・・あたしが言うのもなんだけど、あんたのポイントあたしとガスコさんが全部使いきちゃったでしょう。
ご飯とかどうするの?」

「げっ!?そ、そういえば!?」


 肝心な事に気がついて、カイは自分の今後の難渋さを身に染みさせる。

そもそも新兵器開発についてを知ったのはブリッジであり、ブリッジへ何故行ったのかを突き詰めると自分の生活環境の難点であった。

カフェテラスでは最低限のメニューしか食べられず、そのメニューもポイントがないと食べられない。

つまり、今のカイは一切の食事を取る事が出来ないのだ。

パルフェの言いたい事が分かり青ざめるカイだが、ふと思い出して気を取り直したように言う。


「だ、大丈夫だって。別にただ女の飯が食えないだけだろう。
なら、ちょっと我慢してペレットを食えば・・・・・
あっ!?」

「ど、どうしたの?」


 カイの様子にやや慌てて尋ねるが、カイは既に上の空だった。

脳裏に、今日の朝の一シーンががまざまざと蘇る・・・・・



『ペレットを嫌がるのかよ。タラークじゃずっと食べてたんじゃないか。
しかも、僕の所の新製品だぞ!』

『嫌だっての!ペレットなんぞもう二度と口にはしねえ!!』

『ペレットを食べないね・・・・本当かなぁ〜?』

『何だてめえ。疑ってんのか?』

『本当に本当だな?絶対に食べないんだな?』

『男に二言はねえ!一度でも口にした事は必ず守るぜ』



 男に二言はない。

一度でも口にした事は必ず守る。

カイが想像する男としての当然の行為であり、決して覆してはならない絶対的要項でもあった。

それゆえに――


「また余計な事言っちまったぁぁぁぁ!」


 バ−トとの他愛のない約束だったが、それでも約束は約束である。

もしも破った所でバートとて深くは追求はしないかもしれないが、今後のからかいのネタになる事は間違いないだろう。

それに、カイも一度口にした事を破ってのうのうとしてられる程器用ではない。

カイがカイとしている為には、結局約束は守るしかないのだ。


『待て、カイ。それは・・・・』


 バートと約束した時に、ドゥエロが焦った様な声を出していたのが思い出される。

思えばあの時、ドゥエロは既にこの事態を予想していたのではないか?

安易に考えて約束している自分を心配して、あの時助言しようとしてくれたのではないか?


