とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第五十話




 聖地で開催されようとしている復活祭は神とされる聖王が復活した事を記念する、聖王教会において最も重要な祭。聖女の予言成就であり、聖王教会の信仰が報われる瞬間であった。

聖女の予言に始まり、聖王のゆりかご起動に続き、復活祭の開催で完了。古今東西多種多様に展開される宗教においても、本当の神が現世に降臨した事は人類史上においても類を見ないであろう。

広大なベルカ自治領を管理する聖王教会は懇意の関係である時空管理局と連携して告知、民は流布し、メディアは喧伝し、ミッドチルダは全次元世界へ発信。この日、この瞬間を、全人類が目撃。


全世界の人々は耳を澄まして聖夜の鐘の音を聞き、目を凝らして鐘の鳴る瞬間を見ている――あらゆるメディア媒体を通じて、その瞬間を目撃した。



『ミヤはこの復活祭開催に、反対しますぅー!』

「直球かよ、あのバカ!?」



 次元世界を管理する時空管理局と蜜月関係にある聖王教会、その威信をかけた復活祭開催は管理局公認であらゆるメイディア規制が撤廃されて全生中継が大々的に行われている。

刻限を過ぎても鐘が鳴らない事を不審に思って、生中継画面を展開して見て頭を抱える。文字通り獅子身中の虫が、よりにもよって公然と復活祭中止を訴えていた。

魔女に奪われた最後の仲間であるミヤ。ユニゾンデバイスである彼女は戦闘機人とは違い、完全なる魔女の支配を受けている。ただ根が良い子なので、裏切らせるのは無理だと高を括っていた。

そもそもミヤは法術で誕生したデバイスであり、性能はあの子の想いによって左右される。良い子だからこそ実力を発揮出来るのであり、悪行なんてやらせたら機能は発揮できない。


魔女もさぞ持て余しているだろうと半ば同情していたが、まさか真っ向から反対運動に回るとは思っていなかった。堂々と反対するのであれば、悪ではなく議論による自己主張だ。


ようやく回収したクアットロとドゥーエの管理は、セッテにしか行えない。博士とウーノは救出部隊に回している以上、これ以上の裏切り者を出さないようにセッテにお願しておいた。

最初こそ同行を申し出ていたが、俺の説明に納得して最敬礼。裏切り者の処理はお任せ下さいと淡々と言いのけて、実の姉二人を震え上がらせていた。こいつらのせいで遅刻したので同情しない。

シルバーカーテンの呪縛が解けたので、車も今度こそ目的地まで一直線。聖王教会の本堂、聖なる鐘が鎮座する聖王堂には沢山の取材陣及び信徒達が詰めかけていた。修道女や騎士達の姿も見える。

馬鹿馬鹿しい限りだが、一応今のミヤは魔女の手先。安全が確保されるまでカリーナを車内に残したいが、一方のノアも誘拐犯の手先。戦力不足に頭を抱えつつ、連れて行くしかなかった。


聖なる鐘には教会より贈られた法衣を着た聖地の救世主ローゼと祈りを捧げる修道女達――そして彼女達の信仰を妨げる、ミヤの姿があった。よし、どつき倒そう。


「いいこと、リョウスケ。あの子はこのカリーナの可愛いペットですの、丁重に回収しなさいな」

「妖精は、ファンタジーの宝物」

「ええぇ……」


 女の子二人に早速暴力を否定されて、目眩がした。戦争は最低の外交手段だと理解しているが、暴力は時に物事を素早く解決するのに有効な手段ではないだろうか。平和がこの時ばかりは憎かった。

お嬢様の戯れだと拒否したいが、神の復活を告げる聖なる鐘の一夜。開催提言者であっても、何の権限もなく横槍を入れられない。開催宣言を告げるカリーナの許可が大前提だった。

渋々受け入れて、カリーナに聖王教会への仲介をお願いする。ノアも手伝ってお偉いさんや信徒達を下がらせてもらい、鐘の前に立ちはだかるミヤと対峙する。

聖王教会の祭事への妨害はテロ行為に当たるのだが、可愛らしいミヤの容姿と可憐かつ無垢な声の自己主張で子供の悪戯レベルに収まっている。騒ぎ立てる前に、回収しよう。


「おい、コラ。何の理由があって、平和の祭典を邪魔しやがるんだ」

「待っていましたよ、リョウスケ。ミヤはあれほどウソを付くのは許さないといったはずですよ」

「嘘とは何の事だ。訳の分からない言い掛かりはよせ」

「何を言っているですか!

