とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第九十五話




 家に帰るという子供でも出来る行為が、大人になると出来ないというのは実に変な話だと思う。身一つだった頃は随分不便を感じたものだが、金や力を持った今でも性質の違う不便さを感じる。

明確な引退を示唆した演説ではなかったのだが、護衛を断った"聖王"を惜しんでくれる人が非常に多く、街中で信徒達に泣き付かれた時は随分と困らされてしまった。

責任の所在は聖王教会に委ねたが、権利を有している以上義務も生じる。懸念材料も多く残されている事もあり、この聖地での再活動もいずれ余儀なくされるだろう。後始末は山ほど残っている。


その点メガーヌ・アルピーノ捜査官は時空管理局所属の為、潜入捜査を終えてクロノ達のいる捜査本部へ帰還。ジェイル達が半ば自首して来た以上、彼女の任務は概ね完了したと言える。


三役の方々は引き続き、残って下さる事になった。それなりの立場についていると、場所を問わず己の責任を果たせるそうだ。是非とも模範にしたいと、改めて思わされる。

聖騎士アナスタシヤは俺の騎士に着任した途端、聖王教会より以前から要請していた騎士団からの除隊が正式に認められたらしい。俺が"聖王"となった以上、彼女の威光は形を変えたという事だ。

シスターシャッハやヴェロッサも教会から左遷を解かれたそうだが、引き続き白旗での活動に張り切ってくれている。聖女から離れて大丈夫なのか気にしている俺を見て、娼婦が困ったように苦笑していた。

その娼婦は相変わらず風俗業から足を洗わず、肌を露出した格好でうちのお茶汲みをしている。教会への謎の情報網は健在で、貴重な情報を提供してくれる。風俗女は逞しかった。


聖地全体にまで波及した戦乱に巻き込まれた白旗だったが、戦争が終結した今も欠員は0。扱き使っている気がするのだが、増員した連中を含めて皆逞しく働いてくれている。


カリーナ・カレイドウルフは、聖地で起きた一連の事件を顧みても一番の勝者であると断言出来る。白旗のスポンサーとして大儲けした上に、絶大な権力と発言力を手に入れてしまった。

絶対者の下で辣腕を振るったセレナさんはカリーナのメイド兼社長秘書として日々忙しく働いている。俺との婚約を一向に解消してくれない理由を、あの人は今日も微笑みの中に隠している。

婚約者といえば、ヴィクトーリア・ダールグリュンは聖王陛下の花嫁として認知されてしまった。世間が困惑しないのは、戦争で混乱していた人々を纏め上げた幼き勇姿あっての事だろう。

彼女の友人であるジークリンデ・エレミアはその後、入院した。精神の傷が癒えてきたので、肉体に刻まれた自傷を治療する気になったそうだ。傷を見せないように、ジャージを愛用している。


子供達でも自立して自分達の立場でこうして頑張っているというのに、己の立場を理解していない馬鹿共も多くいる。















「聖王教会及び時空管理局との折衝を終えて、何とか一時帰宅が認められたわ」

「一時帰宅?」

「当然でしょう。聖女様の護衛が決まっても、あんたの立場は何一つ変わらないんだから。"聖王"陛下の威光により、管理外世界への航路が確立されたのは前代未聞よ。
もっとも渡航の許可が出るのはあんた一人だろうから、航路が定められてもあんた専用になるだけだろうけど。まあ、大義名分というのも組織には必要だから」

