VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 7 -Confidential relation-






Action11 −演習−




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「駄目ですね。情報が封鎖されています」

「レジも関わっているんだろう?そっちからは何か得られないかい?」


 穏やかに宇宙の航海が進み行くニル・ヴァーナのメリンブリッジにて――

副長席に座ってのコンソール操作に余念のないブザムに、マグノが艦長席に鎮座したまま尋ねる。

マグノの表情はブザムとは違い、どこか喜びと悔しさが混ざった複雑な顔をしていた。


「システムにアクセスしてみましたが、第一重要情報扱いとなっています。
恐らくはガスコーニュの権限でロックされているのでしょう。
認証レベルは私が上ですが機密事項に触れる事となり、正直な所・・・」

「・・・いい顔はしないだろうね。
それこそ権力に物を言わせて覗き見したのと同じになる」


 残念そうに話すブザムに、これまた同じく残念そうにマグノが肩を落とした。

マグノ海賊団内で定められた規則は共同生活を成り立たす上での最低限のルールであり、当然全員が守らなければいけない鉄則でもある。

お頭だから、副長だからと破っていい理由は成立しない。

すっかり落ち込んでしまったマグノに、ブザムが恐る恐る進言する。


「ご許可をいただけるのなら、ガスコーニュとパルフェを呼び出して聞き出しましょうか?
カイに直接聞いても無駄でしょうから」

「いや、そこまでする必要はないよ。
それに・・・」

「はい?」


 一旦言葉を切り、マグノはため息混じりに続きを話す。

「この一件に関しては、レジと機関部クルー全員がグルになっている可能性が大きいね。


それも重要性を保持しているのではなく、面白がって隠しているように見える」

「お、面白がって、ですか・・・・?
しかし、ガスコーニュやパルフェは普段こそ大らかな態度ではありますが、職務には忠実です。
我々に隠し事をするとはとても・・・・」


 ありえないとばかりに言葉を並べるブザムだったが、マグノはあっさりとその可能性を否定する。


「あんたも意外と分かってないようだね、BC」

「は、はあ・・・・」


 戸惑うブザムとは裏腹に、マグノは断定した口振りで述べる。


「黒幕はカイである事は間違いはない。
そして、あの子にパルフェとガスコーニュが全面的に協力しているのも確かだ。
カイが黙っていてくれと言えば、あの子達は絶対に口を割ったりはしないよ」

