とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第五十九話




  ――つい、カッとなってしまった。聖王教会騎士団に決闘を申し込む算段自体は同じだが、あの言い方では本来の狙いとは真逆の効果しか生み出さない。文字通り、雌雄を決する羽目になる。

同じ治安維持組織同士、神の名の下に御前試合を行って実力をお披露目しましょう。御前試合はあくまで過程こそが大切であるというのに、勝敗による結果を求めてしまった。趣旨が全然異なる。

両組織が聖地の民の前で激突すれば確かに実力を披露する形にはなるが、同じ治安維持組織同士で禍根は残したくなかった。決闘という堂々たる戦いで、後腐れなく勝敗を決めたかったのだ。

聖女の護衛の座は一つ、禍根を全く断ち切るのは不可能だろう。だが不可能だからといって、最初から努力もしないようでは話にならない。人を率いる立場であるのならば、最善かつ最高を目指す。


加えて想定外だった、魔龍の滅ぼし方――アギトに内蔵の隅々まで焼き尽くされて、まだ生き延びているとは夢にも思わなかった。休眠に入った状態でも、決して安心出来ない。


「お疲れ様です、剣士さん。お話はいかがでしたか?」

「結果としては想定通りで望ましいのだが、過程のせいで台無しになった」


 俺が申し込んだ決闘をこの際拒否してくれていれば冷静になれたのに、よりにもよって団長殿が受けてしまった。大怪我を負っている俺の状態でも過不足なしと、超過大評価されたのだ。

"聖王"には懐疑的であっても、聖王と認められたプレセアとの決戦は団長としても軽視出来るものではなかったようだ。しかも怪我している俺から申し込んだのだ、挑発となって引くに引けなくなった。


決闘方法は、多数対多数の大規模な集団戦。『ライフポイント制』という安全ルールを用いての、魔法戦技術を競う決闘方法。大規模結界による隔離空間で、両組織の戦争が行われる。


ポイント制の仮想戦闘と聞くと何だか肩透かしなのだが、試運転中でありながら明確なルールと公平な裁量に基づいた、画期的な決闘方法であるらしい。寸止めルールのような生易しいものではない。

その辺の采配はさすが聖王教会騎士団の団長と言うべきか、いがみ合っていようと同じ治安維持組織である事を配慮してくれている。あくまで御前試合であって、生臭い殺し合いではないのだ。

特に俺達白旗はユーリ達のように実力こそあっても、実力の証明がない人間が大多数だ。トーレ達戦闘機人は当然非公式の立場、ユーリ達でさえも魔導師ランクは計測していない。

未知数とは戦場では脅威だが、日常では単なる未鑑定品だ。ユーリ達は過去に人前で実力を見せつけたが、それとて非公式。治安維持活動による実績も黙認であって、公認とは言い難い。


だからこその御前試合、実力のお披露目なのだが、俺としては聖王教会騎士団のお披露目をしたかったので複雑である。まさか向こうから、御前試合の配慮をして貰う事になるとは思わなかった。


どれほどスキルがあっても、資格がなければ現場では信用してもらえない。危険物処理の技能があろうと、無免許で危険物処理を行わせる馬鹿はいない。戦争では時に、生死を分かつ事もありえる。

ライフポイント制はそういう未知も含めて、完璧に実力を判定出来るルールとなっているらしい。まだ実績こそ少ないが、公平な決闘方法として最近用いられているようだ。

詳細ルールや御前試合場を含め、後日の通達を約束してひとまず話し合いは終わった。決闘となったが、お互いに立場ある身。物別れではなく紳士的な握手で何とか終えて、妹さんと外へ出る。


「――剣士さん」

「分かっている。妹さんには俺の護衛を兼ねて、決闘には出場してもらうよ」

「ありがとうございます。来るべき決闘までに、新技を完成させてみせます」

「頼もしいな。妹さんの頑張りに応えられるように、俺も今の内に考えておかないと」


 実に、困った。聖王教会騎士団が提案する公開処刑に対して、俺は明確な対案を持っていない。公開処刑は野蛮だと批判しながら、プレセアと魔龍をどうするべきか対案を提示出来ていない。

考えていないのではない。魔龍は滅ぼせたと思っていたし、プレセアは聖地に派遣された時空管理局の連中に逮捕させたのだ。後は法が裁くべき事であり、司法に介入する権利など俺にはない。


奴らの処分なんて俺がそもそも考える必要も――あれ?


