とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第三十四話




 ポルトフィーノ商会の代表を務めるリヴィエラ・ポルトフィーノ、連邦政府のお偉いさんであるポルポ。惑星エルトリアを取り巻く勢力図の頂点に位置する重鎮。

二人より依頼されたエルトリアの案内であれば単純な観光ではなく、接待に匹敵する。大切な客人である彼らを丁重にもてなさなければならない。

地球では多くの諸国で政府関係者が接待を受ける事は汚職として禁止されており、重大な規制まで行われている。そうした常識は、異世界では多分通じないだろう。


浮浪時代の俺なら嫌悪していた接待行為だが、今では進んで行っているので人生というものは分からない。


「商隊や護衛の方はお連れにならなくてもよろしいのですか」

「馬鹿を言え。商会長を務めるリヴィエラは日々商売で忙しく、この俺でさえもなかなか約束を取り付けられない貴人なのだぞ。
ようやくプレイベートな時間を得られたこの好機を、手放せるものか。ふふ、充実した時間を過ごそうではないか」

「……はい、楽しみにしていますね」


 営業スマイルを貼り付けながらも本人には視線を向けず、俺に案内を頼むリヴィエラ。この恐るべき社交性は、俺も見習わなければならない。

連邦政府でも有数の貴族ともなれば、二人きりでデートなんて本来ありえない。護衛は大袈裟にしても、従者や付き人を連れて歩くことは常識とも言える。治安とは常に、絶対ではないのだ。

リヴィエラの商隊やポルポの護衛は本来意見できる立場ではないが、流石にモンスターの襲撃が遭った後では不興を買おうと反対はする。


彼らだってプロだ、依頼人への好悪は別にしても任務は果たさなければならない。険悪な空気が流れ始めて――


「リョウスケ様。急な依頼で申し訳ございませんが、エスコートをよろしくお願いいたします」

「ええ、お任せ下さい。その代わり――」

「はい?」


「商品、割引してくださいね」

「まあ……ふふふ、勉強させて頂きますわ」


 半分冗談半分本気で言ってみたら、リヴィエラは一瞬目を見開いた後とても楽しげに快諾してくれた。護衛や商隊の方々もつられるように笑っている。

正直なところ、俺としてもあまり大人数で連れ歩きたくはない。連邦政府側の人間を集団で連れ回して、ボロが出るのはまずいからだ。人の目は少ないほうがいい。

俺が推薦して連れてきた移住者達は妖怪や人外、異種族の連中ばかりだが、一応きちんと人選はしている。悪鬼羅刹なんぞ連れてきたら、開拓どころではなくなるからな。


とはいえ、いきなり大勢を連れてまわると彼らを刺激してしまうだろう。少ないほうがありがたい。


(ただ連中が納得してもらえるか――もう撤収作業を始めてる!?)

(主が案内役となって、皆さん安心したようですね。さすがは人たらし、もう人望を掌握していますね)

(貴様、褒めてないな!?)


 何を持って大丈夫だと判断したのか、護衛や商隊の方々はポルポの命令に従って撤収していく。大丈夫だと判断した根拠を、俺に向かって言え。

文句を並べてみたが、彼らがこのままサボるとは当然思っていない。モンスター襲撃の後始末をする必要があるし、不時着している遊覧船もどうにかしないといけない。

何より彼らの本来の役目は惑星エルトリアへの商売である。商船が襲われて商売できませんでした、では話にならない。主より命じられて商船を立て直し、商売品を運んでいく。


取引関係はアリサとリーゼアリアが目を配りながら、アミティエとキリエが交渉に臨む。下手なことにはならないだろう。


「お車を用意いたしました、どうぞお乗り下さい」

「運転手をお願いするような形になりまして、申し訳ございません」

「案内役が車を運転するのは当然だ。お前ほどの人間がいちいち頭を下げるのはやめろ」


 ポルポとしてはリヴィエラを持ち上げて彼女からの好感度を高めようと思っているのだろうが、彼女の場合相手をひたすらこき下ろして持ち上げる手段は下策に思える。実際表面には出していないが、あまりいい顔はしていない。

