とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第七十八話







 ジュエルシード事件主犯プレシア・テスタロッサは身体的不調の為、裁判は延期。

彼女の娘フェイト・テスタロッサが現在事情聴取、裁判で罪に問われる事になる。

フェイトはプレシアが全面自供しているので、罪そのものは軽い。

集めたジュエルシードはたった3個、全部暴走した状態を封印した物だ。

その目的さえ明確にされなければ、ユーノやなのはが世界の安全の為に回収した形と同じに見える。

誘拐や危険魔法使用も被害者である俺やなのはが訴えない限り、罪の追求は不可能だ。

プレシア親娘が回収したジュエルシードが、全くの未使用だった事が大きい。

たとえプレシアの目的が露見しても、アルハザードだの死者の蘇生だの御伽話の産物でしかない。

フェイトの裁判はロストロギアが関わった事件にしては、異例の速さで判決が出るだろうと見込まれている。

事件解決にも貢献、管理局にも協力的――加えて悲しい出生とあれば、心証は良くなる。

首謀者も自首、無罪は難しいが挑戦する値打ちはあるらしい。


――フェイトは現在一時的に許可を得て、プレシアが入院している病院へ見舞いに。


一度は自分を捨てた親にフェイトがどのような答えを出したのか、俺は聞かなかった。

これは二人だけの問題、俺に聞く権利は無い。

フェイト個人に好意は抱いているし、何度も慰めたが口出しは出来ない。

俺は俺でプレシアにはケジメをつけた、後はフェイト個人の問題だ。

プレシアは確かに改心したが、フェイトに対する感情はまた別物。

自分で生み出しておいて身勝手な話だが、人間という生き物は簡単に割り切れない。

一日や二日で解決する問題ではない。

ただ与えられるのを待つのではなく、自分から得る為に行動に移す。

フェイトの願いが叶う事を、俺は祈るしかなかった。



俺も俺で――自分の問題を解決しなければならない。















「駄目です。退院まで身体を休めて下さい」

「順調に回復してるだろ? 一日くらい大丈夫だって」

「説得だけで危険は無いと言って、大怪我して帰って来た人の大丈夫はアテになりません」


   表情に温かみはなく、俺に目も向けず淡々と診察を行う御医者様。

患者や病院関係者からの信頼も厚く、どんな人間にも友好的な女性が酷く冷たい。


フィリス・矢沢――この半月間、彼女と会話らしい会話をしていない。


プレシア説得時傷を負って彼女と口論になってしまい、フィリスはもう笑顔も向けてくれない。

毎日定例の挨拶と診察、傷の治療を終えれば病室から退室――それで終わり。

余計な干渉を拒む俺には理想的な展開だが、息苦しくて仕方ない。

困ったな……後一度だけ、外出許可が必要なのに。


――扉が、間もなく閉じられる。


俺に悲劇と試練をもたらし、この世の常識を根底から覆した異世界。

来訪者達は御伽話から飛び出した魔法使い、無力な剣士に希望と絶望を与えた。

無許可で開かれた異世界の扉は、法の番人の手で閉じられる。

慈悲深き法の守護者達は最後に一度だけ、別れを告げる機会をくれた。

この機会を逃せば、この先彼らと会うチャンスはなかなか訪れないだろう。

事と次第によっては……もう二度と、無いかもしれない。

最低の出逢い方をした以上、御別れだけはきちんと済ませたかった。


この事件で残された俺の、最後のケジメなのだから。


「事件が解決して、あいつら自分達の世界へ帰る事になったんだ。
だから、最後に一度だけ別れの挨拶をしたい。
心配ならフィリスも同席してくれてかまわない。本当に、何の問題も無いから」


 ……まいったな、フィリスの機嫌を直すにはどうしたらいいんだ?