「プレセアは時空管理局に引き渡したのに、何故聖王教会側に司法権が委ねられているんだ?」

「この聖地は自治権を有しているので、聖王教会に委任されたのではありませんか」

「妹さんの言う通りだとは思うけど、憶測で動くのは危険だ。聖王教会と管理局に問い合わせてみよう」


 過去の俺では到底考えられないが、時空管理局や聖王教会という司法及び宗教の最大組織にコネがある。直接面通し出来る身分ではないが、取次をお願い出来る人達と関係を持てている。

孤高であるべき剣士としてはあまり望ましくないのだが、一人で生きていける実力がない以上仕方がない。過去の自分が愚行として唾棄していた、人脈によるコネを最大限活用して頭を下げる行為を行う。

時空管理局への面通しには三役の方々を、聖王教会への融通には司祭様を――両人への面会にはリーゼアリアやドゥーエ達にお願いすると、なんと今日中の面会が行えてしまった。


どうも先日の白旗方針会議の時点でこの展開は予想出来ていたらしく、関係者一同が既に動いてくれていたようだ。俺が浅はかなのか、彼らが卓越しているのか――多分、両方だな。


「聖女様にも同席をお願いしたのだが、世話役のシスターによると本日は体調が思わしくない御様子との事。私も面会に行ったのだが、世話役に必死で押し留められた。誠に申し訳ない、聖王"殿"」

「いえ、こちらこそお忙しい中お時間を取って頂いてありがとうございます」


 プレセアとの決戦を通じて、教会は俺を"聖王"と認定したらしい。民の厚き信頼に加えて、聖地に絶大な影響力を有するカレイドウルフ大商会の宣言。次元世界への認知を考慮した結果だった。

ただ聖王だと確定していないのは、聖女の護衛の座まで確立してしまうからだろう。聖女の護衛の座は単なる宗教の概念だけではなく、俗世間のあらゆる利権が絡んでいる。簡単に断定出来ない。

とはいえ、俺という存在を軽視も出来ない。聖王教会は宗教の象徴ではなく、宗教の組織である。各方面の調整も兼ねた現状が、司祭様が仰った"聖王殿"だ。俺の意向もドゥーエが配慮してくれた。

聖女様の体調については、事前に問い合わせたセッテからも聞いている。体調不良による欠席――今頃下働きさせている娼婦のように、身体を悪くでもしたのだろうか?


「こちらも現地の隊長殿や御三方が現在、復活祭の警備や先の決戦の後始末等に追われてしまっている。私は代行と思っていてくれ」


 ……こっちはこっちで、体調でも崩して欠席してもらいたかった。連絡を取った三役の方々が融通を利かせて下さった結果、聖王教会に顔が利いて比較的手の空いたお偉いさんが来てくれた。

復活祭の名誉顧問を押し付けていた、ギル・グレアム時空管理局顧問官。三役の面通しとリーゼアリアの融通が生んだ相乗効果による、妥当にして最悪な人選。ここぞとばかりに乗り込んでくる。

"聖王"となったとはいえ所詮は仮免状態、本当に立場ある人には到底勝てない。追い出す権限なんぞあるはずがないので、仕方なく相談に乗ってもらうしかない。


急遽お集まり頂いた事への礼を最初に述べた上で、聖王教会騎士団との決闘と、魔龍やプレセアの処分についての論議を説明する。無論決闘の趣旨は私的ではなく、お披露目である事を説明して。