一方俺はというと、CW車より持ち込んだ車に対して何も言っていない事実を分析していた。何しろミッドチルダと地球というだけで、科学と魔法というとてつもない文化の違いがあるのだ。世界線を超えると、何が発展しているのか全然分からない。

ある程度の確信はある。何しろアミティエとキリエが、異世界の車やバイクを知っていたのだ。この世界の機械的文明はある程度発展していると考えていい。衛星兵器なんてものを作ろうとしているのだから、地球と似た技術レベルと考えるべきかも知れない。


――ちなみに俺は無免許なんだけど、あくまで地球の話である。今年十八歳なのでまだ免許は取れていないだけで、運転は教えてもらっている。お金も戸籍も必要だから、孤児院から抜け出した身には辛い。


「惑星エルトリアの環境変化には驚かれた事と存じます。まず風景を楽しみながら、お耳を傾けて下さい」

「ええ、是非よろしくお願いいたします」


 連邦政府の代理人に話した内容を、リヴィエラとポルポに改めて説明する。この点に齟齬があると、連邦政府と繋がっている彼らとの間で不都合が生じるからだ。

立ち退き勧告までされていた惑星のテラフォーミング、ユーリとイリスが成し遂げた偉業を遺跡による効果だと説明。環境の改善を見守りつつ、惑星への歪みとならないように自分達がいるのだと。

この点については俺という人間をこき下ろすポルポだけではなく、リヴィエラも思案した顔を見せている。当然だ、フローリアン一家という登場人物に突如異世界から謎の剣士が飛び出てきたのだから。


エルトリアの環境変化に驚きの目を向けながら、質疑応答が始まった。


「一定の移住民を満たした事で遺跡が発動したと見解を述べられておりましたが、何か根拠はお有りなのですか」

「事実から顧みた推察に過ぎません」

「何だ、そのいい加減な見解は。結局、どうとでも言えるではないか」

「ええ、まさしく」

「貴様、開き直るつもりか……!?」

「不快に思われたのなら申し訳ありません。私としては起きた過程を考えるのではなく、起こり得る結果に向けて最善を尽くしているだけです。
なるほど、急にエルトリアの環境変化が劇的に起きたのは不審であると。ポルポ様のご指摘は、まさに正鵠を射ております。

しかしながら我らのような凡人は、神に等しき偉業には平伏する他ございません。雄大な自然への回帰、惑星のテラフォーミングが起きたことに対して結果を受け止めるしかないのです」


 事実なんだから仕方ないねという無責任な発言にポルポは不愉快な視線を向けるが、リヴィエラは俺の言葉を深く思索している素振りを見せる。よし、悪い傾向ではない。

この点についてはハッキリした理由をわざわざ用意する必要はない。遺跡というありえそうな異物に対して責任を向けていればそれでいい。

恐らく遺跡はこの先連邦政府によって徹底的に調査されるであろうが、あの遺跡はイリスが管理しているので全く問題はない。不都合な事実は全て排除しているので、懐を探っても何も出てこない。


――実はこの点について、ちょっとしたやり取りがあった。


『ふふん、もしも調べられた時にユーリの顔写真とか残ってたらどうなるかしらね』

『あー、さては私を売ってお父さんの娘になるつもりですね!』

『前半はその通りなのに、何で後半の結論がおかしくなるのよ!?』

『裏切り者フェーズは以前やったので飽き飽きですよ、マスター』

『あんたはあんたでだんだん毒舌になってきていない、イクス!?』


 確かにここでイリスに裏切られると破滅なので効果的なのだが、イリス本人がマジに受け止めないでと否定しているのがやばい。こいつ、本当に根はいい子なんだな……何でキリエを裏切ったのか分からん。

