とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第四話




 俺の留守中に深刻な状況とならないためにエルトリアへのホットラインを用意していたが、楽天的になるのもどうかと思う。

命を狙う脅迫状なんて送られてきたら、たとえ男性でも精神を病む事態である筈なのだが、肝心のフィアッセ・クリステラは俺の帰還を無邪気に喜んでいた。

ただ楽天的ではあるが、能天気にはなっていない。それを証拠に家族同然の高町家とは距離を置いているし、遠き惑星の地にいた俺に助けを求めてきている。


なので一応きちんとした行動を取っているとは思っているが、本人がのほほんとしていると何だか納得いかない。


「それじゃあ状況を整理するか。まず脅迫状に書いている"チャリティーコンサート"というのは何なんだ」

「えーと、リョウスケはチャリティーコンサートがどういったものか知ってる?」

「詳しくは知らないけど、慈善事業的なものだろう」


 チャリティーコンサートを中止しろ。さもなくば、フィアッセ・クリステラの命を奪う。

脅迫の内容から察するに、フィアッセはこのチャリティーコンサートなるものに参加する予定だったのだろう。今はどうか知らないけれど。

チャリティーは慈愛や慈善といった、いわゆる博愛の精神に基づいて行われる行為や活動のこと指す言葉である筈だ。この活動が要するにコンサートなのだろう。


学歴のない自分でも、この程度のことは言葉通りに推測できる。


「お前の母ちゃんに一度挨拶した機会があったけど、確かクリステラソングスクールとかいう音楽学校の校長を務めているんだろう。
お前んところの学校が主催するのが、このチャリティーコンサートなんじゃないのか」

「うーん、リョウスケはあんまり嫌そうな顔をしないね」

「別に俺が関わっているわけじゃないのに、嫌がる理由がないだろう」

「それはそうだけど、リョウスケってこういう慈善活動は嫌いだったでしょう」


「確かに昔のあんただと偽善とか、金持ちの道楽とか言いそうよね」

「うるさいよ」


 フィアッセは何故か嬉しそうに、アリサは苦笑しながら俺の変化をなにやら突っついてくる。実に余計なお世話だった。

別に俺自身の心境に変化が生じたのではない。単純に、今の俺の生活に余裕があるというだけだ。人間、ひもじいと小銭一つの募金でも神経を尖らせてしまう。

今の俺は家族や仲間に恵まれており、金にも余裕がある。それらすべて完全にアリサのおかげで、俺はハッタリと精神論で生きているだけなのだが、それはそれとして慈善活動にイライラしない程度には落ち着いた日々を送っている。


俺の懐が傷まないのであれば、別に赤の他人がどこかで慈善活動やってても別に何とも思わなくなった。


「話を戻すと、私のママが今度チャリティーコンサートを開催することになったの」

「へえ、立派な人だな。ご挨拶させてもらったときも、俺のような人間にも分け隔てなく接してくれたしな」

「リョウスケだって立派な男性だよ。とても優しくて、素敵な人」


「……何でこの人、あんたをこんなにもてはやしているの?」

「一言でいうと、大失恋した時に慰めた」

「うわっ、ドン引きだわ……」

「そこまで言うか!?」


 満面の笑顔で完全に俺を誤解した表現で絶賛する女を目の当たりにして、アリサがやや引き気味に俺に耳打ちしてくる。俺だってやりたくてやったわけじゃない。

何しろ当時高町家は荒れに荒れまくっており、高町兄妹は刃傷沙汰を起こす始末。なのはは不登校で落ち込んでいるし、レンは入院中で晶は家出までする大馬鹿野郎。

こんな状況でフィアッセが大失恋なんぞかましやがったせいで、もはやどうにもならぬと俺が仕方なく慰めて、彼女の心を守るボディガードとなったのである。


この経緯を説明した時、妹さんがなにやら深く共感した様子で頷いていた。護衛魂に火でもついたのだろうか。


「今回のチャリティーコンサートは全世界で開催されることになって、日本でも行われる予定なの。
コンサート自体は毎年開催していて、コンサートの収益金より世界の恵まれない子供達や、発展途上国の学校建設資金などに寄付していたよ。

