とらいあんぐるハート3 To a you side 第七楽章 暁は光と闇とを分かつ 第七十二話





「今回諸君らに集まってもらったのは他でもない、この家に巣食う魔女達をどう打開するべきか話し合いたい」

「……一応私、その魔女の血をひいているんですけど」


 夜の一族に提供して貰った別荘にて、自陣営及び味方勢力を結集しての緊急会議を実施。頼もしき、とは到底言い難いが仲間達に集まって貰って今後について相談する。

ドイツの辺境に立てられた高級別荘、広大な土地に建てられた家は一人一人の部屋も広く、アンティークな家具やインテリアが充実していて贅沢な空間に仕上がっていた。

結構な人数が集まっているが手狭感は無く、むしろ普段俺一人で居る方が落ち着かなかったりする。高町家や八神家の、和風な一人部屋が懐かしい。


で、一番役立たずの女が人様が寝ているベットに寝転がって、何やら匂いを嗅いでいた。何しているんだ、こいつは。


「だから、お前はさっさと自分のホテルに帰れと言っているだろう。ノエルとファリンを置いて」

「どうしてノエルとファリンは特別扱いするの?」

「そもそもカミーユ達が護衛も立てずこの別荘への宿泊を許されているのは、自動人形である二人が俺と一緒にいるからだよ。
ロシアンマフィアとテロリスト達襲撃の一件で、すっかりセットだと思われているからな」

「良介様は忍御嬢様の大切な御方ですから、私が貴方の御力となるのは当然です」

「わたしもすずか御嬢様のお付きですから、良介様の御力になりますよ! それだけではないんですけどね、わたし達の関係は……えへへへ」


 ライダー一号二号の関係を言いたいのだろうが、全員にバレバレだからな。足取り軽くはしゃいでいる妹を、ノエルは優しい表情で見守っている。

夜の一族の後継者達が一堂に会し、自分一人で面倒見るのに限界を感じた俺は、さくらを通じて妹さんを呼んでいる。それでセットでやって来たのが、日本陣営である忍達だったりする。

要人襲撃テロ事件後でドイツの治安や夜の一族の情勢は極めて悪く、今出歩くのは避けるべきなのだが、さくらは当然のように自分の可愛い姪達を俺に預けた。


他の家もそうだが、年頃の娘を同世代の男に預ける事に何の抵抗も感じないのだろうか……? 通り魔事件の頃が嘘のように、さくらは全幅の信頼を俺に寄せている。


「リョウスケ、前から言っていますが忍さんを邪険にしてはいけませんよ。リョウスケのような人を好いて下さっている、稀有な女性なんですから」

「……あ、あのー、忍さんがリョウスケの愛人と聞いたんだけど、本当?」

「大嘘に決まっている!」

「そうだよ。私はあくまで侍君の内縁の妻だから、侍君がヴァイオラさんと婚姻しても重婚とはならないの。はやてちゃんとも疎遠にはならないから、安心してね」

「そうだったんですか、よかった……忍さんが理解ある女性で安心しました」

「忍様、素敵です!」

「何でそいつの株が上がるんだよ!? 色々おかしいこと言っているじゃねえか!」


 俺のお世話役を気取っているミヤと、俺の親友を自称するカミーユが、俺の愛人を名乗るアホ女に騙されていた。こいつら、気が狂っている。

同郷の出の月村忍が転がり込んできて、カーミラ達は俺との関係を色々邪推した。忍は内面が最悪だが、一応見た目はスタイル抜群の美人。他の陣営にも、決して見劣りしない。

赤の他人には決して心を開かないくせに、カーミラ達に詰め寄られて愛想良く受け答えして仲良くなっている。夜の一族同士というより、変わり者揃いで気があったのかもしれない。

そういう意味では獅子身中の虫なのだが、一応気心は知れているので会議の参加を許した。


「とにかく、まずは現状を整理しよう。ローゼ、ホワイトボード」

「はい、主」

「……何か当たり前のようにその子が居るのが、ビックリなんだけど」


 実に不愉快なのだが、最新型自動人形であるローゼの存在は当然のように受け入れられていた。俺に仕えているのが当たり前のように思われているようだ、意味が分からない。

ノエルやファリンにはもう、紹介は済ませている。忍に確認を取ってみたのだが、話の経緯からするとこいつはやはり件の『最終機体』であるらしい。

珍しく真剣な顔で、『起動命令』はしてはいけないと忍より警告されている。危険な"自我"が目覚めるとの事なのだが、自我が目覚めていないこいつも別の意味で厄介だと思う。アホだし。


