とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第十四話




 ――次の日。


夜遅くまで夜の一族の連中と話し込んでしまったが、久しぶりの日本の朝は残冬で濁った空で覆われていた。

正月も明けて月日が経過し、冬は終わりを迎えつつある。今年の冬は結局ほぼ異世界や異星で過ごしていたので、日本の季節感は懐かしく感じられた。

惑星エルトリアは荒野の広がる未開拓な世界だったので、季節だの何だのという以前の話だった。あちこち世界を飛び回って、俺もよく体調を崩さなかったものだ。


マンションの一室。昨日アリサが用意してくれた部屋で、日本の残りの冬をしばらく過ごす事になる。


「異世界ミッドチルダに、惑星エルトリア。国境も時差もまるで違う世界で過ごしてきたのに、生活習慣というのは変わらないものだな」


 朝早くに目が覚めた。時間の概念こそ異なるものの、目の覚める時間帯は案外どこの世界でも変わらない。

毎日忙しい学生や社会人が目覚める前の時刻。今から尋ねても、フィアッセやなのははまだ眠っているだろう。

昨晩夜の一族より聞いた話を元に今後の事を話し合いたいところではあるが、同世代の女の家へ朝早くから押しかけるのは流石に迷惑だろう。


――当然のようにそう考えて、ふと笑いがこみ上げてくる。


「たしかちょうど一年前の今ぐらいに、人の迷惑を考えずに道場破りとかしてたんだよな……」


 剣術道場の門を蹴破って、道場破りを仕掛けていた一年前の自分を振り返る。山の木の枝を拾って振り回していたんだ、よく警察に通報されなかったものだ。

しかしながら当時のことを顧みると、あの道場の師範が当時騒がせていた通り魔だったのだ。警察を呼ばれるとまずいのは、彼も同じだったはずだ。

通り魔に巻き込まれたことを考えると不幸中の幸いという表現は少し違うかもしれないが、お互いの事情が偶然一致した上での勝負だったということか。


結局道場破りでは完敗、その後の路上勝負では鎖骨こそ折られたが何とか制することは出来た。


「当時はニュースになったが、その後あの爺さんはどうなったんだろうな」


 生きてはいるだろうが重犯罪者、刑務所送りになったのには違いない。一年が経過して、あの爺さんは更生しているのだろうか。

年齢を考えれば再起は難しいだろうが、俺のような人でなしでもこうして人生をやり直せているのだ。高齢であろうとも、生き直すことくらいは出来るはずだ。

平和な時代になって剣が廃れていくことを、あの爺さんは嘆いていた。そんな爺さんと関わった俺はこの一年、あらゆる敵と対立して剣を振り続けた。


ほんの少し自分の価値観から飛び出せば、剣で生きるやり方を見いだせたかもしれない。最も俺が飛び出した一歩は、海外とか異世界とかだったけど。


「おはよう、ディアーチェ。朝ご飯を作ってくれているのか」

「うむ。キッチンは我が昨晩の内に完璧に掌握しておいたぞ、父よ」


 一年前の事を振り返りつつ部屋を出ると、エプロン姿のディアーチェがキッチンで奮闘していた。

我が家では意外に思われるかもしれないが、ロード・ディアーチェが家事全般を担当している。王を称する少女は女性らしい一面を持っている、というのは偏見かもしれないが。

実に女の子らしいユーリが家事が苦手で、料理とかも頑張ってくれているがディアーチェに怒られて目を回している。我が家ではそういった微笑ましいエピソードを朝から展開してくれる。


ちなみに言うまでもないが、レヴィとナハトバールは食う専門である。シュテルは頭脳担当とかぬかして、完全に人任せだった。


「アリサ殿が立派に部屋を用意してくれたが、やはり住まいというのは整えておかなければならない。
夜の時間帯になったが買い物へ出て、食器類や食材を揃えておいたのだ。日本の食卓はシュテルより学んで、日本人らしい佇まいを心がけている」

