とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第三十三話




 先に結末から言うと、倒れました。



高町家を出てから思い悩み続けて軽く一週間以上、アリサが死んで悪夢の中を数日間。

悩んで、憎んで、喚いて、絶望して、怒って、また悩んで――最後に、悲しみのどん底にまで落とされて。

四月の終わりから五月の連休まで、人生に魘され続けていた。

よく生きていられたと、我ながら感心する。

少し思い出すだけでも、俺は軽く三回は生死を彷徨っている。

絶望の海に溺れて、慙愧に心を切刻まれた。


ギリギリの崖っぷちで答えをようやく掴んで――俺は、乗り越える事が出来た。


心に安堵が満ちた瞬間、張り詰めていた糸が切れたのだろう。

アリサを抱えたまま倒れて、俺は意識を強制的にオフにした。

慌てて駆け寄る皆の足音と、アリサの驚愕の悲鳴を最後に――





――全てが、終わったと思った。





文句のないハッピーエンド。

退屈な病院生活に戻るが、今だけは大歓迎。

何物にも換え難い経験をしたが、もう二度とこんな目は御免だ。

後はのんびり退院まで休んで、また剣の道に戻ろう。

未来永劫他人を受け入れず孤高に歩むのは不可能だろうが、孤独でありたい気持ちだけは持ち続ける。


俺の、人生なのだから。





本当に。





全て終わったと、思っていたんだ。















 入院生活五日目―― 















 ――目が覚めたのが今朝方。


瞳を開いて現状を認識した瞬間、気づいた。


腕に点滴、口に呼吸器――手厚い看護。


全身に及ぶ殴打や裂傷・顔面の腫れによる痛みがほぼ消えているのは、ユーノ効果か。

横脇の日時表示の時計のデジタル表示を見て、俺はようやく丸一日以上寝込んでいた事実を知る。

俺は寝起きのボンヤリした頭を抱えたまま、ゆっくりと思い出す。



ユーノとの再会、なのはの正体、ミヤとの協力関係。

はやての慟哭、真夜中のフィリス、月村との仲直り、ノエルの再約束。

リスティとの歓談に那美の申し出、久遠を含めた現地への出発。

行われた儀式、虹色の光、生命の灯火、そして――



「アリ――ッ」


 長い時間寝ていた反動で強烈な眩暈が生じるが、知った事ではない。

確かめなければいけない。

あの夢のような夜が現実だったのは言うまでもない。

俺は知りたいのは、結果――そう、結果だ。


あの時の声、俺の前に姿を見せたあの少女は――!


呼吸器を毟り取ろうとして、気づいた。



――ベットに寄り添って眠る、一人の少女。



俺に縋り付くようにシーツを握り締めて、瞳を閉じている。

端正な顔立ちだが、頬に残る水滴の痕が悲しみを誘う。

整った長い茶髪は布団の上に伸びており、気品に満ちた洋服を着たまま眠っていた。


アリサ・ローウェル。


手を伸ばして、頬に触れる。



暖かく、柔らかな感触……



深い――深い安堵の息を、吐く。


――夢ではなかった。


あの奇跡は俺の望んだ願望の幻ではなく、リアルな現実。

帰って来たのだ、アリサは。

向こう気の強い性格だが、思いやり深い優しい幽霊の女の子が。


……。


幽霊……?


試しにもう一度、頬を撫でる。

眠り続けるアリサはくすぐったそうに身を縮め、気持ち良さそうに頬を緩める。


さ、触れてる!?


鬱陶しい呼吸器を外して身体を起き上がらせて――


「ガッ! ゲホ、ゲホ、ゲホ……」


 咳き込んでしまう。

体力には自信ある俺だが、我ながら命の供給儀式は身体に相当負担を与えたようだ。

泥のように眠ったが、完全回復には時間がかかりそうだ。

だが不思議と、病人特有の心身の衰えは感じなかった。


温泉に漬かっているような、心地良くも温い開放感――


まるでガソリンでも給油されているように、全身が滾る。

アルフとの戦闘時のような灼熱感はないが、身体の隅々に至る血流が活発化しているような感覚を覚える。


血、か……


あの時月村に手当てを受けてから、俺の身体を妙な感覚が覆っていた。

俺の中の戦士としての血が燃えているのかもしれないな、ふっふっふ。


……カッコつけてみても、豪快に咳き込んでいては情けないだけだった。


身体を揺らして発作に耐えていると、ベットが揺らして少女の瞼が震える。


そのままゆっくりと瞼が開いて――俺と、目が合った。


気だるさの残る瞳は俺を認識した瞬間、覚醒した。

カッと目を見開いて、少女は俺を呆然と見上げる。


見つめ合う事、数秒……


少女の瞳に涙が見る見る盛り上がり、俺の胸に飛び込む。


「良介……良介! 良かった、気がついたのね!」

「ぬおわっ!? 馬鹿、点滴が……いたたた!?」

「もう――馬鹿、馬鹿、馬鹿!!