誠心誠意謝れば済む話かもしれないが、全てを過ちと断ずるのは嫌だった。

俺は少なくとも、フィリスの約束は守るつもりだった。

結果として傷を負ってしまったが、自分から戦いに向かうのだけは断固として避けた。

プレシアを説得する為でもあるが、心配してくれるフィリスにこれ以上嘘をつきたくなかったのだ。

フィリスは海鳴大学病院の医師、人を癒す仕事に誇りだけではなく面子もある。

入院中の自分の患者が何度も外出し、大怪我を負って帰ってくれば責任問題になる。

病院側には今回の事件における外出に関して、俺が――アリサが作ったカンペで――説明したから問題は、ある、よね。

本当に何の問題も無ければ、患者の病室を警備員に見張らせたりしない。

前々から俺はこの病院の問題児だったので、フィリスに非難ではなく同情が集まったのがせめてもの救いだ。


「だから、ね、その……フィリスさん?」

「……」


 ……く、空気が重いっす……

少しでも場を和ませる為に、俺は病室に設置されているテレビをつけた。

昼間は見舞い客の相手、夜はミヤに魔法講座を受けているので、実はあまり利用する機会はない。

BGM代わりにニュースやバラエティを流す程度で、チャンネルもほぼ固定されていた。


放映されていたのは『世界の危険危機一髪』、海外でも流れている人気番組。


災害の難を逃れる方法で視聴者の興味を引き、災害救助における感動的な物語で涙を誘う。

日本と世界の災害復興の現場を通じて、生命の尊さを強調していた。

時と場所を選ばずに起きる災害では特定の時期だけではなく、こうした定期的・継続的に防災に関する番組が放映される。

……ジュエルシードという災害を思う存分味わった俺に、慰めの取材とか来てくれないだろうか?

次元世界災害で入院している俺には和むどころか、笑えない場面ばかりだった。

傷付いて泣いている少女を見ると、酷い陵辱を受けて悲しむアリサを思い出して気分が悪い。

チャンネルを変えようとリモコンを探すが――フィリスがしっかりと、手に掴んでいた。


お、おい……何故音量を上げるんだ? テレビの向こう側まで治療には行けないぞ。


フィリスが何やら熱心に見ているのは、世界の災害現場や紛争地域で行われている救援活動だった。

世界の災害で苦しむ人々の為に、高度・先進的な取り組みが国際的に広がっている。

災害現場の第一線で活躍するNYのレスキューチームが、この番組で取材を受けていた。


セルフィ・アルバレット、ニューヨーク消防署『FDNY』のレスキュー部隊所属のエース。


世界の災害や戦争被害に対し、自分なりの考えやレスキュー隊一員としての心構えを話している。

レスキューレンジャーと聞けば野暮ったいイメージがあるが、取材を受けているのは綺麗な女の子だった。

シルバーブロンドの髪に、吸い込まれそうなブルーアイを持った少女。

透き通るような白い肌に目鼻立ちの整った顔――フィリスやリスティに雰囲気が似ている。

災害対策の仕事となれば相当の激務だろうに、こんな細い肢体でやっていけるのだろうか?

緊張気味だが元気で溌剌と取材に応じており、泣いている子供を笑顔にする魅力を感じさせた。

イメージアップで選ばれたと勘繰ってしまいそうだが、災害救助に対する姿勢は真剣そのものだった。

事前に用意されたシナリオでは、テレビ越しにここまで熱意は伝わらない――

やがて番組はエンディングを迎えて、番組に対する視聴者の御意見、御要望の募集で締め括られた。

被害者や先程のレスキュー部隊への声を求める住所や電話番号も公開。

今度は警察特番でもやって不良警官の悪事を正してもらいたいと、切に願う。

何にせよ、気まずい空気は全然解消されずに終わっ――


「これです!」


 リモコンを固く握り締めて、フィリスはテレビ画面を見つめながら叫ぶ。

俺は特に見所はなかったのだが、何か感じ入る場面でもあったのだろうか?