「すごい。何がすごいって、俺でもそこまで気にしたことのない日本の食卓を無駄に再現している!?」


  今の日本人の食卓ってむしろ洋風だと思うのだが、マンションの一室でディアーチェが仕立てた食卓は日本を如実に感じさせた。

別にちゃぶ台とか囲炉裏とか用意している訳ではないが、異世界暮らしが長かった俺にとっては非常に懐かしく思える。

マンションにあるフォーマルなキッチンに、温かみを感じさせる気遣いがあった。家庭を意識したディアーチェの心遣いなのだろう。


だからこそ大袈裟に驚いてやると、ディアーチェは嬉しそうに笑った。こういうところは父を持つ子供だと思う。


「目覚めた父のために朝食を用意したいところではあるのだが、ディードとオットーが出ているのだ。申し訳ない」

「あの二人ももう起き出したのか」

「ディードは剣を持って朝稽古、オットーはマンション周辺を見回るべく探索目的の散歩に出ている」

「うちの子達は勤勉だな……」


 血の繋がっていないディアーチェもそうだが、遺伝子的な繋がりがあるディード達も俺に似ず努力家だった。

日本へ到着した翌日だというのに休まず、早速自ら行動に出ている。日本という新しい国へ来て、気後れした様子もなさそうだった。

育児という面では苦労がなくて助かるのだが、いい子達ばかりだと将来的に別の意味で悩みそうな気がする。結婚とかして子供が出来たら、ギャップで苦しんでいそうだな。


ともあれ、朝早くからみんな行動に出ているようだ。


「分かった、朝食時に皆で少し話そう。昨晩の話し合いで今回の事件の背景が見えてきた」

「さすが父だ、昨日の今日でもう進展があったのか。素晴らしい」

「昨日の今日どころか、半年前からお膳立てがあったよ……ともあれ、ディアーチェが用意してくれている間に一仕事してくる」

「今朝は父上が好む和食を用意するつもりだ、楽しみにしておいてくれ」


 ……味噌汁とか料理しているんですけどこの子、俺よりも日本人していないか。

鼻歌交じりでキッチンに入る王様に呆れ混じりに感心しつつ、俺はアリサに声をかける。

アリサは元幽霊で、法術により結晶化されて実体化した女の子。厳密には睡眠は必要ないのだが、精神を休ませるべく休眠を取る。


故に起きていようと思えば起きられるようで、アリサは朝から作業に入っていた。


「異世界へ通信を行いたいなら、昨日準備した通信機器をそのまま使ってくれていいわよ。はいこれ、取扱説明書」

「……この説明書、絵本チックに書いているのは何故だ」

「専門用語一つでもあったら頭抱えるでしょ、あんた。
あたしが手間をかけて用意してやったわよ。チャンネル切り替えれば繋がるからよろしく」

「せめて小学校ドリルレベルにしろよ!?」


 すごいぞ、この説明書。漢字を一文字も使っておらず、ひらがな混じりの絵で全部説明している。

多分高町なのはのようなガキンチョどころか、日本語を知らない外人でも余裕で理解できそうだった。俺、日本人なんですけど。

いやまあ使用方法に困らないのであればそれに越したことはないのだが、なんだか納得がいかない。


顔を引きつらせて説明書を読んでいると、ご英訳の妹さんが興味ありげに覗き込んできた。


「おはようございます、剣士さん。朝から熱心ですね」

「おはよう、妹さん。今から用事で通信するから、しばらく自由にしててくれ」

「はい、待機しております。何かあればお声がけください」

「うーむ、何か固いな……漫画とか読んでいてもいいぞ。しばらく日本から離れていたんだから、買ってきなさい」

「! ありがとうございます」


 お小遣いを渡すと目を丸くしたが、珍しく素直に頷いて受け取ってくれた。本が好きだからな、妹さん。

基本的にお役目放棄はしない子だが、俺が家から出ないことは承知済みだろう。海鳴というホームであることも安心を高めている。

皆に声をかけて、俺は通信の準備に入った。異世界へのチャンネルがスムーズに行えるというのは便利なのか、それとも奇怪であるのか。


国際電話より遥かに遠いはずなのだが、この気軽さはどうにかしたいところではある。


『ウーノです。陛下、いかがされましたか』

「緊急で確認したいことがある。スカリエッティ博士を呼んでくれ」

『お断りします』

「平然と断った!? なんでだよ、急ぎだと言っているだろう!」


『フローリアン夫婦を治療することよりも急ぐ用があるとでも?』

「ぐはっ、そうだった!?」


 自分で無茶振りをしておきながら、緊急で呼び出そうとしていた俺にウーノが冷徹に嫌だと言いのけた。当然である。

一応弁明しておくと、俺が悪いのではない。俺の周囲で治療不可能な患者が多すぎるだけだ。


フィアッセとフローリアン夫婦、どちらの治療を優先するべきか――天秤になんてかけられなかった。














<続く>








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