とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第九十五話




 ――出立の日を迎えた。

皆の尽力もあって惑星エルトリアは平穏を取り戻し、主権を勝ち取りつつある。連邦政府からの強制退去も今のところ保留となっているが、このままの流れで行けば棄却されるだろう。

結局自分のやったことがどれほどだったのか怪しいものだが、仲間達の努力の成果だと思うと胸を張れる気がした。基本的に捻くれ者なのでまだ若干抵抗はあるが、少しずつ他人は受け入れられてきている。


地球へ帰るのは俺とアリサ、すずかとディアーチェ、ディードとオットーの五人である。


「父よ、我は一旦聖地へ戻る。ヴィヴィオ達の面倒は我に任せて、父はご友人の力になってあげてほしい」

「では私とオットーは博士の元へ立ち寄ります。キリエさん達の御両親を看てまいりますので、どうぞお任せください」

「分かった、お前達に任せる」


 要所要所で残されている面倒事を全て、我が子達が引き受けてくれるという。脅迫状が送られてたフィアッセの事情は、この子達にはきちんと伝えていた。

本来子供達に聞かせる内容でもないのだが、生憎と俺の子を名乗る少女達は一騎当千の強者揃いなので、この程度の犯罪事情に怯えたりはしない。それもどうかと思うけど。

俺なんてガキンチョ時分は、チャンバラごっこをして遊び呆けていた。学もなく将来性もなく、野原を駆け回っていた自分と比較すると、余程ディアーチェ達はしっかりとしている。


まあ基本的に今どきの日本男児なんて皆、似たりよったりだと思うけど。


「アリサちゃん、少しの間剣士さんの事を頼めるかな」

「えっ、珍しいわねすずか。いつも良介にベッタリなのに」

「お姉ちゃん達に帰りの挨拶をしておかないと、剣士さんに突撃してきそうだから」

「うわっ、リアルに想像できるわ……」


 月村忍と夜の一族の姫君達。俺が帰ってきたことが分かると、すぐに話させろと要求してくるのが目に見えていると、妹さんが懸念を表明した。

護衛を一時中断するのではなく、むしろ俺のプライベートを守るべく行動するのだと分かって、アリサがひたすら苦笑いしている。

うむ、何しろ海鳴という平穏な街で障害となりそうなのがむしろあいつらだからな。金持ちパワーで人様のプライベートを脅かすとんでもない女共に溜息が出る。


フィアッセの事を第一に考えてくれるこの子達の気持ちは素直に受け取っておこう。


「あれ、ナハトヴァール達は見送りには来ないのね」

「全員で暑苦しく押しかけてきそうだったから、前もってリーゼアリアに注意させておいた」

「旅立ちの日なのに愛想も何もないわね……」


 ユーリ達なんて絶対に見送りに行くと言い張っていたが、里帰りするだけだと無理やり納得させた。絶対アイツラ、お涙頂戴にしやがるからな。

別れを惜しむも何も単に問題が起きたから、一旦帰るだけだ。それにエルトリアで早急に対処が必要だった案件は全て解決している。

後は肝心のエルトリア開拓と復興だが、残念ながらこいつらは短期間では解決しない問題だ。責任者は俺だが、別に現場に都度監督する必要はない。連絡は取れるからな。


むしろここにいると余計な仕事がどんどん押し付けられるので、いい加減現場に任せる度量を持つとしよう。


「リーゼアリアはそんな面倒な事をよく引き受けてくれたわね」

「ナハトヴァールが一緒だから、ルンルンで託児気分だったぞ。保育施設を作ると張り切っている」

「開拓中の惑星で気が早いでしょう!?」


 あいつ、自分の出身はグレアム提督の使い魔であるという事実をもう完全に忘れているんじゃないだろうか。

実は帰郷ということでリーゼアリアに話を持ちかけてみたのだが、ナハトヴァールの育児があるからと拒否した。伝言とか連絡、手紙もしないらしい。それでいいのか、使い魔。

最近はナハトヴァールにお母さんと呼ばせたいらしいが、ナハトヴァールは完全にタメ口である。リーゼアリアと名前呼びであり、彼女本人としては複雑ではあるが懐いてくれているので折り合いはつけているそうだ。


