とらいあんぐるハート3 To a you side 第八楽章 戦争レクイエム 第三十九話





 俺は、命を狙われている。高町美由希は言うまでもなく、彼女以外にも主要国家や国際機関より指定された武装テロ組織に躍起になってこの首を狙われていた。

ロシアンマフィアのボスを倒して彼らの怒りも買ってしまったが、彼らについては新しいボスとなったディアーナが粛清を行った。クリスチーナも活躍して、反抗の芽は刈り取られた。


問題は、夜の一族を狙ったテロリスト達。長寿である人外の血と古代兵器の自動人形を狙った彼らはドイツの地を荒らしまわったが、そのほぼ全てを俺によって阻止された。


報復を誓ったテロリストほど、恐ろしい存在はない。俺個人は勿論のこと、一族郎党含めて皆殺し。大いなる犠牲をもって、無念を晴らす。矛盾に満ちた怒りの牙が俺の喉に食い付かんとしている。

他人事のように語れるのは、本当に他人事のようにマスメディアで報道されているからである。俺を殺そうとしたテロリスト達が、見事なまでに惨殺されて発見されていた。


「ドイツで起きた爆破テロの主犯とされている武装テロ組織のメンバーが遺体となって――これ、先月良介が関わった事件やったよね?
テロによる爆破からドイツ市民を救った、侍。新聞や雑誌の切り抜きを全部大事に取ってるんよ、私」

「……アタシも、手伝わされた」

「ヴィータが泣きそうな顔してる!? 恥ずかしいからやめろよ!」

「主ハヤテは報道番組の録画もされておられたのだぞ、お前のために」

「……私も一緒に、何度も見せられたわ。おかげで、貴方の顔が目に焼き付いて離れないの」

「恨みがましく言うな、おい」

「平和に生きる人達を狙う卑劣な悪党達を、良介様が見事に退治されたんですよ!」

「ファリンのファンぶりはともかくとして――限りなく嘘っぽく聞こえるけど本当だから怖いんだよね、侍君の場合」

「あんたの事だから巻き込まれただけでしょう、どうせ」

「お前には説明しただろう、アリサ。もっとも、最後は撃たれてやばかったけどな」


 世界では有名なテロ集団も、八神家と月村家にかかれば朝の団欒の種にしかならない。俺を殺すべく動き出した彼らが、今まさに追い詰められようとしている。

表社会はカレン・ウィリアムズが統制する情報機関によって、裏社会はディアーナ・ボルドィレフが支配するロシアンマフィアによって、武装テロ組織の包囲網が敷かれていた。

凶悪なテロに屈する彼女達ではない。彼女達からの俺への支援は専守防衛に留まらず、徹底した侵略にまで及んでいる。組織を壊滅すべく、刺客が各地に送られているのだ。

彼らは殺される直前になって、痛みと共に思い知ったであろう。因果応報、無関係な人間まで殺しまくった彼らが理不尽に殺される。復讐の刃によって、斬り刻まれて。

その人物こそ断罪者、報復を復讐で駆逐する殺意の刃――御神美沙斗、俺の師匠である。


「大概は内々に葬り去れられているはずだけど報道されたのは敢えてなのか、不始末でもあったのか。ついでだし、聞いてみるか」


 師匠と呼んではいるが押しかけに等しく、剣も直々に指南されていない。お世話になったあの時利き腕は壊れていて、度重なる死闘で衰弱していて剣なんて振れる状態ではなかったのだ。

治療中教えを受けたのは剣に対する知識、そして彼女が体得している流派の極意であった。全ての技を教えられたといえば聞こえはいいが、単純に概念のみ聞き及んだだけである。


言い換えれば、知識のみでも夜の一族の世界会議を生き残れたのだ。弁論一つ取ってみても、言葉以上に戦い方というものが必要である。知識があってこそ、戦術が構築できるのだ。


生粋のマフィアであるクリスチーナに勝てたのも、彼女の指南あってこそだ。今自分の命があるのは大勢に支えられた結果だが、あの人も当然その中に含まれている。

忍達と朝食を取った後一旦部屋に戻り、自分の携帯電話を取り出す。単純にコールするのではない。携帯電話でも盗聴は可能らしく、その上発信次第で電話元の居所もばれてしまう。