「そ、そんな!お頭なら・・・・」


 驚愕に染めたブザムに、マグノはただ首を振る。


「情報が外部に完全に遮断されているのがその証拠さ。
あの子はあんたが考えているよりも、皆の人望を集めつつあるんだよ」


 マグノの穏やかでいて深い表情には、長年多くの人間を見つめて来た老齢さがそこにあった。

冷静沈着で頭も切れるブザムでも、マグノの長い年月を経た器の大きさには敵わない。

ブザムが沈痛な表情で沈黙しているのを察してか、明るい表情でマグノは語りかけた。


「それで、結局結論としては殆ど何も分からなかったって事かい?
この船の半分でもある男側の船のデータベースに、既存の設計図や単語の検索に何か残されているとかは?」


 余程重要な事を調べているのか、丹念に手元を動かすブザムの表情は硬いままであった。


「調べてみましたがありません。
我々にはないタラークの新技術かとも考えましたが、痕跡すら見当たりませんでした」

「となると・・・・」


 マグノの声を遮って、ブザムは深く頷いて答えた。


「カイが設計・考案したオリジナルの蛮型兵器である事に間違いはないと思います」

「・・・やっぱりそうみたいだね」


 一つ嘆息して、マグノはシートに深々と背中を預ける。

巧みに表情には出さないようにはしているが、端々に無念の色が浮かんでいるのは隠せなかった。


「『ホフヌング』、あの子の文字通り秘密兵器って事だね・・・」


 マグノとブザム、二人が懸命に調べているのはカイが考案したという『新兵器』についてだった。

何しろ寝耳に水の話で、今までマグノ海賊団でも最高幹部に属する自分達が知らなかったのである。

カイが去った後に、マグノがブザムに『新兵器』に関する手がかりを調べさせたのだ。

結果としては、開発を行っている機関部とレジシステムの隠蔽工作により何も分からずで終わってしまった。

海賊団内の組織を律する上での規則を重んじるブザムは、このカイの引き起こした一連の動きに眉を潜めずにはいられなかった。

勿論自由性を重視する海賊団内では、クルーの行動にいちいち制約をつけたりはしない。

そもそも社会的に枠からはみ出した者が集まっている集団である。

ルールで締め付ければ当然反発も出るであろうし、何より海賊という仕事に支障が出てしまう可能性が大きい。

特にマグノは慈愛に満ちた人物であり、クルーの自由行動には大らかな態度で見つめている。

ブザムも規律には厳しい性質だがマグノの姿勢には理解は示しており、ある程度の許容範囲も持ち合わせてはいる。

が、今回のカイの行っている事は少々度が過ぎていた。

独断で兵器開発を行っており、しかもその情報を上の者に巧みに隠している。

カイは元々は捕虜の身であり、敵側のタラークの人間なのである。

見る者が見れば、マグノ達海賊に反逆を起こす為に一部のクルー達と結託して兵器開発しているようにも思えてしまうだろう。

ただでさえ男女共同生活で男への対処に敏感になっている女性クルー達に、これでは刺激してしまいかねない。

もしもこの事が火種になりさえすれば、男と女の一致団結は破局してしまう可能性もある。

そうなれば今後の旅の行方での協力関係は成り立たず、関係も霧散してしまうだろう。

ブザムが恐れているのはそこであった。


「お頭、いかが致しますか?
情報が得られないのであれば、直接私が出向いて開発中の兵器を見に行きますが」

「それでどうするんだい?」


 まるで試すかのような質問に疑問を感じつつ、ブザムが答えた。


「もしも我々に害する危険な兵器であるのならば、開発そのものを中止させます。
クルー達への不安になりかねませんから」

「ふう・・・あんたも随分心配性だね。
大丈夫さね、あの子があたし等に危害を加えるような兵器を作ったりはしないさ」

「何故そう言い切れるのですか?」


 理屈に合わないと、ブザムは更に言及する。


「お頭もそれが心配で、私に新兵器に関する情報の探索を命じられたのだとばかり・・・」


 クルー達の不安を取り除き、今の不安定な共同生活を何とか維持させる為。

自分と同じだと思っていたブザムに対するマグノの答えは全く正反対だった。


「何を勘違いしているのかと思えば、そんな事かい。
BC、アタシはカイを信頼している。
さっきも言ったけど、あの子がアタシらに仇なすとは欠片も思っちゃいないよ」

「で、では何故私に探索を?」


 理由が分からず怪訝な顔をするブザムに、マグノはやや視線を逸らした。


「・・・アタシにも内緒っていうのがどうもね・・・」

「は?」

「面白くないじゃないか。
カイがまるでアタシを仲間はずれしているみたいでさ」

「は、はあ、その・・・・」


 どういえばいいのか分からずに、ブザムは困りきった顔でそれ以上言葉を述べられない。

ようするに、マグノはカイが自分にも黙ってこそこそしているのが嫌だったのだ。

マグノの心情としては、楽しみ事を内輪でやっているのを外から見ている子供のような感じなのだろう。

傍で拗ねた顔をしているマグノを見て、ブザムは呆れ返るのと同様に微笑ましさも感じていた。

マグノが大勢に慕われる理由の一つに、こうした子供のような無邪気な魅力がある。

いつのまにかマグノのペースに引き込まれつつある自分を察して、ブザムは気を取り直す。


「では、兵器開発に関しては黙認という事でよろしいですか?」

「それが一番だね。もし何があれば、ガスコーニュやパルフェだって黙ってはいないさ。
あの二人が協力してるんだから、カイの設計にも問題はないって事だからね」


 カイを信頼しているのと同時に、そのカイを信じるパルフェとガスコ−ニュもまた信じる。

改めて感じ入ったブザムは感嘆の溜息を漏らし、顔をあげる。


「分かりました。あと補足ですが・・・」

「うん?」

「カイが去り際に漏らした『ホフヌング』という単語ですが、新型兵器名なのだと思われます。
その事で一つだけ確かではありませんが、判明した事があります」

「ほう、聞かせておくれ」


 何か判った事が意外だったのか、思わず身を乗り出してマグノが尋ねる。

勢い込んで詰問してくるマグノに戸惑いつつも、ブザムはきちんとした口調で答えた。


「『ホフヌング』という兵器名は、過去類似がありません。
ですが兵器に囚われずに調べてみると、『ホフヌング』という単語は我々の祖先の星『地球』の古き言葉である事が分かりました」

