とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百五十四話



海鳴市藤見町。

冬の終わりも近いこの季節において、遅まきながら覗かせた日が海を美しく輝かせている。

山の頂上から流れる風が舞い降りては、活動を始める人々の呼吸を包み込んでいた。


この町は、山の険しさと海の雄大さを抱いている。


「一応観光名所とかもあるのに、わざわざ俺の軌跡を追う必要があるのか」

「そもそも我は日本になんぞ興味はない。下僕の出身だからこそ、わざわざ足を運んでやったまでだ。
だからさっさとドイツで来いと言っておるのに。

貴様と我が過ごす城は既に用意しておるのだぞ」

「どうやって城なんて用意したんだ、お前……」


 俺の疑問には、ディアーナやカレンが率先して教えてくれた。コイツラもコイツラでそれぞれ、別荘だの何だのと用意しているらしい。恐ろしい話だ。

海外では不動産として城を購入することも可能で、売買物件として購入するケースは珍しくはないらしい。

城は確かに高額な費用が必要だが、むしろ維持費が非常に大変で、建物の維持管理にも莫大な費用と手間がかかるようだ。


夜の一族の新しい長ともなれば貫禄も必要で、そういった趣旨で納得させたらしい。強権である。


「貴方様の故郷は、山と海に囲まれた世界なのですね。私は素敵だと思います」

「でもウサギ。貧乏だったから、この山で一晩の宿を求めたんだよね―、ウシシ」

「うるさいよ」


 ロシアンマフィアの姉妹は対象的な感想を述べる。腹立たしかったが、まず最初の起源へと車で案内した。

――自然に愛されていた、海鳴町。山と海に囲まれた世界に、俺山道を下って此処へ辿り着いた。

確か最初に流れ着いた時は既に夜を迎えていて、街へ本格的に降りたのは翌朝だった。


一人だけの気軽な身の上。一晩の宿を山に求めた俺はどのような気まぐれか、あの時町の全貌を見たくなって木に登った。


「結構高い木だけど、よく登れたね……」

「木登りはガキの頃からの得意技だったからな」

「それでも真夜中に登るのは危ないと思う」


 ちょっとだけ異議を申し立てたくなったが、お嬢様方はごく当然の注意といわんばかりに指摘してくる。うるさいよ。

俺はあの時、木の頂から俺は風景を楽しんでいた。見下ろす街は絶景で、建物類から零れるネオンの光が綺麗だったのを覚えている。

あの頃は自分本位で周りなんぞ見ていなかったが、それでも街の向こうには海が見えており、夜の闇を濃厚に演出していたのは感動的ですらあった。


当時日本の彼方此方を気ままに旅した俺だが、これほど自然に恵まれた町は珍しかった。


「王子様の気性は理解できなくはありませんが、お一人で寂しくなかったのですか」

「うーむ、あの時はどうだったかな。日中に辿り着けなかったのが、ちょっと残念くらいには思っていた気がする。
思えばあの時残念に思える自分の感性が、既に疲弊を感じていたのかも知れないな」


 無味無臭な一人旅。自由であると言えば聞こえはいいが、当てもなく歩き回るだけの放浪。

目的がないと、やり甲斐もない。生きていくのに精一杯だった俺は、この町の優しい空気に触れてしまった。

あの時は特に急ぐ旅もなければ、目的地もない。だからこそ――


俺は到着初日で、滞在を決めてしまった。


「それでこの町から、貴様は始めることにしたのか」

「当時は本格的に剣に打ち込むつもりだったんだが、そうだな……
本当の心境としては、自分の人生を此処でやり直そうと思っていたのかも知れない」


 当時の俺は本心を知らず、剣で成り上がっていくことに興奮を感じ、体に力が漲ってくる感じがしていた。

夜の一族の長であるカーミラは山道を歩き、一本の木の枝を手に取った。


あの時俺の腰元にぶら下がっていた剣は、今彼女の手の中にある。


「剣、と呼ぶには貧相な武器だ」

「――長、彼への侮辱は」

「侮辱なぞしておらん。半人前以下の剣士だった下僕にはふさわしい武器だと言ったまでだ。
理由はどうあれ、この剣を振るい続けて、我らに辿り着いたのだからな」

「そうですわね……失礼いたしました」


 山中で拾った太い木の枝を、刀に形作った。何の道具もなく、腕力に物を言わせて折っただけの武器。

俺の孤独を支えてくれる力、日本刀を夢見た紛い物。

男女問わず、自分の中で一度は夢見る憧れの理想像――


俺が描いた自分の理想は侍だった。


「今ではすっかり"サムライ"が世界を震撼させているよねー」

「裏社会では恐怖の対象になっているよ。
世界有数のテロ組織が軒並み狩られていっているんだからね……」

「俺の夢を飛び出していっているな、本当に」


 アニメより時代劇、銃より刀を好きになった子供の頃。

当時の自分でも持ち歩くだけで犯罪なのは理解していていたのだが、ガキの憧れなんてそんなものかもしれない。

誰にも話したことはないが、武者修行がてらに色々な町の骨董品屋や刀剣類の店を回って見た事がある。


まあ正直刀剣類なんぞ堂々と売っている店なんぞさほどなかったが、それでも高価ではあった。


特に日本刀は伝統芸術品としても一級の価値があるとかで、当然のごとくその日暮しの俺に金がひねり出せる訳がなかった。

木刀を買ってもよかったのかもしれないが、きちんと成型された木刀でも高価な値段がついている。


身寄りのない旅人が持てる刀は、山に埋もれる木切れだった。


「王子様さえよろしければ、その身に相応しい刀剣をご用意いたしますわよ」

「いい事をいうのではないか、カレン。我の下僕として相応しい刀を用意してやるか」

「高価すぎて振れなくなりそうだからやめろ」


 冗談だと分かっているが苦情を述べると、女性達は笑い合ってその場を後にする。木の枝を、その場に捨てて。

――あの頃は、本当に形だけだった。せめて、中身から鍛えていく事にしようと。

この手に何もないからこそ、せめて壮大に夢を描きたい。


男なら一番――侍ならば、天下人。


その夢はもう形をなしていないかも知れないが。

今もまだ、剣は捨てずにいる。














<続く>








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