『「『「『本当は神様なんていない』のに、聖王様の復活祭を開催しているじゃないですか!」


 周囲が、ざわついた――うおおおおおお、この野郎……根本的な事実を指摘しやがった!? 大人の事情というものを、知らんのか。


正確に言えば、聖王は存在する。俺の竹刀袋に封印されているオリヴィエ・ゼーゲブレヒト、聖王のゆりかごに囚われていた聖王の魂が剣に宿っている。

ただし聖王教会や信徒達が望む神様ではない、現世界の破壊と人類の滅亡を望んでいる祟り霊だ。聖地の現状を憂いているが、その結果救済ではなく滅亡を望んで祟っている荒御魂。

神はいないと言ったのは、他ならぬ俺。だからこそ神の救済による希望を待たず、人が自ら進んで希望を得られる復活祭の開催を準備した。戦乱に荒れ狂う聖地を、平和へと導く為に。

嘘だと言えば、その通りだ。神なんていないのに、復活を提言して人々を喜ばせている。世界中の人々に、聖地の信徒達に、俺は嘘を付いている。


だが、それがどうした。人を救わない神を引きずり出せとでも言うのか、この馬鹿は。


「何故に、恐れ多くも神の不在を申し立てている。根拠があっての意見なんだろうな」

「良介こそ根拠もなく、神様がいると嘘を付いているじゃないですか!」


 反論としては、それが正しい。だが、お前はこの議論の根本が宗教であるという事を分かっていない。


「もう一度だけ問うぞ。何故にこの聖地の中心である聖王堂で、お前は聖王教会の神に対する不義を申し立てているんだ?」


 ミヤ、此処は聖地だ。此処は、聖王教会だ。此処は、神が住まう地だ。此処は――神の復活を唱える、大宗教の本山なんだ。神がいないと、この場で反対出来る者なんていない。

復活祭開催において何故敵連中が誘拐事件なんて企てたのか、分かっていないようだな。復活祭中止を目論むのであれば、お前のように真っ先に神の存在意義を問い質せばいいのに。

それが出来ない理由は確かに権力や戦力などのパワーバランスも関係しているが、何よりも此処が聖地である事に起因している。神の存在意義を問い質すのは不敬であり、最大の侮辱なのだ。

宗教において神の存在意義を問い質す禁忌を、お前は分かっていない。その点を追求されて、正しく答えられる宗教なんてある筈がない。だから、誰一人問えないのだ。


「でも、神様なんていないじゃないですか」

「話にならんな、とっとと失せろ」

「神様が居るのであれば、どうして人々をお救いにならないのですか!?」

「お前な――」

「本当に神様がいるのであれば、ミヤは皆さんの幸せをお願いしたいのです。だから、此処に来ました。
ミヤは、リョウスケを信じていいのですか? リョウスケが嘘つきでないのならば、ミヤは神様にお会いしてごめんなさいと言います。


リョウスケ――神様に、会わせて下さい。ミヤは皆さんに、幸せになって欲しいです」


 ――そして。

どれほど小賢しく立ち回ろうとも、嘘は嘘でしかない。子供の素直な問いかけに対して、嘘つきの大人は決して答えられない。

だって、嘘を付いているのだから。

なんて事だろう――今まで一生懸命立ち回って、多くの人達に頼って、あらゆる戦略を練って、障害を乗り越えて、此処まで来たのに。


「そ、それは……」


 こんなにもちっぽけな敵に、全てを覆されてしまった。

静まり返る人達、鐘は全く鳴らない。鐘を鳴らすのは、神の復活を意味している。神がいるのだと、神は復活したのだと、この世に知らせるために鐘を鳴らすのだ。でも、神はいない。

世界中が見守る中、俺は純真な妖精を前にして沈黙してしまう。誰もが皆分かっていて、さりとて固唾を呑んで見守っている。ありえないと分かっていながら、ありえるかもしれないと期待する。