「地球の!?ちょ、ちょっと待っておくれ、BC。
それは確かなのかい?」


 動揺を隠せないマグノに、ブザムは厳しい表情で頷いた。


「間違いありません。
タラーク・メジェール両星の翻訳機では不明でしたが、男側の船に保存されていた旧システムにその名がありました。
お頭の話では我々が奪ったこの船はそもそも・・・」

「・・・ああ、植民船団の一つだったんだよ。
地球が未来の可能性を託して技術の芯を尽くして完成させた船。
飛び立った当時の地球のデーターバンクが積み込まれていたのは知っていたけどね・・・・」


 そもそもニル・ヴァーナはイカヅチ旧艦区と海賊母船が融合した戦艦である。

半分を占める旧艦区には使われていなかった古きシステムがあり、多くの区画がまだ謎のまま残されている。

その中にはかつてのタラーク・メジェールの祖先の星である地球に関する情報も眠っている筈だった。

『ホフヌング』、この単語もまたその地球で使われた言葉の一つであるのだと言うのだ。

マグノは珍しく驚愕の表情を浮かべて、ブザムを見る。


「つまり・・・こういう事だね。
あの子カイは・・・・地球に関する言葉、もしくは知識がある」


 タラークにも、メジェールにも現存しない言葉。

遠く離れてしまった祖先の星は長き年月を分け隔て、今も存在しているのかどうかも分からない。

まるで国交のない筈のその言葉を、例え一部であれカイは知っているというのだ。

しばし沈黙するマグノに、ブザムは神妙な顔をしたまま口を開く。


「・・・・私は前々から不思議に思っていました」

「?なんだい、突然」

「お頭も薄々気づかれていませんでしたか?」


 ブザムの視線には感情が一切ない。

心からの真剣な問いである事を看破したマグノは、表情を引き締めて答えた。


「規則喪失であるあの子が、人間としての一般的な常識を知っているという事かい?
それとも・・・」


 じっとブザムを見つめたまま、マグノは言う。


「『自然すぎる』あの子の態度の事かい?」

「・・・・・やはりご承知でしたか・・・・」


 マグノの指摘に、ブザムは得心がいったように小さく頷いた。

視線を落としたそのままで、ポツリポツリと話し始める。


「以前カイが初めて我々と共闘した時、自分からこう告白しました」


 二人の脳裏に、あの時の映像越しのカイがフラッシュバックする。



『俺には・・・・記憶がねえんだ・・・・』



  「私は、あの時カイは嘘を言っているようには見えませんでした」

「アタシもそうだよ。
あの子はあの時、本当の事を話していた。
表情を見てすぐに分かったよ・・・・」


 マグノは記憶がないと告白した時のカイの表情を今でも目に焼きついている。

人生の大半を歩んだ疲れ果てた孤独な老人のような顔――

記憶喪失という経験はマグノにはないが、それでもどれほどの苦悩と葛藤がカイにあったかは分かった。

ブザムは話を続ける――


「その後あの男は船に乗員として入り、これまで数々のトラブルや戦い振りを見せてきました。
短期間ではありますが共に過ごし、カイには常識がある事が分かりました。
いや、人としての道徳とでも言うべきでしょうか・・・」

「人が人として年齢を積み重ねる事で得られるものだね」

「はい、勿論常識とは社会的観念と人間的心情面によって意味は違います。
事実、カイに備わっている社会的常識はまぎれもなくタラークです」

「初めはアタシ達を毛嫌いしていたようだからね・・・・それで?」

「結論を言いますと、カイは記憶を失っているのは間違いはないと思います。
ただ、失っているのは全てではありません。
ここからは私の推論となりますが・・・・・・・」

「いいさ、言ってみな」


 マグノは静かに先を促す。


「ありがとうございます。
カイが失った記憶は『環境』ではないでしょうか?」

「環境?」


 疑問符を浮かべるマグノに、ブザムは補足する。


「生まれ育ててもらった親から始まり、自分の周囲の全て。
人間を育成する上での成長過程期そのものといいましょうか」

「ようするに・・・・『思い出』って事かい?」


 マグノなりに吟味して出した答えに、ブザムは頷く。


「はい、でしたらカイが記憶を無くした今の状態でも何の問題もなく維持出来ているのに納得がいきます。
結局常識を生み出すのは自分自身であり、勉学の知識や社会的観念は失われた後でも備わりますから」