「今後の俺の働き次第で、貿易路に発展する可能性も出てくるのか」

「管理外世界が次元法へ組する規定はあるけど、前例が少ないので何とも言えないわね。なによ、異世界での日本大使にでも憧れているの?」

「憧れるか、そんなもん。これ以上責任と義務を増やしたくねえ。ほれ、うちには他ならぬ地球に居場所のない連中がいるだろう」

「ああ、そういえばあんたの目的の一つでもあったわね。その辺は、次への課題にしておきましょう。今のあたしは、あんたの面倒で精一杯」

「色々面倒かけて済まないな」


「あんたと一緒にいると成仏する暇がないわ、本当に」















「剣士さん、ご一緒します」

「妹さんも今回は大活躍だったな」

「恐縮です。先生からもお褒めの言葉を頂きました」

「メガーヌから管理局への進路を薦められたと聞いているぞ」

「ありがたいお話ですが、お断りしました」

「だろうね」

「人々の平穏や世界の平和より優先すべきものがある、それだけです」

「俺としては気持ちはありがたいんだけど、妹さんの場合終始一貫しているので殊更厄介だな」

「と、言いますと?」


「妹さんをめぐって、メガーヌがクイントと大喧嘩しているらしいぜ」


「それは誤解です」

「えっ、でもそう聞いているぞ」

「お二方が取り合っているのは、私ではなく剣士さんですから」

「いやいや」

「いえいえ」


「このコンビの分かってない感が、頭痛い」

「うちの妹ちゃんが迷惑をかけるね、アリサちゃん」















「侍君、私は残るよ」

「ほう」

「この世界で私、生きる目標が見つかったんだ」

「なるほど」

「私は此処で骨を埋めようと思うの。さくらには本当に迷惑をかけるけど、私は元気ですと伝えておいて欲しい」

「分かった」

「うん」


「ノエル、連行しろ」

「畏まりました、旦那様――忍お嬢様、失礼します」


「もう私の命令を聞こうともしない!? キャアッ!」

「此処へ来てもう三ヶ月以上経過しているんだよ、ボケ。目標を目指す前に、まず卒業しろや」

「いやあああああ、休日返上の補習の日々はいやああああーーーー!」

「安心しろ、お前の代わりにファリンが残ると本人が申し出てきた」

「主人を飛び越えて何勝手に要望しているの、あの子!?」

「俺の女になる最低条件は、高卒だぞ」


「聖王様になって、学歴が条件に加わった!?」















「忍さんとは少し理由は違いますが、私も実は帰ることに抵抗があるんです」

「あいつの理由は大概だけど、お前の場合は――やはり霊障か」

「魔女さんが行方不明と聞きました。それに神様が久遠を祓おうとしていた事も、本人はひどく気にしています。アリシアちゃんの事もありますし、オリヴィエ様についても心残りです。
私の力でお役立て出来た事は本当に嬉しいですけれど、私はこの地で同時に限界も感じました」