「聖王教会騎士団との御前試合。治安維持組織の実力を信徒の方々にお披露目をして、今起きている戦乱に苦しむ人達への安心材料としてもらう――君の趣旨は理解した」

「持って回った言い方ですね。この場は事の次第を論議すべく設けさせて頂きました。是非とも忌憚なきご意見を聞かせて頂きたい、グレアム提督」

「君の趣旨は聖王教会騎士団の方々に明白に伝わっているのか、私には大いに疑問だ。趣旨はどうあれ、内容は決闘なのだよ。勝敗が分かれる」

「誇りある決闘であれば勝敗がどうあれ、意義のある戦いとなり得る筈です」


「君の言っている事は理想どころか、机上の空論だよ。もしも君達白旗が勝てば、信徒の方々は聖王教会騎士団より白旗の方が上だと認識する。
君達こそが聖地を守るべき組織であると、君こそが聖女を守護るべき護衛であると、断定してしまうのではないかね。君の目的は、そこにあるのではないか?」


 だから、こいつは嫌いなんだ。俺とは常に反対の立場を取り、なおかつ相応の反証を行ってくる。たまには、意味不明かつ理不尽極まりない反論でもしてくれないだろうか。

見ろ、司祭様の目が懐疑的になっているではないか。騎士団長にあれほどの啖呵を切った手前、何の私心もないとは言いづらい。決闘を申し込んだのは公開処刑と、聖騎士について思うところがあったためだ。

ただ、この点については大丈夫。騎士団長と物別れに終わらなかった事が、この場で生きる。あの人の懐の広さが、本当にありがたい。言い争いに終わっていれば危なかった。

どうしてあれほど立派な人が、聖騎士に対しては視野の狭い思い込みをしてしまうのか――ともあれ、今はこいつに反論しなければならない。


「私に対して穿った見方をされるのは結構ですが、ご指摘下さった点については聖王教会騎士団の団長殿と事前にお互いの了解は得られております。
この御前試合は私心無き決闘であり、勝敗に含めて如何なる結果も受け入れる。信徒の方々の心証も言わば、我々にとって覚悟の上です」

「だとすれば、正直に言わせて貰うと、些か以上に独断の過ぎる私闘と言わざるをえないね。聖王教会騎士団は聖王教会が定めた、ベルカ自治領を守る公式騎士団だ。
君は立場を軽く言っているが、彼らの立場は聖王教会が確立しているのだよ。彼らが軽んじられるのは、聖王教会が軽んじられる事となってしまう」


 公開処刑の是非を聞きに来たのに、何でこいつと言い争わなければならんのだ。貴重な時間と労力を延々と消費されていて、腹が立つ。

ムカついて仕方ないのは、決して無駄な論議ではないことだ。指摘自体は一応公正なので、考えさせられる面も確かにある。不正に権力を肥やすオッサンだったら楽だったのに。

悪い頭を必死で働かせつつも、決して焦燥を顔には出さないように努める。こんな事に慣れてしまうと、その内能面になってしまわないか不安になる。フィリスのほんわか笑顔が懐かしい。


「この場にお越し下さっている司祭殿には大変恐縮ですが、現在聖王教会騎士団が置かれている立場を鑑みますと権威のみではこの先成り立たないと思われます。
聖王教会の威信そのものは今盤石となりつつありますが、治安の安定については今後の課題です。

魔龍や龍族の姫といった人外の脅威が現れた以上、ここで治安維持組織の高い実力をお披露目し、信徒の方々に安心して頂くべきです」


 ギル・グレアム提督の意見は間違えていないが、肝心の聖王教会そのものが治安維持については腰を定めていない。何故なら治安維持責任者の決定は、聖女の護衛の決定と結びつくからだ。

聖女を、この聖地を心に守るべきなのは誰なのか。その答えがまだ出ていないからこそ、猟兵団や傭兵団といった危険な集団まで招き寄せてしまっている。人外も然りだ。

俺達白旗も余所者なので大きな声では言いづらい事ではあるのだが、グレアムが指摘してくるので敢えて心を鬼にして反論した。司祭様も難しい顔をしている。


今だ。治安維持の問題が浮き彫りになったこのタイミングならば、上手く切り出せる。これ以上言われる前に、言ってやれ。


「今議論している治安維持の問題について、先ほど聖王教会騎士団の団長殿より提案をお聞きしてまいりました。
聖王教会へも強く打診されているそうですが、騎士団に魔龍とプレセアの公開処刑の許可を求められているそうですね」