「うわああああ、あいつの話をちゃんと聞いておけば良かった!」


 ドゥエロの不憫げな表情を思い出して、その場でカイは絶叫する。

カイの苦悩する様子を整備班の女性達が見つめてクスクス笑っているのだが、当の本人はそれどころではなかった。

このままでは何も口にする事が出来ず、飢え死にしてしまう可能性もある。


「?どうしたの、宇宙人さん。すごく顔色が悪いよ」

「ちょっと聞いてくれよ、赤髪。
・・・っていつの間に来やがったんだ、お前」


 うんざりした様子で声のする方を見ると、にこにこ笑顔でディータが立っていた。

カイに会えたのがご機嫌なのか、朝からの機嫌なのかどうかは表情では分からないが、ディータという少女は常に笑顔を絶やさない。

反対に機嫌悪そうにしているカイだが、ディータは気づいてかいないでか、無遠慮に近づいた。


「だって、さっき放送でパイロット全員集合って言ってたよ」

「だ・か・ら!
俺が聞きたいのは、どうして呼ばれているお前がわざわざこっちに来てるんだって事だよ」


 カイが今いるのは元旧艦区主格納庫。

集合場所はシュミレーションルーム、元海賊母船側。

通りかかるには余りにも長すぎる距離の壁が間に存在する。

明らかに、ディータはカイに会いにここまで足を運んだ事になる。

っとそこで、カイはある事に気がついた。


「お前、どうしたんだ?それ」


 黒のタンクトップにお気に入りの上着を羽織ってのラフな服装。

普段ジュラとは違ってあまり着飾らないディータだが、ディータの愛らしい魅力を損なうほどではない。

服装としては同じなのだが、カイはいつもとは違う部分に一点を向けている。


「えへへ〜、これ、宇宙人さんにプレゼントしようと思って・・・・」


 ディータが胸にぎゅっと抱きかかえているもの――

カイが目を見開いて見つめるそれは、中央に大きな刺繍のある枕であった。

ディータは少し恥ずかしそうに頬を赤らめて、そっと枕をカイに差し出す。


「お、俺にプレゼント!?」

「う、うん・・・・宇宙人さんにはいつも助けてもらってばかりだから、その・・・・
ディータからもお返ししたいなって思って作ったの」


 心臓の鼓動を高鳴らせて話している様子が、傍目からでも分かる。

さすがに拒否するわけにも行かず、さりとてどう反応すればいいのかも分からず、カイはディータの差し出す枕を躊躇うかのように見る。


「・・・受け取ってあげなよ、カイ」

「パルフェ・・・?」

「あはは、ごめんね。口挟んじゃって」


 しっかり様子を見ていたのだろうか、パルフェは困ったような顔をして間に入る。

眼鏡越しだが、パルフェのディータの枕を見る目には優しさがこもっているように感じられた。


「これ、ディータが手作りでカイの為に作ったんだよ。
これで寝ろって強制する訳じゃないけど、受け取ってあげて欲しいな」


 パルフェとディ−タは仲の良い友人同士である。

価値観こそそれぞれ違うが、未知なる物への好奇心や常識的な思想に縛られない二人の思想は共に触れ合える仲へと発展していた。

日常的な会話から趣味・思考の話など、二人はよく顔を合わせては友情を深めている。

このプレゼントにしても、ディータがどれだけの気持ちをこめて作ったのかがすぐに分かった。

傍で見ているしかないパルフェに横槍こそ挟めないが、それでもお節介を焼く事は出来る。

そして、カイもまたそんなパルフェの気持ちを蔑ろにする程愚かでもなかった――


「馬鹿野郎!何言ってんだ、お前!」

「え?え?」


 急にカイに怒鳴り声をぶつけられて、パルフェは目を丸くして驚く。

ディータも何がなんだか分からずに、二人を交互に見つめておろおろとしていた。

カイはしばし黙って、さっとディータの手から枕を取り上げる。


「あ・・・・・・・」


 今度はディータが目を丸くする中で、カイは少々ぶっきらぼうに言った。


「・・・枕ってのは寝るために使うんだろうが。
ちょ、ちょっとデザインは気に入らないけど、まあ使えない事はないだろうよ」


 カイの言っている意味を察したのか、ディータは瞳を潤ませる。

横でパルフェが楽しそうな笑顔を浮かべているのに気づきつつも、カイはそれ以上何も口には出来なかった。

変に悪態をついても意味がないし、下手に否定すればからかわれるだけである。

カイは困り顔でプレゼントとして貰った枕を抱えると、


「ありがとう、宇宙人さん!」

「どわっ!?抱きつくんじゃねえ!!」


 カイが受け取ってくれたのが嬉しかったのか、感極まったようにディータはカイにぎゅっと抱きついた。

枕に気を取られていて油断したのか、カイは咄嗟にかわす事が出来ずによろめいてしまう。


「へえ、随分仲が良くなったじゃないの」

「馬鹿な事言ってないでこいつ引き剥がすのを手伝えよ、パルフェ!」

「宇宙人さ〜ん♪」

「お前も調子に乗るんじゃねえ!周りの連中が見ているだろうが!!」


 二人のやり取りが余程面白いのか、整備クルー達が皆一様に二人に注目していた。

互いに噂しあったり、カイ達を見つめて苦笑したりと、見物であることには間違いはない。

パルフェも周りの面々の視線に気がつき、そして驚いていた。

格納庫内にいるクルー総員。

その全員がカイとディータのやり取りを見守り、時には楽しんでいる様子すら見せている。

誰一人として、奇異な目で見つめていないのである。

男に女が抱きつく、そんな非常識な光景を――

パルフェは感慨深げに皆を見、そして再び注目する。

カイ=ピュアウインド、彼の顔を。


(あんたってもしかしたら・・・・)


 パルフェの思考はそこで遮られた。



『カイ、ディータ!お前達、ここにいたの――――!?』



 世界が凝固する。

周りの面々が、パルフェが、カイが、ディータが。

そして、通信モニターに映るメイアが――


「・・・・・・あ、青・・・髪・・・・」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』


 メイアが固まって見つめる視線の先。

そこには、ディータに抱きつかれたまま同じく固まっているカイの姿があった。























<続く>

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