とにかく会話のキッカケになればと思い、俺は尋ねてみる事にした。


「今度はボランティア精神にでも目覚めたのか? お前は世界中の患者を救うつもりかよ」

「違います!
――い、いえ、そういった志は常に持っていますけど……」


 お願いしますから、海鳴町に住む皆さんの健康だけ守っていてください。

フィリスが居なくなったら、この病院は居心地が悪くなる。

肩の負傷で入院した当時、フィリスが担当になるまでもめたのだ。

これほど外見も内面も綺麗な女性は珍しい、邪気を抜かれてしまう。

レスキュー隊員へのインタビューも目を輝かせて見ていたからな、こいつ。

人を救う仕事に喜びを見出しているようだ。

しみじみと感心していると、当の本人が熱い眼差しを俺に向ける。


「良介さん、手紙を書きましょう!」

「……は?」

「先程見ていた番組です。最後にお便りを募集するコーナーがあったじゃないですか!」

「何の手紙を出すんだよ!? つまらんの一言しかないぞ」


 突然何を言い出すんだ、コイツは。

意図が分からずハテナマークの俺に、実に熱心に語りかける。


「番組に対しての感想ではありません。取材を受けていたレスキュー隊員の方に送るんです。
良介さんと同じくらいの年齢の女の子が、災害に苦しむ沢山の人達を救っているんですよ!
立派だと思いませんか?」

「ま、まあ、奇特な奴だとは思うけど……手紙に書くほどの事か!?
番組を通じて相手に届いてたとしても、肝心の本人が読むとは限らないだろ」

「読んでくれますよ、絶対に。心を籠めたメッセージは必ず相手に届きます」


 また何の根拠もない事を……とは思うが、プレシア相手に説教した身で反論は難しい。

人間テンションが上がると、熱血君になりやすいので注意が必要だ。

久し振りにフィリスらしい言葉を聞けたが、これはこれで疲れるな。


「そんなに励ましの手紙送りたいなら、自分で送ればいいだろ。
代筆を頼んでいるなら人選違いだぞ、ハッキリ言って」

「私も勿論出しますが、良介さんが出すからこそ意味があるんです」

「一通も二通も大して変わらんだろ。
感動の救出劇に日本人の目から見ても可愛い女の子だぜ、手紙は殺到するだろうよ。
嫌々書いた手紙なんて貰っても迷惑なだけ――」


「可愛いと思いますか、シェリーは!?」


「シェリー? 
セルフィ・アルバレットだからそう呼べなくもないけど……馴れ馴れしい奴だな、意外と」

「質問に答えて下さい! シェリーを、可愛いと、思いますか!?」


 じ、尋常じゃない迫力だ……プレシアより遥かに怖い。

白衣着用でベットの上で迫られると、妙な背徳感を感じてしまう。

嘘をつくのは命取りと判断して、俺は正直に答えた。


「か、可愛いと思うけど……」

「……」


 美人の定義は人それぞれ異なるが、人種や国境を越えた美は存在する。

目の前の御医者さんも俺にとってはその一人なのだが、本人に自覚の欠片もありゃしません。

俺の答えを聞いたフィリスは――美貌を歓喜に染めて、両手を固く握り締める。


「良介さんが感じた第一印象を、是非あの娘に伝えてあげて下さい! きっと、喜びます!」

「いやいや、見ず知らずの他人から突然綺麗とか手紙に書かれてもヒくだろ!?」

「気持ちなんて届かないと諦める前に、まず歩み寄る事も大切ですよ。
ただ待っているだけでは、友達は作れません」

「結局、お前はそれかぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」


 やっぱりそういう魂胆だったのか、このアマ!?

何故野郎ではなく、女ばっかり押し付けるんだよ! 女も男も両方嫌だけど!

友達100人計画はいよいよ本格的に海外進出へ乗り出したようだ。

ナイス、インターナショナル。ナメんな、ドクター。


「なれる訳ないだろ!? 相手は日本じゃなく、アメリカに居るんだぞ!
しかも歌手や女優じゃないにしろ、有名なレンジャー部隊のエース的存在だ。
性別どころか身分も国籍も違うわ、ボケ」