 記憶喪失とは未知的現象でもなんでもなく、医学的な病気の一種である。

原因は科学技術が発達した現在でも判明はしていないが、内因性と外因性の両面から成る病気であり、一つには絞れない。

そして一口で記憶喪失といえど、その中身は無数に枝分かれする。

例えばついさっきの事柄を忘れる場合もあれば、昨日の出来事全てを忘れる場合もある。

要は喪失とは年数に関わらず、自分の昔の一部分でも記憶を失ってしまった者を指すのだ。

「ふーむ、だけどそうなると・・・」

「・・・・はい。
何故カイが『地球』の古き言葉を知っていたのか?
それが気にかかります。
もっとも私のように何かデータで知ったか、他の誰かに聞いた可能性もあります。
メジェール・タラークの翻訳機とはいえ、全ての言語を把握している訳ではありませんから」


 翻訳機とはいえ万能ではない。

万能な翻訳機がこの世にあるというのなら、言葉そのものを学ぶ意味が成り立たなくなってしまうからだ。

タラーク・メジェールが国家体制として外部との行き来は行ってはいないが、その国家を形成したのは第一世代である。

発展し続けている両国家の科学技術にしても、祖先の地球から持ち出されて発達したものだ。

そしてそれは言語も然り―― 
廃れてしまっている言葉とはいえ、本当に消えてしまったかどうかを知る手立ては何もない。

ブザムとて有能ではあるが、万能ではないからだ。

悩みふけってしまった重い雰囲気を壊したのは、マグノが先だった。


「まあ、考えていても結論は出ないさ。あの子が記憶喪失なのは本当だからね。
もしかしたらほんのひょうしで思い出すかもしれない。
その時にゆっくり聞けばいい事だし、専門であるドクターに聞くのも手だよ」

「・・・そうですね。
今この船にいるカイ、彼こそが我々が知るカイである事に何も変わりませんから」


 ようやく表情が穏やかになったブザムに、マグノも微笑を取り戻して頷く。

そしてふと思い出したのか、マグノは気を取り直して尋ねた。


「それで、さっきの言葉の意味を聞かせてくれないかね?」

「あ、はい。申し訳ありません」


 ブザムも気を取り直して、マグノに視線を向ける。

コンソール内に表示されているモニターの光が、ブザムの横顔に反射して光る。


「『ホフヌング』とは言葉そのものの意味として・・・・」



『お頭、今お時間よろしいですか?』



 二人が声の主に気づいて顔を上げると、ブリッジ中央モニターに映し出されたメイアが正面にいた。

声こそ冷静さを保っているようだが、その表情に少し焦りのような感情が見出せる。

マグノは怪訝に思いながら、ブザムに問い掛けるような眼差しを向ける。

視線の意味に気づいたブザムは、話は後でと言わんばかりにそのまま振り返って自分の席に落ち着いた。


「ああ、かまわないさ。何だい?」


 マグノが問い掛けると、メイアは口を開きかけて少し戸惑ったような顔をする。

普段にない表情にマグノは更に疑惑を深めて、メイアに一声かけた。


「何か問題でも起きたのかい?
先程パイロットを収集させていたみたいだけど・・・」

『は、はい、その・・・パイロット達を集めて、戦闘時における演習を行おうと思っていました。
それでお頭に許可を求める前に一旦パイロットを集めようとしたのですが・・・』


  言い淀み、ようやく決意出来たようにメイアは顔をあげて言った。



『カイとディータが行方不明になりました』



「行方不明?」


 マグノの今日二度目の驚愕の声に、メイアは困り果てた表情で頷く。

その様子を見ていたブザムはというと、別の意味で驚いていた。

メイアが表情を見せているという事実に――
























<続く>

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