とらいあんぐるハート3 To a you side 第八楽章 戦争レクイエム 第五十九話





『天狗一族への婿入りだと!? 何故すぐにその場で断れなかったんだ、下僕!』

「――いいからまずは最後まで、さくらの話を聞いてくれ」


 天狗一族との会談後、忙しい一日の締め括りとして夜の一族との深夜会議が行われた。普段は姫君達とのプライベートな時間なのだが、今晩は重要会議として綺堂さくらも参席。

仲介役を努めてくれた彼女が、会談内容を説明。新しき長であるカーミラ・マンシュタインを筆頭に、次世代の後継者達が会談の詳細について報告を受けた。

実質何の成果も上げられなかった自分の仕事を上司役に報告される惨めさを、まだ十代の俺が味わう羽目になるとは思わなかった。馬鹿にしていたが、サラリーマンってのは本当に大変だ。


で、社長役が早速お怒りの声を上げて下さった。平社員としてはひたすら耳が痛く、胃が痛くなる時間である。


『一族の長自らの申し出といえば聞こえはいいが、実質単なる隷属ではないか! よりにもよって私の下僕を奪おうとするとは、許し難い蛮行だ。万死に値する!!』

「長本人も魂胆を隠そうともしていなかったからな。完全に、舐められている」

『私の可愛い下僕を力ずくで我が物にするつもりだな、ふざけおって……返答などする必要もない。すぐにドイツへ戻って来い、これは命令だ』

「会談のすぐ後で夜の一族の長に泣きついたら、もう集団としての体を成さないだろう。旗揚げなんて二度と出来ない」

『お前に、独立はまだ早すぎたのだ。私と一緒に一族を盛り立て、経験を積めばいいではないか。うむ、そうしろ』


 自分の下僕を甘やかし過ぎだろう、こいつ。子供が出来たら、絶対親馬鹿になるぞ。初対面での人間への憎しみは一体、何処へ消え失せてしまったんだ。

人との融和を推奨する夜の一族への明らかな対立宣告なのだが、肝心の長は敵勢力との戦争より自分の下僕の危機に狼狽えている。余裕と見るべきかどうか、判断に苦しむ。

自分の感情を振り回す長とは対照的に、億単位の金を眉一つ動かさず運用している経済界の王は冷静に敵の思惑を分析する。


『政略結婚の形を取り繕った隷属ではありますが、実際は我々夜の一族の切り崩し工作ですわね。王子様御本人ではなく、王子様が成した影響力を重く見ていると言えましょう』

「自分の一族へ取り込むことで、お前達との縁を強制的に切ろうとしている」

『新しい長も決まり、今や夜の一族は盤石となりつつあります。"神格者"とはいえ、島国の一勢力では到底切り崩せないでしょうから』


 そういえばあの天狗の親玉も、人との融和を望む夜の一族に反感を抱きながらも、彼らそのものの討伐を一切口にはしなかった。あくまで、人間との共存を拒んでいるだけだ。

俺から見れば同じ恐竜同士でも、勢力の規模としてみれば雲泥の差がある。大陸を起源とした夜の一族は今や欧州の覇者、日本すら総べていない彼らでは太刀打ちは出来ないのだ。

俺は所詮個人なので恐れずに立ち向かえたが、彼らは一族だ。敵意はあれど、負け戦は絶対にできない。だからこそ俺を取り込んでの、切り崩しを狙っているのか。

カレンの無慈悲な読みを、ロシアンマフィアの新しいボスが冷徹に補足する。


『今後世界の勢力図は、新しい長の元で夜の一族の一強体制となるでしょう。敵対勢力は数こそ多くありますが、日々弱体化して纏まっていく気配もありません。
一強多弱の状況を打破するべく、人間根絶を目的とした再編を行う。百鬼夜行の時代を夢見る集団を創り上げるつもりでしょうね』