あんたが死んだら、何の意味もないんだから!

良介が死んじゃったら……あたしだってまた死んでやる!」


 どういう恐喝だよ、それは……

泣き喚いたまま縋りつくアリサに、俺は呆れたまま頬を掻く。



――他人の温もりを拒んでいた、俺。



恋人の抱擁を鼻で笑い、家族の触れ合いを嘲笑する人生。

この温もりを知ったらもう戻れないだろうな、俺は……

アリサが生きている実感を肌で感じ、俺は苦笑した。


そして。


呼吸器を外したら病院側に伝わる事実を、血相を変えたフィリスが飛び込んでくる姿を見て知った。















「あいつって、実は俺が嫌いなんじゃねえのか?
顔見る度に怒られてる気がするぞ」

「良介が怒らせるからでしょう。少しは大人しく出来ないの?」

「お前が騒いでたくせに、何言ってやがる!」


 寝起き早々フィリスに怒られた――何故か俺だけ――暗鬱な午前を終えて、嘆息。

長い説教の後診断の末呼吸器を外されて、点滴のみとなったが逆に疲れた。

まるで俺の心境を表しているかのように、窓から外は水滴のカーテンで覆われていた。



土砂降りの、雨。



窓を叩き付けるように激しい風雨が海鳴町を襲っており、初夏の装いを行っていた自然を濡らす。

昼御飯を平らげて栄養を補給した俺の病室内も、外に負けないくらい賑わっていた。

アリサは俺のベットの横に陣取って、不満顔で睨んでいる。

やれやれ、扱いの難しいお嬢さんである。


「大体、何でお前此処に居るんだ」

「な、何よ、その言い方……あたしが居たら迷惑?」

「迷惑」

「こ、こいつ〜! あたしの恋心を返せー!」

「アリサちゃん。
おにーちゃんに、あまりそういう事は期待しない方が……」


 相変わらずの同室生活を送る我が妹分が、余計な入れ知恵を与える。

俺同様に包帯も取れて、フィリスの話だと検査を終えれば退院出来るらしい。

現世の友人に、アリサは俺を指差しながら呟く。


「こんな奴をおにーちゃんとか呼ばない方がいいわよ、なのは。
ロリコンだから」

「真顔で嘘つくんじゃねえ!?」

「お前――」

「睨むな、睨むな」


 苦笑するなのはの隣で、俺を警戒する実の兄。

こいつの場合元々検査入院なので、病院側からの強制はない。

診断結果は後日との事で、なのはと一緒に退院予定だ。


……一緒というところに計算を感じるのは、勘ぐり過ぎだろうか?


その妹馬鹿な兄貴は、俺とアリサを交互に見ながら戸惑ったように言う。


「ところで……その娘は、その……」

「ん? アリサがどうかした――


――あ」


 そうか、やべえ!?

