とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百五十五話



過去に一晩過ごした山を案内した後、俺は当時の記録を辿った。

もう一年前のことだし、海鳴で過ごした一年間は人生の岐路の連続だったので、過去の記憶が逆に薄れている。

ただ覚えているのは、とにかく空腹だったことだ。東の空から差し込む朝陽に照らされながら、俺はフラフラと海鳴の街へと向かったのを覚えている。


今にして思うと人生の岐路、その第一歩だったのだが、腹が減りすぎて浮浪者のような第一歩だった。


「当時、お一人で旅をされていたのですわよね。
失礼ですが所持金はどれほどお持ちだったのですか、王子様」

「うーむ、確か700円くらいしかなかった記憶が……」


「……」

「無言で財布を出すな、怖いから!?」


 怜悧冷徹なアメリカの大富豪から札束が入っていそうな財布を出されて、俺は仰天してしまう。

まあ真の金持ちは現金なんぞ今時持ち歩かないと思うが、札束で殴りそうな女なので怖い。

ちなみに俺の財布は、旅の間にゴミ捨て場から拾った物である。新しい財布を買う金はあるのだが、捨てられていた財布をまた捨てるのは忍びなかった。


皆に言われて見せると、ものすごい同情の目をされた。せめてなんか言ってくれ。


「本当に日々の暮らしから困っていたんだね……日々食事を摂るのも楽ではなかったんでしょう」

「成長期の俺としては、栄養を補給しないと死にそうだったからな。
各地のゴミ捨て場で売れそうなのがないか、漁ったりもしたな」

「……それって日本の法律では犯罪なんじゃないの?
「日本には背に腹は代えられないという名言があるのだ」


 フランスの貴公子はそっと目元を拭う。そんな生活なんて無縁だからこそ、偲ばれるのだろう。

物が豊かな時代となって粗大ゴミも実際使えそうな品が捨てられ、そうしたゴミをリサイクルする業者も多いらしい。

俺のような浮浪者が個人で再利用出来ていた時代は終わり、今ではゴミについては行政も含めて対処がされているということだ。


そう考えると海鳴で更生できていなければ、もっと貧窮していた可能性がある。


「それで腹を空かせたお前は、海鳴へ来てどうしたんだ」

「コンビニに行った」

「? 買う金がなかったんだろう。いや、小銭はあったのか」

「コンビニの廃却処分狙いだよ」


「……」

「……」


「日本の視察が終わったらドイツへ行くぞ、下僕よ」

「もうそんな生活はしてないから!?」


 ――ということで何が面白いのかわからんが、コンビニへ案内することになった。















 ――駐車場になっていた。


「ば、馬鹿な……ここに確かにコンビニがあったはず!?」


 一年前のことなので記憶こそ薄れているが、当時この街ではコンビニエンスストアーは少なかったので覚えてはいる。

場所を間違えたのかと何度も地図とか確認したが、間違いなくコンビニは昔ここにあったはずである。

しかし今目の前に広がっているのは、24時間営業の駐車場。何台か止まっているが、無駄にスペースが広くてがらんとした印象がある。


唖然としていると、ロシアンマフィアの殺人姫が肩を叩いた。


「ウサギ、縄張りって維持するのが大変なんだよ」

「弱肉強食!?」


 ヨーロッパに巨大な版図を持つロシアンマフィアの真面目な指摘が、思いっきり胸に突き刺さった。

流行ってなかったのだろうか。いや、街に店舗が少ないのであれば重宝されるはずではないのか。

顧みてみると別に懇意にはしていなかったのだが、無ければ無いで何だか悲しかった。


ロシアンマフィアの女ボスが俺に寄り添いながら、励ますように呟いた。


「貴方様が来られたのは一年前ですが、そのお店が出来たのが一年前とは限りません。
当時から経営難だったかも知れませんね」

「言われてみればそうだな……」


 嘆き悲しんでいるくせに自分では前々買いに来なかったからな、コンビニは。

うちの家庭では基本的にメイドのアリサやディアーチェが買い物に行くので、俺は日常品や食料品をあまり買ったことがない。

昔は日々お腹が空いていたが、働くようになってからむしろ物欲は減った気がする。


生活というのは満たされていると、欲が働かなくなるのかも知れない。


「そもそも店側からしたら、君がゴミを漁るのは迷惑だったんじゃないかな」

「主人として我は恥ずかしいぞ、下僕よ」

「す、すいません……」


 だ、だって、オラ、お腹が空いてたから……

ドイツの主人とフランスの友達から怒られて、普通に反省するしかなかった。考えてみれば、たしかに迷惑行為だったかも知れない。

当時は本当にここにあったコンビニでゴミ漁りしたし、賞味期限が過ぎているだけの食い物とか喜んで拾おうとしていたからな。


そんなどうしようもなかった俺に――


"そういう事はやめたほうがええですよ"

"俺が黙って大人しく貴様に捕まると思っているのかよ"

"素人が振り回したら怪我するだけやで"


 ――アイツ、鳳蓮飛があの時、俺を止めてくれた。

今にして思うと、ゴミ漁りする俺は汚らしい浮浪者でしかなかっただろう。

軽蔑して無視するか、警察を呼ぶなりコンビニの店長を呼ぶなりすればよかっただけだ。


でも、あいつはやめろと言ってくれた。


「王子様。
そんなにショックなのであれば、コンビニエンスストアくらいわたくしが――」

「いや、いいよ」

「でも――」

「店はなくても、思い出はある。それに、ここで知り合った奴は今も生きている。
それでいいさ」


 振り返ってみれば、恥ずかしいだけの過去。辿っていても、立派な軌跡は刻まれていない。

きっとこの先大人になっても、懐かしく思う日はない。後悔はしなくても、反省ばかりだ。


けど思い出の中では、一人ではなかった。



声をかけてくれたやつは、確かにいたのだ。














<続く>








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