テロリスト達の企みを阻止した俺もそうだが、テロリスト達を片っ端から斬り殺しているあの人は、武装組織が全力を上げて命を狙っているのである。その上、争いの渦中にいる。

直結なんぞ出来るはずがなく入念に用意されたルートを辿り、海外の様々な連絡網を経由して連絡を取る必要がある。面倒臭いの一言だが、俺のみならず師匠の身の安全のためだ。


ただどのルートを辿ろうと、最終的な連絡窓口が彼女の時点で超安全な気がする。


『ディアーナです。プレイベートに連絡頂けて本当に嬉しく思いますわ』

「師匠に繋いでくれ」

『まあ、取り次いだ早々に別の女性との密会ですか。浮気には寛容ですけれど、つれなくされてばかりですと嫉妬心がくすぐられてしまいます』

「余計な話を入れると延々と喋るだろう、お前の場合。すぐ取り次いでくれた試しがねえじゃねえか」


 今まで実の親にさえも心が許せなかった反動なのか、俺から連絡すると毎日の些細な出来事も含めてずっと喋り続けるのである。本当に楽しげに、身も心も甘えるように。

事情は理解出来るし、マフィアのボスとなった彼女の多大な支援も受けているので相手をするのはやぶさかではないのだが、なかなか取り次いでくれないのでいつも大変なのである。

一度は拒否された女性を何とか説得して心を通わせられたのだが、余計な心の扉まで開いてしまった気がする。

俺に対してだけは、完全に心のドアをオープンにしていた。裏切っても許してくれそうな程なので、恐縮してしまう。


『今朝のニュースをご覧になっての連絡ですか? 今は潜伏しておりますから、身の安全については保証されておりますよ』

「ああ、やっぱり結構な騒ぎになったんだな」

『日本国内に居る貴方様のみならず、貴方様を支援する私達にも武装勢力を送る計画を事前に入手し、機会を狙って大々的に制圧いたしました。
各国の法の組織にも協力を要請しましたので、マスメディアを通じて報道されたのです』

「マフィアが、法の組織と連携なんて出来るのか」

『コインの裏表と同じです。社会であっても、裏と表を完全に切り離せないものです。もっとも連携を密にしたのは、私の代になってからですけど。
法の権力も利用して今、盛大に掃除しているのですわ。先代である父の影響力を、片っ端から消して差し上げているところなのです。

よりにもよって、貴方様を殺そうとしたのですもの。完膚なきまでに、この世から消し去ってみせますわ。楽しみにしていてくださいね』

「……は、はあ……どうも」


 ――それ以外どう言えというんだ、この会話。女としての自分の体を狙われた屈辱より、俺に銃を向けた怒りの方が圧倒的に上らしい。

クリスチーナも嬉々として協力しているらしく、この姉妹を怒らせてはいけないと思い知らされる。いや、本当に。


『その縁もありまして、御神も今お誘いを受けているのですよ』

「誘いって、法の組織から?」

『非公式ではあっても、法の組織に協力してテロ組織壊滅に貢献しておりますから。彼女自身の人柄と剣の腕を買われて、スカウトを受けているんです』

「本当か!? じゃあ師匠も、カタギに戻れるのか!」

『一般的なカタギと呼べるかどうかは分かりませんが、マフィアの護衛なんてしているよりはずっとまともですね』


 思い掛けない、朗報だった。師匠は単純に剣の師ではなく、俺の恩人と言い切れる女性である。何よりあの人は優しい人なのだ、本来なら人殺しになんてむいていない。

多くの人間を斬り殺しているが、テロリストかマフィアである。悪人であれど人の命、なんて言い切れる程俺はご立派な人間ではない。手を血に染めていても幸せになれる資格はあっていいと思う。

