とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第八十七話




 イリスと情報交換を行っている間にも、アミティエ達の抗戦は続いている。

衛星兵器は人型を模しているが、コンセプトはあくまで連邦政府が依頼した衛星砲に改造した独立個体なので、砲撃を主とした固定砲台に等しい。

その威力は圧倒的かつ精密であり、万物の声を聞く妹さんの能力がなければ、商船は撃墜されていただろう。アミティエも商船の乗員と連携して、対応してくれている。


同世代の少女達が修羅場に強いというのは日本人の感覚として少し複雑だが、剣士である俺にとっては今更かもしれない。


「リョウスケ様。ポルトフィーノ商会に連絡して、救助申請を出すことも出来ますがいかがいたしますか」

「いえ、本日は採決の日。ポルトフィーノ商会長も修羅場であり、こちらにでもいらぬ負担をおかけする訳にはまいりません」


 エルトリアの主権を得るには不都合だから黙っている、という訳では無い。いや正確に言えばそうなるんだが、告げるタイミングが重要である。

採決が行われているこのタイミングで告げるのは、リヴィエラにとっても大いに不利になる。俺達の責任ではないにしろ、緊急事態が起きてしまえば採決が見送られてしまうかもしれないからだ。

連邦政府の主星と惑星エルトリアとの距離は離れている。エルトリアは連邦政府から見れば僻地であり、だからこそ住民権を認めず強制退去の命が降ろうとしている。


今日中に処理してしまえば、わざわざ取り上げられることもないだろう。戦況によるが、リヴィエラには採決に報告すればいい。隠し立てする気は元よりなかった。


「乗員の方々を命の危機に晒しておいて恐縮ですが、我々で何とかいたしますのでお付き合い頂けると助かります」

「承知いたしました。商会長には有事の際リョウスケ様のご指示に従うように厳命されておりますので、ご安心を」


 ――リヴィエラ・ポルトフィーノがこの状況を見透かしていたのかと一瞬勘ぐったが、即座に首を振る。未来予知でもない限り、マクスウェルの悪意を想定することなど不可能だ。

恐らく初対面で起きたエルトリアのモンスター襲撃を想定して、乗員の選定を行ってくれたのだろう。乗員の方々はこの状況でも慌てること無く、対処してくれている。

容赦のない砲撃を繰り返してくる戦況で気が気じゃないはずなのに、アミティエの指示を的確に守っている。彼らが混乱していたら、勝てる戦いも勝てない。


やがて、轟音が止んだ――宇宙空間で音が響くというのも、変な感じではあるが。


「攻撃が、止んだ……?」

「いえ、標的を変更しました。見てください、剣士さん」


 商船のメインブリッジに移動した俺達は、外部モニターより戦況を確認。妹さんが指し示す方を目の当たりにして、歯噛みする。

衛星兵器は、砲台を惑星エルトリアに向けている。抵抗を続ける俺達相手に埒が明かないと判断したのか、標的を変えてきたのだ。

圧倒的な威力を誇る衛星砲をエルトリアに撃ちまくられたら、惑星が穴だらけになってしまう。環境改善なんて夢のまた夢、人の住めない世界に逆戻りだった。


商船の乗員がこちらを見やる――船長がいるはずなのに、何故か判断を求められている。責任を取るつもりではあったが……何か最近、重責を求められるのが多い。


「通信を繋いでくれますか、交渉してみます」

「相手が応じるでしょうか、兵器ですよ」

「あれは固有型――コホン、自己判断可能な自立型ですので対話は可能です」

「なるほど……商会長よりリョウスケ様の技術力は聞き及んでいますが、自己判断まで可能とは恐れ入ります」


 一瞬何を言っているのか首を傾げたが、得心する。考えてみれば商会の方々から見れば、俺は未知の技術を保有する企業のトップに見られているのだ。

自分でも普段意識していないのだが、今の俺は時空管理局と取引を行っている大企業のトップなのである。おかしいな、立身出世の筈なのだが、今でも命の危機に晒されているぞ。

あんたも今や高額納税者だと以前アリサがゲラゲラ笑っていたが、実感がない。周囲の連中に弄ばれている感が凄すぎて、夢でも見ているのではないかと思ってしまう。


衛星兵器となればCW社の関与が疑われそうだが、俺も思いっきり命を狙われているので少なくとも乗員の目に不審はない。まあ、技術が暴走しているのはある種その通りなんだけど。


