とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第五十七話




 晩餐会後は団欒用で使用されるウィズドローイング・チャンバーで、ポルトフィーノ一家と長時間過ごした。貴族であるこの家は息女のリヴィエラ一人ではないが、家族全員集まる機会は少ないらしい。

歴史ある様式でまとめられたグランド・ギャルリーは庶民の俺には馴染みがないが、高尚感あって見所は多い。目移りしていると庶民丸出しになるので、ポルトフィーノ公爵達との会話に集中する。

貴族階級の方々との会話は交渉に近しい緊張感はあるが、実のところこのような会話の方がやりやすい。俺のような人でなしからすれば、高町一家のような心温まる御家族の方が落ち着かなかったりする。


この家は上流階級における才能ある人物を積極的に登用し、世界貴族の勢威は輝きを増し、主要各国との貿易や文化交流が盛んになっているらしい。貴族達はその権威を得ようと競うようにして邸宅を飾り立てているという事だ。


「では本日の進捗会議を始めようではないか」

『おや、陛下。今宵は麗しき貴族令嬢との一夜を楽しまれてもかまいませんのよ』

「どうやったら、御家族に会いに行ったその日の夜に男女の仲に発展するんだよ」


 邸宅は世界都市における貴族社会の中心としての機能があり、その建築様式、内装、内部構造などが変化してポルトフィーノ家は成り立っている。

インテリアもテーブル中心にある装飾も大きくなるという図式で、テーブルデコレーションも発達している。案内された邸宅の螺旋階段なんて、下から覗き込んでも幾何学的な美しさがあった。

地球ではノブレス・オブリージュと呼ばれる考え方は異星の貴族にも共通していて、貴族としての誇りは社会的な規範となることであり、自分に恥じない生き方、良心を守ることにあるとされている。


お天道さまに恥ずかしくない生き方を模範とする日本人に通じるものがあって、確かにリヴィエラとも話が弾んだけどな。


『順調に玉の輿を狙っているようね』

『冗談で言ったつもりなのですが……まさかそこまで攻略されているとは恐れ入りましたわ』

「御家族との歓談を終えた後に、二人でお茶飲んだだけだろうが!?」


 通信映像越しにアリサやクアットロに戦慄されていて、心外とばかりに吠え立てた。実際特に何事もなく、就寝用の部屋に案内されたぞ。明日も連邦議会が開催されるからな。

サルーンはホールから正餐の場を引継いだ部屋で客を招いての食事の場、時には舞踏会の会場などとして使用されている。こうした複数の部屋が設けられるようになると、それらを機能的に繋ぐ廊下も必要とされる。

上流階級では書籍の収集なども行われ、邸宅には図書室も設けられている。壁を書架で囲んで読書や執務をおこなう部屋であると同時に、団欒の場としてソファーなどが置かれるのだ。


リヴィエラとはそこで過ごし、夜更け前に色々と語り合ったというだけである。


『キリエも頑張って交流を深めないと、貴族のお嬢様に負けるよ!』

『わ、わたしのことよりお姉ちゃんの方がもっと頑張ったほうがいいよ。せっかくエルトリアの代表として、魔法使いさんと一緒にいるんだからさ』

『わ、私はまだ若いから平気だよ。お姉ちゃんなんだから!』

『わたしより歳上なのに!?』


 俺がポルトフィーノ邸宅に招かれている頃、アミティエ達は高級ホテルで接待を思う存分楽しんでいた。本来ならば全員招待したかったそうだが、両親へのご挨拶となるとまず俺が挨拶する必要があったようだ。

アミティエ達も気兼ねするだろうから、特に不平不満はなくホテルで過ごしている。一日経過して高級感にもようやく慣れてきたのか、ルームサービスなんぞ頼んで盛り上がっているらしい。

若干羨ましく思わないわけでもないが、各自それぞれ自分達の役割を果たすべく日々励んでいるので怒れない。皆一人一人が、現状を打開するべく戦っているのである。


そうしたわけで明日に備えて、各自の進捗状況を確認していく。


「馬鹿なことを言っていないで、状況を聞かせてくれ。まず、ジェイル達医療班」

『父君の多臓器不全について、各臓器自体に明らかな損傷はなかった。
むしろ侵襲に反応して機能の低下を起こしており、その病期を集中治療で乗り越えれば理論的には各臓器は回復すると見ている』

「お父さんは治るんですか!?」


 一時は死を覚悟していただけに改善の気配が見られたその瞬間、アミティエは画面から身を乗り出して結論を迫っている。勇み足だと嗜めるのは憚られてしまうほどに。

多臓器不全はこれまで多くの治療法で、残念ながら死亡率を劇的に改善させるまでには至っていない難病である。

高度かつ高額な医療が必要とされる上に多大な医療器械や薬物、そして専門家が個々の症例の治療に投入しても良い結果を得られるとは限らない。


ゆえにこれまでエルトリア同様、アミティエの父親は匙を投げられてきたのである。


『報告は最後まで聞いてください。まず外科的処置や化学療法などによる原因となる感染、そして炎症のコントロールが新たな機能不全に陥る臓器を防ぐための根本的治療となります。
例えば呼吸不全であれば人工呼吸器や人工肺、腎不全であれば透析、肝不全に対しては血漿交換、心不全には循環作動薬や補助循環装置――