俺の事情を知っていて、あの夜参加してなかったのはこいつだけだ。


月村との会話を聞いた上で、誠意を持って復讐への道を阻んでくれた恭也――


恭也はアリサが死んだ事実を知っている。

俺の憤りや無念を親身に受け止めてくれて、不器用な励ましで破滅へ向かう俺を止めてくれた。

その俺の悲しみの根源たるアリサが目の前で元気一杯に怒っていれば、疑問に感じて当然だろう。


同姓同名ではなく、紛れもなく本人だからな……


俺が一日寝ている間はアリサはきっと付きっきりだったので、落ち着いて事情を聞くどころではなかった筈だ。

あの儀式の後どうなったのか、なのは達に聞くのは後にして――今は説明せねば。

自分や仲間の命を与えて、成仏したアリサを幽霊に戻したと話して信じるとは思えない。

問答無用でナースコールを押しそうだ。

どう説明するべきか困り果てていると、


「無理に話さなくてもいい」

「いや、だが……」


 恭也は正面から俺を凝視し、穏やかな表情で瞳を閉じる。


  「迷いが晴れたのなら、俺はそれでいい。


――友人が苦悩するのを見続けるのは、俺も忍びなかったからな……」


 恥ずかしい言葉を平然と口にする恭也。

俺が言えば気が狂ったと疑われそうな言葉でも、この男が口にすると惹きつけられる。


本物の男には、本物の言葉が似合う。


心が篭った台詞が実感として、他者に伝わるのだ。

友人なんて普通聞けば拒絶感満載だが、今こうして耳にして自分の頬が熱くなるのを自覚する。

恥ずかしいけど、悪い気はしない。

悔しいが、実感する。


こいつは本当に――カッコいい。


寡黙な性格でさえ、誠実さを感じさせる。

何なんだ、この男としての差は……くぅ。

アリサは俺の羞恥を感じ取ってか、意地悪そうな顔で小声で呟く。


"かっこいいね、良介とは大違い"

"うるさい、黙れ"

"あーあ、あたしも恭也さんみたいな男の人を好きになればよかったな。
すごく、大切にしてくれそう"

"……べっつに、今からでも遅くないだろ。
青春を謳歌して来いよ"

"あ、動揺してるー。うふふ、どうしようかな〜"


 くうう、この小娘殴りてえ……!

俺だって相手が恭也じゃなかったら、平然と出来たのに!!


人間としての器の差を感じた今、あいつにアリサを取られると考えると無性に悔しくなる。


俺に男としての魅力が足りないから負けた、そう痛感するのが嫌で。

女に好かれたいとは別に思わんが、恭也よりは――そう考えてしまう、俺がいる。

アリサが恭也を褒めたから、この気持ちが噴出しているんじゃない。

月村やノエル、フィリスやリスティ、はやてやフェイトでも歯噛みするだろう。


――既に、認識してしまっている。


俺は、こいつに憧れている。

ゆえに、張り合ってしまう。


強く――高町恭也という剣士を超えたいと、望んでいる。


俺の新しい目標。


剣を磨く確かな道標と、今まで見えなかった到達点が見え始めてきた。

恭也が人生の最終目標とまでは言わない。

世の中は広い、もっと強く気高い人間が存在している可能性はある。

地球規模を超えた世界が存在するのだと、知ったから。


だが、少なくとも――俺はこの海鳴ですら、底辺を這っている。


今だ、誰にも勝てていない。

我武者羅にただ強さだけを望み、他者を認識しなかった傲慢の結果がこれだ。


宮本良介と言う名の人間を磨く――まずは、そこから始めよう。


今はまだ一番下。

美形で誠実な恭也が、俺より皆に好かれるのは当たり前だ。


……そう思いつつも、今恭也と歓談するアリサに面白くない気分を抱えてしまう。


ちっぽけな俺に歯噛みしたまま、俺は布団に入る。

そこへ――



「こんにちはー、あれ? 侍君、まだ眠ったままなんだ」

「失礼します」



 うげ。

恭也と女関係について悩んでいる時に、最低のタイミングで来やがった。

月村と、ノエル。


こいつって、確か……恭也とはクラスメートだよな?


同じクラスなら、恭也の男としての魅力に気づいて当然。

俺の知らない間に凄く仲良くなって、ノエルも月村から話を聞いて興味とか示して――


――待てよ……その法則なら、フィリスもあり得るぞ。


恭也とフィアッセは家族同然。

フィアッセから恭也の話を聞いて、あいつの事だから親身になって――


うぐぐぐ、フィアッセと仲が良いリスティも怪しくなってくる。

当然一緒の寮の神咲とか、久遠も俺よりあいつに懐いてたり――

はやても同室だから、同じ生活空間を共有して俺よりあいつに家族を――



……ああああああ、こんな事考える俺を殺したい!



