とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第二十七話




 初対面でセッテに脊髄をエグられた可哀想な娘さん、クアットロ。ユーリ達の治療ついでにウーノより手当されて、やや恥ずかしそうに改めて挨拶してくれた。セッテに、やや怯えながらも。

なだらかな撫で肩に均整の取れた手足、髪を束ねた眼鏡の美人さん。ウーノのような涼しげで刺すような美しさではなく、ハツラツとした若さに輝く娘さんだった。俺と同世代のようだ。

とはいえウーノやドゥーエとも年齢差はさほどなさそうで、年代差による距離感はなかった。チンクやセッテは子供ではあるが、なのはと同じく大人顔負けの意思と心の強さを感じさせる。


ジェイルの取引を受けて、ユーリ達の治療を条件に彼女達の白旗入りを認める。治療はウーノが引き受けて無事終えたのだが、今夜の面会は拒絶されてしまった。


「プログラムの正常化を終えて、全身の洗浄を行いました。治療は完了しましたが、検査はまだ必要です」

「精密検査までするのかよ。せめて無事な顔を拝みたかったんだが」

「敢えて言わせて頂きますが、陛下こそ血液だけではなく全身の検査を受けて頂きたいものです。あの子達の身体を調べましたが、霊障と呼ばれる現象の汚染は深刻な状態でした。
魔力汚染に近いですが、汚染の状態に差異が見られます。人体による影響も考えると、陛下の身体状態に不安を覚えます」

「えーと、それは――」

「……」


「セッテの援護を期待しても無駄ですよ、陛下。この子は貴方のことを第一に考えますから」


 うぐっ、どうやら今回ばかりはウーノの提案にセッテは賛成らしい。俺を気遣うように見上げて、検査を受けるべきだと俺の袴をクイクイ引っ張っている。援護ブーメランは期待出来そうにない。

検査と聞くと、フィリスの顔が無条件に思い出される。あいつは恩人で感謝もしているのだが、どうしても苦手意識が働いてしまう。全く別の医療施設ではあるが、病院はやはり苦手だった。

取引をしてクアットロ達を見受けした以上、ジェイルやウーノがユーリ達に悪さをするとは考えづらい。検査を回避するためにも、ここは大人しく彼女達を任せるとしよう。


「明日の朝には、意識も回復するでしょう。どのみち検査も必要ですので、今夜の面会は許可出来ません」

「分かった、諦める。あんたを疑っている訳じゃないんだが、ファリンとミヤがあの子達を心配している。邪魔はさせないから、残してやってくれ」

「陛下の頼みとあれば、仕方ありませんね……その代わりと言ってはなんですが、あの子達のことをよろしくお願いいたします」

「ああ、任せてくれ。悪いようにはしない」


 本当なら朝まで娘達の傍に居てやりたかったが、白旗を掲げる身であればいつまでも私情を優先出来ない。ユーリ達本人も望んでいないだろう。のろうさやザフィーラにも、叱りつけられそうだ。

俺達白旗は戦力が激減して活動停止中、聖王教会騎士団は霊障により全滅、現地の管理局員は権力者に手綱を握られている状態。治安を守る者は居なくなり、聖地は荒れ果てている。

猟兵団はこれ幸いと支配圏を拡大し、傭兵団は権力構造を膨れ上がらせている。商会は価格競争に躍起となり、権力者は公然と民を食い物にしている。無法の地で、神の名の下に人間は餓鬼となる。

最悪なのは、騎士団が統治していた入国審査が実質上形骸化した事だ。聖王のゆりかご起動による震災はボランティアだけではなく、人助けの皮を被った狼まで招き入れてしまっている。

欲望に飢えた余所者が大量に入り込み、欲望に焦れた現地者が暴れ回り、欲望に怯える民が縮こまる。かつて聖王が成した平和は嘘のように消えて、悪夢のような現実が本当に起きてしまった。



"無限の欲望"が支配する聖地――聖女の予言は神ではなく祟りを招き、希望ではなく絶望を与えてしまった。戦乱が今、現実に起きている。



「聖地へ戻るぞ。雇い入れて早々ではあるが、明日からバリバリ働いてもらうからな。まず皆と顔合わせした上で、今後の事を話し合おう。お前達にも、彼らにも事情説明しないといけないからな」

