とらいあんぐるハート3 To a you side 第八楽章 戦争レクイエム 第二十二話





 レティ・ロウラン、本局運用部に勤務する時空管理局提督。マリエル・アテンザ、管理局技術部に所属する技術官でレティ・ロウランの部下。リンディやエイミィの、親しい友人。

ジュエルシード事件やガジェットドローン関連に全く関わりのない人物だと判明、リンディやルーテシアの個人的な要望により、俺という人間を第三者視点で判断すべく参席していた。

もしもクロノ達の好意やゼスト隊の善意を俺が少しでも頼みにしていたら、リンディ達に進言して俺の提案を棄却させるつもりだったようだ。規律を重視して、ローゼ達を封印する。


時空管理局という巨大組織の人事を担当する人間、圧迫面接顔負けの厳しい査定。アリサや夜天の人、忍やクイント夫婦に協力を得てもギリギリだったと言える。


時空管理局内には、敵に通じる内通者がいる。引き渡すのは、確かに危うい。だからといって、仲間に甘えるだけの男にロストロギアは託せない。

他人に認められるというのは、それほど難しいことなのだ。まして学歴も職歴もないとなれば尚の事、厳しい。結果も出していないのに、結果を出せると言っても信じてもらえない。


本当に、紙一重だった――少しも妥協出来ない戦い、この先もまだまだ続くだろう。


「ローゼは勿論だが、アギトから交渉の余地を引き出せたのも大きかった。彼女も、君との取引には応ずると言っている」

「プランを提示する前日に、彼女と面会して根回ししたのは大きな成果ね。ちぇっ」

「嫌そうだな、おい!? とにかく、プランはきちんと提示して承認を得られたんだ。正式に、俺に依頼をしてくれ」

「依頼の報酬は、我々の全面協力だったな。約束は約束だ、ルーテシアもそれでいいな。彼に、アギトを託す」

「……あの子を、彼に託すのは私やクイントの希望でもありましたから」


 隊長であるゼスト・グランガイツ、クイント・ナカジマにルーテシア・アルピーノ捜査官。時空管理局の本部に所属する人間の全面協力を、ようやく取り付けられた。

アギトやローゼを解放するには、時空管理局の決定を覆す必要がある。局内に個人の意見を浸透させるには、立場ある人間の進言がどうしても必要になる。

理想論や博愛主義を綺麗事並べて唱ったところで、管理外世界の民間人如きの言葉など誰も耳を傾けてはくれない。一人ではなく、より多くの人間の声が必要なのだ。


生物としての強さも、人間としての力も、人としての才能も、何一つ持ち合わせていない。権力も影響力もないのなら、自分にさっさと見切りをつけて仲間を集めるしかない。


採用されたプランを実現するには、異世界と現地との協力が不可欠となる。念入りに打ち合わせする必要はあるのだが、何より当事者に話を通さなければならない。

随分と苦労させられる羽目になったが、ようやく肝心要の人物が一時的に釈放されることとなった。


「主、皆様よりお話は伺いました。ローゼの為に――この可愛いローゼの為に、世界を敵に回す決断をして下さったのですね」

「――この松葉杖、異世界に捨てたくなってきた」

「本当にありがとうございました、主。ローゼは、感激いたしました。今晩は、お赤飯を作りますね」

「何だよ、その謎の感謝!? とにかく一ヶ月間、大人しくしてろ。こいつらに、お前のアホ面を見せておけばいいから」

「お任せ下さい、主。お偉いさんに媚びへつらうのは、得意分野です」


「……今からでもプランを棄却出来るんだぞ、君たち……」


 ローゼを連れて来たクロノが、顰め面をする。動力源として組み込まれていたジュエルシード以外、精神分析を含めてローゼの心身には異常が見当たらなかった。不幸中の幸いである。