嫉妬などという生温い感情ではない。

恭也と言う男を知れば、女があいつを好きになって無理もない。

逆に、俺は別に誰がどう思おうとどうでもいい。


ただ、恭也だけは――


いずれ超える男だからこそ、今どうにもならない距離差に焦ってしまう。

自分と親しい人間があいつを賞賛すると、人間として惨めになる。

今だけは絶対に勝てないと、知ってるから。


駄目だ、頭が混乱している。


「なーんだ、もう起きてる。

侍くーん、忍ちゃんが御見舞いに来たよー」


 親しい人間だけに見せる軽いノリで、布団を容赦なく剥ぎ取る月村。

俺の感傷的な気分など、この女にはどうでも良いのだろう。

舌打ちして、覗き込む月村を見上げる。


「見舞いと言うからには、何か持って来たんだろうな」

「んー、私の笑顔とかどうかな?」

「帰れ」

「ノエル、帰るよ」

「はい、残念ですが持参したメロンも持ち帰りましょう」

「ちょっと待てぇぇぇぇ!!」


 慌てて起き上がると、病室から出ようとした月村は待ってましたとばかりに振り返る。

俺は鋭く観察。


――確かに、共に来たノエルの両手には高級なメロンが瑞々しく光っている。


月村はニコニコ顔で、こんな風に聞いてきやがりました。


「何かな、侍君。迷惑みたいだから、もう帰ろうと思うんだけど」

「迷惑? 誰がそんな事を言ったんですか!?

なるほど――お前だな、はやて!」


「えー!?」


 隣のベットから聞こえる突如の悲鳴。

今まで面白おかしく様子を見守っていた罰だ、フン。

俺は手揉みする。


「ほんと、申し訳ない。ウチの家族が迷惑をかけて。
さあさあ、どうぞ。ごゆっくりしていって下さい。
月村さんとノエルさんにわざわざ御足労頂いて、私は感激の極みですよ。

アリサ、この御二人に飲み物でも買ってきてあげて」

「……あんた、自分が嫌にならない……?」


 ほっとけ。

月村なんぞ死ぬほどどうでもいいが、メロン様は賓客なのだ。

媚び諂う俺に、人生の目標は呆れ果てた顔。

いいんだよ、今現在底辺なんだから。

アリサも心から嘆息して立ち上がり、ノエルに話しかけて、メロンの調理に場所を移す。

月村は動揺するはやてに気にしていないと心から楽しそうに手を振って、俺のベット横の椅子に腰掛ける。


「侍君もそうだけど、アリサちゃんも元気そうで良かった。

……侍君が倒れて泣いてたんだよ、ずっと」

「――そっか……

今朝起きたばかりでよく覚えてないんだが、あの後どうなったんだ?」


 バタバタして聞けなかったので、この際聞いてみる。

アリサ本人が席を外している今なら、聞きやすい。

月村は人差し指を唇に当てて、思い出すように返答する。


「アリサちゃんを助けてすぐだよ、侍君が気を失ったのは。
動揺するアリサちゃんを宥めて、侍君をノエルが運んで私の車に乗せたの」

「私も一緒に運んでくれたんやよ。

――本当にありがとうございました、忍さん。

わたし、ずっと助けられてばかりで――」

「ううん、気にしないで。友達を助けるのは当然でしょ」


 気軽に笑みを返す月村に、はやては照れた顔で恐縮する。


友達――月村はきっと、この言葉を簡単には使わない。


余程、気を許した人間でなければ。

新しい関係に微笑ましさを感じつつ、話を続ける。


一番、聞きたかった事を。


「それと、肝心のアリサの事なんだが――あいつ、確か廃墟から離れられない筈なんだ。
出逢った頃、本人は自分でそう言ってた。

いや、そもそも……どうして肉体を持ってるんだ?