「これは驚いた。別働隊として働かせるとばかり思っていたのだが、我々も合流させるつもりかね」

「聖地は今、逼迫している。戦力も少ないこの状況下でわざわざ分断する余裕なんてない。取引を受けると決めたのは俺だ、あんた達は余計な心配はしなくていい。
部下に責任を持つのは上司の役割だ、受け入れる決断をした以上は全て俺の責任だ」


 三役やアリサの厳しい叱咤を受けて、俺も自分なりの役目と役割くらいは心掛けている。ユーリ達の治療は必要不可欠だった、取引を受けたのであれば最後まで責任を持つのは当然だ。

捜査員のルーテシアだけではない、時空管理局や聖王教会に強い影響力を持つあの三役も恐らくは法を行使する側の人間。時の権力者は財界や政界に発言力がある、三役も同等以上だろう。

引き合わせる事は内部分裂の危険もあるだろうが、その点も含めて俺はルーテシアや三役を信頼している。懐の深さや器量は俺の比ではない、きっと橋渡しは出来る筈だ。

信頼するにはまだ早いにしても――良い意味でも、悪い意味でも、俺はこいつらを信用くらいはしている。


「こうして姿を見せたんだ、俺が彼らと引き合わせる事も考慮済みだろう。ロシアとアメリカの二カ国を翻弄した手腕を、俺は見くびっていないぞ。
ローゼが味方になってくれていなかったら、あの時マフィアやテロリストに殺されていたんだからな」

「ふふふ、たった半日であの子を味方にした君の偉業こそ讃えられるべきであろう。私が書いた構図を、こうも容易く引っ繰り返されるとは思わなかったよ」

「ドゥーエお姉様から直々に貴方様の武勇伝は伺っておりますわよ、陛下。うふふ、ゾクゾクしちゃう」


 やれやれ、下手すれば逮捕されるというのに図太い連中だ。もっとも、そういう悪辣な奴らだと分かっているから、堂々と引き合わせると決めたんだけど。

分かり易い善悪の構図なのだが、善も悪も信じる俺は一体どんな色に染まっているのだろう。今更善人だと言う気はないが、器量高き悪党にもなれそうにない。クズか外道か、何者でもないのか。

ウーノにユーリ達を任せて、彼らを連れた俺達は医療施設を出る。ミヤとファリンにユーリ達の事を頼み、マイアに治療の成功を伝えて喜ばせた上で聖地へと車を走らせてもらう。



ジェイル・スカリエッティとその一味――彼らを、ルーテシア達に引き合わせるその日がやってきた。



「優秀な人材を連れてきたぞ」


「"アカデミック・ポスト"に就任したジェイル・スカリエッティ、こちらは"ポスドク"のクアットロ。両名共々、よろしくお願いする」

「陛下の"近衛騎士隊長"を務めます、チンクと申します。陛下の旗印である白旗の元に集いし騎士の一人です」

「同じく"親衛隊長"を仰せつかったトーレだ。私とチンクは過去陛下の剣として戦場を駆けた身だが、新参者として厳しく扱って貰いたい」


「アイエエエエエ!?」


 ――ルーテシアが発狂した。


エキゾチックな黒ドレスの少女に変身しているのに、素っ頓狂な声を上げて仰け反っている。寡黙な美少女の可憐な雰囲気が完全に台無しであった。

一応弁明しておくが、こいつらの階級を一切決めていない。拝命なんて一切していないのに、勝手に名乗り上げているのだ。親衛隊に近衛騎士に騎士団に護衛って、俺の防衛力が高過ぎだろう。

ちなみに彼女達の傍らで巨大なブーメランを掲げて、騎士団長のセッテだと力いっぱい主張している少女が一人。声が小さいだけで、実は自己主張が激しい子なのだろうか。


ようやく立ち直った捜査官が彼らではなく、彼らを連れてきた俺の胸倉を掴む。


「なんで!? どうして、彼らがいるの!? なんでなんで!?」

「言いたい事はよく分かるから、落ち着いてくれ。目論見通り、俺にコンタクトを取って来たんだよ。今こそ冷静に対処しなければ駄目だろう」

「彼の言う通りだ、ルーテシア"君"。彼は今我々に人材を連れて来たと、言ったのだ。複雑な経緯が絡んでいる、落ち着いて対応しよう」


 時刻は深夜に差し掛かっているが、宿アグスタには暖かい光が灯っている。周辺のリニューアル工事は継続して続けられており、夜の静けさは人の賑わいに溢れかえっていた。

捜査官ではなく年下の部下として対応したレオーネ氏の注意に、ルーテシアはようやく落ち着きを取り戻す。同席するラルゴ老もお茶を飲んでいるが、彼らを見る目は鋭い。

ルーテシアの本当の身分や任務は、本人より直接三役に伝わっている。どうやら彼女は三役を存じていたらしく、白旗としての活動中も徹底して低姿勢だった。連れて来た時は腰を抜かしていたが。