何をどう言い繕うとも、ミヤが求める答えは絶対に出せない。何故ならミヤが望んでいるのは、神の復活ではない。


神の復活による、人々の幸せ――俺達白旗が望んでいた、希望なのだから。


「リョウスケ、神様は何処ですか?」

「……」

「リョウスケは、嘘つきじゃないですよね。ミヤは、良介を信じていいんですよね?」


「人々は――リョウスケを、信じていいんですよね?」


 ――終わりだ。俺も、ローゼも、白旗も――何もかも、終わりだ。首謀者の魔女すら意図していない、子供の純真さで復活祭は潰された。

嘘は、つける。でも嘘を付いて、その後どうするんだ? 大人なら、敵連中なら、権力者なら、どうとでも言いのけられる。でも相手は子供なのだ――ミヤなのだ。

神様に会いたいと望んでいるのに、会えないという理由は何なんだ。会えないのであれば、どうして神の復活を告げられるのだ。子供が会いたいと言っているのに、どうして会わせてあげられない。

神様なんていないと、俺が誰よりも分かっているくせに。


「リョウスケ。ミヤは、信じ――」



 言葉は、封じられた――天から轟いた、槍によって。



有無を言わさない、断罪。不敬な妖精を一喝した、成敗。罪を彩る槍はミヤを貫いて――地面に、縫い付けた。

悲鳴を上げず、何も言わず、何も言えずに、純真な少女は消えて。


「……ミ、ヤ……?」





 遺されたのは、千切れた白い頁――そのまま燃えて、灰になった。





「何を躊躇している、真なる聖王よ。偉大なる王の復活を自ら告げる、貴様の祝祭なのだぞ。
不敬にも問い質す無礼者なぞ、有無を言わさず断罪するがいい」

「……」


 天から人の世に舞い降りたのは、龍の覇者。深遠なる夜空を支配する、魔龍の姫君――吸血鬼カーミラ・マンシュタインに匹敵する、異形の芸術品。

悪魔の如く血塗られて、死神の如く冷徹で、魔物の如く暴力的な、美麗の魔神。プレセア・レヴェントンが槍を引き抜いて、聖なる鐘の前に降り立った。


ミヤを殺した、槍を手にして。


「愚かな人間が望む神は、我が前に居る。それが唯一の真実――そうだな、聖王よ」

「"解放"」


 日常で自然と使う筋力、自然の行動で活用する魔力に壮大な負担をかけるリストバンド。どれほどの強敵でも両手に装備していたままだった負荷を、無理やり引き千切った。

物理的負荷、魔力的負担が一気に解放されて、身体が抑圧から解放される。天にも昇る心地、抑圧されていた体が喜びに震える。

心は、怒りに震えている。


「"開放"」


 竹刀袋を、引き裂いた。単なる竹の刃が輝いて、怒りの咆哮によって剣が解放される。全ての封印が解除されて、剣が本来の力を取り戻した。

あらゆる封印、あらゆる常識、あらゆる倫理から解き放たれた剣が、怒りの声を上げる。心技一体、人は聖王へと転生。小さい子ども姿のオリヴィエが、肩に乗った。

聖王は、悲しみに濡れている。


「"解法"」


 心の臓を、切り裂いた。"ミヤの死によって"八神はやてと守護騎士達のリミッターが解除、法術が完全解放される。聖王堂に奉納されていた蒼天の書が、我が手に来たる。

出会った人達の願いにより、心は本来の形を刻む。心とは願いの形、バリアジャケットのイメージ。アリシアとフェイト、風神と雷神の小手が装着される。

テスタロッサは、絶望に染まっている。



身体を解き放て、心を解き放て、魔力を解き放て。自分自身の何もかもを、さらけ出せ――こんな俺を信じようとしてくれた、ミヤのために。


「虹色の、魔力光――人の世を照らし出す、聖王の光か!?」

「俺は、宮本良介――お前を斬る、サムライだ」


 剣士における『心・技・体』、3つの理想を想いに変える。アリシアとフェイト、ミヤの全てを力に変える。

ミヤ、ごめんな。俺は、本当に嘘つきだ。


自分の剣を、槍だと騙すのだから――



「リニス直伝。第2楽章 、Allegretto――"トライデント・スマッシャー"!!!」



 ――開戦。










<続く>








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