とらいあんぐるハート3 To a you side 第七楽章 暁は光と闇とを分かつ 第五十六話





 この世界会議は夜の一族の覇権をかけた戦場、一族にとっての戦力とは権力であり、財力であり、そして武力である。

自動人形は武力の象徴であり最高峰、現存する数は少なく人形の保有数により戦力の天秤が大きく傾いていく。

まして――量産可能ともなれば、一国の軍隊に匹敵。自由自在に操作可能ともなれば、一指揮官が国家の一軍となってしまう。


最新型自動人形ガジェットドローン、製作が成功すれば世界のパワーバランスが変わる。


「じ、自動人形の育成を、俺に……!?」

『いずれは、次の長となる始祖のクローン体の教育もお任せするつもりですわ』

「待てよ。指揮官や王の育成はプロジェクトの要だろう……? その点を失敗すれば、終わりじゃねえか」

『はい、ですので実績ある方にお任せしたいのです。

貴方は"王女"月村すずか様だけではなく、自動人形のオプションであるファリン・K・エーアリヒカイトまで人間として立派に育て上げた。

何でもない顔をされておりますが、貴方の成された事は夜の一族の歴史に刻む偉業なのですよ。
自動人形を開発した古代の偉人も成せなかった、永遠の課題だったのですから』


 ――日本のライダーは、歴史に名を残す名作だったのか! すごいぞライダー、現実逃避気味に俺は感心した。 

始末に困るのはその俺の偉業とやらについて、他の陣営から一切反論が出ない事。ラ、ライダー映画を見せただけなんですけど!?

妹さんが心を持てたのは、そもそも妹さんが良い子だったからであって、俺なんてきっかけに過ぎない。どうしろというんだ。


「大見え切った割には俺頼みの他力本願じゃねえか。俺が断ったらどうするんだ」

『何故お断りになるのでしょう。両者の利害は一致しているようにお見受けするのですけれど』


 人間と夜の一族、つながりを持つことで血の共有が行える。交わりを持つことで、権力を超えた心の絆が生まれる。

カミーユが友情、カーミラが主従だとすれば、カレンは契約に近い。雇用、ビジネスパートナーとして交わりを結ぶ。

俺だって別に愛だの友情だのに、こだわる気はない。クリスチーナとは戦って勝つしか、分かり合えないとさえ思っている。

利得でつながる関係なんて、社会に出れば当たり前のことだ。経済は競争、他人を蹴落とすことだってある。


「……聞いている限りでもやべえじゃねえか、そんな研究。犯罪に巻き込まれたくねえ、割にも合わん」

『成否に関わらず、報酬として一億出しますわ。前払いでも結構です』


 一億!? 千円札を何枚積み重ねれば、そんな額になるんだ!? 毎日寿司とか食っても許されるのか。ワンカップ酒が懐かしい。

失敗しても一億円出すとは、まだ太っ腹な話である。サラリーマンが一体何十年頑張れば稼げる額なのだろう。

絶句してしまう俺に気を良くしたのか、畳み掛けてくる。


『何も難しく考えることはありません。王女に為された事を我々が生成したクローン体にも仕立てて下さればいいのです。
王の樹立が見事確立しましたら、十億。その後は特別顧問として貴方を正式に迎えたいと考えております。

雇用とはいえ貴方とわたくしの立場に上下はありませんわ。わたくしのパートナーになって下さいな』


 十億、十億だぞ、おい!? 妹さんにやった事なんて気軽に話したり、一緒に映画を見たりとか、一緒に遊んでただけだぞ!

学歴も職歴もない、アリサが言うところの浮浪者である俺にここまで厚遇するつもりなのか!? 成り上がり万歳!

祖国である日本でも、俺をこんな高待遇で雇う企業なんぞ皆無だろう。断るなんてとんでもない。立身出世最高!


