とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第七十八話




 主要各国の合意を得られたので、俺は昨晩の真相を説明する。正確に言うと昨晩の事件にまで至った経緯を、一から順に説明していく。

ポルポ代議員と、人民民主政府樹立同盟。両者の関係性については現状ポルポ代議員の失言一つだが、裏を取れば多分掴めるだろう。クアットロやリヴィエラの御両親あたりは既に余裕で掴んでいそうだしな。

半ば憶測で話すべきかどうかは悩んだが、仮にも国家代表者達の合意まで得たのだ。憶測であろうとも貴重な情報、変な遠慮はするべきではない。謙遜という日本の美徳は、異世界では通じそうにない。


とはいえ友人同士ではないので、俺やリヴィエラが不利となりそうな事は話していない。上表提供の取捨選択はこれまで何度もしているので、慣れたものだった。人に話せない秘密が多いんだよな、俺は。


「リヴィエラ商会長の好意を得るために、デモ活動団体を利用して襲撃事件を演出したというの!? 到底許されないわ」

「政治家による痴情の縺れは今に始まったことではないけれど、悪しき風習を聞かされる度にウンザリするわね」


 小柄な女性フォルテ・キアは肩を大きく怒らせて憤懣を露わにし、黒衣に身を包んだ女性ルサ・プロドゥアは逆に冷静に呆れを滲ませている。

彼が黒幕であると断定された訳ではないのだが、事件の背後関係を既に察しているのだろう。聡明な女性政治家は、男性政治家の弱点とも言える色恋沙汰を批判していた。

説明した際の反応から察するに、やはり彼らはこの世界都市における独自の情報網や人脈を有している。公にされていない事件のことを説明した際も、驚きを見せる様子はなかった。


最低でも事件の発覚くらいは掴んでいたのだろう。もし曖昧な説明をしていたら、こちらの情報能力を見くびられていた。気を引き締めなければならない。


「証拠は掴んでいるのかしら。議会を通じて罷免に持ち込むのであれば、喜んで賛成するわよ」

「追い詰めることは確かにできるとは思いますが、実のところ我々の間では懐疑的です」

「懐疑的……?」


 フォルテ議員は小さな拳を握りしめてこちらへの支援を表明してくれた。大変ありがたいことではあるが、この一手には注意しなければならない。

実際被害者は俺よりむしろリヴィエラなのだが、彼女はポルポ代議員に対する意趣返しを一度に口にしなかった。好意があるのとは全く別の理由で、彼女は自重している。

ポルポ代議員は電波法の反対を表明していて、派閥を組んでいる。彼に付き従う勢力がどの程度か把握していないが、彼らを追い込めば反対票を削ることは出来る。


採決には有利になるはずなのだが、俺の頭の中は警鐘を鳴らしていた。


「採決を明日に控えているこの大事な時期に、デモ活動団体と手を組んでまでリヴィエラ商会長を襲う理由が釈然としません」

「お前さんは傍にいるから実感が無いかもしれないが、リヴィエラ商会長は連邦政府有数の大貴族のご令嬢。
加えて彼女が築き上げた商会の財力や経済力、人脈やコネクションは小国を超える規模だ。彼女との婚約は人生を約束されたのも同然、狙うやつなんて数多にいるぜ」

「実際、私達を通じて彼女との接点を求める貴族も多い。恥ずかしい話だが、電波法制定を行う彼女の議会参席をチャンスと見る議員も無数にいるよ」


 フォーマルスーツのセーブル・マーキュリー氏はさもあらんといった表情で説明し、エルフのような金髪の少年アクレイム・トライアンフ氏も同意している。

俺なんて彼女の御両親ともご厚意にして頂いているのだが、はたして大丈夫なのだろうか。嫉妬ややっかみの類は俺の人生には無縁と思っていたのだが、どうしてこうなったのやら。

気立てが良くて美人ともなれば異性に好かれて当然ではあるのだろうが、リヴィエラほどの才女ともなればパートナーに求められるものは多い。凡人ではとても彼女の人生にはついていけないだろう。


人生順風満帆にはなりそうだが、彼女と釣り合えるように努力するのは大変そうだ。俺なんて背伸びしっぱなしで足首を吊りそうである。


「彼女から好意を得るために事件を起こして自作自演をするという動機は、まあ分かるのですが……このタイミングで行う必要性はあるのでしょうか。
極端な話明日の採決で電波法が否決されれば、私は間違いなく失墜となります。私に支援をして下さったリヴィエラ様も無傷では済まされない。