「その最初の生贄を俺にするつもりか。もしも企みが成功すれば、俺は人類の裏切り者になるな」

『いえ、仮にも天狗一族の孫娘との縁談です。他の人間達はともかく、婿となった貴方様を無碍に扱ったりはしないでしょう。さしずめ、人の血に濡れた神輿ですね』


 最初は夜の一族の切り崩しの道具として、今後は人間世界への折衝役。世界中に名を売った俺の影響力を最大限利用して、人間達を憎む妖怪達を纏め上げるつもりだ。

世界の実権を握りつつある夜の一族に対抗すべく、天狗一族を筆頭とした再編計画を目論んでいる。随分壮大な計画に巻き込まれてしまったものだ。

仮にも自分の孫娘を差し出すあたり、徹底している。人間との融和を嫌っているくせに、人間との政略結婚を行うつもりでいるのだから覚悟の程も伺える。


まして夜の一族であるさくらを仲介役に、会談まで行ったのだ。もはや、後には引けない。


  『別に長の味方をしている訳じゃないけどさ、ウサギはもう日本から出た方がいいよ。ドイツが嫌ならロシアに来てよ、クリスが守ってあげるから』

「ロシアンマフィアに助けを求めると、ものすごく後が怖そうなんだけど」

『うふふ、ウサギはクリスのお気に入りだから可愛がってあげる。毎日、とっても刺激的だよ』

「平穏を望んで庇護をお願いしているのに、刺激的でどうする」


 馬鹿話は置いておいて、今夜中に自分の選択を決めておかなければならない。返答に期限は設けられていないが、長引かせれば反対の余地はなくなる。

大国からの申し出を受けて、小国に猶予なんてありはしない。黙秘は肯定と受け止められて、大国のペースで進められるだけだ。

ひとまず一度、今回の経緯を整理してみよう。


「かつて人と妖かしは共存していたが、人が道具を手に技術を進化させ、世界へ進出していくにつれて、妖かし達は住処を追われていった。
多くの妖かし達が時代に取り残されていく中お前達夜の一族は人と関わり、人の血を取り入れ、人間社会に縄張りを広げて、力を手にして大陸を制覇。

人と共存する夜の一族と、人と距離を置く妖かし達。人が生きる表と人外が生きる裏で、世界は二分された。カーミラが先祖返りと呼ばれているのは、この頃の名残なのか」

『ふん、同族から異端呼ばわりされてはいたがな』


 蒼い髪に黒い翼、赤い瞳に鋭い牙。妹さんのような純血種ではないにしろ、カーミラの血はヨーロッパを支配していた先祖を起源とした大貴族であったとされる。

妖かしに近しい風貌ではあるが、人間から見ればれっきとした妖怪。差別され、忌避され、冷遇され、両親から異端視されて生きて来た。

今でこそ夜の一族の長として君臨しているが、彼女も相当苦労させられて生きている。道が違えば、人間の融和を誰よりも敵視していたであろう。


「世界は二つに分かれたと言えど、実質の勢力差は圧倒的。虎視眈々と狙っても、人の世に生きる術もない彼らにはどうすることも出来なかった。
そんな彼らにとって千載一遇のチャンスだったのが、先の後継者会議。有力な後継者候補が数多く揃ってしまい、夜の一族の間で激しい後継者争いが起きていた。
誰が長になろうと、後継者争いによる弱体化はほぼ確実。新しい長に取り入るも良し、新しい長になれなかった家系を襲うのも良し。下克上が、起きようとしていた――


――と他が狙っているのを分かっていたのに、お前らは後継者争いをする気満々だったよな」


『私が長となって他勢力を支配すればいいだけの話だ。もっとも今は、下僕一人で十分満足しているがな』
『私はむしろこの後継者争いを利用して、父を排除するつもりでした。もっとも今は、貴方様が父を倒して私を解放されましたので』
『クリスが一人で、逆らう連中全員皆殺しにすれば簡単だったもん。もっとも今はウサギがいれば、他はなーんにもいらないけど』
『ボクはヴァイオラと結婚して、アンジェラ様の意向に従うつもりだったんだ。もっとも今は君のおかげで、自由に生きていけるようになった』
『私もカミーユと結婚して、お祖母様に従うつもりだったわ。もっとも今は、貴方の妻ですけど』
『ローゼを主軸とした新技術の革新により、わたくしを長とした新しい支配体制を形成するつもりでした。もっとも今は貴方の愛人として、支えていくつもりですけど』