さて、ここからが本番だ。任命責任を果たさなければ、部下はついてこない。


「ユーリ達の治療を行ってくれたのは、彼らです。我々白旗の活動に協力したいと、自ら申し出て来ました」

「ふむ……その様子じゃと、ルーテシア君や儂らの関与を見越しての接触のようじゃな。出頭――ではなさそうじゃが?」

「此処はベルカ自治領、自治権を持っているのは聖地を統括する聖王教会にあります。あなた方であろうと外交権が絡むとあっては、私を直接捕縛出来ないでしょう」

「だから、図々しく名乗り出たとでも言うのかしら? お生憎様、貴方達を連れて来たそこの彼は現地の管理局との関係を友好的に緩和させたのよ。逮捕は無理でも、同行は申し出られるわ」

「あらあら、怖い。任意という名の、強制連行ね。そこまでしなくてもこうして私達は自ら名乗り出ているわよ、ルーテシア"ちゃん"」

「……貴女は!?」

「おい、クアットロ。彼女は俺の仲間だと認識されている、挑発はやめた方がいいぞ」


「まあ、陛下ったらお仲間さんにお優しいのですね。もしかして、愛人だったりするんですか――ウキャー!?」


「……」

「"セッテが"認識しているんだよ、馬鹿だな」


 ブーメランが脊髄に突き刺さって、クアットロがのたうち回っている。俺だけではなく、俺の仲間への無礼も許さないようだ。頼もしい騎士団長ではあるが、ちょっと怖い気がする。

騎士団長の忠実な仕事ぶりを、近衛騎士隊長や親衛隊長が感嘆の声を上げている。おい、やめろ。護衛まで一緒になって真似をしたらどうするんだ。大人しい妹さんが好きなんだぞ、俺は。

ちなみに愛人を自称する忍は、余裕の微笑み。お前は大奥筆頭か。カレン達にも一目置かれていたようだが、あいつの立ち位置は相変わらず謎だった。俺の中では限りなく赤の他人に近いぞ、コラ。


セッテの騎士団長ぶりにやや怯みながらも、ジェイルは襟元を正してレオーネ氏達と向き直る。


「彼女のみならず、お二方もどうやら私をご存知の様子。お目にかかれて光栄ですよ」

「君は有名だからね、良くも悪くも」

「私なぞ彼に比べれば、路傍の石同然。時空管理局との連携は存じておりましたが、まさかこの聖地であなた方との協力まで得られるとは夢にも思いませんでしたよ。
彼は素晴らしい。聖女の予言が告げる神などよりも、暗く淀んだこの聖地を美しく照らし出す特別な光を持っている。私はあなた方同様、彼に惹かれて馳せ参じたのですよ」

「言いたいことは理解できなくもないが、到底感心は出来んな。自分の立場というものを、まるで理解しておらん」


「ならば、あなた方に問いましょう――私は一体、何者でしょうか?」


 指名手配中の犯罪者、最悪の可能性を考慮した俺の予想は誰からも告げられなかった。糾弾どころか、困惑すら浮かび上がらせている。ルーテシアでさえも、顔を険しくするのみ。

手配でもされているのかと思ったが、違うのだろうか? ただ確かにマフィアやテロリストと組んでいたのは安次郎であって、こいつらではない。絶対関与している筈だが、明確な証拠はない。

ただそれはあくまで一般人の俺の見解であって、プロの捜査官であればその程度の誤魔化しなど通じない筈だ。彼らは何を躊躇い、迷っているのだろうか。

恐らくだがジェイルやクアットロ達はこの困惑を見透かして、堂々と名乗りを上げたのだろう。


「私は仮に出頭などすれば、取り扱いに困るのはむしろ管理局の方ではありませんか。だからこそ管理外世界の彼に協力を求めてまで、私の痕跡を徹底的に洗い出そうとした」

「貴方が違法な研究に手を出しているのは事実よ!」

「水面を掬い出したところで、一時的に波紋が広がるだけだ。表層に浮かぶ取るに足らない事実を羅列され、適合しそうな罪と罰を与えられて隔離されるでしょう。
そして私は世の中から所在を失い、姿を消すのみ――隠れ潜んでいた今までと同じく、ね」