こいつもそう確信している――断る理由なんて、それで十分だ。


「なるほど、実にいい話だ」

『契約して頂けますわね?』


「そうしたいのは山々だが……生憎俺はクリスチーナ様の護衛でね、契約云々の話はロシアの方々としてほしい」


『な、何だと!?』

『何ですって!?』


 まさか指名されるとは思っていなかったのか、マフィアのボスが目を剥いた。カレンも予想だにしない展開に、立ち上がった。

これも、俺が事前に考えていた策。会議で発言力が高まれば俺を取り込んでくると想定、契約上のトラブルを起こして火をつける。


恐竜相手に蟻が戦っても勝ち目はないが、恐竜同士食い合えば勝機は生まれる。共食いさせれば、蟻は生き残れるのだ。


アメリカの大富豪であっても、ロシアのマフィア相手では軽くあしらうことは出来まい。小国が生き残るべく、大国を争わせて消耗させる。

そうして太古、恐竜は全滅して蟻は現代まで生き残ったのだ。身体のでかさは、時にアダとなる。


『クリスチーナの護衛だぁ!? おいおい、うちの娘のお守りさせて何であのガキ生きてやがる!』

『非常に稀有な存在なのです、彼は。手放すべきではないかと』

『ウサギは、クリスのモノだもん。資本主義のメス豚なんかに、渡さないよーだ』


『どうせ暴力を背景に無理強いさせているだけでしょう。マフィアらしい、薄汚いやり方ですわ』


 くくく、もめろ、もめろ。この調子では、そう簡単に収拾はつかないだろう。大国同士が睨み合えば、会議なんて続けられない。

ここでポイントは、俺から会議の中止を呼びかけない事だ。俺から提案すれば俺の目論見が発覚して、追求されてしまう。

あくまで目立たず、自分がつけた戦火が燃え上がるのを待つ。恐竜の群れを焼き尽くすまで、じっと。その間に、考えておこう。

ガジェットドローンの教育、指揮官タイプの育成――扱いを間違えれば、テーブルクロスの怪人どころではすまない。


(だからといって放置するのもまずいな……どうするべきか)


 カレンには頑なに嫌がる素振りを見せたが、実は迷っていた。承諾すれば敵の懐に飛び込める、喉元に刃を突き立てることも。

会議で戦ってみて分かったが、やはりカレンは手強い。氷室とは違い隙をほとんど見せず、計画もよく練られている。

あえて弱点をあげるとすれば、取り扱う技術が高度であった事。超科学ゆえに、肝心な部分を他人に委ねるしかない。

彼女に勝つにはこの技術を台無しにして、後継者争いから引きずり落とすくらいしかない。

ただ俺が仕事に失敗するだけでは駄目だ。俺が無理ならば、困難でも他の人にやらせるだろう。それでは意味が無い。

俺を雇うのはあくまで実績があるから、単にそれだけ。今この時点においてのみ、俺が成否の鍵を握っている。


引き受けるか否か――安易な判断は危険、遅ければ取り返しがつかない。うーん……





『情報を交換し、お互いの目的を叶えましょう』

『それは分かるけど、具体的にどんな情報を求めているんだ?』

『私は会議の詳細が知りたい。会議に参席している貴方はうってつけよ。出来れば、会議で出された資料類も回して欲しいの。
提供してくれるなら、こちらからも貴重な情報を提供するわ。例えば――人型兵器の開発情報とか』

『お、お前、どこまで知っている……!?』

『言ったでしょう。此処は貴方が思っているよりも危険なの。探るのも命懸け、迂闊な行動は慎みなさい。
この関係も絶対に秘密よ、いいわね』





 ――! あいつ、まさか命を狙われているのか!? 兵器開発を知っていたとなると、相当やばいところまで踏み込んでいる。

俺だってこの会議で何度も殺されかけている。もしも敗れれば日本に帰れないことも覚悟している。敗北すれば死ぬのだ。

気づけるようになった自分が恨めしい。俺を巻き込みたくないと言ってたのに、俺と組もうと言い出したのは――


遠まわしな、救難信号。自分の危険を、無意識に訴えている。あいつは自分で、この矛盾に気付いていない。


カレンはルーテシアが思うよりも、危険だ。こいつがいつまでも気付かないままとは考えにくい。察知しているかもしれない。

彼女が何者なのか、知らない。だが身元は知らなくても、内面は分かる。ルーテシアは、優しい女だ。人を嫌えない、お人好し。

ぐっ……赤の他人だ、無視してもいい。いいんだが――このまま放置すれば、あの女は危ない。次の日には消えているかも。


ヴァイオラの母親が語っていた、運命。ここが分岐点、手を出すか出さないかで未来が変わる。


面倒事に関わるなんて絶対に嫌だが、面倒な事から逃げる男が成長なんてするだろうか……?