「聖王殿もお聞きになりましたか……誠に申し訳ない。復活祭という素晴らしい祝祭が行われているこの時に、血生臭いお話をさせてしまって」

「いえ、かまいません。ただ正直申しまして、強い疑問を持っております。この件については、グレアム提督のご意見も是非聞かせて頂きたい。
そもそもの話、このベルカ自治領で公開処刑という裁きを行ってもよろしいのですか?」

「過去に前例がないとは申しませんが、少なくとも聖王教会と時空管理局による平定が行われた後で実行された例は一度もございません」

「時空管理局も然りだ。君も痛感しているように、時空管理局とは次元世界全体を管轄とする治安組織であり、厳格な司法に基づいた拘束力のある裁定を行っている。
極刑についてはこのミッドチルダでも賛否があり、激論が繰り広げられている。私刑を許してしまえば、治安維持組織の平等性が成り立たなくなる」


 良識ある人達の声に安心するよりも、こういった意見が一般的なのだと改めて認識させられた。法があろうと此処は異世界、自分の世界の常識は通じない。

ミッドチルダには法があり、言葉が通じる人がいて、価値観を共有できる仲間がいて、時に忘れそうになってしまうが、此処は異邦なのだ。日本と、全てが同じでは決してない。

実際俺が安堵する暇もなく、司祭の苦悩が刻まれた皺が解かれることはなかった。


「ただし相手が龍族――人々に災いをもたらす龍であるというのであれば、前例が全く無いとは必ずしも言い切れません」

「どういう事ですか、具体的に言って下さい」

「具体的も何も、君自身が実際に行っているではないか」

「私が……?」


「聖地に災いをもたらす魔龍に対し、君は人々が見守る中で処刑を敢行しようとした」


 ――アギトの炎で焼き尽くされる魔龍、俺の剣で胸を刺されたプレセア。あの時大勢の人達が見ている中で、俺は司法を飛び越えて彼らを殺そうとした。

あの時、俺は法を省みていたのか。龍であろうと命なのだと、意識していただろうか――いや、少しも考えていなかった。


殺さなかったのではない、殺せなかっただけだ。それは過程ではなく、あくまで結果にすぎないのだ。


「し、しかし、あの時は戦うしかありませんでした。全力で討伐しないと、聖地は脅威に貶められてしまう!」

「分かっておりますよ、聖王殿! 相手は太古の時代より生きる恐るべき魔龍、貴方が全力で戦って下さらなかったら聖地は守れなかった。
その事は我々聖王教会も、ギル・グレアム殿や時空管理局とて、承知。貴方の認識は正しいのです」

「龍とは人外であり、人に脅威をもたらす存在。全てがそうであるとは断じることはできないが、龍が人を襲ったケースは過去数多く事例が存在する。
人々を襲う脅威に対し、我々が取った行動は『法に基づいた』裁きなのだよ。表現を変えれば、処刑とも言える」


 話を聞くと、龍とは多種多様な生物であり、ルーテシアが以前説明してくれた召喚魔法と呼ばれる力で犯罪に悪用された事件が幾つもあったらしい。

人々を襲って街を破壊する龍に対し、時空管理局は捕縛するケースもあれば――即座に処刑するケースもあったとの事。安全である事を証明するべく、龍の死体を見せつけた事もあったそうだ。

プレセアのような人型の魔龍はむしろ例外中の例外であり、確認されたケースは今回が初めてとの事だ。恐るべき龍の一族を率いる姫については、管理局や聖王教会も扱いに困っているらしい。


彼らの法による例を前提とすれば、大規模騒乱を起こした魔龍については――


「公開するべきかどうかはともかくとして、休眠に入った魔龍を聖王教会騎士団が処刑する件については受け入れられつつあります」

「もしもかの魔龍がミッドチルダの首都クラナガンを襲っていれば、我々時空管理局は即座に討伐していただろう。そして魔龍の脅威を排除するには、完全に滅ぼさなければならない。
数こそ少ないが、時空管理局には次元災害対応レベルである"Sランク"を超える魔導師が所属している。彼らの力を持って、それこそ――公開処刑レベルで、抹殺するだろうね」