 ……先月俺が会議に参加しなかったら、どういう未来が待っていたんだろうか。この8月、俺は平和だったろうけど、世界は荒れ狂っていただろうな。

もっとも会議に参加した結果世界は平和になったけど、今度は俺が困らされているので笑えない。自己犠牲の精神は生憎、俺にはないのだ。

頭の痛い今の現実に胸を痛めながら、今の事態を説明していく。


「ともかく蓋を開けてみれば夜の一族は新しい長が正式に決まって、世界各国の有力家系が一丸となって人間との融和を進めていくこととなった。
逆に追い詰められたのが反共存派の妖かし達、自分達の目論見を根底から覆した原因である俺をターゲットに動き出した。
その最先鋒が神格者を長とした、天狗一族。奴らの隠れ蓑である大手新聞社、その情報力を頼りに他より早く俺を見つけ出して、今回の決起に至った訳だ。

実際に聞くが、この目論見は成功すると思うか?」

『夢物語、と言いたいですけれど――王子様次第でしょうか』

「俺……? あのな、俺の影響力と言ってもたかが知れているんだぞ。切り崩し工作だって、お前らに思いっきり見破られているじゃないか」

『ですが実際に貴方様を取り込まれてしまうと、大きな問題に発展するでしょう。少なくとも私は貴方様を敵にしてまで、夜の一族に肩入れするつもりもありませんから』

『他に奪われるくらいなら、今の内にクリスが殺しておいた方がいいかもね』

「ディ、ディアーナ様、クリスチーナ様!?」


 ロシアンマフィア姉妹の脱退宣言に、さくらが慌てて腰を浮かした。一族よりも個人を優先されてしまうと立場もないが、何より彼女達が抜けるのは痛すぎる。

カレンが経済界を握る王であるのなら、ディアーナは裏社会を支配するボスだ。そして夜の一族は人の世の影を生きる者達、ロシアンマフィアが敵になれば大きな脅威だ。

そしてカレンもカレンで、夜の一族そのものに拘りはない。彼女は後継者会議でも、技術革新に寄る世界の変革を企んでいた女なのだ。

人の良心や道徳観など虫けらほどにも気にせず、恐るべき企みを嬉々として提言する。


『むしろ、良い機会かもしれませんね。旗揚げをされた王子様にとって、直近の課題は勢力拡大と人材の確保。いっそ、この提案を飲んでみるのは良いかもしれません。
仮にも神格者の身内となるのですから、その看板は有力。日本風に言えば、虎の威を借りまくってドンドン反共存派を取り入れてまいりましょう』

「おいおい、そんなの天狗の長が許すはずがないだろう。それに、お前らの敵になってしまうぞ」

『わたくしはこの先も、王子様の支援を続けるつもりでおりますもの。その王子様が誰の麾下に入ろうと、関係ありませんわ。所詮、一時的なものです。
王子様ならば神格者が相手でも、決して引けを取りません。誰が王となるのか、この際思い知らせてやりましょう』