「! ジェイル・スカリエッティ、まさか君は――」


「彼には心から感謝している。私に、罪を償う機会を与えてくれた。私にとっての"待ち人"は、彼そのものだった――
小物では話にならない、さりとて大物では私を利用するのみ。正当な正義と正当な権力、両者を持ち合わせる者でなければならなかった。
"ルーテシア・アルピーノ"、そしてお三方――事件を追う者と、事件の背景を知る者。真実を正当に受け止められる貴方達を、彼は連れて来てくれた。彼は、私の救世主だ。


彼と同じく、貴方達に取引を求めたい。全ての"真実"を、打ち明けましょう。この私に関わる"全て"を、打ち明けますよ」


 今度は動揺なんてものではなかった。むしろルーテシアが困惑する程に、ラルゴ老やレオーネ氏が眉間に驚愕の皺を刻んだ。彼らはこの男ではなく、この男の背後にいる何者かを見据えている。

俺が知るのは事件の走り書き程度、事件の全容を知るルーテシアも、事件の背後にいる黒幕までは及びもつかなかったらしい。何も見えず、きな臭い匂いに顔をしかめるだけ。


思えばジェイル・スカリエッティは、クロノ達との連携を知りながら俺との接触を図っていた。もしかすると彼らはクロノ達ではなく、別の何かから逃げていたのではないだろうか?


考えられる心当たりは、一つだけある――ローゼが動力源とするジュエルシードは、時空管理局から持ちだされた。ルーテシア達はジェイル達を追いながらも、内部犯行を怪しんでいた。

時空管理局にジェイルと通じる"内通者"が居ると仮定すると、彼らが今まで出頭しなかったのも分かる気がする。内通者にとって出頭は言わば裏切りに値する、抹殺される危険性があった。


「――取り引きというからには、見返りを求めて当然じゃな。司法取引と敢えて言わないあたり、減刑を求めてはおらんようじゃが」

「先程申し上げた通りです、罪を償う機会を与えて頂きたい」

「白旗の活動を手伝うとでも言うのかね。君の存在そのものが、旗の色を損なうと知りながら」

「それも先程申し上げた通りです。私は何者なのか、私自身さえも分からない。まして人々は、私の存在さえも認識していないでしょう。法が、私を秘匿しているのだから」

「くっ……」


 ――そうか! 時空管理局に内部犯が本当にいるのであれば、そう安々とジェイルを指名手配出来ないんだ。繋がりが明らかとならない限り、むしろ手配して捕まえると困るのは管理局だ。

かと言って、追わない訳にはいかない。メリットとデメリット、相反する二つを正確に認識しながらも追える人間こそ、正当な正義を持った人間――それがルーテシア達だった。

だがそのルーテシア達も、今まで度々捜査の中止を要請されていた。彼らに出頭するのは簡単だったが、彼らの上にいる人間が怪しいのであれば身柄を託す訳にはいかなかった。

なるほど、それで"三役"に取り引きを持ちかけたんだ。時空管理局や聖王教会に強い発言力を持つお三方であれば、内通者に潰されない。ルーテシアとセットであれば、事件が真っ当に解決出来る。


この千載一遇の機会を、今まで隠れ潜んで虎視眈々と窺っていた。正当な正義に正当な権力、そして正当なる悪――本当に、彼らは凄い。庶民の俺は、ただ圧倒されてしまった。


「今更出頭を申し出た理由を聞きましたね、ルーテシアさん。簡単な話ですよ。ほら、見てください。

何の事実も知らず、何の背景も持たず、何の知恵も無く、何の力もない――と、この期に及んでも思い込み、我らを遠巻きに見て一人感心している彼だからこそです」


「……あんたね、いい加減張り倒すわよ」

「すごいね、侍君。よくそこまで他人事のように聞けるね」

「どういう面の皮をしているんだ、こいつ」

「あ、貴方ね……そんなんだから、わたしはクイントのように素直に認められないのよ!」

「ジェイル・スカリエッティ、取り引きには応じよう。ただし、彼には真実を打ち明けないでもらいたい」

「誤解しないように言っておくが、決して真実が明るみに出るのを恐れているのではないぞ。儂らが素性を明かさないのと同じ理由じゃ――
ほぼ間違いなく、こういった難しい話を彼は軽く聞き流してしまいそうでの……難儀しておるんじゃよ」