こういったチャリティーコンサートは収益金の全部か一部を慈善団体に寄付する形なのが一般的だけど、ママやパパはこういった活動を精力的に行っていたんだ」

「フィアッセの親父さんは英国議員だったよな――こういう言い方はどうかと思うけど、チャリティもそうした政治的活動の一種でもあったんじゃないか」

「それも否定はしないけど……パパはママの事がすごく好きで、どちらかと言えばママを応援しているのだと思う」


 フィアッセのお母さんは老齢だが、人間的にも美しくて、自分も老いる頃にはこういった人間になりたいと思わされる人だった。

正直フィアッセの話を聞いても特に大きな感銘を受けたりはしていないが、自分には決して出来ないという意味では立派だとは思う。

俺も最近政治的な活動もやったから分かるのだが、人心や人望を得るのは非常に大変だ。寄付を募るにしても、どこぞと知れぬ人間に赤の他人が金を出したりはしない。


募金活動を行うにしてもクリステラという人間へ投資をしてくれるかどうかが鍵であり、彼女は寄付される価値のある女性であることが証明されている。


「つまりこの脅迫状を書いた奴は、そのチャリティーコンサートを中止しろと言っているのか」

「うん、私がママとパパの娘だと知っている人だと思う」


「なるほど、犯人はなのはだな」


「ええええええええええええっ!? 突然物凄い冤罪がなのはの所へ飛んできましたよ!」

「差出人不明の封筒がいつの間にか高町家のポストに入っていたんだぞ。内部犯に違いない」

「それでどうしてなのはになるんですか!」

「チャリティー精神にムカついたとかそんな理由だろう」

「そんな、おにーちゃんじゃあるまいし……」

「お前も俺をそういう人間だと思ってたのか!?」

「むしろ犯人、あんたじゃないの……?」


 フィアッセが入れてくれたオレンジジュースを飲みながら話を聞いていたなのはが、俺の指摘を受けてひっくり返った。何かこういうコント、久しぶりな気がする。

しかし自分で言ってみてなんだが、内部犯説は面白いと思う。唯一問題なのは、高町家禪院がお人好し軍団であるという点である。

そういう意味でアリサが愉快犯説を押して俺に冤罪を押し付けようとするブーメランを食らって、顔をひきつらせてしまう。くそっ、俺もこういう嫌がらせはきらいじゃないからな……悪質だけど。


ちなみに当のフィアッセは笑ってはいるが、若干俺を疑った目で見ている。おのれ、これが日頃の行いか……


「冗談はともかくとして、何でこの犯人はチャリティーコンサートを中止させようとしているんだ。
別に犯人の懐が痛むわけじゃないし、フィアッセの両親やクリステラソングスクールが儲かる訳でもないんだろう。

恵まれない子供への寄付を妨害して、それが何になるってんだ」

「実はねリョウスケ、こういった脅迫状が送られてきたのはこれが初めてなの」

「初めて……? あっ、そうか!」


「うん、毎年開催しているの。どうして今年になって中止を訴えてくるのか、よく分からない」


 うーん、脅迫状自体は単純な要求だが……意外と根の深いというか、疑惑の多い事件だな。

俺が先程自分で言ったことではあるんだが、そもそもの話チャリティーコンサートという慈善活動を妨害して何の得になるのだろうか。


脅迫状の文面から考えて、犯人はフィアッセの家族構成を知る人間である。つまり、フィアッセの両親についても精通している。


フィアッセの両親は各国で名の知れた人達なので、政治や経済的な理由で妨害工作に出た可能性はなくはない。

ただその妨害行動の対象に、何故チャリティーコンサートを選んだのかよく分からない。政治的活動ではなく、慈善活動を妨害してそれが何になるというのか。

あるいは――


「本人の目の前で言うのも何だが、お前の命そのものを狙うのが目的なのかな」

「……うん、私も正直その事を考えて、このマンションへ引っ越してきたの」

「なるほどな、ちょっといろいろ調べてみないといけないが……まずお前の身辺から探ってみるか」


 少なくとも犯人はフィアッセが日本にいることを知っており、行動範囲を嗅ぎつけている。

どこまで周到な犯人なのか今のところ不明だが、痕跡を辿ることが出来れば検挙にも繋がる。


そうなると、やはり公的機関――警察にも当たったほうがいいか。


「お前、この脅迫状のことをリスティには相談したか」

「ううん、まずリョウスケに相談するべきだと思ったから。大丈夫、その点はきちんと心得ているよ」

「どういう心構えだよ!?」


 ……犯人はなんでこんな能天気女を狙っているんだ……

エルトリアより急遽、海鳴へ帰ってきて正解だった。この女をこのまま放置しておいたら、大変なことになっていたかもしれない。


まだ事情聴取は必要だが、とりあえず脅迫状を一旦預かった上で行動に出ることにした。














<続く>








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