「相手の気持ち次第です。勇気を持って!」

「初めての告白に悩むチェリー君か、俺は!?
俺は今テレビで知っただけで、相手は俺の存在も知らないんだぞ!」

「遠く離れた相手に想いを伝える手段、それが御手紙です。
今では電話やメールが主流ですが、一昔前は手紙が盛んだったんですよ。


ペンフレンドをご存知ですか、良介さん?」


   また懐かしい単語を……今時文通なんぞ流行らないぞ。

離れた場所への伝達の手段が少なかった時代には一般的な文化で、友人作りが主流だったのは俺のような無骨者でも知っている。

交換日記の拡大版で、遠く離れた知り合いや仲間と手紙を通じてコミュニケーションするのだ。

俺がガキの時分、風船に手紙をつけて飛ばし、遠い異国で拾われて友人になった美談を聞いた事がある。

テレビの有名人と手紙で国際交流する――この病んだ時代、何と心温まる話なのだろう。

壮絶なまでに、俺には似合っていない。

そんなマメな男に見えるのか、俺が。


「日本語だと相手が困るだろ。書いている内容が分からない手紙なんて無価値だぞ」

「私でよければ協力しますし、良介さんには友人のフィアッセがいるじゃないですか。
最近音楽について楽しそうに話しているのを知っているんですよ、私は。

そうだ、英語も学んでみるのはいかがですか? きっと楽しいですよ」


 うぐぐ……実に嬉しそうに、俺の友人とめでたく認定されてしまった。

大体翻訳なんて面倒な真似――あいつなら喜んで引き受けるか、くそ。

これでは相手から返事が来ても読めないと抗議しても、無意味だ。

――仕方ない……また口論になりそうだが、俺に友人なんぞ要らないのだと主張しよう。

説得スキルを最近稼いだばかりだ、今回はちょっと自信があるぞ。

大魔導師すら涙させた俺様、医者一人容易いものである。



「良介さんがお友達を作る努力をして下さるなら、私も外出許可を出せるように頑張ります」

「宜しくお願いします」



 所詮病院というフィリスの世界に居る限り、俺に勝ち目なんぞなかった。

更に凄い事に、この日の内にフィリス同行を条件に簡単に許可が出た。

……まあ、いいや。どうせ返事なんぞ来るわけねえしな、好き勝手に書いてやるぜ。

人助けなんて面倒な真似がよく出来ますね、とか、そんな仕事してたら彼氏なんて出来ないでしょう、とかよ。

あっはっはっはっは、国境の向こうで怒り狂うがいい。

セルフィ・アルバレットがどれほど手強い女の子・・・・・・・・・・か知らず、俺は悦に入っていた。



こうして……海鳴町と世界各地・・・・を結ぶペンフレンドサークルが、新しく発足された。















「それで慣れない手紙を書いていたのね。似合わないと思ったら」

「俺だって書きたくねえけど、仕方ないだろ。早めに出しておかないとうるさいからな」


 御丁寧に紙と筆記用具まで用意されて、俺は渋々手紙を書いている。

フィリスと入れ替わりで見舞いに来たアリサは、相変わらず意地悪な小悪魔だった。

フェイトやアルフ、クロノ達には世話になった。別れぐらい、きちんとしておきたい。

これも外出許可の義務だと、諦めるしかなかった。


「事情聴取が終わった後に、クロノが待ち合わせの段取りを組む事になってる。
病院にわざわざ見舞いがてら連絡に来るらしいぜ」

「職務態度は堅苦しいけど親切よね、クロノは。今回の事件でも随分助けてもらったもんね。
いつか、ちゃんとお礼を言っておきなさいよ」

「はいはい。一応聞くけど、お前も来るだろ?」

「当たり前でしょう、フェイトは友達なんだから! はやても一緒に行くそうよ」

「呼んだのかよ!? ――って言いたいけど、俺も実は呼ぶつもりだったらいいか」

「へぇ……良介も気を使うようにはなったのね、はやてに」

「ミヤがうるさいからな、はやてに関しては。
それに――アルフが謝りたいってよ」

「……そっか……、うん、それがいいと思う」


 今回の事件、ある意味でアルフが一番反省していた。

自分のやった事がフェイトの助けにはなったが、フェイトを救う事にはならず空回り。

挙句の果てに無関係な人間を傷付け、俺を追い込んだ事を酷く気にしている。

感謝と謝罪を何度も言われて、俺も霹靂しつつある。


はやてに謝りたいと、あの誇り高き戦士が頭を下げて頼んだのだ――引き受けねば、男ではない。


「レンも出来れば呼ぶべきだったかもしれないけど、ベットから起き上がれないからな」

「具合はどうなの? 桃子さんから少ししか聞けなかったんだけど」

「恭也の話だと――手術は『これでもか』というくらい成功して、術後の経過も実に順調らしいぜ。
今の所発作や余計な症状も出ていないし、意識もハッキリしているらしいからな。
一般病棟にもすぐ戻れるじゃねえかな……」