ならば反対派のデモ団体と組んでいるのであれば、むしろ電波法反対に力を入れるべきです。世論で私を猛追すれば、私にとって逆風となりました」


 そもそも自作自演によるヒーローごっこなんて思い付くのは子供であって、連邦政府の代議員が真面目に検討するような案ではない。

不確定要素なんぞ山ほどあるし、実際に事件を起こした際に案の定デモ活動団体は暴走していた。筋書き通りに進むかどうかは、結局のところ運任せになってしまう。

ひょっとするとエルトリアでモンスターの襲撃があった時、俺がリヴィエラを助けた場面を再現したかったのかもしれないが、それにしたって採決の結果を見てからの判断で良かったはずだ。


何故採決直前にわざわざ実行したのか、俺はその点を懐疑的に見ていた。


「どちらとも取れますね……我々から見るポルポ代議員とリヴィエラ商会長途の関係を見れば、彼がこのような暴挙に出たのも頷けなくはない。
しかし貴方から見る彼への評価と代議員としての立場を見れば、浅慮な判断と済ましていいものではない。

結果的に失敗だったからこそ言えるのかもしれませんが」

「ええ、ですので皆様に合意を得た上で説明させて頂いた次第です。内心を打ち明けるには、まず信頼を高めなければなりませんので」


 主要各国の合意を得ないと、憶測を話してしまうと軽率と受け止められてしまう。それだけならまだいいが、政治家には名誉がある。名誉を傷つけるのは罪になってしまうのだ。

事件を起こした事を明るみに出せば反論は出来るが、だからといって名誉毀損で殴り返されるのは面白くない。それに政治家というのは、決して体面を傷つけてはならないのだ。

主要各国の代表者達に憶測を話すことによる軽率は、脇を見せるのに等しい。彼らが明日賛成票を出すかどうかは、電波法を提案する人間次第にかかっている。


リヴィエラは今も尽力してくれているのに、俺が脇を甘くする訳にはいかない。だから俺らしくもなく、極めて慎重に物事を進めている。


「では、この件に関する貴方の意見を聞かせてもらおうかしら」

「彼が主犯という見立ては変わりません。しかし、そんな彼を後押しした人物が別にいると考えています」

「……ポルポ代議員を裏で操って、デモ活動団体による事件を起こさせたと?」

「もしも我々がポルポ代議員を訴えれば事件は明るみとなり、代議員の汚点としてマスメディアは騒ぎ立てるでしょう。
電波法反対派によって起こされた事件として、電波法制定を不安視する声は確実に出る。特に今日は至っては電波法賛成の声が大きくなり、マスメディアも熱狂してお祭り騒ぎになっている。
この状況で反対派議員による自作自演が明らかになれば、電波法制定への追い風どころか大波に曝されて吹き飛んでしまう。

そうした私の勇み足を狙った罠ではないかと、睨んでいるのですよ」

『なっ……!?』


 主要各国の代表者は、絶句している。分からなくはない、何しろこの戦術は彼らのような賢人には想像できない下衆な策なのだから。

俺のような凡人には効果的な、罠。ゆえにこそ連邦政府の議員や腫瘍各国の代表者には無縁な策とも言える。明らかに用意周到に俺を狙い済ませている。

何故俺が気付いたかと言えば、俺は過去こういう勇み足で何度も足元をすくわれたからだ。失敗したからこそ気付けたという意味では、あまり褒められた話ではない。


我ながら、呆れた発想ではある。


「勿論穿った見方であることは承知しています。ただ少なくとも今ポルポ代議員を失脚させるような真似はできそうにありませんね」

「……なるほど、だから貴方はこれほど念入りに私達の合意を求めたのね」

「話を聞いた私達がポルポ代議員を訴えてしまうと、明日の採決を望む貴方としては困った展開になるものね……ふふ、議会では大胆不敵なのに、なかなか慎重な男なのね」

「ご賛同を得られて恐悦至極ですよ」


 女性議員達から呆れられつつも感心されて、俺は苦笑いを浮かべるしかない。いずれにしてもこうして情報共有できたのは収穫だった。

少なくともこの件で電波法制定の邪魔はされず、デモ活動団体による事件とその背景を共有して同情を得ることも出来た。


後はテレビジョン開設と電波法制定を行うことへの利点――つまり本日の最終議会による決戦で、彼らに勝てばいい。


「そろそろ議会も始まるでしょう、最後に私から質問させて下さい。貴方はこの一件、誰が黒幕と考えているのですか」

「大統領です――それを証拠に、私から予言いたしましょう。最終議会の前に、議長から私へ通告があります。
『この議会が電波法を可決しようとも、"拒否権"を発動する準備があるのだと』」


 俺が敢えて断言すると、質問したセーブル・マーキュリー氏が絶句してしまった。

あいにくと俺は剣士であって占い師ではないのだが――


敵意くらいは感じられるようにはなっている。













<続く>








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