 仮にも神の一角である天狗を相手に、内側から食い破れと唆すカレン。彼女こそ人の血を啜る吸血鬼、現代の魔女であった。

裏切りを全体とした、政略結婚の承諾。今は無闇に敵を作るより、一時的であれ同盟を組んで、味方を増やしていくことを優先とする。

人道面はともかくとして戦略面としては有効、むしろ使い古された手とも言える。戦国時代、この手の策謀は日常茶飯事ですらあったのだ。歴史が、証明している。


その人道面が、反対の声を上げる。


『ちょ、ちょっと待ってよ! リョウスケにはもう、ヴァイオラという立派な婚約者がいるんだよ!? 政略結婚なんて出来ないよ!』

『何を言っているんですか、貴方は。そんな個人的感情を優先して、天狗一族を敵に回せと言うつもりですか』

『そういう事じゃなくて、天狗一族に取り込まれればボク達の敵になるんだよ!』

『嫌なら、貴方だって王子様の味方であればいいではありませんか。それとも貴方は、王子様より夜の一族が大事だというのですか?』

『そ、それは……』


 卑怯な言い方である。カミーユの人道面からの反対を、人道的な理由でカレンは切り返している。こんな論調で言われたら、言い返せるはずがない。

反論の余地はあるが、オードラン家当主が口にしていい言葉ではない。立場もあるカミーユが非公式の場であっても、裏切りは絶対に口に出来なかった。

同じく、夜の一族の長となったカーミラも裏切りを絶対に肯定できない。下僕であっても、個人的な理由で味方には出来ないのだ。

まずい流れとなっていることを察して、カーミラは長として婚約者を叱責する。


『何を黙って見ている。貴様は、我が下僕の婚約者であろう。馬鹿共の戯言をはねつけてやらんか!』

『……しかしこの話を断れば、夫は窮地に追い詰められます。夜の一族の後継者争いを収め、夜の一族を救ったのも、夫。反共存派の怨嗟の的となりましょう。
夫が不幸になると分かっていて、私は妻であることを求められません』

『だ、だから、私が守ってやると――』

『王子様の立場が軽くなると、言っているんです。今がそれで生き残れても今後王子様が独立できなくなれば、わたくし達の手を離れた途端襲われてしまう。
天狗一族か、夜の一族か。どちらかの飼い殺しとなるかの違いなだけです』

『ぐうう……』


 天狗一族の長があの会談の場に即返答を求めなかった最たる理由が、その点にある。夜の一族への庇護を求めてしまえば、この勢力争いに二度と関与する事が出来なくなる。

個人の争いならともかく、集団での争いとなると面子も重要視される。庇護を求める事自体は弱小国なら何処でもある事だが、庇護を求めた事実そのものは残される。

特に今回の場合、単なる争いではない。人との融和か戦争か、そのどちらかを"人の側から"問われているのだ。ここで立場を明らかにしなければ、両勢力から総スタンを食らう。

カーミラは守ると言ってくれているが、あくまで個人での思いだ。夜の一族となれば、返答も変わってくるだろう。立場というものがあり、姿勢は常に問われる身なのだ。

そして、それは俺も同じだ。ここで選択出来ないのであれば、人の上に立つ資格なんてありはしない。大切な者を守ることだって、出来ない。


決断しなければ、ならない。



『異論はないようですわね。では王子様、ご決断を』

「おう、任せとけ。明日の朝、ちゃんと断ってくるよ」



 俺の選択を聞いた瞬間カーミラは歓喜の表情でベットから身を起こし、カレンは驚愕を露わに詰め寄ってくる。ここまで対照的だと、不謹慎だが笑えてくる。

実は話を聞く前から、意思そのものは決まっていた。こんな結婚、ありえない。悩んでいたのは選択そのものではなく、選択した後の問題だ。

考えそのものはあったのだが浅はかな空想かもしれないので、彼女達に相談するつもりだった。そして話を聞いて、俺の展望も形になりつつあった。

自分の提案を拒絶されて、まずカレンが猛反発する。


『王子様。ここで彼らの申し出を断れば、反共存派を敵に回すことになりますのよ。わたくしが引き続き支援をするとはいいましたが、それにばかり頼るのは困ります。
それともまさか、彼女達マフィアの手を借りればどうにかなると思っているのですか!』

「違う、違う。お前らの力を借りるだけでも十分心強いんだけど、そういう事じゃない。今までの経緯を整理し、全体像を把握して展望が見えてきたんだよ」

『展望、と仰いますと……?』


「そもそもの話なんだけどさ――その、反共存派だっけ。そいつらってさ、本当は人間と仲良くしたいんじゃないの?」


 そう、皆から話を聞いて俺はそう思った。カレン達夜の一族だけじゃない、敵側である天狗一族の長から説明を聞いた時からそう感じたのだ。

妖かし達による支配、人の世の破壊。百鬼夜行の時代。そんな事が本当に実現できれば、妖かし達からすれば素晴らしいだろう。まさに、理想郷だ。

反共存派の連中も、その夢を見て反旗を立てているのは理解できる。逆の立場なら俺だって妖かしの世なんて認められない、人間だけの世界を作りたいとは思うだろうさ。


だけど、日々の生活には変えられない。カレン達は夢を叶えられる才能も力もあるから、分からないのだ。夢だけでは、飯は食っていけないのだということを。


『貴方様。あのですね、人間との共存を否定しているからこそ反共存派であって――』

「人間との共存を否定したから、今の衰退を招いているんだろう。カレン達は時代遅れだと連中を馬鹿にしているけど、連中だってきっと分かってはいるさ。
ただ、いざ人間と仲良くしようとしても簡単には入り込めない。同じ人間である俺だって自業自得とはいえレールからはみ出して、随分苦労したもんだ。分かるんだ、はみ出し者の気持ちは。