 ――そうだ。

クロノに御礼をしたいと言ってたから、手紙を書かせるのはどうだろう?

どれほど回復しているか分からないが、お礼状くらいは書けるだろう。

アリサに自分の提案を話してみると、少し感心した様子で賛成してくれた。

フィリスに後で提案してみよう。


「今日もはやてと一緒に行ってきたのか、図書館?」

「うん、私が車椅子押して連れて行ってあげたの。
この町の地理にも随分詳しくなったんだから」


 事件も解決して平和なこの半月、アリサが少しずつ日常に溶け込んでいった。

廃墟に閉じ困っていた長く苦しい日々――停止した時間が、奇跡の歌によって動き始めた。

大人と子供にも世代のギャップがあるのに、アリサの場合それ以上の落差がある。

日々見る物が新鮮で、周りの人間に聞いて回っては教わり続けていた。

なのはやはやてのような友人達、優しい大人達に励まされて……アリサがたまに涙ぐんでいるのを、見て見ぬ振りをしている。

面会時間中は俺の傍に、夜ははやての家で生活を共に。

ジュエルシード事件で損傷した家も月村が復旧、一人ぼっちのはやてをアリサが恩返しに支えている。

俺も知らなかったがはやては本好きらしく、アリサも見習って熱心に本を読んでいた。

病室にも毎日本を持ち込んでいるが、小説類だけではなく――経済や社会・政治・時事、資格や法律・司法、社会制度等の難しい書籍。

何が楽しいのか全く分からんが、新聞や経済史、洋書にまで手を出している。

断じて、子供が読む本じゃないと思う。

今アリサが手にしている本のタイトルを見て、げんなりとした。


「お前・・・・・・世界経済法とか知って、どうするつもりなんだ?」

「あたしは今まで自分の頭の良さを自惚れていただけの、子供だった。
だから友達も出来ず、親に冷たくされて――あんな連中に汚されて、殺されたわ。
自分の運命を嘆いた事もあったけど、今は悪くないかなって、思ってる。
友達も出来たし、その――


――好きな人と、一緒だもん・・・・・・


あ、あはは、告白した後でも何か、照れちゃうね」


 ・・・・・・俺の方が照れるわ、馬鹿たれ。

そういえば告白されたんだよな、こいつに。

俺にとってお前はメイドだと言ってやったら、見事に殴られた。この恥ずかしがり屋め。

アリサは自分が持ち込んだ本を掲げる。


「あたしは、良介と一緒に生きていきたい。でも、良介の負担になりたくないの。
この社会で強く生きて行く為には、知識が必要よ。


良介が剣を武器に、自分の為に強くなるなら――あたしは知識を武器に、良介の為に強くなる。


あたしにかまわず、一人で生きていいよ。勝手に隣を歩くから」


 俺がどういう人間か知った上で選んだ、アリサの生き方。

まだまだ未熟で、世界から見ればちっぽけで・・・・・・それでも胸を張って生きていくと決めた。

俺だけの剣の道を阻まず、俺が倒れれば優しく手を差し伸べる為に、自分の足で隣を歩く。


「お前は・・・・・・俺のたった一人のメイドだ。代わりは無い。一緒に歩くのは当然だろ」

「うん、当然だもんね!」


 暗い廃墟ではなく――明るい部屋の真ん中で、互いに笑い合う。

自分の生き方に先は見えないけれど、これが正しいと信じて。



俺達はこれから一人一人、自分の道を歩み始める。




















































<最終話へ続く>







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