「敵は龍族を名乗っているんですよ!? 龍姫のプレセアを公開処刑すれば、龍族が報復に出てくる恐れがあります」

「此処は聖地、彼らの流儀で言えば神の縄張りです。神が降臨する地で無法を放置すれば、神の権威が軽んじられる恐れがあるのです」

「法も然りだ。人ならざる一族との交渉や外交は、管理局内部でも常に過激派と穏健派が争っている」


 ここはベルカ自治領――自治権のある聖王教会が承認すれば、時空管理局も黙認してしまう可能性がある。公開はともかく、処刑すべきの声が教会内からも出てきているのか。

本来、聖なる王を信仰する聖王教会からこれほど過激な意見が続出する事はない筈だ。恐らくかつて最強の武王として名を馳せた聖王の復活と、次元世界中に放映されたプレセア戦の影響だ。

神が降臨して、魔を滅ぼした。お伽噺にでも出て来そうな武勇伝に信徒達だけではなく、教会責任者達まで熱狂してしまっている。生誕祭による高揚感に、酔ってしまっているのだ。

危険な徴候だ、このままでは懸念していた悪しき魔女裁判の再来となってしまう。公開処刑まで容認されかねない。


「……そしてそんな魔龍を使役していたプレセアへの脅威も、同格であると?」

「宮本良介君、彼女の麗しき外見に惑わされてはいけないよ。彼女本人も、人々に災いをもたらす魔龍なのだ。使役していたのであれば、もしかするとあの魔龍を超える脅威かもしれない。
実際君が熾烈に戦った後も、彼女はまだ生きている。いいかね、宮本君――

『"聖王"である君が滅ぼせなかった』脅威だと、人々は見ているのだよ」


 ――どうして、殺さなかったんだ?


リニスの厳しい指摘が、ヴィータの容赦無い叱責が、ザフィーラの咎める視線が、その全てが容赦なく俺を突き刺した。あの時殺せなかった事実が、恐るべき誤解を生んでしまった。

人を殺す事でさえも、大きな責任が生じる。まして世界に災いをもたらす魔龍であるというのであれば、生死の如何で大きな影響を与えてしまう。

団長殿からの追求が、耳元に木霊する。何故処刑を否定するのか、どうして討伐しなかったのか――俺が討伐しなかったから、他の人間がやろうとしているというのに。


「――君と私、考えの違いの根本がこの点にあるのだろうね」

「……」

「私は君に、害意を持っていない。君とて私を、決して心憎しには思っていないのだろう。我々は同じ正しさを持ちながら、決して相容れない立場にいる。
将来に決して禍根を残してはならない。たとえやり方そのものが極めて残酷であろうと、人々を守るためならば鬼にならなければならない。

人の心と言葉を持っていても――たとえ、たとえ……"平凡な少女"であろうと、裁かなければならないんだ!」

「だから……だからといって、独善で裁いてもいい事にはならないだろう!」

「君が独善ではないと、何故言い切れるのかね! 君と私は合わせ鏡なのだよ――その理屈で私を否定するのであれば、それは君自身の正しさを否定することになる。
どこまで行こうと、我々は平行線なのだよ」

「……何故だ……どうして、そこまで……!」


 辛かった。拳の落とし所が、今もなお見つからない。他人への理解に辟易していたのに、どうして理解できないことがこれほど心を痛めるのか。

顔を上げるとまるで鏡を見ているように、苦渋に表情を歪める老人がいた。俺を傷付けていて、自分も同じく傷付いている顔だ。これでハッキリした。

俺と同じく、こいつも理解されるのを拒んでいる――俺達はお互いを知りながら、お互いを決して理解していないのだ。


互いに『見えていないこと』があるから、決して分かり合えないのだ。










<続く>








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