自分達のそうした不遇を顧みてこその人間嫌いってのもあると思うぜ、連中は」


 俺が金持ち嫌いだったのは、金を持っている連中が羨ましかった面もある。自分には金が無いからこそ、金を持っている人間を妬ましく思うのだ。

今こうして金を持ち、金のある連中と付き合っているが、抵抗も拒否反応も何もない。所詮、ただのやっかみだったのだと今更ながらに思い知らされている。


世界は確かに複雑ではあるが、世界に生きる者達は意外と単純に生きている。


「カレン、お前の進言も確かに的を得ている。今は敵を増やすべきではないし、旗揚げする上で戦力拡大と人材確保は必須となる。
そこで俺はこの旗揚げをもって、『人と妖かしとの融和』を旗印とする勢力を創り上げる」

『! ま、まさか、天狗一族との政略結婚の破棄を――宣伝材料とするつもりですか!?』

「人間根絶を旗印に決起した神格者、天狗一族との婚約破棄。これ以上ないほどの、アンチテーゼだろう。この島国に、そして世界中に喧伝してやろうじゃねえか。
人と妖かしとの融和を提唱する、人間。人間社会への窓口には、ピッタリだ。俺はここ海鳴から、世界に向かって叫んでやるさ。

絆を結びたい奴は、此処へ来い。一人では生きられない奴は、俺のところへ来い。


お前は、孤独じゃない。



"to a you side"――『俺は、お前の傍にいる』」



 ずっと、一人で生きて来た自分。何の成長もなく、何の夢もなく、生きるだけで精一杯だった。そんな俺にこの町は居場所を与え、この町の人々は優しく手を差し伸べてくれた。

今度は俺が、誰かを助ける番。これは、優しさじゃない。偽善でも、偽悪でもない。そのまんま、ありのままの自分が選んだ選択であり、覚悟。

情けは人の為ならず、巡り巡って己が為。究極の、自分勝手である。でも、それでいい。


自分が楽しく幸せに、他人も助けられるなんて最高じゃないか。


「それにヴァイオラとカミーユの政略結婚を否定しておいて、自分の番になったら平然と政略結婚をするなんておかしいだろう。
剣士にとって、利き腕は命。ヴァイオラの血が、支えてくれている。言わば、俺はお前に命を預けているんだ。

俺の婚約者は、お前だ。余計な心配しないで安心してついてこい、ヴァイオラ」

「……」

「――お、おいおい、そんな大袈裟に泣くほどのことじゃねえだろう」

「だって、嬉しくて……」


 え、ええい、この程度の台詞、ちょっとそこらの本に幾らでも書いてあるだろう! 読書好きのお嬢様がいちいち感激しないでくれ、照れるから。

画面越しに泣いて喜ぶ婚約者を宥めつつ、カレン達やさくらに今後の展望を語っていく。


「天狗一族とは真逆の方針を掲げて、反共存派と呼ばれる連中に声をかける。後は、連中次第だな」

『敵を殺すんじゃなくて、全部友達にするつもりなんだ。ウサギって、凄いこと考えるよね』

『夢を追うか、現実を選ぶか――賭けになりますわね。まったく、危険な勝負に出るのがお好きな方ですわね』


「悪いな、苦労をかけるけどよろしく頼む」


『かまわん、許す。お前らしい、決断ではないか。裏切りを前提とした策略など、お前には似合わんよ』

『後顧の憂いなく、事に望んでくださいませ。今後も変わらず、支援させて頂きます』


 こうして全ての布石を打って、今日一日が終わった。神咲那美を迎え入れ、教育プログラムを提案し、旗揚げをして方針を掲げた。出来ることは全て、やった。

後は、結果を待つばかり。果報は寝て待て、とはよく言ったものである。



蓋を開けてみれば、見えるのは地獄か、それとも天国か――天命が、下される。










<続く>








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