「あんな神魔跋扈の状況だから、自分を卑下することはないと思うんだがな」


「忍さんと一緒に補修を受けないといけないのですが――良介さん、私も実家に帰ろうと思っています」


「……理由は、俺と同じのようだな」

「はい、限界を知った今の私には必要な事だと思います。私が祈る神様は、私も殺そうとしました――あの子を祓えない私は退魔師ではないと、そう仰られたんです」

「そうか……その、すまんな。今の俺には、何も言えそうにない」

「良介さんは、私の力が人々を救ったのだと言ってくださいました。その言葉に、私は救われた。だから、私も貴方に同じ言葉をお返ししますね」


「俺の剣が人を救った、か」

「……慰めにしかなりませんね。貴方にとっても、私にとっても」















「のろうさ、ザフィーラ、二人には世話になったな」

「あー、やっと帰れる。早く帰って、はやての飯が食いてえ」

「シグナムやシャマルも待ち侘びているであろうよ」


「ミヤは残るそうだ。はやてには会いたがっているが、それでも戦乱で傷付いた人達の力になりたいと言っている」


「……ちっ、あの馬鹿。主を置いて、生意気言うようになりやがって」

「"姉"だと言う彼女の力にもなるつもりなのだろう。聖王の力として、救済の役に立つように励むそうだからな」

「俺はしばらく此処と向こうの往復になるだろうけど、二人はどうする?」


「何のことだ?」


「えっ……?」

「アタシはのろうさ、この聖地で活動する白旗の一員だ。向こうにいるのは、ヴィータという一人の騎士だろう。
どちらも自分の居場所で活動する、それだけだ」

「ふっ、この男と同じく立場を使い分けた二重生活か」

「う、うるせえな! ザフィーラはどうするんだよ!」

「愚問だな」

「あんだよ!?」


「此処にも、向こうにも、友がいる。我が戦う理由は、それで十分だ」


「ははは……本当にカッコいいな、あんたらは」

「けっ、お前がもっとしっかりしろって話だ」

「うむ、一層鍛えあげるので覚悟しておけ」

「ぐへぇ、藪蛇だった」















「駄目です」

「何でだよ、お前が所属する組織から渡航許可が出たんだぞ」

「管理外世界に小さなあの子を連れて行って、病気になったらどうするんですか」

「失礼なことを言うな、偏見だぞ!」

「ほう、そこまで言うからには綺麗な空気と土地のある、安全快適な場所なのでしょうね」

「無論だ、自然に恵まれた町だぞ」


「通り魔事件に遭遇したと聞きましたが?」


「うっ……も、もう逮捕されたよ!」

「父親が脱走した病院があるそうですね」

「ううっ……それはその、若気の至りというか」

「ジュエルシードが落ちた場所ですよね、そこ」

「おおう……ぜ、全部回収されたから」

「刃傷沙汰が盛んに起きたと評判ですね」

「なんで全部あんたに筒抜けになってるんだよ、リーゼアリア!?」

「たった数ヶ月でこんなに事件が起きている場所に、親である貴方がナハトを連れて行こうというのですか!」

「うぐぐぐぐ……」



「――そろそろ加勢に入るとしますか。これでまた好感度がアップですね」

「あっ、ズルい。シュテルばっかり、パパにアピールして!」

「祖母殿にお会いしたら、父の娘として恥ずかしくないように挨拶せねば、コホン」

「お父さんの故郷――ようやく皆で一緒に行けるね、ナハト」


「むふー」





「管理外世界に拠点を置くとなると、それなりの立場が必要となるね。君の手伝いをしながら、身の振り方を考えるとするか」

「その賢い頭で今後を考えているところ悪いけどあんたは留守番だからな、犯罪者」

「司法による取引を遵守する必要があるので仕方ありませんね。ああ、陛下とともに行けず残念です」

「すげえ嬉しそうな顔だな、ウーノ!?」

「私は勿論陛下とご一緒しますわ、異国の地で教会を立てて貴方様を祭り上げます」

「ここで念仏でも唱えていろ、シスター」

「陛下と一緒にいきたいところですが、田舎町での生活なんて退屈極まりありませんわね。まあどうせ帰ってくるでしょうし、罠でも仕掛けて待っていますわ」

「余計なことをするな、クアットロ」

「陛下、我々は貴方様と共に参ります。教会からも正式に依頼がありましたので」

「我ら騎士団、貴方と共に」

「力を借りる局面があるかどうかは別にして頼もしい限りだな――チンクにトーレはいいとして、セッテも一緒に来ていいのか?」

「……」

「聖女様からの依頼で、俺の世話役を頼まれたのか。世話係までつくなんて、本当に王様にでもなった気分だな」

「首絞めたら、すぐ依頼出してくれた」

「じょ、冗談だよね、それ!?」


「よーし、兄と一緒に新しい冒険に出発っすよ!」

「お前の母親を名乗る女が、いい加減我慢の限界で明日引き取りに来るぞ」

「いやー!? 帰りたくない、帰りたくないっすよ―!」

「俺の腰にしがみつくな!?」















「アリシア、リニスを見なかったか?」

「お仕事に行ったよ。リョウスケが居ない分、窓口役として今日も頑張ってくれてる」

「うーむ、別れの際というのに現実的だな、あの人は」

「リョウスケの事信頼しているんだよ、リニスは。役目を果たしてくれている、優しいお姉さん」

「大人という感じだけどな、俺としては。アリシアは――聞くまでもないか」

「とーぜん花嫁だもん、えっへん。それに」

「それに?」

「なのはちゃんだっけ、フェイトの友達。その子にも会って、色々お話したいな」

「ああ、なのはか。是非会って友だちになってやってくれ」

「むふふ、任せて。アタシからも相談に乗ってほしいこともあるしね」

「女の子同士の相談という奴か」

「うん、フェイトが今困ったことになってるんだ。それで力になってほしいの」

「事情はある程度聞いているけど、俺は力になれないかな」

「勿論、一緒に頑張って解決しよう! オリヴィエママの事もアタシにいっぱい頼ってね、ダーリン」


「……嫁と姑の喧嘩には、一番関わりたくない」















 ――この異世界は大きく揺れ動き、戦争にまで発展して大きな変化をもたらした。俺自身も劇的に変わって、周辺を巻き込んで環境そのものまで変えてしまった。

剣を捨てた今、自分の行くべき道は閉ざされてしまった。孤高であることは不可能となったが、同時に孤独に陥ることは回避された。仲間達と共に行く道の先には、何が待っているのだろうか。

花道ではなくなったというのに、道中はとても賑やかで落ち込んでいる暇もない。望まずとも勝手に一緒に歩く連中ばかりで、退屈だけはしそうにない旅となるだろう。


問題も多く、課題も山積み。どこから手を付けていけばいいのか分からないが、ともあれ今は故郷で身を休めるとしよう。身体も心も、夢破れて疲れ果てている。



暑い夏が終わり、涼しい秋を異世界で過ごして――故郷に、冬が到来する。



「では帰りましょう、主」

「ああ。行くとしよう、ローゼ」


「……」

「……」


「何のために数ヶ月てめえ一人のために頑張ったと思っとるんじゃ!」

「お帰りをお待ちしております」



 ――我が物顔でついてこようとするアホを蹴り飛ばして、俺はさっさと自分の家に帰った。










<END>








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