まさか――」


 俺自身知らずに唾を飲んでしまう。


「本当に……生き返ったのか、あいつ?」


   憎たらしい下衆野郎に誘拐され、強姦された挙句に惨たらしく殺された女の子。

発達した頭脳で両親に敬遠され、同世代の子供と誰一人友達になれずに死んだ。

幸福どころか、不幸なだけの終焉――


神様すら捨てた少女を、俺は見捨てなかった。


誰もあいつを救う気がないなら、俺が救ってやる。

世界が必要としなくても、俺にはアリサが必要だったから。


そんな俺の気持ちを真摯に受け止めて、命を提供してくれた乙女達――


皆の想いが、あいつを……そんな御伽話も許されて然るべきなんだ、あいつには。


だが、月村は首を振る。


「――死の定義は曖昧だから、身体がない事とイコールにするね。

アリサちゃんは、今も死んだまま。

それは間違いないよ」

「でも、幽霊なら触れるのは変だろ? それにさっき、あいつ寝てたぞ。
幽霊が安らかに眠るって、成仏するのと同じじゃないのか?」

「うん、だから、皆結構悩んだの。

那美に話を聞いても過去に例がないらしいし、ユーノ君もあれは純粋な魔法じゃないって言ってたから」
 


 ――何で現地の住民と友好の輪を広げてやがるんだ、あの馬鹿は。



俺には姿も見せないくせに。

今更だけど、異世界の事をあまり広めるのはまずいんじゃないの――



――ちょっと、待て。



魔法じゃない・・・・・・?」

「うん。

正確に言えば侍君の唄で発動したあの虹色の光は、別種の力だって。



"法術"って呼んでたかな……?」


 法、術……?


また新しい単語の登場ですよ、旦那!

なのはを仰ぎ見ると、話を聞いていたなのはは念話を飛ばして来た。


"文献にしか見た事のない稀少技能だって、ユーノ君が飛び上がってました。
想いの強さを原動力とする、祈願型の魔法だって――

今、ユーノ君がジュエルシードの探索と一緒に調査してくれています"


 祈願――願い……アリサとはやての願い……頁……


駄目だ、繋がるようで繋がらない。

詳しい解説は、ユーノ先生に聞くとしよう。

月村の話は続く。


「それに侍君も気づいてたと思うけど――皆、それぞれ変だったでしょう。

……私も、含めて」


 そう言って、月村は少し影がさした様子で俯く。

追求される前に自分から――そう思ったのかもしれない。


思い出す……


月村の紅い瞳、死者に話し掛ける那美、少女に変身した久遠。

翼を生やしたフィリスにリスティ。


普通ではない、女達――


目の錯覚ではない、皆明らかに人外の力を放っていた。

幽霊なんて物の数ではない、常識を覆す畏怖の対象――



そして――



――金髪の少女と、狼。



狼の正体なんて、簡単に察しがつく。



フェイト、アルフ……あいつら……



……ふ、ふふ……ははは。



常識を覆す存在?

だから、どうだと言うんだ。


あいつらは俺を助けてくれた、アリサを救ってくれた――それで十分だ。


正体なんぞ知るか。

誰も何も変わらない。

俺はあいつらが人間だから、これまで付き合ってきたんじゃないんだ。

月村忍だから――皆が皆だから、等身大で関係を維持している。


俺は清々しく言ってやった。


「変って、何を今更。
別に誰が何であれ、俺を助けようなんぞ考える時点で皆変だ。

まともな奴なんていないって」

「そう……うん、そうかもね。
侍君と友達になるのだって、大変だったもん」


 月村は――心からホッとした様子で、明るく語りかける。

その無邪気さが少し眩しくて、せめてもの抵抗に鼻を鳴らす。


「俺とお前は今でも赤の他人」

「残念でした。
侍君と私はもう、赤の他人じゃないよ」

「……? 何言ってやがる。
100%、何の繋がりもないだろ」

「うふふ……それがそうでもなかったりするんだなー。

ねえねえ、侍君。

近頃身体が少し変かなーって、思ったことない?」


 ――狼狽しなかった俺、すげえ。


表面上でも知らない振りをするべきだと、一匹狼の魂が叫んでいた。

軽々しく肯定すれば、今度こそ一人になれないと警告している。


「別に。それよりアリサについて、結論を聞いてないぞ。

結局、あいつは今どうなってるんだ?」

「うー、肝心な所を誤魔化すんだからずるいよね。

えと、アリサちゃんは今生命が――」





「――良介!」





 ぐああああ、折角いいところで本人が帰ってきやがった。

別の用事を押し付けようとして――思い止まる。



アリサの背後にいる、フィリスの顔を見て。



「良介さん、レンちゃんがこちらへ来ていませんか?」

「レン……?

いや、朝から見てないぞ」



 中庭で別れて以来、色々あって会えずじまいだった。

アリサの事でそれどころではなかったからな。

落ち着いたら、暇潰しに様子でも見に行こうかと思っていた程度である。

人の身を案じる俺様ではない。


深刻な表情を浮かべるフィリスに――胸がざわめく。


「何だ……? あのコンビニ、どうかしたのか」

「それが――





――朝から姿が見えないんです。





ベットも空っぽのままで……」





 ――窓の外から、雷鳴が鳴り響く。





新しい惨劇の始まりだと、告げるように。



















































<第三十四話へ続く>







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