とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第七十七話




 連邦政府の議会における立法過程は非常に複雑であり、外部からは見えにくい慣習や人脈こそが大きな影響を持っている。

アリサやシュテル曰くこのプロセスにおいて大きな影響力を持っているのが現実であるが、その分析は容易ではないらしい。議員と法律の数が構造を複雑にしているのだろう。

この連邦政府議会の立法過程を分析する役目を負っているのが上級議員であり、主要各国の代表者だ。小立法府の別名を持つ委員会の発言力があり、議会の力関係を律しているとも言える。


連邦政府において一介の議員ですらない人間が一つの法案を通そうとしている理由について、今起きている事態と合わせて彼ら全員で考察していた。


「電波法を制定する議会を開催しているこの議事堂も、テレビジョン開設の支持者が大量に集っているようね」

「この勢いだと議会にまで乱入される可能性もあるか」

「先程調べてきたのだけれど、大規模デモ活動を主導する団体の統制は驚くほど取れているらしいわ。勢いこそあるけれど、暴挙にまで至っていない」

「マスメディアとも連動しているようだね……こういう言い方をするのは何だが、彼らは話題性を常に求めている。
暴動にまで発展すれば事件となり、当然だが注目される。殊更暴挙を煽る真似こそしないだろうが、それでも大きな騒動を望んではいるだろう。

だが蓋を開けてみれば、彼らは実に公正な目で大規模デモ活動を報じている。それも賛同する方向性で」

「昨日までは反対を主張していた彼らの突然の方向転換、そしてマスメディアとの奇妙な連動――それらを突き止めて考えると」


「私が関与、もしくは主導していると疑問視されているという事ですね」


 恐れていた議会の中断は現状行われず、再開する方向性で政府は今進められている。民衆の統率が取れているからこそ為せる、ある種の好機と言えるのかもしれない。

連邦政府の政治は立法という形式で意思決定が行なわれるが、この意思決定過程を規律しているのが議事手続である。各議院の議事規則に定められて、議会は運営されている。

議長は公正の視点で現状を見極め、主要各国の代表者である議員達はこの議事手続に則り、議会の再開を求めている。その手続には多少の時間があり、俺にとっては猶予でもあった。


様々な政治信条と主要各国の事情を背景とする議員達が一同に会して、議論する。その場に馳せ参じた俺は待ってましたと言わんばかりに、円卓へ迎えられた。


「偶然とは言わせない――と、言いたいところではあるんだが」

「昨日の今日でいきなりデモ団体が真逆の主張をし始めたので、正直なところ面食らっているところなの。貴方やリヴィエラ商会長にしては露骨なやり口に見えたから」

「確かにいきなりでしたからね……」

 
 フォーマルスーツに身を包んだ男性、クライスラー国代表のセーブル・マーキュリー氏。子供のような体格の女性、トライアンフ国代表のフォルテ・キア様。

いずれも議会で論戦した二人ではあるが、やり手の政治家である彼女達でさえも当惑した表情を見せている。単純に弱みを見せるような人達ではない、感情を見せるのもまた交渉術の一つだ。

懐を敢えて見せて探りを入れようとしたその隙を狙っているのだろう。迂闊なことは離せず警戒すべき局面ではあるのだが、生憎と今回は彼らを取り込むべく自ら乗り込んだのだ。


曖昧な言い方をすれば、今日も対立して論戦を繰り広げなければならない。望むところではあるが、明日の採決で票を取れるかどうかは別問題だ。


「この大規模なデモ活動、正確に言うと早朝から行われている様子なのよ」

「早朝より集合したのであれば、昨晩以前から動きがあったと考えるのが自然だろうね。君は何か心当たりはないかな」


 黒衣に身を包んだ女性、ビュイック国代表のルサ・プロドゥア様。金髪で白い装いをした小柄な男性、アクレイム・トライアンフ氏。

デモ団体の動きからその背景を見出さそうとする知能は、名探偵顔負けだった。政治家となれば独自の情報網も有しているだろうから、既に真相までたどり着いているかもしれない。

リヴィエラの御両親が動いてくださっているので不名誉となる事件の痕跡は残っていないだろうが、昨晩ホテルでパーティを開いて騒いだ件まで隠し通すのは難しいだろう。


胸襟を開いて彼らの信頼を得るべきだが、ただ単に素直に打ち明けるだけでは小学校のクラスメートレベルだ。友達付き合いではなく、協力関係を構築しなければならない。


「お察しの通りなので申し上げますと、確かに心当たりはございます。我々の方で動きがありまして、対処させて頂いた次第です」

「対処、ですか……只ならぬ事態が起きたご様子ですね。お話を伺っても?」

「私自身としては申し上げたいところではあるのですが、議長の判断を仰ぐ必要がございまして――ただいまリヴィエラ様が直接御説明申し上げているところなのですよ」

「そういえば、彼女とは今別行動されているのですね」


 ラーダ国代表のイグゾラ・プロトン氏、徳の高い僧であるかのような威厳を漂わせて情勢を語っている。俺の説明に難しい顔を見せているが、事情は既に把握しているだろう。

変にもったいぶった言い方をしているが、こうした手続き論はとても大切だ。世界会議の時のように常に主導権を取ろうと、前のめりになればいいというものではない。

それで主権を勝ち取れればいいが、生憎と連邦政府は民主的政治スタイルを取っている。明日の採決は、主導権を握れば票を取れる訳では無い。


その点を理解していうのか、議長にまず話を通しているという説明についても概ね彼らの納得は得られた。まあ実際リヴィエラは政治的工作のみならず、政治的手続きも確実に行ってくれている。その信頼はあった。