「えっ、まさかあの"聖女様"と娼婦ちゃんの事も……本当に? セッテちゃんの勘違いとかではなく!? うそっ、どうしてすれ違ったままなのに成立しているの!?」

「もしかすると陛下、御自分が任命された騎士の事も分かっておられないのでは!?」

「よかったな、チンク。陛下のあのご様子だと、かの聖騎士との関係も砂上の楼閣かもしれんぞ。筆頭騎士の座は開いていそうだ!」

「剣士さんは、凄い人ですから」


 妹さんが、ものすごく適当に〆てる!? おかしいな、ジェイルを糾弾する場なのに、何故最終的に俺が責められているんだ!? 俺は犯罪も犯していない、一般人じゃねえか!

猛烈に講義したが一切受け入れられず、今後を決める重要な会議の場から俺は外されてしまった。全会一致で、ジェイルとの取引の席に俺は着かせない事が決定されたのだ。酷すぎる。

事件の全貌や黒幕が語られる重要な局面で外される俺って、何者よ。間違いなく言えるのは、絶対主人公ではない。映画の推理物では犯人や探偵だけではなく、関係者全員が揃う場面なのに!


涙ぐんでいると、俺の前に書類が山積みされた。なになに、職務経歴書って――ああ、白旗の就活か。新しい人材を入れる上で、優秀な人材をアリサ達が書類選考してくれたらしい。


皆が白旗の活動に頑張っている中、リーダーであるはずの俺は明日一人で応募者全員と面接かよ。人事担当とか居ないのか、白旗には!?

こうなったら絶対優秀な奴らをたっぷり雇って、お前ら全員追い出してやるからな。独裁者の恐ろしさを知るといいぜ、ふははははははは。



「夜分遅くに申し訳ありません」

「おや、セレナさん」



 うげっ、仲間はずれにされて滅入ってるこの時に、お嬢様コンビとまた鍔迫り合いかよ。こいつら、絶対に狙っているだろう。いつも俺が疲弊している時に襲い掛かってくる。

慌てて田舎者の仮面をつける。人を除け者にするあんな連中の権利なんぞ守りたくもないが、お世話になっているマイアの宿も今は抵当に入っているのだ。適当な真似はできない。


あれ、よくよく見ればカリーナ姫様の姿がない。セレナさん一人で闇夜、怪しく微笑んでいる。


「先日より何度かお伺いしたのですが、お忙しい御様子ですね」

「申し訳ありません。カリーナお嬢様が所有されるこの聖地を守るべく、尽力しておりました」

「うふふ、そう仰られると思っておりましたわ。頼もしい限りですが、少しばかり寂しいですわね」

「と、申されますと?」

「何度も親愛の情を下さった私には、あまりお気遣い頂けなかったようで」

「何を仰いますか。カリーナ姫様には、セレナさんがいらっしゃる――であるからこそ、私は安心して姫様の為に邁進出来るのです。
お嬢様を思う気持ちを通じて、私とセレナさんの心は繋がっておりますよ」

「嬉しいですわ、そこまで思って下さっていたなんて。この夜空の下で、私達は一つなのですね」

「ええ、御覧下さい。2つの月が、綺麗ではありませんか」

「"月がきれい"? まあ、うふふふふ……」



 ――ツッコミ頂けるカリーナお嬢様が不在の為、このトークは三時間以上続いたとだけ言っておく。



「ところで、明日からしばしお時間を頂けますか?」

「勿論ですとも。カリーナ姫様とセレナさんの為であれば、何時であろうとも」

「うふふ、そのお優しい御心を是非お越しになられるお嬢様方におかけになって下さいな」

「お嬢様方……?」



「ダールグリュン家のお嬢様を筆頭とした、貴方様のご婚約者です。お喜び下さい、厳選された麗しのお嬢様方が貴方様に会いに来られますわ」



 しまった、婚活もあったんだあああああああああああああああああああああああああ!?

こうして明日より――就活と婚活イベントが同時に開催される運びとなった。さすが異世界、両立なんてありえないイベントが同時開催されてしまう。



孤独に、なりたい。










<続く>








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