まあ闇の書云々の話を再燃されたらそれはそれで迷惑なので、任せっきりにしている。本人はとびきり優秀なので、エルトリア開拓や指揮を任せられる。


「魔法使いさーん、待ってくださいー!」

「見送りに来ましたよ、剣士さーん!」

「……アリサ、俺の見間違いだろうか。車椅子を爆走している姉妹が見えるんだが」

「すごいわね、自動車顔負けのスピードで飛ばしているわよ」


 しまった、見送り不要の根回しを肝心の連中にしていなかった。大怪我している姉と見舞いに行っていた妹の構図をすっかり忘れていた。

パジャマ姿で車椅子に載っているアミティエと、私服姿で車椅子を激押しドライブしているキリエ。最近舗装されたエルトリアの道路をかっ飛ばして、俺達の元へやってきた。

いい年した女の子達が完全に家着姿を年頃の男に晒しているのを、何とも思わないだろうか。出会ったことは礼儀正しかったはずなのだが、今ではすっかり家族扱いだった。


それでも恩人だという感謝が根本にあるのか、彼女達の素顔はとても明るかった。


「見送りなんぞいいから病院で寝てろよ、アミティエ」

「そうはいきませんよ。散々お世話になったんですから、せめて見送りくらいさせてください」

「連邦政府との仲介を任せているはずだが、置き去りにしてきたな」

「うっ……」


 連邦政府主星ではシュテルが商会と行動して政治的活動を行っているが、あいつの立場はあくまで代理人である。

今後主権を確立させるべくエルトリアの代表者は必要であり、御両親が病欠している今は長女のアミティエが代表だ。

こいつも入院中ではあるが、怪我は見違えるほど回復しており、連邦政府との交渉くらいは行えるようにはなっている。


その点を指摘すると、アミティエ・フローリアンは一瞬で怯んだ。


「シュテルさんに教わって頑張って勉強しているんですけど、なんというか政治というのは難しくてですね……」

「安心しろ。俺なんてサッパリ分からないのに、議会ではカンペ一枚で適当に喋ってたぞ」

「それでどうにかなってしまう、剣士さんの肝っ玉が凄いですよ」

「ほんと、口先とハッタリだけで適当な大ぼら吹いてたからね、こいつ……」


 秘書としてサポートしてくれたアリサが呆れた顔で告口する、うるさいよ。この世の中、度胸があればなんとかなるものなのですよ。

とはいえリヴィエラ・ポルトフィーノというパートナーでいなければ、成立しなかっただろう。あの人と商会との交渉が行えたのは、本当に渡りに船だった。

戦いとは無縁の分野だったが、恐ろしく手強い世界だった。昨今の世の中、弱肉強食とは殺し合いではなく権力闘争を指し示すものかもしれない。


あらゆる力が不足していなければ破滅させられるのだ、恐ろしいというしかない。単純な切り合いが懐かしくなってきた。


「今日旅立たれるんですね。グスッ……絶対の絶対に、また来てくださいね!」

「すげえ涙滲ませて拳握ってやがるな!? 友達に問題起きたから帰るだけだ、解決したらまた来るよ」

「うう、本当はアタシも一緒に行きたいのに……駄目かな、お姉ちゃん」

「姉として妹を応援してあげたいけれど、我慢しなさい。デリケートな問題は苦手でしょう」

「殴って解決するかもしれないよ」

「やめろや!?」

「この子、イリス事件の件を反省してないわね……」


 無駄なやる気を見せやがるキリエを、アミティエが肩を落として諌めた。脅迫状だから犯人殴って解決となるかもしれないが、それはさておくとする。

一応アミティエはエルトリアの外交担当、キリエは内政担当である。とはいえ頭脳労働ではなく、それぞれ持ち味を生かした活動ではあるのだが。

こんな事を言っているが、二人は決して頭は悪くない。機転も利くし、判断力も優れている。それでなければ御両親がいたとはいえ、これまでエルトリアで生きていけなかっただろう。


ただ今は俺が面倒を見ていることもあって、すっかり年頃の娘さんになっている。


「良介、今後のことなんだけど」

「今後?」

「まだ少し先の話なんだけど、このエルトリアで学校を建設する予定なの」


 エルトリアで今後生きていくために、義務教育が必要というのが建前――その心は、学校に通えない子達が学ぶ場所を作る為。

荒廃した世界で生きてきたアミティエやキリエだけではない。シュテル達や戦闘機人、月村すずかやヴィヴィオといったクローン。異種族や妖怪達といった、人ではない者達。

特殊な出身、特別な出生を持つ子供達でも通える学校を作り、青春を謳歌させて集団生活を学ばせることが目的であるという。


アリサに計画を告げられて、キリエやアミティエは楽しそうに笑った。


「ぜひユーリちゃん達、それに何よりナハトヴァールも通ってください」

「何でしたら、剣士さんが教師になってくださいよ。あたし達も通いますから」

「へえ、だったらあたしも通おうかしら。元幽霊でまともに通えなかったからね」

「俺が教師って……世も末だろう」


 けれどもその学校はとても奇妙で、とても奇天烈で――とても幸せな、風景なのだろう。

そんな場所がいずれ実現できるエルトリアという世界は、きっと素晴らしく生まれ変わっている。

アリサ達のような脛に傷を持つ子達でも平等に過ごせる場所、俺のような異端者でも受け入れられるこの世界。


聖王教会が唱えた天の国――理想の楽園がここにある。


「それじゃあそんな世界を実現するべく、厄介事を解決しに行くか」

「あたし達は行くわ、またね!」

「はい、絶対にまた来てくださいねー!」


 荒廃していた世界へ戻ってきた時は、とても暗い顔をしていたアミティエ達。

送り出す番となったその時は希望に満ちた顔をしていて、笑顔で手を振って送り出してくれた。


さて――海鳴へ帰るとするか。














<完>








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