どういう形でのスカウトとなるのか分からないが、他でもないディアーナが俺にこうして話せるのだ。悪いようにはしないと、信じたい。

露骨に喜んでいる俺に、ディアーナがクスッと笑う。


『彼女はまだ悩んでいるようですが、悩める心境にまで己を取り戻せたのも貴方様の影響が大きいのですよ』

「買いかぶり過ぎだよ。というかお前らは本当に、俺を贔屓し過ぎだから」


 事実である。彼女が人の心を取り戻せたのは多分、俺が渡したあの写真があってこそだ。写真を渡した時見せた涙こそが、彼女の心を如実に物語っている。

――あの写真の風景は、今の海鳴には存在しないけれど。


『では、御神に繋ぎますわね。次は、私のために時間を作ってくださいね』

「お前が我儘を言うなんて珍しいな」

『貴方様とこうしてお話していると、どうしても甘えたくなってしまうのです。罪な人ですわ』


 その言葉を最後に、ディアーナは師匠へ連絡を取り次いでくれる。コール音に切り替わってから気付いたのだが、結局ディアーナと色々喋ってしまった気がする。

世界会議では夜の一族全員を倒すと決めて望んだのだが、ディアーナの場合世界会議上では戦わず味方となってくれたのだ。もし父親ではなく、彼女が相手だったら危なかったと思う。

マフィアの構造を変えるのは簡単ではない。父の暴力社会を歓迎していた人間も多くいるだろう。彼女も正道ではないが、非合法を合法にするのは並大抵の人間には無理だ。

あの手この手で攻められたら、俺もいつの間にか攻略されてしまうかもしれない。子供を望んでいるはずだし、気を引き締めておこう。美人なだけに余計に性質が悪いからな、彼女の場合。


程なくして、師匠が電話に出てくれた。


『帰国して早々、トラブルを抱えているそうだな』

「……開口一番に、お察しのいいことで」

『暑中見舞いを送る人間ではない事くらい、分かっているからな。幸い、今は時間もある。話くらいは聞こう』


 テロ組織相手に大規模な粛清を行った後とあって、師匠も安全な場所に身を潜めているらしい。アンダーグラウンドと言えば聞こえは悪いけど、安全ならばそれに越したことはない。

ロシアンマフィアのボスが太鼓判を押すほどだ、安全面どころか生活面も完璧に保証されているのだろう。緩んではいないにしても、師匠に切羽詰まった様子はなかった。

師弟を結ぶ上で厳命されているのが、師匠への不干渉である。気になるが事情は聞かず、俺個人の相談を持ちかける。


「相談する前に一つ聞きたいんだけど、今の俺の事情とかディアーナから聞いている?」

『いや、今月に入って私もテロ組織壊滅の作戦に加わっていたからな。時間が出来たのも、つい先日だ』

「なるほど。だったら――」


 どうすればいいのだろうか? 師匠は明らかに、高町家に深い関係を持っている。どういう繋がりなのかも、薄々察している。だからこそ、悩んでしまう。

師匠はあのテロリスト達を追っている、危険な身の上だ。余計な感情を入れて剣先を鈍らせるのはまずいし、師匠ほどの実力者であっても命取りになるかもしれない。

かと言って何も話さず『神速』の事を聞いて、師匠が疑問を持たずに教えてくれるのか、かなり怪しい。師匠は鋭い、確実に見破られるだろう。

何も話さないのはまずいし、全て話すのも問題大ありだ。多分同じ理由で、ディアーナも話さなかったのだろう。


『……なるほど、余程複雑な事情のようだな』

「いや、その――」

『わざわざ異国に居る私に相談するほどだ、お前なりに悩み苦しんだ末なのだろう。思えば、お前に助けを求められたあの時もそうだった』


 ドイツの地で傷付き、疲れ果て、ついには倒れてしまったあの時。恥も外聞もなく、俺は顔見知り程度でしかなかった師匠に連絡して救いを求めた。

あの人は俺を救う義理もなかったのに駆け付け、危難から俺を救い上げてくれたのだ。師匠と心から崇めているのも、彼女の度量に惹かれての事だった。


『未熟者が、余計な気遣いをするな』

「……っ」

『私は、お前の師だ。お前に心配される私ではないし、お前くらいの悩みなど簡単に解決してみせるとも。
今はもう、お前は一人ではない。多くの人達を助け、そして頼られている。だからこそお前は常に気を張って、堂々としてなければならなかった。

でも』


 あの時と同じく――師匠は優しく、言ってくれた。


『師である私にならば、吐き出せるだろう』


「……うう……師匠、俺本当に、どうすればいいのか――」

『辛かったのだろう。いいから全部、私にちゃんと話してみろ』


 相手の事ばかり気遣っていた俺に、気遣う必要なんてないのだと師匠は言ってくれた。それが嬉しくて、そんな事を言われたことも久しく無くて――

俺は泣きながら、全てを打ち明けた。
















<続く>








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