ペットは飼い主に似るというが、ローゼは基本的にあまり人と交流しない。同じ自動人形であるノエルやファリンとも、義務的な関係でしかないようだ。


ローゼは淡々とホワイトボードに、記していく。夜の一族の世界会議における勢力図、俺を中心とした人物相関図が事細かく客観的に書き込まれていった。

事務的な作業には、ローゼがむいている。俺への我儘を口にする以外には、基本ローゼは物事を第三者視点で正確に見定められる。実際、相関図も極めて正確だった。


普段の言動がアホすぎるので認識したくはないのだが、指揮官タイプは伊達ではないらしい。説明する手間が省けた。


「世界会議が始まり、各勢力との権力争いが加熱。弁論闘争が日々勃発して、最後には武力行使にまで至った。当初に比べて、勢力図も激変している。
血で血を洗う戦いとなるのは何とか避けられたが、どの勢力もまだ王の位を狙っているだろう。戦いは、これからだ」


 孤立無援、一兵卒として挑んでいた頃に比べれば状況は劇的に好転している。味方も増えて、敵勢力は弱まってはいる。だが、少しも気を緩めていい戦況ではない。

恐竜がどれほど傷ついても、蟻がどれほど数を増やしても、踏み潰されれば終わりである事に違いはない。運も実力の内だが、あくまで他人に分け与えて貰った幸運でしかない。

どの戦いにおいても、誰かが助けてくれた。ロシアンマフィアとテロリスト達との戦いも結局、最後油断してミヤや夜天の人に救ってもらった。こんなザマでは、駄目だ。

今敵は、俺の懐の中に飛び込んで来ている。世界会議は開催されていないが、後継者達が集っている時点で此処も戦場なのだ。


「現状日本は味方で、フランスとも同盟は結べている。カミーユの親父さんには、支援も約束してもらっている。少なくともこれで、金銭面で苦しめられる事はなくなる」

「侍君はそもそもお金なんか使わないでしょう」

「やれやれ、これだから日本のゆとり世代は困る」

「コラコラ、同世代」

「アンジェラ様やカレンさんが直接弁論の場に立っていたのは、リョウスケを軽く見ていたからなんだ。同じ土俵に立っても勝てる自信があった。
一連の事件を通じて、御二人もその認識を完全に改められている。会議が再開されたら今度こそ全力でリョウスケを倒しにかかると思うよ、ボクも。

ドイツの次期当主様――えーと、名前は何だったかな……その人も以前、悪意のある情報操作してきたでしょう」


 フランスの御曹司誘拐未遂事件。事件そのものは公に伏せられていたのに、氷室遊がマディアを通じた悪意のある偏向報道によってフランスの品位を貶めた。

国単位の情報操作となると権力は勿論だが、資金も大幅に投入されている。対抗するにはやはり、資金が必要となる。どうやったって国を相手に、個人では限界があるのだ。

嫌な言い方だが、フランスが背景となってくれれば大それた真似は出来なくなる。所詮虎の威を借っている狐でしかないが、対抗は出来る。カミーユの説明に、忍も納得した。


「侍君はそれで、納得できるの? 自分の力で、勝ちたかったんでしょう」

「俺が勝ち取りたいのは、王様の冠じゃない。王の座につける力を持った、後継者達の心さ。認められるべく、戦っているんだ」

「ふーん……やっぱり変わったね、侍君は」

「そうか?」

「ほんの、ちょっぴりだけどね」


 ベットの上で足をパタパタさせながら、忍は嬉しげに笑っている。今の言葉で俺に感じていた気後れは無くなったのか、日本で見た頃のお気楽な笑顔だった。

自分が変わったという自覚はあるが、どの程度なのかは分からない。俺がハッキリ分かっているのは、他人と触れれば変われるという事だけだ。

――その程度を理解するのに、十七年もかかった。他人を無意味に拒否したせいで、随分出遅れてしまった。今も、小学生レベルの問題で悩んでいる。


「ドイツはカーミラの血を吸ったので、さほど問題にはしていない。氷室遊の今度の出方が気になるが、カーミラとも相談して手は打っている」

「失礼ながら――カーミラ様と主従関係にあらせられるのですか、良介様は」

「あのあの、わたしも良介様の主として敬意を払うべきなのでしょうか!?」

「……お客様として、扱ってやってくれ」


 カーミラの扱いに困っているノエルとファリンに、頭を下げる。すんませんね、我儘な御嬢様で。よく言って聞かせるから、許してやってくれ。

世界会議の頃は立場があったし、婚約者が居たので俺達は他人を装っていたのに、要人襲撃テロ事件後カーミラは全く隠さなくなったので困っている。

助けてやって何やら気を良くしたのか、近頃は我儘の度が過ぎているので困る。ご褒美だと言って、わざわざ素足になって俺を踏んづけてきやがるし。人が歩けないのを、いいことに。