ルーテシアを引き込めば、完全に動きがバレるだろう。彼女の命運も背負うことになる。俺が負ければ、あの女も危なくなる。


……そういえばあいつ、俺の母親を気取るクイントと同じくらいの歳か……あー、くそっ!


「妹さん」

「はい」

「えーと、別に妹さんに不満があるわけじゃないんだけど」

「はい?」

「護衛を一人、増やそうと思うんだ」

「……、ルーテシアさんですか?」

「な、何故それを!?」

「剣士さんならそうするのではないかと、思っていました」


 読まれていた、頭の良い子である。日夜俺と行動しているので、次にどうするのか考えているらしい。

護衛が一人増やすことにも、特に何とも思わないらしい。職務意識は強くとも、我を張るような子ではない。

偉大なる始祖の血で造られたからではなく、妹さん本人がよく出来た子なのだろう。心が透き通っていて、汚れがない。


加熱していく、会議の場。アメリカとロシアが火花を散らす中、こちらは独自で動いていく。


"カミーユ、頼みがある"

"わっ、リョ、リョウスケ!?"

"落ち着け、血による意識の共有だよ"

"そっか……ボク達、つながっているんだね"


 ええい、気持ち悪いことを言うな。意識してしまうだろう、この野郎。素のこいつは、ホモ臭くて困る。


"会議、かなり荒れているだろう。長も心労で倒れてしまったし、場もきな臭くなってきた"

"自動人形とか、クローンとか、ボクにはついていけないよ……"

"俺の身辺もやばそうになっているから、お前らのところから一人護衛を回してくれないか?"

"いいよ、キミはボクの大事な人だからね。父にも頼んでおくよ"

"そちらの護衛チームに一人知り合いがいるから、そいつに頼みたい"

"そうなんだ、誰?"

"ルーテシアという、女の護衛"

"リョウスケ、ルーテシアさんと知り合いなんだ!?"


 話を聞くと、ルーテシアは護衛チームで唯一ヴァイオラから信任を得ているらしい。親身になってくれると、カミーユも相好を崩す。

どの国でも、好かれる人種というのは存在するらしい。そんな奴が謀殺されるのは見過ごせない。何とかしなければ。

俺の陣営に取り込めば、アメリカ側も安易と手出しは出来なくなるだろう。妹さんがいれば、暗殺や奇襲も阻止できる。


"リョウスケ、もしかしてカレンさんの話を受けるつもり?"

"お前はどう思う?"

"やめたほうがいいよ。彼女の話が本当ならば、犯罪だよ"

"だからこそ、放置もできないだろう。どうしたもんかねー"


 やれやれ、傷の手当に来たのにとんだ大事に関わってしまった。世界を揺るがす一大事件の中心にいる。

どう考えても、一人で処理できる問題じゃない。ルーテシアを仲間に引き入れた上で、関係者を集めて相談しよう。


結局俺のつけた火は大炎上して、アメリカとロシアは一種即発。冷戦どころか、全面戦争にまで発展しかけている。


温和なフランスが仲介に入り、同盟国のイギリスが会議の中止を提案。風見鶏のドイツが賛成して、二日目の会議はようやく終わった。

紆余曲折あったが、長い夜が終わった――



「大丈夫だよ、ウサギ」

「クリスチーナ……?」


「明日には、全部片付けるから」


 会議の終わり際、にこやかに告げた殺人姫の言葉が不吉を告げる。













 


















































<続く>








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