「ただ議長裁定による先例や、 定着した議会の慣行があるのも事実です。議会における実際の議事進行は、 こうした不文の規範により規律されている部分も少なくない。
皆さんは各国の代表者だ。できるだけ審議の実際に即して分かりやすく説明する事も必要ですね。私としても可能な限り少数者側の意向も尊重され、 それによる一定の合意が得られればと考えています。

この場での発言の機会を保障して頂けるのであれば、皆様にも御説明いたしましょう」

『っ……』


 この場だけの秘密にしろと、生易しいことを言っているのではない。情報を共有する代わりに、情報の保証も行うように交渉しているのだ。

先程も言ったが、彼らは学校のクラスメートではない。友達同士の内緒話になんてなるはずがないのだ。単純に腹を見せるだけでは、情報を毟られて終わりだ。

ここは政治の舞台。個々の主張より相互の譲歩を得るだけでは、到底不十分だ。この場で話し合う事への合意を尊重しなければならない。その点を疎かにすると今日は良くても、明日の採決で否定票を入れるかもしれない。


連邦政府が行う政治では、強い指導者は必要とされない――と、アリサ達は言っていた。


『採決なんだから、議案審議にあたって多数勢力がその数の力をもって強行すれば勝つんだろう』

『今どき小学生でももっと民主主義に詳しいわよ……そんなの、実質的に不可能よ』

『民主主義というと数が必要と思われるのは致し方ないですが、実態はもう少し複雑です。
少数党との合意が常に模索され、 さらには個々の議員の意向も最大限に配慮されている――それが議会というものなのですよ、父上』


 ――この通り、ハイパー受け売り発言である。俺なんぞの戦略なんて、数の暴力で押し切ろうくらいにしか考えていなかったのだ。

まあ実際採決なのだから、賛成票を多く取った側が勝ちではある。だからこその多数派と少数派であり、選挙なんて票取り合戦と言えるかもしれない。

ただシュテル達がいうには、 個々の議員の中にはきわめて強力な権限を与えている者もいて、議事進行にかかる動議や全会一致合意の要求を促せることも出来る。


だからこそ議員達の決定や合意に基づいて、こうした議事が進められる事が大切だと、あいつらは教えてくれた――俺のメイドや子供が、政治に長けているというのがなんか嫌だ。


「……貴方のいう取り決めについて合意が成立したとしても、党議の拘束までは行えないわよ」

「その点は心配無用です。議案審議に反対するのあれば、今まで通り個々に説得するしかないと覚悟しています」

「この場で異議のある議員は、 全会一致合意に反対したとして騒ぐ気はないということか」

「個々の議員の反対は議会において拒否権と同様の効果を発揮しますからね。致し方ないとは思っています」


 特定の議案に対して差し止めを要求できるという、 非公式な慣行。この荒行を、議会ではホールドと呼ばれている。

議案に対する修正案の準備などという理由で、 議案そのものに対する上程を一定期間待って欲しいと要求できるのである。会期延期となるのだが、本会議上程そのものに反対するのに有効とされる。

だからこそ俺は情報共有する上で、彼らに合意を得ようとしているのである。賛成票を投じろとまではいわないにしろ、合意を得られれば、議案にホールドをかけるという真似はできなくなる。


会期延長されて、エルトリアより強制退去されれば目も当てられない。だからこそこの会期で決する上で彼らの賛同より先に、まず合意を得ておきたかった。


「どうする? 俺達のみで情報収集して粘ることだって出来るが」

「やめておきましょう。大人気ないし、不毛だわ。私は今日までの議会を通じて、電波法とテレビジョン開設についてはこの場で議論するべき重要案件と捉えている」

「私も同意見よ。通信革命は間違いなく起こる。彼は次の議会に応じるかどうかも分からない。ひとまずこの場で合意を得た上で、状況を整理して議会に望むべきだと思うわ」

「非公式ではありますが協議を行い、彼の意向について最大限に配慮して対応するべきでしょう。私は賛成です」

「決まりだね。それにしても――君は随分政治にも長けているのだね。連邦議会における活動の枠組みを理解している」

「ブレインに恵まれているだけですよ。合意頂きまして、ありがとうございます」


 謙遜だと受け止められたのか、議員達が苦笑いしているのが見える。すいません、残念ながら超事実なんですよ……


実は一年前まで金もなく、残飯漁って毎日宛もなく旅をしていたと行ったら信じてくれるだろうか。政治なんて雲の上の出来事と思っていたからな。

有力議員達の合意を得られたので十分な成果ではあるのだが、自分がやったという自覚はあんまりなかった。













<続く>








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