一応皆に相談してみると変態だと罵られたので、この懸案は棄却した。敗北を重ねた俺にも、人間としての誇りはある。


「ロシアは、非常に厄介だ。姉とは話し合えると思っていたのに、全面戦争になった」

「主の甲斐性の無さが、原因ではないかと」

「精子をよこせと言われて、気軽に応じられる訳がねえだろう!」

「血をよこせと言われて、気軽に応じて下さるとも思えませんが」

「うっ――まあ、そうだけど」


 アホに指摘されて、ショックを受ける。異性、しかも夜の一族の血ともなれば特別だ。献血じゃないんだし、ジュースやお菓子程度の見返りでは駄目なのだ。

一方俺は別に自分の精子に特別な思い入れなんぞ無いので提供は出来るし、ディアーナほどの美人ならば一晩中でも抱けるが――その一線を飛び越えるのは、非常に危うい。

子を作れば、彼女は間違いなく俺から離れるだろう。未来永劫関係を断ち切り、彼女は裏社会で孤高の王となるに違いない。それは、許せない。


セックスフレンドだの、愛人だの、色々茶化していた忍も、顔を真っ赤にしていたカミーユ達も、俺の話を聞いて真剣に相談に乗ってくれた。


「ここだけの話だけど、ディアーナさんには色々相談を持ちかけられたんだ。中身は言えないけど――あの人、私と似た者同士だよ」

「と、いうと?」

「他人と関わるのが、とても苦手。心許せる人と出会えると、途端に甘えたくなる。私との違いは、あの人がマフィアだということ。
侍君との子供だけ望んでいるのは、侍君を自分だけの我儘で危険な目に合わせたくないからなんだよ」

「それは分かっている。彼女の気持ちは嬉しいけど、その思い遣りが許せないんだ」

「分かってないよ。侍君はね、そういうところが全然分かっていない。今の侍君は、他人を理解した気になっているだけ。
侍君をマフィアにしたくないと言いながら、侍君の子供は自分の後釜にしようとしている矛盾。その意味が、分かっている?


あの人はね――侍君への想いに、殉じようとしているんだよ」


「――!?」

「何を許してはいけないのか――何と戦わなければいけないのか、もう分かるよね?」


 ……くそっ、忍の奴がすげえいい女に見えてしまった。二人きりだったら、そのまま押し倒していたかもしれない。悔しいが、惚れてしまいそうだった。

カラダだけの関係を望んでいる。言い換えれば、ディアーナは――カラダだけでも、俺との関係を望んでいる。つながりを、否定しているのではない。


むしろ、逆――俺とのつながりだけを、求めている。ならばどうすればいいのか、明白だった。


「クリスチーナちゃんも、リョウスケとの関係に固執している。あの二人は本当に姉妹なんだね、とてもよく似ているよ」

「言われてみればそうだな……本当に、そっくりだ」


 戦い方が、見えてきた。ディアーナと、クリスチーナと、どう戦えばいいのか。忍やカミーユの話を聞いて、道筋がハッキリした。

常に戦ってばかりだった、ロシアとの関係。絡み絡んだその縁に決着をつけるには、やはり戦うしかない。

クリスチーナとは、武力で。ディアーナとも――戦わなければならない。彼女の思いを、挫く結果になろうとも。


「忍、準備してもらいたいものがある」

「分かってる。さくらに、頼んでみるよ」


 随分手際がいいと思ったが、多分こいつが欲しかっただけだろうな。海外にもあるのか分からないが、"これ"でディアーナと決着を付ける。

次にアメリカだが、カレンについては最早ハッキリしている。思えば彼女とは敵同士だが、同時に理解者でもあった。最初から最後まで、立場が明白。だからこそ、白黒つけやすい。

カレンについての策を皆に打ち明け、成功率について予め確認を取る。基本路線は分かりやすく、戦略そのものは単純なので伝わりやすかった。


「でもでも、その作戦は見破られているんですよね? そのまま進めて大丈夫なんですか、リョウスケ」

「大丈夫だよ。だってこれはあくまで、『後継者を決める会議』だろう?」

「ふぇ……? あっ!」

「カレンは間違いなく、王の資質を持っている。能力的にも後継者に相応しいが――今のあいつは、"経営者"なんだ。その視点が、アダとなる」

「ずっこいですね、リョウスケは。きっと怒り狂いますよー」


 ミヤが、呆れた顔をしている。確かにこの戦略が実れば、カレンは怒り心頭になるだろう。この作戦、世界会議でしか通じないのだ。会議が終われば、即日本に逃げ帰らなければ。

話を聞いて、妹さんも奮起してくれている。カレンにもプライドがある、敗北すれば血を差し出すだろう。そして、必ず俺を殺そうとする。その時は、護衛の出番だ。


そして、会議はここからが本番だった。


「そしてイギリスなんだが――非常事態だ」

「非常事態?」



「今晩、ヴァイオラとデートすることになった」















<続く>








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