「敢えてお前をマクスウェルと呼称してやる。要求は何だ、エルトリアを人質にしているのは分かっている」

『ユーリとイリス、フィル・マクスウェルを開放して引き渡せ』


 ……一応女の声だったが、人口音声だとあんまり色気を感じない。開放しろという要求を聞く限り、どうやら事件発生前に予めマクスウェルが仕込んでいた戦術なのだろう。

要するに自分が敗北することも想定して、ユーリ達の身柄を引き渡すように仕込んでおいたのだ。決戦時にイリスを見捨てたはずなのだが、その矛盾も事件前であれば納得できる。

仮に要求を飲んでユーリ達を引き渡したところで未来なんぞ無いが、フィル・マクスウェルは最後に自分が笑えればそれでいいという男だ。


あの男は用意周到な割に、見込みの甘さが伺えた。自分が敗北するはずがないという強者特有の楽観視が、詰めを甘くしている、


「要求に応じなければどうなる」

『この惑星を破壊する』


 威嚇射撃するかもしれない踏み込んだ発言をしてみたが、衛星兵器は冷静かつ冷徹に伝えてくる。当たり前だが、人間味なんぞあったものではない。

妹さんを見やると、意図を察して小さく頷いた。要求を飲まなければ攻撃を開始すると、妹さんは相手の行動を補足して伝えてくる。

要求なんぞ断じて飲めるはずがない。フィル・マクスウェルは時空管理局にとっ捕まっていて、ミッドチルダで起こした武装テロの主犯にされている。


管理局や聖王教会は散々襲われて面子を潰されたのだ、死にものぐるいで奴を絞り上げて世間に名誉回復のアピールをしている。開放なんぞするはずがない。


『アタシを引き渡しなさい』

「イリス……?」

『全員渡さないと納得しないだろうけど、アタシを渡せば交渉を引き伸ばせるはずよ。
アタシがどうなるか分からないけど、あんたはユーリを守ることに専念して――』


「要求には応じない」

『ちょっと、アタシの話を聞いてる!?』


 衛星兵器に向かって断固ノーを告げる俺に、極秘回線で耳打ちしてきたイリスが仰天する。アホだ、こいつ。

イリスを引き渡せばユーリが猛抗議するだろうし、仲間達から強烈な反発を受けるだろう。今後エルトリアに永住する妖怪達も黙っていない。

エルトリアにいる連中は様々な思惑によって復興を手伝っているが、皆脛に傷を持つ奴らである。その分団結力は強く、誇りやプライドだってある。


何より今の俺は信頼関係によって成り立っている、砂上の城だ。俺が他人を裏切る真似をすれば、積み上げてきたものが全て崩れて浪人に逆戻りするだろう。


『アタシを見捨てろと言っているんじゃないのよ。一旦差し出せばそれでいいじゃない、なんでいちいち庇うのよ』

「大丈夫、心配するな。砲撃程度、なんとかなる」

『どういう根拠があっていっているのよ。さすがに撃ちまくられたら、モンスター退治に追われているユーリ達だってやばいわよ』


「何を言っているんだ、お前。俺達にはクアットロさんがいるじゃないか」

『はあっ!?』


 黙ってニヤニヤしながら高みの見物を決め込んでいたクアットロが仰天する。

馬鹿め、今更他人事で済ませると思うのか。


「君には便利なシルバーカーテンがあるじゃないか。相手は衛星兵器、認識を誤認するくらい朝飯前だろう」

『いやあの、陛下……今全力で磁気嵐の対応させられているんですけど……』

「その磁気嵐を利用して、相手の狙いを妨害するくらい出来ることは分かっているぞ。
でないとこの状況で高みの見物決め込めるその余裕が分からん。お前の命だってやばくなるのに、平気の平左でいられるのは何故だ。

敵もお前の妨害を受ければ、安々と砲撃できなくなるだろう。その間にアミティエが撃墜するから、全力でなんとかしろ」

『ええッ!? あたしまで無茶振りされてる!?』

「君のフォーミュラとナノマシンあれば、宇宙空間でも活動できるよね」

『無茶苦茶言っているんですけど、この人!?』

『こういう人なんですよ、陛下は! 人殺しー、ブラック企業ー!』


 女どもがギャーギャーうるさく騒いでいる、ふふんこうなったら責任者決め込んでやりたい放題やってくれるわ。

こうして、エルトリア主権を得るべく最後のミッションが始まろうとしていた。














<続く>








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