俺から頼みもしていないのに、隠蔽工作くらいしてやると渋々といった様子で言ってきたので任せている。イクスヴェリアもイリスと一緒なので、下手な工作は出来ないだろう。

白を切った俺に対して、一代で商会を築き上げた彼女は指摘してくる。


「リョウスケ様は何故エルトリアの代理人として、この惑星の開拓に望んでおられるのですか」

「フローリアン一家には御恩がありましたね、いわゆる恩返しという訳です」

「他人の事情に対して失礼な物言いで恐縮ですが、天秤が釣り合っていないように思われます」

「と、申されますと?」

「原因と考えられている遺跡に対して、警戒を行っていないのが気になります。惑星の改善であるとリョウスケ様は申しされていますが、真逆の可能性も十分考えられます。
いえむしろ、何故リョウスケ様ほどの御方がこの点を考慮されておられないのでしょう。実際、我々は貴方様がモンスターと分類する生物に襲われました。

立ち退き勧告まで受けたこの惑星は、遺跡の力によって暴走としているとは考えないのですか」


 げっ――しまった、このエルトリア案内の依頼は彼女から試されていたのか!? 依頼された時、返答する前にアリサに確認するべきだった。

確かにそうだ。惑星エルトリアへの案内を引き受けたということは、この惑星は安全だと確認している所作に他ならない。どうしてそう思ったのか、根拠を追求されるのは当然だ。

くそっ、油断した。純真可憐なお嬢様、連邦政府の重鎮さえ射止める美人。礼儀作法を重んじる優しい女性に見えていたせいで、隙を見せてしまった。

直接追求しなかったのは、助けられた恩義があったからだろう。依頼という形で自分の疑惑をのせて、俺という人間を観察しているのだ。


ええい、俺に関係してくる女はどうしてこう油断ならないんだ。箸より重いものを持ったことがないお嬢様とかいないのか、おとぎ話の中だけなのか。


「それは考えられませんね」

「根拠を伺ってもよろしいでしょうか」

「ポルトフィーノ商会より依頼があったと、フローリアン氏より事前に伺っていたからです」

「我々への依頼が、この話にどうつながると?」

「ポルトフィーノ商会の評判は聞き及んでおります。惑星エルトリアの技術に目をつけた時点で、リヴィエラ様は徹底的にエルトリアについて調べられたでしょう。
この惑星には遺跡が存在することも把握済みである筈だ。重要な仕事を任せられた貴方様の見解に間違いはないと思っておりますよ」

「……正直申し上げて、我々も此度の件については想定外でした。ですのでこうして、責任者である私が足を運んでおります。それでも?」

「私も同じです。危機感はないのかと仰いますが、正直申し上げて私はむしろ安堵を強めています。
こうしてお二方をご案内しているのも、実は今起きているエルトリアの状況に対して意見を聞けるのではないかという下心があるのですよ」

「ふん、腹持ちならない奴だな……あわよくば、俺のような見識者にまで意見を求めようというのか。百年早いぞ、凡人め」

「ははは、お恥ずかしい。遺跡にもご案内させていただきますので、どうかお許しを。
実は既に専門家も呼んでおりまして、遺跡の安全は確保しているのですよ。商会の方だけではなく、連邦政府の方までいらしゃって下さったのは渡りに船でした。

是非一度ご覧になって下さい」


 ふう……やばかった、何とか乗り切ったぞ。


当たり前だが、ポルトフィーノ商会の事なんぞ今日この日に至るまでサッパリ知らなかった。どんな評判があるのかなんて、耳にしたこともない。めちゃくちゃ適当に言っている。

ただ連邦政府まで抱き込むほどの手腕があるのだから、評判の良さそうな商会なんだろう。その一点にかけて、それっぽいデマカセを並べただけである。

自分の商会を褒められて、嫌な顔するやつなんていない。お世辞だと分かっていても、耳には残るものだ。


「ありがとうございます、よろしくお願いいたします。
きちんとした事前準備をされていたというのに無作法なご指摘をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「当然の疑問です、どうぞお気になさらずに」


 不幸中の幸いだが、これで彼らの関心を遺跡へと導けた。今日のところは遺跡の調査に徹底するだろう。

妖怪達にまで目を向ける余裕なんぞなくなるはずだ。遺跡を調べて、何としても惑星エルトリアの環境変化に対する答えを得らなければならない。


時間稼ぎをしているこの間に、妖怪達の村を作り上げて、エルトリアという国を成り立てていこう。















<続く>








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