結果論でしかないが、俺の言いつけ通りにローゼが博士やドゥーエ達の情報を提供した事が今回の結果に結び付いた一因となった。非協力的なら、信用は得られなかった。

封印して倉庫に保管しておくより、俺に託して博士達の接触を待つのが得策と考えたのだろう。囮捜査に近くて危険も伴うが、封印されるよりはマシだ。

それにクロノ達やゼスト隊は危険視しているが、俺はドゥーエ達をそれほど嫌ってはいない。罠には嵌められたし、一応用心はしているが。


そして、肝心のもう一人も一時釈放となった。


「おう、連中から話は全部聞いたぜ。面倒くせえけど、お前の面倒を見りゃいいんだろう」

「何で逆なんだよ。俺が、お前の監督をするんだよ」

「お前みたいな弱っちいのに、指図される謂れはないね。勝手にやらせてもらうさ、ふふん」


 赤髪でつり目の少女は毒舌を吐きながらも、昨日とはうって変わって機嫌よさそうに笑っている。約束通りに開放されたのか、手錠も何も繋がれていない。

これで肉体的な束縛はなくなったが、厳重監視をつけて管理外世界の僻地へ飛ばされる事になる。自由なんてものは、一切もない。少しの間、放し飼いにされるだけだ。

少女は、聡い。きっと分かっているだろうに、その表情に不自由はなかった。


「約束」

「うん?」

「約束、ちゃんと守ってくれたんだな。頭の固そうなこいつら相手に、派手にやりあったらしいじゃねえか」

「なかなかやるだろう、俺も」

「……へん、口だけ達者な剣士なんてサマにならねえぜ」


 ニシシ、と白い歯を見せて、俺の肩の上に飛び乗った。とりあえずこれで取引は成立、お互いの目的を果たすべく俺達は一緒に行動する。

アギトが時空管理局に正式に認められれば、同じ危険物とされているローゼの人権も保証されやすい。簡単にはいかないだろうが、結果を繋げていく事が大事だ。

俺達の関係を目の当たりにして、リンディやレティが目を細める。


「記憶喪失、加えて心無き犯罪者達に実験材料にされた経緯を持つ。人間不信に陥っていた少女をよくここまで立ち直らせたわね、彼」

「ジュエルシード事件で、被疑者や関係者を説得したのも彼よ。今回の件も提案したのは彼だけど、私は適任だと思うわ」


 明らかに、誤解されていた。アギトは多分今でも心に傷を負ったままだし、人間にも多大に不審を持っていると思う。俺達は目的が一緒だから、行動しているだけだ。

傷の舐め合いでは断じて無い。俺もアギトも、苦難に陥っている自分を慰めて欲しくはないのだ。自分の人生は自分で何とかしたい、その程度のプライドは持っている。

だから、時にはこうして共に行動も出来る。俺はそうなるのに随分時間がかかったが、アギトは記憶を失っても誇りは持っていた。その点が、俺と彼女との違いだろう。


「そんで、まずはどうするんだ?」

「お前とローゼはひとまず保釈となるけど、俺をひっくるめて監視がつくことになる。がんじがらめにはされないけど、俺の目の届く範囲で行動するように。
話は事前に聞いていると思うけど、今日から一ヶ月間は俺の仕事を手伝ってもらう」

「その上捜査協力までしろってんだろう、面倒くせえな」

「俺と手を組んだからには、無料奉仕なんてさせねえよ。情報提供の見返りに、色々便宜を図ってもらうさ。それを証拠に、お前の能力は制限されていないだろう」

「! あれだけ暴れたのに妙だと思ったら――お前が、こいつらに言ってくれたのか!?」

「おかげで、管理プランを考えるのに苦労させられたよ。その分、ちゃんと働いてもらうからな」

「あたしを労働力に使う気かよ、いい度胸してやがる」


 正直、古代ベルカの融合騎としての能力については論議させられた。危険視されているその力を何の制限もかけないのは、道理に合わない。危険な猛獣の牙を放置するなんて、どうかしている。

リンディやクロノでさえ反対したが、俺はユニゾンデバイスの意義を持ち出して説いた。記憶のない人間の拠り所は心、ならばユニゾンデバイスにとっての拠り所は何なのか。

取り調べをした時空管理局職員相手に暴力を振るったのではなく、力で訴えたのだと。思い出がなければ、自分の言葉も持てない。力まで奪われたら、本当に道具となってしまう。