あとは、低栄養に対して中心静脈による適切な栄養補給ですね』

『一つの不全臓器に対する治療が他の臓器に対しては悪影響を及ぼすこともあるから、各不全臓器の相互関連性も考慮しながら細心の注意と観察を行わなければならない』

「一つずつ臓器を直していけばそれで済む話ではないということか……」


 母親についても循環不全に近い状態なので、さまざまな先進医療技術を駆使して治療にあたる必要があると告げる。アミティエやキリエは必死な顔でメモを取って聞き入っている。

臓器関連は非常に繊細でデリケートであり、どれほどの名医でも足踏みする分野なのだが、生命医学として戦闘機人研究を続けてきたジェイル・スカリエッティに躊躇なんて微塵もない。

悪用すれば世界をひっくり返せる技術があり、その手の独特や倫理観なんぞない男である。ゆえにこそどれほど危険で警戒する医学的分野であれ、恐れを知らず実行できる悪徳感は今だけはありがたかった。


未知の分野であるからこそ、探究心を持って治療に望んでくれるだろう。


『複数の重要な臓器や器官が同時に機能不全になりかねない重篤な状態だ。生命維持を第一として、少しずつ改善に取り組むしかないね』

『対策としてはまず発生の予防であり、十分な全身管理を徹底いたします』

「ありがとうございます、お父さんとお母さんをよろしくおねがいします!」


 フローリアン姉妹が揃って頭を下げる。博士やウーノも特段気休めや慰めを口にせず、自分の仕事に全力を出すとだけ告げる。こういう割り切り方は冷徹に取られかねないが、貴重な資質でもある。

何しろ本来であれば、死んでいても不思議ではない難病だ。改善の余地があるだけでも幸運であり、状態の維持はそのまま生命の維持に直結する。苦しいだろうが、今は耐えるしかない。

とはいえ重苦しい雰囲気のままなのもどうかと思うので、次なる見込みを見出す。


「少しでも臓器不全が改善されれば、ユーリの生命活性化が使えるようになる。イリスのエルトリア環境改善も促進できれば、フローリアン夫妻も療養できる下地ができるからな。
二人の進捗は今のところどうなっている」

『リーゼアリアさんの計算とシャマルさんの分析に従って、現在エルトリアの生命活性化を続けています』

『遺跡を通じてユーリの力を制御しているから、環境の激変を起こさず進捗に行っているわ。
少なくとももう人の住める環境には出来ているから、今後悪化しないように地盤作りに入ってるわよ』

「こちらはほぼ何の問題もなく、進んでいるようだな」


 劣悪だったエルトリアの環境が、現在生命を維持できる惑星へと生まれ変わったのは僥倖である。ユーリほどの力を持ってしなければ成り立たなかっただろう。

ユーリが本気になれば惑星規模で改善が行えるのだが、アリサやリーゼアリアの指導で環境の激変化は食い止められている。突然の変異は、生体環境を激変させてしまう。

突然狂ったように環境が変わってしまうと惑星に住んでいた生物がどうなってしまうか不明な上に、連邦政府に間違いなく注目されてしまう。遺跡の稼働だけでは説明がつかなくなるからだ。


主権を確立できれば環境改善も遠慮なく行えるのだが、それは俺の仕事なので少しずつでも政府と議論していくしかない。


『お父様、一つ質問を兼ねての懸念があります』

「どうした、イクスヴェリア」

『イリスの遺跡を連邦政府の関係者に見られています。リヴィエラ様はお父様の取引相手なので問題はないと判断していますが、同行されていた連邦政府議員は心配です。
現在政府議会で議論されている最中と伺っていますが、まず間違いなく何処かで槍玉にあげられるはずです』


 ……かつて冥王として古代ベルカに君臨していたイクスヴェリアの指摘は、恐らく正しい。

そもそもリヴィエラとポルポ代議員の来訪は予想外の出来事で、事後対応に徹するしかなかった。イリスやユーリ、アリサやリーゼアリアは最善の判断で動いてくれたが、揉み消すことは出来なかった。

説明は十二分に行ったつもりではあるが、真実を明らかにできない以上どうやっても嘘が混じってしまう。リヴィエラは商売となるので追求はしないが、あの男は別だ。


電波法の制定はテレビジョンの成立に繋がり、通信技術の革命はエルトリアを拠点として行う事を前提としている。エルトリアの環境については、間違いなく取り上げられるだろう。


『イクスヴェリアの言う通り、明日以降の議会で取り上げられることにはなりそうね。こっちでも議論の想定はしておきましょう』

「私も父上に同行いたしますので、事前に考えておきます。環境データは既に揃えていますが、遺跡に関する資料も取りまとめましょう」

「よろしく頼む。できる限りリヴィエラに任せるつもりだったが、エルトリア関係は俺が出張るしかないな……」


 電波法成立に向けた議会は五日間行われ、明日は二日目を迎える。

ポルポ代議員は初日から諍いを起こした経緯があるので、必ず難癖をつけてくるだろう。議員特権を行使すれば、相当な準備が行える。必要な人材や資料を揃えてくるに違いない。


二日目からも頭の痛くなる論戦となりそうだった。














<続く>








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