『アギトを道具として扱うのであれば、持ち主である君に全責任がのしかかるんだぞ。アギト個人の暴走、ではこの先済まされなくなる』

『その時は、お前が俺を逮捕しろ』

『……まったく……』

『――』

『そうまで言われたら、こちらが折れるしかないだろう』

『悪いな、いつも』

『そう思うのなら、苦労を増やさないでくれ』


 アギトが人ではなく、デバイスだと認識した上での発言。人でなしの俺だからこそ、道具と扱った上での主張を述べられた。

本人は、この経緯について一切説明を受けていない。何も知らないとは思うが、俺が便宜を図った事くらいは聞かずとも察せられただろう。記憶がなくても、聡い女の子だった。

どこか拗ねたような顔で、アギトは小声で言う。


「一応、手を組んだんだ。お前に、迷惑をかけるつもりはねえ」

「おう」

「"烈火の剣精"アギト、期待には応えてやるさ」


 古代ベルカの融合騎と最新型自動人形ガジェットドローンが、新たに自分の陣営に加わった。自由の旗を掲げて、俺達は世界を股にかけて戦っていく。

海外の地での世界会議――あの戦いこそ自分の人生での最高峰に思えたが、今度は異世界。国単位ではなく、次元世界を守護する巨大組織と戦うことになる。

俺達はあまりにも無力だが、いつものことでもある。絶望なんて陥っている暇もなく、戦い続けていかなければならない。


悲壮感は、なかった。独りでは、ないのだから。


「君の要望はこれで叶えられた。覚悟の程も、しかと受け止めた。ここから先は、一個人として言っておきたいことがある」

「どうした、改まって」

「かねてより要望していた、聖王教会への取り次ぎ。随分と時間がかかったが、先方より先日連絡があった。

僕達の世界『ミッドチルダ』の北部に位置する、"ベルカ自治領"――その領地にある聖王教会本部にて、君とお会いになるそうだ」

「本当か!?」


 プレシア・テスタロッサが示してくれた、法術に関する手がかり。俺に備わっている未知なる能力を知る鍵が、聖王教会にあるらしい。

宗教団体だが時空管理局とも懇意の関係にあるらしく、執務官のクロノにかねてより連絡をお願いしていたのだ。ユーノも、聖王教会について事前に調べてくれていた。

何だか最近人づてに頼りまくっている気がするが、異世界には不案内なのだ。今は、頭を下げてお願いするしかない。

これでようやく、俺の力について調べられる。夜天の書の改竄も、止められるかもしれない。俺にとっても、騎士達にとっても朗報だった。


が、


「――お会いに、なる?」

「今までなしのつぶてだったのに、どういう訳か急に返答が来たんだ。聖王教会本部の、司祭様が直々に」

「司祭!? 確か、司祭ってその……かなり、偉いさんなんじゃ……?」

「だから、不可解なんだ。いいか、聖王教会を単なる宗教団体だと思ってはいけない。少なくとも、今の君とは真っ向から反する」

「今の俺と……?」


「聖王教会は、危険なロストロギアの調査と保守を使命としている。万が一にでもローゼの事が発覚すれば問答無用で君を捕まえるか、時空管理局に引き渡しを要望するだろう。
だが、管理局は君に一ヶ月の猶予を与えてしまっている。この一ヶ月だけは、非常に危うい状態に立たされるんだ。歯車が狂えば、組織同士がぶつかり合う事にもなりかねない。

加えて、君の魔力光の件もある、もし聖王教会が君を聖王と誤認すれば――ロストロギアと聖王をめぐって、ミッドチルダを巻き込んだ戦争に発展しかねない。

こんなタイミングで、君との面会を強く望んでいる。絶対に、裏があるはずだ。本来は断るべきだが、残念ながら君の要望が丸ごと通ってしまった。
改めて問い質すつもりはないが、覚悟はしておくんだ。


危険だと認識されているロストロギアを、個人が管理する――その意味を」


 ロストロギアの保守を使命としている、聖王教会。ロストロギアの封印を決定した、時空管理局。危うい力の全てをその手に抱えている、俺。

自分が選んだ決断が、かつて自分が望んだ願いを歪めてしまった。本来なら単に話を聞くだけで済む話だったのに、一歩間違えれば戦争になりかねない交渉となってしまった。

海鳴町だけではなく、ミッドチルダ全土を巻き込みかねない事態に発展。最初からアギトとローゼを見捨てれば、こうはならなかった。

最少の犠牲を否定した結果、最大の戦火を生みかねない結果となった。どうしていつも、こうなってしまうのか。


俺の望みが海鳴の住民を不幸にして――ミッドチルダの住民を、戦争に巻き込もうとしている。
















<続く>








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